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10 国の中枢はバカばかり

上手く区切れなくて長くなってしまいました。

少しずつですが読んで下さる方が多くなって嬉しく思っています。

これからも頑張って書きますので宜しくお願いします。

王立学院の生徒と揉めた翌朝、ギルマスが来た。

「キラの剣術が見たいそうだ。」

「剣術?」

「そうだ。剣の腕はどれ程なのかを剣士との模擬戦で見たいそうだ。」

正直に言って剣術は自分でも全然ダメダメだと判ってる。

ジャムさんにも勝てなかったし、Cランク剣士のペーストさんは全然レベルが違った。

「なんで?」

「俺には判らんが、色々な魔法を使えるから剣術も凄いと思っているんじゃないか?」

「伯爵家で教えて貰ったけど、実戦で使い始めたのはドランの帰り道からだよ。」

「別に剣術が下手だから何かされるという事は無い。強い相手と模擬戦をすればキラにも得るところがある筈だから思い切りやれば良い。」

確かに強い相手と模擬戦出来る機会は少ない。

タダで稽古が出来るなら断る手は無いかった。

「だったら、やる。」

ギルド本部の訓練場に連れて行かれた。

観覧席には上等な服を着たおっさん達が大勢座っている。

観衆が多くても少なくても俺がする事は只一つ。

全力でぶつかるだけ。

訓練場の中央で刃を潰した模擬小剣を構える。

俺の相手は2m位の大男。130㎝の俺よりもちょっと、いや、ものすごくでかい。

向かい合っただけで相手がめっちゃ強いと判る。

まともに打ち合えば多分1撃で吹き飛ばされて終わり。

勝てるなんて全然思えないが、これ程強い相手と全力で模擬戦出来るのは嬉しかった。

王都に来てから訓練が出来なかったのでめっちゃテンションが上がる。

最大限の身体強化を掛けた。

「始め!」

合図と同時に瞬足で飛び出し、相手の直前で魔力拡大3連発のフェイントを入れて足を払う。

簡単に受けられた。

まあそうなるな。

すかさず飛び退くと、すぐさま反転して正面から思い切り切り上げる。

相手が剣で受ける瞬間、剣の背に最大魔力の魔力拡大を発動した。

バキン!

相手の剣も俺の剣も折れた。

「それまで。」

審判役のおっさんの声が響いた。

「ガハハ、すげえちびっこだ。」

大男が寄って来て頭をガシガシと撫ぜる。

「有難う御座います?」

「これからは俺が稽古を付けてやる、いいな。」

「・・宜しくお願いします。」

強者の圧力が凄くて断れるような状況では無かった。

大男はそれから毎日朝食後に来てくれ、2時間程稽古を付けてくれた。

めっちゃ強い相手との稽古は楽しい。

王都に来て良かったと思えた。





王宮の1室


「実力はどうだ?」

「上級薬師試験では2日掛かりでも難しい上級ポーションと中級魔力ポーションを僅か5時間で完成、しかもどれもが最上級という完成度でした。」

「剣術に関しては体が小さいので基礎的な力が弱い。だが、それを補って余りある判断力と魔力操作の熟練度があり、現状でも王国有数の実力と認められる。」

「騎士団長との模擬戦を王宮魔術師達と観戦したが、魔力操作だけでなく発動速度に関しても9歳にして王国随一。これからどれだけ伸びるのか末恐ろしい存在というのが私を含めた王宮魔術師全員の一致した意見です。」

「騎士団長と魔術師長のお墨付きか。いよいよ他国に渡す訳にはいかぬな。」

「地位にも領地にも関心が無いと言う事だが、好きなものとか好きな事は無いのか?」

「好きな事は魔法の訓練とのんびり過ごす事と聞いております。」

「しかし、飛行魔法も空間魔法も王国、いや大陸随一。それ程の力が有りながら、さらに魔法の訓練が好きであるか・・・。」

「「・・・・。」」

「幸いにして王国に叛意を持っている訳では無い。王都に住んでおれば良い手を打てるやも知れぬ。キラが王都に留まるよう細心の注意を持って接しよ。」

「「「御意。」」」





3日後、ギルマスが来た。

今日はこの間も来た偉そうなおっさん二人と一緒。

偉そうなおっさんの後ろには剣の師匠と高そうなローブを着たおっさん。

めっちゃ偉そうなおっさんがドッカと奥のソファーに座り、剣の師匠と高そうなローブを着たおっさんが後ろに立つ。

俺はその前でもう一人の偉そうなおっさんと向かい合った。

ギルマスは俺の後ろに直立不動で立っている。

偉そうなおっさんを前にして緊張しているらしい。

「貴殿をドラゴンスレイヤーと認定し、討竜勲章を授ける。同時にAランク冒険者への推挙も決定した。ドラゴン討伐の褒賞として王都に屋敷を与える。宜しいな。」

“宜しいな”って全然宜しく無いぞ。

目立ちたくないし、すぐにストンに帰るから屋敷なんていらない。

「えっと、王都に住むつもりは有りません。目立つのは嫌なので勲章もAランクも辞・・」

「宜しいな。」

このおっさん、俺の話を聞くつもりはないらしい。

我儘なおっさんの扱いに困って、後ろにいるギルマスを見た。

ギルマスが俺の耳元に顔を寄せる。

「受けろ。」

拒否は許さないと言う低い声。

“はい”か”よろこんで“の二者択一らしい。

「・・・はい。」

「ところで、キラは空を飛べると聞いたが誠か?」

「はあ。」

「狭い部屋だが、ここで飛ぶことは出来るか?」

部屋は20畳くらいだし天井も高いけど、飛ぶにはちょっと狭いかな。

「はあ。」

「飛んで見せよ。」

ギルマスを振り返ったら頷いたのでソファーからそのまま宙に浮いた。

立ったままの姿勢で部屋の中をフワフワと移動する。

ソファーの上に戻って膝を曲げ、座った姿勢になってソファーに降りた。

「いつもそのようにして飛ぶのか?」

「普通は横になって飛びます。」

「速さはどれ程だ?」

「速さは判りませんが、急げばストンまで1日で行けます。」

ストン迄1000㎞位? 

まだまだ練度が低くて速度が出せないが、急げば4~5時間だと思う。

「ストンを領地として貰うと言うのはどうだ?」

「貴族や領主は嫌です。目立たないようにのんびり生きるのが望みです。ストンはのんびり暮らす事が出来るので引っ越す気は有りません。」

段々と腹が立って来て思った事がそのまま口に出た。

「・・王立学院に興味は無いか?」

「ありません。」

即答した。

「王立学院で魔法を深めようとは思わぬか?」

「王立学院では貴族の子弟が平民学生を追い出していると聞きました。私など真っ先に追い出されます。」

王都見学中、王立学院の学生を見かけた時にカリナさんが教えてくれた。

「・・・特級薬師への道が開けるかも知れぬぞ。」

「特級薬師の利点は希少素材を優先的に回して貰える事だけ。自分で希少素材が獲れる力を付ける方が現実的です。自分で獲れば鮮度の良い素材をすぐに加工出来ますから。」

だんだん腹が立って来たので正直にぶちまけた。

「そなたはまだ9歳、王立学院は12歳からなので将来の選択肢として考えておけ。」

「・・・はい。」

“はい”とは言ったもののめっちゃムカついた。

「下がって良い。」

おっさんに言われて部屋から出た。

めっちゃ暴れたい気分だ。

「暴れるなよ。」

空気が読めるギルマスに釘を刺された。



2日後叙勲式に出席する為、王宮に連れて行かれた。

王宮に入るなり風呂に放り込まれ、体中を女官達に洗われ、肩が凝る服を着せられる。

ギルマスにドナドナされて謁見の間の大扉の前で待機する。

「いいな。絶対に余計な事は言うな。教えた通りに返事をするのだぞ。」

朝から同じことを何度も何度も言われた。

余計な事を言うとギルマスの首も物理的に飛ぶらしいので今日はじっと我慢の子。

「冒険者キラ殿ご入場!」

大きな扉が開いた。

中央の絨毯を進む。後ろにはギルマスが付いて来る。

玉座のだいぶ手前で跪き頭を下げる。

「キラ殿より献上の品有り。一つ、赤竜の鱗100枚。一つ、赤竜の角1本。一つ、赤竜の牙2本。一つ、赤竜の血1樽。一つ、赤竜の‥‥・・、以上です。」

「面を上げよ。」

正面から声が掛かったので顔を上げる。

玉座にいるのはこの間部屋に来ためっちゃ偉そうなおっさん。

偉そうではなく偉い人だった。

「この度のドラゴン討伐見事であった。よって討竜勲章を与える。」

立ち上がると進行役のおっさんが近寄って来て執事っぽいおっさんが差し出したトレーから取り上げた勲章を俺に着けた。

再び跪き頭を下げる。

「有り難き幸せ、これからも精進致します。」

ギルマスに何度も言われた言葉を口にした。

「励めよ。」

「はい。」

陛下が先に退出し、俺が退出する。

列席した貴族達の視線が痛くて暴れそうになった。



控室に戻ると足を投げ出してソファーのひじ掛けにもたれかかる。

謁見の間で向けられた貴族の刺々しい視線にむかついた。

元から貴族が嫌いだったが、今日1日で猶更貴族嫌いになった。

「陛下の御成り~。」

ドアの外から聞こえた声に慌てて飛び起き、ドアに向かって跪く。

ドアが開いて陛下と勲章をくれたおっさんが入って来た。

後ろには剣の訓練をしてくれているおっさんと杖を持ったローブの爺さん。

「楽にせよ。」

って、楽にできる雰囲気じゃない。

「座れ。」

ソファーに腰を降ろした。

先日と同じ布陣。

奥に国王陛下、その後ろには剣の師匠とローブのおっさん。

俺の前には勲章をくれたおっさん。

俺の後ろの壁にギルマスが張り付いている。

Gか。

「申し遅れた。サリート=クデル、宰相を務めておる。」

「クリナム=トラウト、騎士団長である。」

「ダラーム=クリストファー、宮廷魔術師長を拝命しておる。」

「キラです。」

宰相に騎士団長、宮廷魔術師長。

4人共めっちゃ偉い人なのは貴族に疎い俺にも判る。

「キラの忌憚のない意見を聞きたいと思ってこの場を設けた。非公式故に思う所を申しても罪には問わぬとの陛下の御言葉である。」

「はあ。」

「先日、キラに王立学院では優秀な平民が追い出されていると聞いた。調べてみると平民の卒業者がこの5年で急速に減少し、平民の入学試験合格者もこの3年で半減していた。学院の教授もこの5年で7割が入れ替わり、この間に教授の地位に着いた者は全員が差別意識の強い東部高位貴族の関係者であった。官吏登用試験の結果も同様で、最近3年間の平民合格者は10年前の5分の1と激減していた。下級官吏たちの間では常識となっていたそうだが、陛下はもとより我々の耳にも届いておらなかった。」

「はあ。」

“届いていなかった”って、5年も知らなかったのはあんた達が怠慢だっただけだろ。

他人事の様に言う宰相に腹が立って来た。

「役人が腐れば国が腐る。情報が届かなければ国の中枢も動けぬ。そなたの様に堂々と貴族にはなりたくないと言える人材は貴重である。現状の改善方法についてそなたの意見が聞きたい。子供の視点で良い、何か知恵は無いか?」

政治についてはあんた達が専門家だろ。

9歳の子供に政治の事を聞くって国の中枢はバカばかりなのか?

中枢がバカだから貴族がバカで貴族の子弟は大バカ。

段々と腹が立って来た。

「身分に拘わらず能力の有る者が役人になるのが理想。まずは官吏の登用試験の公正化からだけど、腐った役人に命じても絶対に無理。少人数で出来る所からやる?」

「出来る所とは?」

「・・・、王立学院を能力主義にする?」

「能力主義とはどの様なものだ?」

「身分に拘わらず能力を平等に評価する。」

「どのようにしてだ?」

「まずは入学試験と学業成績の公正化。」

「具体的には何をするのだ?」

「・・・王立学院の入学試験を公正化すると王国民に伝える?」

「どのようにして公正化する?」

「・・試験監督官の増員や、・・採点監督官の増員?」

「なる程、しかし何か理由が無いと増員は出来ぬ。」

「入学試験に不正があったと公表する。」

「学院は過去の不正を認めないぞ。」

「・・・認めれば今までの事は不問、認めないなら徹底的に調査して不正に係わった者全員を厳罰に処すと脅す?」

「書類が残っていないと言い訳をしたら?」

「書類保管関係者全員を罰する?」

「それなら証拠の隠滅も出来ぬか。」

「大事なのは来年の入試、過去の処罰じゃない。」

他人事の様に訊いて来る宰相に腹が立って、思っている事がすらすら口から出る。

「成程、過去の不正を認めて、これからは入学試験の成績だけで合格者が決まる事を国民に広めるのだな。」

「問題は監督官に本当に公正な者を配置出来るか。」

「どうするのだ?」

「陛下が平民出身者を監督官に任命する?」

「学院や貴族に任せれば過去の二の舞という事だな。」

「うん。入学試験は公正化の練習、本命は官吏登用試験の公正化。入学試験で能力の有る平民出身の役人を監督官にして実績を作る。」

「その者達に官吏登用試験の監督官をさせようと言う訳か。」

「入学試験で失敗しても平民が怒るだけで貴族達の反発は少ない。官吏登用試験は貴族の権威や収入に直結するから反発が大きくて一つ間違えば国がひっくり返る。いきなり官吏登用試験の改革は危険だから王立学院で試す。失敗は次年度への課題、焦らずにやるのが良い?」

「国がひっくり返るか。」

「もう腐ってるからひっくり返ってもあまり変わらない? 俺としては危険になったら他の国に行けば良いからどうでもいいけど。」

「「「・・・・」」」

部屋の中の時間が止まった?

誰もがピクリとも動かない。

国が腐っているとか国がひっくり返ると言ったのが拙かった?

腹が立ったのでちょっと言い過ぎた。

ヤバくなったら逃げれば良いか。

探知魔法で王宮に張られている結界や騎士の配置などを調べて逃走経路を考えた。

最初に動いたのは陛下だった。

「キラ、そなたを公正化特務将軍に任じ、王立学院最高責任者として理事長、学院長を含む全ての人事権を与える。任期は3年、配下として王家が厳選した能力本位の人材を提供する。成果を期待しておるぞ。」

今迄黙っていた陛下が突然発言したと思ったらとんでもない事を言い出した。

「・・・。」

9歳の子供を王立学院の最高責任者に任命する?

バカな事を言うな、俺は王立学院の入学年齢にも達してないぞ。 

だいたい特務将軍って何だよ、そんなの聞いた事ねえよ。

「流石は陛下、良きお考えと存じます。キラ殿も3年だけですので思い切って職務に励みなさい。」

宰相はそう言うけど、そもそも特務将軍が何かを知らないので答えようが無い。

「要するに風当たりの強い職務だから誹謗中傷、賄賂や裏工作など色々と出て来る。暗殺される可能性もあるから本気で公正化しようとする貴族は誰も引き受けない。我が国の最高戦力であるキラならば暗殺を恐れる事も無いと言う事だ。」

剣の師匠である騎士団長が言い放つ。

「失敗してもキラ殿には失うものは何も無い。思い切ってやりなさい。“失敗は次年度への課題“ですぞ。国民に公平な試験が行われると言う事を喧伝するだけで陛下への忠誠心が高まると言う事だ。」

魔術師長も酷くない? 

失うものが無いって、暗殺されたら命を失うよ。

俺も殺されるのは嫌なんだけど。

「いやいや、俺はまだ9歳だし。」

「年齢よりも実力という点ではまさに能力主義の良き手本となる。さっそく配下の人選に入ろう。将軍の幕舎は王城内の目立つ場所に作りましょう。隠しても貴族達の手の者が見張りに着く筈ですから目立つ方が良いですぞ。」

宰相はノリノリ?

宰相さん、俺の話を聞いてた?

俺はまだ9歳だよ。

「将軍として相応しい服も必要だぞ。」

だから、目立つのは嫌なの。

「そうじゃな。将軍のマントもキラ殿の体格に合わせねばならぬ。王剣を腰に佩くのは無理だから背負えるようにするのが良いだろう。」

おっさん達が勝手に盛り上がっているけど、俺には何が何だかさっぱり判らない。

マントに王剣って何だよ。

陛下達が勝手に話を進める、ギルマスには諦めろと諭される。

何でこうなった。



「公正化特務部隊の隊員についてだが、どのような人材が必要だ?」

宰相の言葉で我に返った。

驚きの展開で思考が停止していたが、脳みそが動き始めると怒りが再燃した。

「隊員の条件は平民で不正に厳格である事。その上で能力のある人材をお願いします。」

「能力とはどのような能力だ? 人数は如何ほど必要だ?」

「う~ん、まずは人事の専門家10人程度、財務監査の専門家10人程度、王国法の専門家10人程度、不正捜査の専門家30人程度、警備の専門家50人程度かな。」

「王城には騎士団や警備隊がおる。警備の専門家は不要であろう。」

こいつ何をぬかすんだ、馬鹿も休み休み言え。

頭に血が上って来た。

「公正化特務部隊は貴族に喧嘩を売る組織。隊員と家族の安全は可能な限り守ってやらねばなりません。騎士団は全員貴族、警備隊の隊長も貴族、公正化特務部隊が喧嘩を売る相手です。喧嘩を売っている相手に守って貰えというのですか? 王宮の近衛騎士を全て周辺国の人間にして陛下は執務に専念出来ますか? ふざけた事を言わないで下さい。」

「・・うむ、確かにその通りであるな。」

「身分と給与は2階級上の水準にして下さい。」

ついでなので賃上げ交渉もした。

「なぜだ?」

「国の為の命を懸ける隊員です。46時中危険に晒されるので、王国で最も危険な職場とも言えます。5千家を超える貴族家や数万人に上る官吏の不正撲滅の為に命を懸けて立ち上がる僅か100人程の身分や給与をケチるつもりですか。」

「確かにそうであるな。出来るだけの配慮はしよう。」

「最終面接は俺がしますので、候補者は多めに選んでおいて下さい。」 

無理やり将軍にさせられて腹が立ったせいか口がいつもより滑らかに回った。

陛下が俺の条件を承認し、宰相が王家直属の諜報部の協力を得てスタッフの人選に入った。



朝からずっとギルマスが張り付いて作法や言葉を覚えさせられた。

全ての準備が整って控室に入ってから2時間近く待たされ、漸く声が掛かって謁見場の扉の前に連れて行かれる。

大きな扉の前に着いてから更に30分も待たされてイライラが増してくる。

ちゃっちゃとせぇや!

作法やら段取りばかりに時間を掛けるから貴族は嫌いだ。

「やっぱりヤダ。」

「諦めろ。」

「最後まで諦めないのが冒険者。」

「式典で死ぬ訳じゃない。生き延びる為に我慢するのも冒険者だ。」

「目立つのはイヤ。」

「大丈夫だ、もう充分目立ってる。」

「それって全然ダイジョバナイじゃん。ストンに帰る。」

「教えた通りにすれば良いだけだ。就任式が済めばいつかストンに帰れる、かも知れない。」

「かも知れないって何だよ。」

「キラが就任式に出なければ俺の首が物理的に飛ぶ。」

「治癒魔法でくっつけるから大丈夫。」

「それこそ全然ダイジョバナイだろ。就任式に出なければキラもストンに帰れなくなるぞ。」

「・・・、でも貴族が大勢いる。そんな所に行くのはヤダ。」

「目を瞑って我慢しろ。」

「目を瞑っても貴族の視線が刺さって来るから痛いの。」

「心配ない。痛いのは最初だけ、2回目からは気持ち良くなる。」

「ならねえよ。」

公正化特務部隊の話し合いから3日後、今日は公正化特務将軍の就任式。

謁見の間に入る大きな扉の前で付き添いを命じられたストンのギルマスに駄々を捏ねていた。

「Aランク冒険者キラ殿のご入場~!」

謁見場の中から大きな声が聞こえ、1呼吸置いて扉が左右に開いた。

「行くぞ。教えた通りにやれば良いだけだ。」

ギルマスに背中を押されて謁見場に足を踏み入れた。



大勢の貴族が居並ぶ謁見の間で公正化特務将軍の叙任式が執り行われた。

「キラを公正化特務将軍に任ずる。」

「有り難き幸せ。」

「王剣貸与。」

やたらと姿勢の良いおっさんが宰相に王剣を渡す。

宰相が王家の紋章が入った派手な剣を掲げて貴族達に披露する。

宰相が勿体ぶった仕草で王剣を陛下に渡す。

「王国に仇為す者はこの剣で切れ。」

陛下が俺に剣を渡す。

「ははぁ。」

畏まって剣を受け取った。

「将軍マントの貸与。」

やたらと姿勢の良いおっさんが宰相にマントを渡す。

宰相がマントを広げて高く掲げ、居並ぶ貴族達に披露する。

王家の紋章が大きく刺繍された真っ赤なマント。

こんな派手なのを着けろって?

めっちゃ恥ずかしいじゃん。

どう見ても痛い人にしか見えないぞ。

宰相が陛下にマントを渡す。

陛下が跪いた俺の背中にマントを掛けた。

「励め。」

「気魄一閃の精神で精進します。」

ギルマスに何度も教え込まれた言葉で答える。

ギルマスによると最も強い男が最高の地位に就く時に言った言葉で、愚直に真っ直ぐ、力強く立ち向かってゆく精神力のことらしい。

こんな難しい言葉聞いた事ねえよ。

陛下が玉座に戻った。

「陛下の御言葉。」

貴族達が一斉に跪いた。

「キラの言葉を余の言葉と心得よ。」

「「「「ははぁ~。」」」」

「陛下御退出。」

皆が跪いて頭を下げたまま身じろぎもせずに陛下の退出を待つ。

「直れ。」

貴族達が立ち上がった。

俺も立ち上がる。

「キラ閣下御退出。」

やたらと姿勢の良いおっさんがマントの紐を首に結んでくれるのを待って入り口に向き直る。

ゆっくりと赤絨毯を踏み締めて謁見の間を歩く。

王家の紋章は王の代理という意味で、俺の命令は王の命令、反した場合は貴族であっても斬って良いという権力の証らしい。

目立たぬようこっそりと生きる筈が、どでかい王剣を担ぎ、真っ赤なマントを着けて煌びやかな謁見の間を歩いている。

何処で何を間違えた。

貴族達から発せられる、平民以下の冒険者風情がという蔑みの視線がめちゃめちゃ痛い。

腹が立つから何かやったら本当に斬ってしまおうと思った。



「も~ヤダ!」

「もう暫くだ、我慢しろ。」

宰相から式典が終わったら控室で待つように言われたのだ。

「ねえ、このマントって、返す時に汚れてたり破れていたりしたら洗濯代とか修繕費を請求されるの?」

「それは無いが、わざと破ったら不敬罪になるぞ。」

やっぱりめんどくさい。

手に持った王剣をじっと見つめる。

高純度ミスリル?

鑑定は使えないが素材は何となく判る。

“武器強化小“の付与魔法が付いている。

王剣でも小なのかと驚いていたら宰相が入って来た。

「総務殿官吏部と法律の専門家の隊員候補者が決まった。」

「早かったですね。」

「官吏部は平民出身者が少ない上、公然と賄賂を要求するなど堂々と不正をしているので候補者を絞り易かったそうだ。法律の専門家は法務殿自体の人数が少ないのと、働く意欲の無い官吏が多く、候補者の総数自体が少なかったらしい。これが候補者のリストだ。キラの希望通り少し多めに選考した。」

渡されたリストを見ると、官吏部は19人、法務殿が21人。

「キラの面接は何時にする?」

「最初は官吏部、なるはやで。」

「なるはや?」

しまった、思わず前世の言い回しをしてしまった。

「えっと、なるべく早くという意味です。」

「“なるはや”か。いや面白い、今度陛下に使ってみよう。」

陛下に使うな。

「平民言葉ですから王宮で使うのは拙いです。」

「うむ、なるはやなら2日後だ。それでいいか?」

こいつ、人の話を全然聞いてねえ。

「はい。最初なので少し慎重に検討します。法務殿はその4日後でお願いします。」

「承知した、候補者に連絡しておく。」



いよいよ今日から面接の開始。

“どうぞ良い人材が集まりますように”

面接の前に創造神様に祈りを奉げた。

最初なので慎重を期す為に1人ずつの個人面談。

初対面の人物としゃべるのは苦手なので質問はギルマスに丸投げした。

「1番。総務殿官吏部第5採用係長アウトマンです。」

「堅苦しいのは苦手だからざっくばらんに話してくれ。敬語もいらん。」

「あはは、まさか私がいつも志願者に使う“ざっくばらんに”を面接される立場で言われるとは思いもしませんでした。“ざっくばらんに”って言うと、バカな志願者は気を抜いて言ってはいけないことまでベラベラとしゃべるんですよね。」

「そうなのか、それは知らなかった。まあ俺の場合は敬語が苦手なだけで他意は無い。それでアウトマンは特務部隊で何がしたい?」

「役に立つ仕事をしているという実感が欲しいです。今は上司の賄賂を増やす為に仕事をしているようなものですから。子供達が大きくなった時に“父さんはこんなに凄い仕事をしているんだぞ“と胸を張って言えたら最高です。」

「危険な仕事だ。家族が心配ではないのか?」

「採用が決まったら田舎町にある、とある知り合いの家に匿って貰います。」

「随分と手回しが良いな。」

「大事な家族ですから、人質にでもされたら目も当てられません。」

「キラから何かあるか?」

「無い。」

「以上だ。結果は追って連絡する。退出しろ。」

「ありがとう御座いました。」

最初の候補者はかなり好感触だった。

2人目、3人目と進み、4人目の男が入って来た時に背筋がゾワゾワするような違和感を覚えた。

かなり面接の練習をして来たようで応答には問題無いというよりも模範解答過ぎる。

5人目の男が入って来ると微かだがチリチリとした痛みを感じた。

殺気とまでは行かないが、要警戒。

6人目ははっきりとチリチリとした痛みを感じた。

この男も面接では問題が無かった。

10人目、11人目と2人続いて微かだが背筋がゾワゾワするような違和感を覚える。

宰相の配下による審査を通過したので問題は無い筈だが、俺の直感が何かを継げている気がした。

面接した19人のうち殺気や違和感を覚えなかったのは7人。

予定の10人前後よりもかなり少ないので、軽い違和感があった4人について職場や住居の周辺人物に詳細な聞き取り調査をするよう宰相に頼んだ。



法務殿の候補者面接直前に軽い違和感を覚えた候補者4人についての報告書が届いた。

再調査の結果、自己顕示欲が強かったり、ファザコンや人に頼まれると断れないなどの性格的な欠点のある事が報告書に記されていた 。

仕事を頼まれて断れないと過労死するよ。

体験した個人の感想です。

直前にお祈りした効果かどうかは判らないが、創造神様が俺を危険から守ってくれている事は間違い無いと確信した。

”創造神様、ありがとうございます“

心の中で感謝を奉げた。

それから後の面接では俺の直感通りに合否を決定した。

法務殿は21人中5人、財務殿監査部は8人中6人、監察殿諜報部は21人中11人、王国軍は100人中16人を合格とした。


漸く第10話になりました。

時間に追われてチェックが不十分です。

誤字、変換ミスがあるかも知れませんが、ヨチヨチ歩きの作者なのでお許し下さい。

一生懸命歩く練習をして、いつの日か駆け出し作者に成れるよう頑張ります。

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