検査の結果
親子の血の繋がりの有無を知るための血液検査が終わり、その結果連絡があるまでの間の日々が、三好夫婦にとって普通の生活を過ごしているはずなのに、過ごせていない日々だったのです。
電話が鳴るたびに心臓が鼓動を打ちます。
その落ち着かない日々は、辰井病院からの電話で終わりました。
「もしもし。」
「三好さんのお宅ですか?
「はい。」
「辰井病院です。」
「はい。」
「先日の結果を詳しく病院長よりお話いたしますので、
申し訳ないのですが、3日後 5月20日の午前11時にお越しください。」
「分かりました。」
「御夫婦でお越しいただければ……。」
「はい。主人と一緒に伺います。」
「どうぞよろしくお願いいたします。」
「はい。」
⦅3日後、5月20日の午前11時………。⦆
メモを取る手が震えていた明美でした。
帰宅した雄介に日時を伝えて、会社を休んで貰いたいと告げました。
「もし……というか……
ほぼ取り違えじゃないかと思うんだけど……
取り違えだったら……
……これから、色々あると思うんだ。」
「そうね。」
「だから、上司にだけは今までのこと話すよ。
その方が休みが取れるかもしれないし……。」
「そうね。」
「分かるんだよな。全て。」
「そうね。
……私、母に話すわ。」
「うん?」
「話して愛子を預ける。20日は……。」
「うん。その方がいいだろうな。」
5月20日の午前11時。
愛子を明美に母に預けて、二人は辰井病院へ行きました。
辰井病院に到着すると、前回と同じ部屋に通されました。
既に病院長はその部屋に居ました。
病院長の隣には看護婦長らしき看護婦が居ました。
「お越しくださり誠にありがとうございます。
どうぞお座りください。」
ソファーに座った二人に向かって、病院長が話し始めました。
「先日、お話した新生児取り違えにつきまして……
三好さんご夫妻にご協力いただきましたこと
誠に感謝申し上げます。
血液検査をさせて頂いたことで判明しましたのでお知らせいたします。
……今回の結果、三好ご夫妻のお子さん、幸一さんと……
同日で同じ時間帯にご出産なさった鈴木ご夫妻のお子さんが……
生まれてすぐに取り違えられたと思われます。
こんな大きな過ちを犯してしまい、誠に申し訳ありません。
本当に申し訳ありません。」
病院長とその隣の看護婦が深々と頭を下げました。
「たぶん……取り違えられたんだ。」そう思っていた雄介と明美でしたが、改めて取り違えの事実を突きつけられて、心は千々に乱れました。
「分かったんだ。」というほんの少しの安堵が無かったわけではありません。
しかし、それ以上の衝撃が胸を走りました。
「今更…… 元に戻すのか?」という気持ちを強く持ったのは、母として育てて来た明美でした。
「先生、幸一を本当の両親の元へ返さないといけないんでしょうか?」
明美は幸一を手放せないことに……手放す辛さに……改めて気づいたのです。
「奥様、それは両家のご夫妻でお決めになることなので……
私どもでは……何も……話す権利がありません。
ただ、お詫びするしかありません。」
「看護婦長の伊藤と申します。
この度のことは看護婦が間違ってしまい起こしたことです。
今まで手塩を掛けてお育てになったご両親様に
看護婦一同を代表しましてお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございません。」
「あの……。俺は……今更、謝られても…って思ってるんです。
その時にちゃんとしてくれてたら、こんなことにはならないでしょう!!
違いますか?」
「仰る通りでございます。
病院長としましては、今は謝罪をさせて頂くしかありません。
そして、両方のお子さんのご両親様方に会って頂けるよう
そのように……させていただくことしか……
本当に申し訳ありません。それしか、ありません。」
「先方に会えるんですか?」
「会って頂いて、今後のことを話し合っていただくことが
今は大切だと承知しております。
先方の鈴木さんご夫妻は別の部屋にいらっしゃいます。
もし、お会いになるなら、そのお部屋に案内いたします。
どうなさいますか?」
二人は顔を見合わせました。
雄介に明美が頷いたので、雄介は鈴木夫婦にこれから会うことを決めました。