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冬の童話祭り参加作品

たーちゃんのパンケーキ

作者: 水泡歌

 たーちゃんは5才の女の子です。

 ねる時はパパとママにはさまれて、おふとんで川の字になってねます。

 朝になるとママから順番に起きていきます。

 最後にまん中のたーちゃんが起きて、川の字はなくなるのです。


 12月23日、土曜日のことです。

 パパとママが台所で朝ごはんを用意して待っているとたーちゃんが起きてきました。

「おはよう……」

 パパとママは元気のないその声にたーちゃんを見て、びっくりしました。

 たーちゃんがポロポロとないていたからです。

「どうしたの、たーちゃん、どこかいたいの?」

 ママがあわててたーちゃんの手をとります。

「お熱でもあるのかな」

 パパがたーちゃんのおでこに手をおきます。

 でも、どれもちがうみたいです。

 たーちゃんはふるふると横に首をふります。

「やなゆめみたの」

『やなゆめ?』

 パパとママ、いっしょに首をかしげました。

「どんな夢?」

 ママがきくとたーちゃんは話し始めます。

「あのね、おいしいパンケーキをたべたの」

 パパとママはますます首をかしげます。それはいい夢ではないでしょうか。そう思いましたが、そのまま話を聞きます。

「でもね、パパとママがいないの。たーちゃん、いっしょにたべたかったの」

 パパとママの胸がきゅーっとなりました。なんてかわいらしいなみだの理由なのでしょう。

 2人は思いっきりたーちゃんを抱きしめたい気持ちになりました。でも、そのあとに続いた言葉に動きを止めてしまいました。

「ママ、パパ、たーちゃんのパンケーキたべにきて?」

 夢の中のたーちゃんのパンケーキを食べにいく。

 さて、それは一体どうしたらいいのでしょう?


 3人はたくさん考えました。

 朝ごはんのこんがり焼けたトーストを食べながら考えました。

 中々いい考えは出てきません。

 それもそうですよね。たーちゃんの夢に行く方法なんて、かんたんには思いつきませんよ。

 そこでふと、ママの目がカレンダーに行きました。

 今日は12月23日。明日は──

「サンタさんだ!」

 ママが手をたたいて立ち上がりました。

 パパとたーちゃんはびっくりした顔でママを見ました。

『サンタさん?』

 ママの言葉をくりかえします。

 ママはニコニコ笑って言います。

「明日はクリスマス・イブだからサンタさんにお願いしましょう。たーちゃんのパンケーキが食べたいですって」

 たーちゃんの目がキラキラかがやきます。

「そうだ、サンタさんだ! ママ、すごい!」

「でも、そんなにうまくいくかなあ」

「パパとママでお願いすれば大丈夫」

「たーちゃんはおねがいしなくてもいいの?」

『たーちゃんはダメ!』

 パパとママの声がそろいました。

「クリスマスなんだから、たーちゃんのプレゼントはたーちゃんのほしいものをもらうのよ」

「そうだぞ、たーちゃん。そこはパパとママにまかせておきなさい」

 たーちゃんのクリスマスプレゼントは大切ですからね。パパとママもそこはゆずれません。

 たーちゃんは「わかった!」とにっこり笑いました。


 さて、そうとなったらサンタさんに伝えなくては。

 3人は話し合って、サンタさんにお手紙を書くことにしました。

「サンタさんはお年よりだから、大きい字で書いた方がいいだろうね。何に書いたらいいかな」

「たーちゃんのがようしは?」

「たーちゃんの画用紙くれるの?」

「いいよ。クレヨンもかしてあげる」

『わ〜、ありがとう〜』

 まっしろな画用紙と24色のクレヨン。たーちゃんは自分の「たいせつなものいれ」から出してきてくれました。

 机の上にそれをおいて、3人で画用紙をかこみます。

「サンタさんに手紙を書くなんてひさしぶりだなあ」

 黒のクレヨンを持ちながらパパがなつかしそうに笑います。

 画用紙に大きめの字で書きます。


サンタさんへ


おひさしぶりです。

ぼくたちは大人になってしまいましたが、プレゼントがほしいです。

たーちゃんのパンケーキが食べたいです。


パパとママより


「あ、パパ、全部書いちゃったの? それじゃあ、2人の手紙にならないじゃない」

「あ、そうか、ごめん」

「ママ、がようし、まだあいてるよ。したにサンタさんのえ、かいたら?」

「えー、ママ、絵へたなのに」

「たーちゃん、ママのえ、すきよ?」

「パパもすきよ?」

「んー、仕方ないな、たーちゃんとパパがそう言うなら」

 ママはクレヨンを手に取って、いっしょうけんめいサンタさんの絵をかきました。

 確かに上手ではないけれど、かわいらしいサンタさんの絵です。

「じゃあ、たーちゃん、おてつだいするね」

 そう言ってたーちゃんはたくさんのクレヨンを手に取りました。

 赤青緑に黄色。

 パパとママの手紙のまわりにぬっていきます。

 大切につつみこむように。

 パパとママは感動しながらそれを見ました。

「できた!」

 たーちゃんの元気いっぱいな声といっしょにお手紙ができあがりました。

 なんてかわいくやさしいお手紙でしょう。

 あとは枕もとにおくだけです。

 さて、サンタさんに届くでしょうか。


 さあ、夜がきました。

 いつもはねるのをいやがるたーちゃんも今日はすぐにおふとんに入ります。

 パパ、たーちゃん、ママの順番で今日はみんないっしょに「おやすみなさい」です。

 まん中のたーちゃんの枕もとにサンタさんの手紙はおきました。

 3人はじっとそれを見ると願いながら目をつぶりました。

『たーちゃんのパンケーキが食べられますように』


 夢の中。たーちゃんは目をあけました。

 まっしろな空間。白いテーブルクロスがかかった長机。たーちゃんはそのまんなかにちょこんとすわっていました。

 前には白いお皿にフォークとナイフ。そこにはふわふわのパンケーキがありました。

 3段あって、生クリームがたっぷりのっています。昨日と同じとってもおいしそうなパンケーキです。

 たーちゃんはキョロキョロとまわりを見ました。

 誰もいません。

 テーブルにはたーちゃんが1人ですわっています。

 たーちゃんはしょんぼりしました。

 またひとりぼっちなのでしょうか。

 サンタさんは願いをかなえてくれなかったのでしょうか。

 その時。

『わっ』

 たーちゃんの右と左から声がしました。

 びっくりして見るとそこには──

 たーちゃんの目がかがやきます。

「パパ、ママ!」

 右にパパが、左にママがすわっていました。

 パパとママがたーちゃんを見ます。

 顔いっぱいによろこびがひろがります。

『かなった〜!』

 3人でぎゅっと抱きあいます。

 よかった。手紙はサンタさんにちゃんと届いたみたいですね。

 サンタさん、ありがとう。

 3人は心からそう思いました。

 パパとママの前には白いお皿とフォークがありました。

 パンケーキはたーちゃんの前にしかありません。

「パパとママにもあげるね」

 たーちゃんがナイフとフォークを持って切ろうとします。

「あ、パパがやるよ」

 あぶないとパパがたーちゃんからナイフをとりあげようとします。

 たーちゃんはいやいやと首をふります。

「たーちゃんがやるの」

 たーちゃんはパンケーキを4つに切ります。

 パパとママはハラハラしながらそれを見守ります。

 でも、大丈夫です。パパとママがしてくれること、ちゃんと見てますから。

 ほら、とってもきれいに切れました。

 そして、パパとママのお皿にひとつづつのせました。

 のこった1つはいつもならたーちゃんがもらうのです。

 でも、今日はママのお皿にのせてあげました。

「いいの?」

 びっくりするママにたーちゃんはニコニコ笑って言いました。

「いつもがんばってるママにあげる」

 ママはちょっとなきそうになってパパを見ました。

 パパもニコニコ笑って「うんうん」とうなずいていました。

 ママはお皿にのったそれを「食べるのもったいないなあ」なんて言いながらじっと見ていました。

 たーちゃんは気付いたように言いました。

「そうだ、おいしいこうちゃをいれなくちゃ」

 そう言ってパンと手をたたくと、あらふしぎ。

 たーちゃんの前にティーポットとティーカップが3つあらわれました。

 たーちゃんはティーポットを持って、上手にカップに紅茶を入れていきます。

「たーちゃん、すごい、そんなこと出来るの?」

「ふふ、言葉やしぐさがママそっくりだね」

「さめないうちにのんでね」

 たーちゃんはパパとママにカップをくばります。角砂糖とスプーンをひとつそえて。

 自分の前にもおきます。

 いつもはたーちゃんは紅茶をのむことはできません。でも、今日は特別です。だって、これはたーちゃんの夢の中。本当はずっとのみたいと思っていたんです。

 さあ、すべてがそろいました。

 たーちゃん、パパ、ママ、3人で手をあわせます。

 声をそろえて『いただきます』。

 フォークでさして、生クリームをたっぷりつけて、お口へパクリ。

 入れたとたん、それはふわりととけました。

『おいしい!』

 3人とも思わずそう言いました。

 ほんのりとしたあまさがのこり、お口がしあわせでいっぱいになります。

 ママはたーちゃんが入れてくれた紅茶をのみます。

「わー、たーちゃん、この紅茶もすごくおいしいよ」

 紅茶のいいにおいがふわりとかおります。

 たーちゃんはニコニコ笑って言います。

「ほんとだね〜、こうちゃっておいしいね〜」

 パパとママは「ふふふ」と笑います。

 楽しい楽しい時間です。

 でも、はじまりがあればおわりがあります。

 お皿の上のパンケーキも紅茶もあっという間になくなってしまいました。

 まだもう少しこの時間がつづけばいいのに。

 そう思いましたが仕方ありません。

 3人は手をあわせて言います。

『ごちそうさまでした』

 すると、ぐらりと景色がゆれて──


 パチリ。

 たーちゃんは目をさましました。

 どうやら、朝が来たようです。

 たーちゃんはパパとママを見ました。

 パパとママもたーちゃんを見ていました。

 たーちゃんはすこし不安になりました。

 さっきの夢は本当だったのでしょうか。

 あれは本当のパパとママだったのでしょうか。

 そう思った時、2人はとってもうれしそうににっこり笑って言いました。

『おいしかったね』

 たーちゃんはほっとして、いっしょににっこり笑いました。

 3人で枕もとを見ます。

 そこにはもうサンタさんへのお手紙はありませんでした。



 あらあら、サンタさん、いつまでそのお手紙を見ているんですか?

 うれしいのはわかるけど、明日はクリスマス。ちゃんと用意をしなくては。

 サンタさんったら気付いたようにあわててかけていきましたよ。

 明日の朝はきっと、また、たーちゃんのうれしそうな笑顔が見られることでしょう。

 今回はパパとママへの特別なプレゼント。

 たーちゃんのクリスマスプレゼントは「まだ」ですからね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわー… なんて可愛い物語でしょう! 読み進めるうちに、にこにこと頬が綻びました(о´∀`о) 「たーちゃん、ママのえ、すきよ?」 「パパもすきよ?」 ここ! 家族の会話でありそう…
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 たーちゃん家は、とっても素敵な家族ですね。 パパとママと一緒にパンケーキが食べたいと願うたーちゃんがかわいいです。 願いを叶えるために手紙を書くパパとママに…
[一言] 家族みんなでパンケーキを食べられて良かったです。 読ませていただきありがとうございました。
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