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1本の電話から始まりました。
風薫る五月。
日差しは初夏のようなのに、5月らしい爽やかな空気で過ごしやすい日です。
今年、小学校に入学した長男が帰ってくるまでに、明美は家事を全て済ませます。
今日も長女を背負いながら商店街に買い物に出ようとした時、電話が鳴りました。
慌てて電話を取りました。
「もし、もし。」
「三好さんのお宅ですか?」
「はい。」
「三好明美さんはいらっしゃいますか?」
「はい。私ですが……」
「あ……三好明美さん。
私は辰井病院の事務の者です。」
「病院?」
「はい。………三好明美さん……
以前、当院でご出産なさいましたか?」
「はい。」
「申し訳ありませんが……
大変難しいお話なので、当院へお越しいただきたいのですが……。」
「あの……なんでしょうか?」
「電話ではお話しできないことですので……
お越しください。
出来れば、ご夫婦でお越しいただきますようお願いいたします。」
明美は訳が分からないまま電話を切りました。
背中で長女は寝てしまったようでした。
寝た子の重みを明美は感じました。