15 みんな余のせいだと言うのか?
警備兵のおっちゃんを見送ったら、デートの再開。
「結構難しい魔法を使ったけど、大丈夫?」
繊細な魔法は、精神的な負担が大きいので少し心配になった。
「全然大丈夫。 お義母さんから、赤ちゃんに魔力が溜まり過ぎないように、時々魔法を使って魔力を消費した方が良いって言われたから、毎日魔法の練習もしているのよ。」
イータは思い通りに魔法が使えたからかご機嫌。
イータの笑顔はいつ見ても可愛い。
髪の毛だけを燃やして火傷させないと言うのは凄い精度だと感心した。
「そうなんだ。」
「お義母さん達も妊娠後期には魔法を撃ち捲ったって言ってたわ。」
母さん達はしょっちゅう家に来てイータと話をしている。
父さんの膝枕当番をする母さんは1週間交代なので父さんの家に泊まっている。
父さんの家に泊まっていれば、隣にある俺の家に来るのも当然。
“妊娠後期には魔法を撃ち捲った”だと?
母さん達は動くものを撃つのが大好き。
絶対に父さんが的役をやらされていたと思う。
「ソウデスカ。」
俺も的役をやらされる予感がした。
赤ちゃんの健康に良くて、イータの危険も良くなるなら喜んで的役を引き受ける。
でも、全部避けたら機嫌が悪くなるのは確定事項。
毎日イータを見ているのだから、それ位は判る。
俺は学院で常識を学んだ、賢い18歳だ。
魔法が当たると、結界ごと吹き飛ばされて壁に激突するから、結構痛いんだよね。
母さん達も全部避けられたら機嫌が悪くなった筈。
父さんが痛みに耐えられたのだから俺はもっと大丈夫な筈。
何と言っても母さん達は4人でイータは1人。
母さん達は攻撃魔法をぶっ放すのが大好きな戦闘狂。
イータの攻撃魔法は父さんに教えて貰っている最中。
うん、大丈夫。
デートコースはルナ姉に教えて貰った女性が楽しめるお店巡り。
実際はルナ姉の領配であるサーテ義兄さんが、ルナ姉を喜ばせる為に調べたお店だとルナ姉が笑いながら教えてくれた。
サーテ義兄さんはドウデル王国の第3王子なのに、結構まめな人らしい。
魔王の領配になろうとした勇者なので、気配りが出来るのだろう。
昼食は路地にある小さなお店。
落ち着いた雰囲気の目立たないお店だけど、シチューが絶品。
イータもめっちゃ満足してくれた。
ちなみに、これが俺の初めてのお買い物。
姉さんに支払いの仕方を教わって、何度も練習した。
その後は商店街にある小物屋さん。
可愛い髪飾りと落ち着いた色の小物入れを買ってあげた。
高級品では無いけど、イータが気に入ってくれたので嬉しかった。
午後のお茶は表通りにある人気の甘味所。
テラスにある風通しの良い日陰席をルナ姉が予約してくれていた。
フワフワのクリームが乗ったパンケーキに舌鼓を打つ。
イータも幸せそうに小さく切り分けたパンケーキを口に運ぶ
1日中イータの笑顔が見られて幸せだった。
最近は家族会議の度に偵察の結果を報告している。
「ハリー、帝国軍の動きはどうだ?」
「えっと、中央部から侵攻した帝国軍10万は国境砦にいた国軍やミトン派貴族の領軍と共にミュール川を越えて王都に向かっています。 総勢約18万。 5万が後詰めとしてミュール大橋付近に布陣しています。 街道に魔獣が多いから王都攻撃には3ヶ月位? 北東から侵攻した帝国軍20万も国軍や貴族の領軍10万と共に南下して王都に向かっています。 侵攻開始は早かったけど、こちらも街道に魔獣が増えているせいで進軍が遅れてる? 王都まで3~4カ月掛かるかも?」
「そんなに魔獣が増えているのか?」
「冒険者ギルドが撤退してからは殆ど魔獣討伐をしていないからかなり増えてる? ひょっとしたら氾濫が起こるかも。」
「ギルドが王都を撤退して4年か。黒い森が氾濫を起こしたら西部地域と言えども安心はできぬな。ハリー、時々は黒い森の様子も見ておいてくれ。」
「はい。」
王宮の1室
「どうなってるんだよ、俺に跪いて供出金の減額を頼むんじゃなかったのか?」
「パンプスの挙兵に帝国が絡んでいると知って、領主達は対帝国戦に備える為に供出金どころではなくなったようです。すべては帝国の口車に乗ったパンプスのせいで御座います。」
宰相のクーラー公爵が苦り切った顔で答えた。
「新参の西部貴族はともかく、譜代の家臣達までがパンプスに付くとはどういうことだ。」
「北東部貴族は金に穢い下衆貴族で御座います。帝国貴族の地位と褒賞の領地に釣られたのでしょう。」
「100万の国軍は何をしておるのだ。」
「国軍は16万4千で御座います。」
「何だと! そんな馬鹿な事があるか。」
「ミュール王家軍は公称100万ですが、直轄領約2500の代官軍が30万なので実質70万、指揮官達の横領でどの隊も兵は半数程度しかおりませんでしたので約35万でした。 そこへ陛下が何度も軍備削減を命じたので現在は16万4千です。」
「その方が平和な時代に軍備など不要と申したからでは無いか。」
「まさかパンプスが帝国と図って侵攻して来るとは想像もつきませんでした。」
「16万4千の兵をすぐに王都へ呼び戻せ。」
「北東部貴族派とミトン派が指揮官となっている4万がパンプスの支配下に入りました。」
「残りの・・・12万4千を呼び戻せ。」
「ドウデル王国との国境を守る2つの砦とファンに合わせて5万、コマール王国との国境を守る2つの砦に2万、これを動かせば王国は南北から挟み撃ちになります。」
「残りの、えっと・・えっと・・5万4000を呼び戻せ。」
「ウスラ王国、ポンチ王国との国境を守る8つの砦に1500ずつの1万2千。これは遠すぎますし少人数ですので呼び戻す訳にはいきません。」
「・・・残りのえっと・・・4万2000はどこにいる。」
「近衛騎士団と近衛兵が4000、王城守護の第1師団が10000、王都守護の第3師団が10000、警備兵が6000,緊急対応担当の第2師団・第4師団が各師団6千の12000。合計4万2000の王都駐留軍が現在動かせるミュール王国軍の全てで御座います。」
「王都に駐留する師団の定員は2万だったのではないのか?」
「王都の結界は盤石であるからと陛下が削減を命じました。現在は第1・第3師団が1万、他は6千です。」
「・・・、帝国軍の兵力は如何ほどだ?」
「王都西のミトン側に帝国軍10万、ミトン侯爵派の領軍と元国軍が8万の合計18万。北東部側が帝国軍20万、ストーブ公爵派の領軍と元国軍10万の合計30万、総計48万です。」
「敵が48万だと。直ちに王都民を徴兵せよ。」
「残っている王都民は20万程、殆どが殿の役人とその家族で戦える者は5万もおりませぬ。仮に徴兵したとしても武器がありませぬ。」
「何故じゃ。王城の武器庫に非常時用の武器や防具を保管しておる筈であろう。」
「戴冠式の費用捻出時に陛下の命により全て売却致しました。」
「余のせいだと申すのか。」
「決してそのようなことは・・」
「兵が居ないのも余のせい、武器が無いのも余のせい、王都が寂れたのも、パンプスが反乱を起こしたのも余のせい、西部地域が離反したのも太陽が西に沈むのもみんな余のせいだと言うのか?」
「・・・陛下、どうぞ落ち着いて下さい。予想外の事が起っただけで御座います。今は冷静に対応策を考えるべきです。」
沢山の方に読んで頂けている事を感謝しています。
本作と平行して、”ギルドの引き籠り回復師”を投稿しています。
こちらは短い空き時間でも読み切れるように1話を短くしています。
少しの空き時間が御座いましたら、お立ち寄り頂ければ幸いです。
頼運




