二人の子どもとその両親
子どもが二人。
そして、その子どもを我が子と信じて育てて来たそれぞれの両親。
鈴木夫婦が待つ部屋に向かう間、雄介は「相手の夫婦はどんな夫婦なのか。」「どんな話をしたら良いのか。」「幸一と取り換えるのか…。」など頭の中は様々な思いで溢れていました。
明美は不安しかありませんでした。
授乳の楽しさ、抱っこした時の重み、それら全てが愛おしいと思いながら、部屋に向かって歩きました。
幸一が初めての子育てで明美に教えてくれたことが多すぎるのです。
病院長が急に立ち止まり「こちらでお待ちです。」と言った時の心臓の鼓動は雄介も明美も激しくなっています。
鼓動を抑えられないまま、二人は病院長の招きのままに部屋に入りました。
ソファーに座っていた夫婦が二人の姿を認めると徐に立ち上がりました。
「鈴木さん、こちらが三好さんご夫妻です。
三好さん、お話していた鈴木さんご夫妻です。」
「……初めまして。鈴木です。隣は妻の洋子です。」
「初めまして。三好です。隣は妻の明美です。」
名前だけを伝えた挨拶でした。
「経緯を私からお話いたします。
鈴木さんにも三好さんにもお伝えしていましたが、
先日、当院でご出産なさった方からのご相談をお受けいたしまして
当院に於いて新生児取り違えがあったと推察いたしました。
それで、そのご相談された方と同日のご出産をされた方に
血液検査を受けて頂き、親子ではない血液型の方がいらっしゃれば
そのご相談者にお伝えし、今後のことなど双方で話し合って頂きたく
と………当初は二家族だけだと思っておりました。
それが、今回の検査によって血液型で当初のご相談者以外に
お子さんとの血液型不一致というご家族が複数見つかりました。
私どもの本音でございますが、取り違えが複数起きていたことに
驚いております。
大変なことをしてしまったと思っております。
鈴木さんと三好さんは当院へのご相談をされていません。
…………………………私どもがお調べした所…………
複数いたご家族の中から血液型一致したのが
鈴木さんがお育てになられている和也さんと三好ご夫妻。
三好ご夫妻がお育てになっている幸一さんと鈴木ご夫妻。
お二方が取り違えられていた事実が判明いたしました。」
病院長はずっと立ったままでした。
そして、再び深く頭を下げて言いました。
「本当に取り返しがつかない過ちを犯してしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。
今後は双方のご両親様同士で、どうなさるのかを決めて頂きたいと
お願い申し上げます。」
「決める?! 何を?」
偶然に双方の母親は同じ言葉を同じタイミングで言いました。