7 ショーツを見せるのは次の機会迄お預け
「えっと、盗賊さんっぽい?」
「何処?」
「3㎞先の森影。」
「ポイって何?」
「隊列の動きが軍隊っぽい。騎馬の30人を先頭に140人程の兵がきちんと隊列を組んで行動してる。馬車も8台。規模からすると明日通過する伯爵領の兵士じゃないかな。」
「盗賊の討伐部隊じゃないの?」
「多分違う。討伐部隊は土手の斜面に60人も兵を配置しないから。」
凡そ250人近い盗賊団なんて有り得ない。
250人もの配下を養うには食料や住居を用意するだけでも大変。
盗賊専業ではあっという間に資金が枯渇してしまう。
それだけの規模の兵を養えるのはこの付近だと明日野営する予定の伯爵家だけ。
間違い無く伯爵家の正規兵の筈だ。
「この街道の盗賊はバカみたいにみんな土手と森の二手に分かれて両側から襲って来るから判り易くて良いわ。」
「馬車があるって言う事は魔法使いや弓兵がいる可能性があるわね。」
「正規兵だとしたら、良い防具を身に付けているかも知れないわよ。」
「早めに行って、防具を剥ぎ取りましょう。」
「それよりも、騎士や兵士なら眠らせたまま転移で運ぶのもありでしょ。」
「盗賊と違って使い道があるわね。ついて来ている王都民達に気付かれる前に短時間で片付けましょ。」
教養も忍耐力も無く狂暴なだけの盗賊は、鉱山労働位しか使い道が無いので奴隷として売ってもめっちゃ安いけど、教養のある騎士や訓練を受けた兵士はキラ1族にとっては喉から手が出る程欲しい人材。
戦争捕虜の教育実績のある家臣が多いので、キラ領に運べば優秀な家臣達が念入りに教育して屈強な軍勢に仕立ててくれる。
「騎士や兵は睡眠魔法を強めてしっかり眠らせるのよ。馬も一緒に眠らせなさい。」
「魔法使いや弓兵がいるかもしれないから全員隠蔽を使いなさい。ショーツを見せるのは次の機会迄お預けよ。」
「「ええっ!」」
いやいや、次の機会もショーツは見せなくて良いから。
っていうか、どうしてそこで驚くんだよ。
「ハリーは見張りや諜報員を片付けて。殺しても良いから絶対に逃がさない様にね。」
「はい。」
「行くわよ。」
隠蔽で姿を消した4人が飛行魔法で前方に飛ぶ。
ナイ姉とテン姉が森影へ、レブン姉は土手へ。
何度も経験したパターンなので動きもスムーズ。
俺は少し高い所から広範囲の“探知“。
俺の脳内に人間を表す白い点が見える。
纏まっているのは森の後ろと街道を挟んだ土手の斜面。
白い点の集団から1㎞から2㎞、かなり離れた所にポツンポツンと白い点。
全部で6個。
襲撃地点が見える丘や大きな木の上らしい。
敵に気付かれない様に隠蔽を強め、高度を上げる。
相手は伯爵家。
しかも明日の晩はその領都脇で野営する。
証拠を残す訳にはいかない。
”光弾“ ”光弾“ ”光弾“ ”光弾“ ”光弾“ ”光弾“
射程距離の長い小さく圧縮した光弾で見張り達の頭を打ち抜いた。
死体を調べられると拙いので、急いで死体を収納する。
3人が遠視の魔道具を持っていた。
遠視が苦手な姉さん達にお土産が出来た。
ナイ姉の所に戻ると、既に敵は全員が眠らされていた。
眠っている騎士の鎧には伯爵家の紋章が刻まれている。
盗賊の振りして襲うなら、紋章くらいは隠せよ。
あまりにも堂々としたやり口に、つい文句を言いたくなる。
恐らく証拠を残さない為に、今迄襲った貴族や商隊の全員を殺したのだろう。
250人の大部隊なら、周囲を囲んで皆殺しに出来る。
自分達がやられる立場になるとは欠片も考えていなかったようだ。
ナイ姉が離れた所で倒れている兵を片手でヒョイヒョイと投げ、転移し易い様に集めている。
「最初は私も一緒に転移してルナ姉の家臣に説明するわ。ハリーはすぐに戻って次の転移よ。」
「はい。」
眠っている30人程の兵とナイ姉を連れてキラの領館に転移した。
すぐさま元の場所に転移で戻る。
今度は6頭の馬を連れてキラの厩舎に転移。
馬丁に状況を説明してテン姉の所に転移。
テン姉が集めてくれている兵と共に領館に転移。
領館の転移部屋を空けておかないと、前に転移させた兵の上に落ちてしまうので危険。
ナイ姉がきちんと転移部屋を空けさせてくれたので問題は無かった。
今頃は厩舎の転移部屋も空いている筈。
テン姉の所に戻る。
何度も往復して全ての馬と兵士をキラに送り届けた。
敵の兵によって踏み倒された草原に”成長“を掛けて痕跡を消す。
イータに教えて貰った精霊魔法。
“精霊の祝福”を頂いたお陰で簡単な精霊魔法なら俺も使えるようになった。
踏み倒された草が元気一杯に起き上がる。
うん、普通の草原になった。
念の為に再確認するが、森裏や土手には武具や兵士の持ち物などは全く落ちていなかった。
うん、大丈夫。
暫くすると、キラ家の馬車列が姿を現した。
キラ家の者達にも気付かれなかった。
「騎士団を使って堂々と盗賊を働くなんて許せないわね。」
夜になって、ナイ姉がレイナ母さんに昼間の顛末を詳しく報告した。
野営地のテントの中では、レイナ母さんが絶賛お怒り中。
俺が結界を張っているからテントの外には聞こえないが、レイナ母さんの怒りの波動が漏れないように出来ているかは俺にも判らない。
姉さん達は怒らせたら恐ろしいけど、怒らせなければ怖いだけ。
母さん達はめっちゃ優しいけど、普通にしていても恐ろしい。
「このまま捨て置けばまた盗賊を働くわ。」
ナイ姉もお怒り。
「そうね。自分の領内なら何をしても咎められないと思い上がっているのでしょう。盗賊のアジトは領主館。盗賊を倒した者にはアジトに有る物の所有権があるわ。ハリー、盗賊のアジトに有るお宝を拾いに行ける?」
「多分、大丈夫。何かあっても転移で逃げられるし。」
攻撃力は姉さん達の足元にも及ばないが、隠密行動や逃げ足には自信がある。
伊達に姉さん達が撃ち捲る魔法の的役をやっていたわけでは無い。
それに、父さんが喚問された時に、実況中継をする為に何度も王宮に忍び込んだ。
あの時に、隠蔽の練習をめっちゃしたから練度にも自信がある。
この国にミュール王宮程警備の厳しい場所は無い。
伯爵家の領主館なら大丈夫な筈。
「証拠を残さなければ、屋敷を燃やしても良いわよ。伯爵ごと。」
レイナ母さんの背中にメラメラと燃える炎が見える。
まるで古代文書に描かれていたフードー・ミョオーという神の使いのよう。
股間がヒュンとなる。
「はい。」
ちょっとちびったかも知れない。




