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大罪人もう一度  作者: 御神大河
はじまりの村・一つ目の楔
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4.力の差

 職員室から撤退したユーリスにルクスが疑問を投げかける。


「この村にはユーリス以外に魔法を使える奴はいないはずだよな?」

「今は君とボクの2人だけどね……」

「けど、さっきのユーリスの反応……」

「ああ。他にいるはずだ。さっきは間違いなくあの辺から感じたんだけど……。ルクスは何も感じなかったか?」

「……残念ながら。正直ユーリスの力すら、今まで一度も感じ取れたこともないし、さっきも全くだった……」


 ルクスは問いに素直に答える。


「あそこへ走っていったってことは、ユーリスは院長かシスターが怪しいと思ってるってことか?」

「どうだろう……。あの2人からは一切の力が感じられなかった。だから他に誰かいると思ったんだけど……」

「オレのと勘違いした可能性は?そもそも力を感じ分けられるのか?」

「力を感じ分けるのは……どうだろう?……もっと経験を積めれば確実なことが言えるんだろうけど……」

「だったらオレのと勘違いした線もあるのか……」

「そうであって欲しいな。村の人ならまだしも孤児院に魔法を使える人がいるとは思いたくない……」


 ユーリスは魔力があるからこそ除け者扱いをされてきた。

 故に、魔力があると名乗り出ることがどれほどの理不尽に繋がるかもよく理解できていた。

 それでも、孤児院の誰かが自分と同じく魔力を保有しているのであれば、自分には打ち明けてくれているはずだと信じていた。


「……なぁユーリス、職員について聞いてもいいか?」

「え?ああ、いいよ。何が聞きたい?」

「何がと言うか全部だな。何も知らないんでね」

「そっか……。じゃあ、まずはシスター・グラーティ。さっき会った女の人。いつも冷静で落ち着いた大人の女性って感じかな?佇まいも綺麗だし。院長より年上って話を聞いたけどそうは見えないよね~」

「そうじゃなくて、経歴とかさ!」

「はいはい。確か、彼女は2,3年前くらいにこの村に訪れて来て、住む場所もなかったから孤児院の職員になった人だよ。元々は王都で薬師くすしをやっていたらしくて、今でもこの村で薬を調合したりしているはずだよ」

「王都!?なんでそんな奴がこんな辺境に?」

「さぁ?前に子どもたちみんなで聞こうとしたんだけど、大人には色々あるのってはぐらかされたんだよね。村の人の噂では離縁されたんじゃないかってさ」

「ふーん。で、次は?」

「次はオース神父。背も高いし無口だし結構ボクらと歳も離れてそうだしで、ちょっと近づき難いんだよね。孤児院にもボクより前にいたし、大分古参だと思うよ。農家の末っ子で、継ぐための土地が無いから孤児院で働いてるって聞いたかな?家族については聞いたことないけど、ずっとこの村に居るんだろうし怪しくはないと思うよ」

「なるほど……」

「最後は院長だね。名前は知らないんだ」

「は?どういうことだ?」

「いや、あるはずだし、教えて欲しいと言えば教えてくれると思うよ。ただ、みんな院長って呼んでるしそれで通じるから名前を憶えていないんだ」

「……まぁいいか。別に重要な情報じゃないし」

「院長は公爵様から派遣されて来た人だよ」

「公爵?」

「そ!ここの孤児院は公爵家が運営元だしね。地方で数年経験を積んでまた中央に戻る、よくあることでしょ?だから職員の中では一番若くても長だし村の中でも結構な権力があるはずだよ。ここも公爵領だしね」


 職員3人の情報が揃ったルクスは顎を指でなぞりながら考え込む。


「一番可能性のあったオース神父が一番魔法を使える可能性が低いのか……」

「ねぇルクス。やっぱり勘違いだったかも……それに仮にボクたち以外の誰かが魔法を使えたとしてもいいんじゃないかな?魔法を使える(イコール)悪人ってわけじゃないだろうし」

「そうだな……」


 ルクスがそう言うと、ユーリスはホッと息を吐き少しばかり安堵の表情を見せる。

 ユーリスは孤児院の人たちへ疑いの目を向けることに徐々に罪悪感が湧き始めていた。

 しかし、ルクスは魔法を使える可能性のあるもう一人の存在を諦めてはいなかった。それどころか別の可能性も考え始めていた。

 誰かと一緒に修行をすることが思いの外楽しかったユーリスは、修行の続きをしないかと遠回しにルクスを促す。


「魔法の修行どうする?また、地下室に戻るかい?」

「ちょっと行ってみたい場所がある」


 ルクスの返答に修行がこのまま中止になるのかとユーリスは焦って聞き返す。


「行ってみたい場所?それって?」

「魔獣が現れた森へ行きたい」

「え?でも……じゃあ修行は?」

「別にいつでもできるだろ?何なら一人で行ってくるから、ユーリスは一人で修行しててもいいぞ」

「待って待って!ボクも行くよ!」


 魔獣が現れた森は人が近づかないように簡易の柵が立てられ、周辺住民は二次被害を危惧して森から離れた家へと各々間借りしている。そのため、周囲に人の気配がない。

 ルクスとユーリスの2人は誰にもバレないようこっそりと森の中へ入る。


「ルクスーーー!!」


 大きな掛け声とともにルクスたちの下へ走ってくる小さなシルエット。

 その姿を見て、ユーリスが反応する。


「クエル!!」


 クエルはルクスの下に一直線に駆け寄ってくると、一気に捲くし立て始める。


「何日も居なくなって何やってんの!!しかもやっと帰ってきたと思ったら、用事があるとか言って報告にも来ないし!!」


 勢いに気圧されながらルクスは宥めるように対応する。


「悪い悪い。出来ることが増えて少し前のめりになり過ぎた。心配してくれたんだって?ありがとな」

「んっ!心配したわよ!本当に心配したんだからね、バカ!!化け物が現れた次の日に3日も連絡取れなくなって!ケンの奴がルクスにちゃんと謝るように言っといたって言ってたから、あたしの所に来てくれるかもと思ってたのに用事があるからとか言って来ないし!こっちから孤児院に出向いてあげたのにいないし!!」


 感情が昂って勢いが全く落ちないクエルの発言に完全に押されてしまっているルクス。

 その状況を何とか落ち着かせようとユーリスが間に入る。


「まぁまぁ、ルクスも反省してるしその辺にしてあげてよ、クエル」

「うるさい!あんたは黙ってて!!」


 クエルにピシャリと怒られ、ユーリスはビクンっと肩を跳ねさせた後、クエルに怒られたショックから肩を落とす。

 クエルの勢いは止まらない。


「そもそも2人してこんな所で何やってるの?まさか!?ユーリス、あんたがルクスに何か吹き込んでるんじゃないでしょうね!!」


 そう言いながら鋭い眼光でユーリスを睨みつける。

 ユーリスは緊張と動揺から完全に目が泳いでしまい、返答もおぼつかなくなってしまう。

 完全に犯人の様相となっているユーリスに対し、自分の言った内容が正解であると確信したクエルは口を尖らせてユーリスに詰め寄ろうとする。


「待て待て待て待て!別に隠し事をしているわけじゃないんだ。ちゃんと説明するから落ち着いてくれ!ユーリスも緊張から挙動不審になるのやめろ!」


 ユーリスとクエルの間に割って入り、ルクスはその場を仲裁する。

 目の前に急にルクスが入ってきたことにより、意表を突かれたクエルは大人しくなる。


「わかったわよ。ちゃんと説明してもらうからね!2人とも嘘は無しだから!」

「はああぁぁぁぁーーー。OKOK」


 大きくため息をつくとルクスはクエルに説明を始める。


「まず、ユーリスを呼び出したのはオレだ。だからユーリスが俺をそそのかしたとかそういうんじゃない。理由は魔法の修行をするため」

「魔法!?どういうこと!?」

「この前に言ったろ?恐らくオレには魔法の資質があるって。それを試したんだ」

「どうだったの?」

「あるんじゃないか?どのレベルまで使えるようになるかはわからんがな」

「そ……そう……。ここで修行してたの?」

「いや。孤児院の地下室でやってた」

「地下室!?そんな所があるの?」

「ああ。で、そこで修行をしてたら、オレらとは別の力を感じたんで出てきたんだ」

「え?2人以外にも魔法を使える人がいるかもしれないってこと!?」

「ちょっとルクス!?クエルに話すことじゃ……」

「なに!?ユーリス。あんた隠し事する気?ルクスは全部話すって言ってるじゃない!」

「いや、そういうつもりじゃなくて……確証がないし……場合によってはクエルに危険が及ぶかも……」

「そんな言い訳聞きたくないし!」


 再び言い合いになり始めた2人を面倒くさいと思いながらも、ちゃんと説明するとした手前、ルクスは呆れながらも話の軌道修正をする。


「おい。そのことはどうでもいい。いや、どうでもよくはないんだが……ただ、今はその謎のもう1人は置いておこう」

「そう……2人以外にもそういう存在が……」


 魔法を使える者がルクスとユーリスの他に存在する可能性がある、クエルはそのことに引っかかっていた。

 少し前までユーリス以外にそんな存在はいなかった。

 だから魔族と同じ力を操れる者を、自分とは別のどこか異質な存在として認識していた。

 だが、ここにきて魔法を使える者が急に増えた。

 クエルは自分にも可能性があるのではないかと思い始めていた。

 そんなクエルをユーリスは心配そうに見つめていた。

 対して、ルクスは構わず話を進める。


「クエルは魔法が使えるか?」


 クエルに対し飛ばしたその発言にユーリスは柄にもなく鬼の形相でルクスに食ってかかる。


「どういうつもりだ、ルクス!!クエルを疑っているのか!?」

「落ち着けよ、ユーリス。魔法を使える(イコール)悪人ではない。お前が言ったことだろ?」


 ルクスは胸ぐらに掴みかかってきたユーリスに一切顔色を変えることなく返答し、ユーリスを押し退ける。

 そして、クエルへと目線を送る。


「で、どうなんだ?」

「使えないよ……あたし、魔法とかわかんないし……」

「そうか」

「な……なんで?……あたし……なんか怪しいかな?」

「状況的にはな」


 ユーリスが眉間に皺を寄せる。

 しかし、ルクスは構わず話しを続ける。


「この森には近づかないように村のみんなには指示が出ている。そうでなくとも近づきたいと思う奴は少ない。そこにフラッと現れたんだ首を傾げる行動ではあるだろ?」

「……」

「……はっきり聞いとくか……何でここにいる?」

「……そ……それは……」


 言い淀んでいるクエルを庇うようにユーリスが割って入る。


「ルクス、それはボクも君に問いたい。なんでこの森に来た?」

「ここに来れば今まで魔法を使えなかった奴が急に魔法を使えるようになる方法があるかもしれない」

「!?」


 ルクスの発言にユーリスは目を丸くする。


「どうしてそう言う結論に至った?」

「記憶が曖昧なせいで断言できないが、魔獣が現れたタイミングでオレは魔法の才に目覚めたんだろ?だったら他にもそう言う奴がいるかもしれない。それが3人目でもおかしくはない。仮にそうならここを探索すべきだろ?」

「……なるほど」


 ユーリスとルクスが問答している間、クエルの目は希望に輝いていた。

 自分にも魔法が使えるかもしれない、それは村を出る時役に立ちそうだったら連れてってくれるというルクスとの約束に近づくということである。


「ねえ!方法がわかれば、あたしも魔法を使えるってことよね!!」

「!?ちょ、ちょっとクエル!よく考えた方が……魔法だよ?」

「知ってるけど?何よユーリス、あんた自分は魔法が使えるくせに、あたしが魔法使えるようになるのが嫌だっていう訳?」

「いや、そうじゃないよ!クエルが魔法を使えるようになったらボクは嬉しいよ。だから、そうじゃないんだけど……」

「だったら何で止めようとするわけ?あたしも魔法を使える──」


「なんだ?そこのガキ、魔力保持者か?」


 森の中からガタイの良い男が現れる。

 真っ白な肌を真っ黒な衣服が包み込んでいる。瞳も舌も青白く、まるで死人ようであるにもかかわらず、圧倒的存在感を放つ。


「今、魔法を使えるって言ったよな!?ガキ!?悪ィがオレの糧になれ!」


 男がクエルに向かって突っ込んでくる。

 ルクスは即座にクエルをユーリスの方へと突き飛ばすと、男の攻撃に対し防御をとる。

 防御をとったルクスであったが一瞬も踏ん張ることを許されず、勢いよく後方に立っている木へ吹き飛ばされる。


「ルクス!?」


 吹き飛ばされたクエルを抱えたユーリスがいきなり襲いかかってきてた男に対しいつでも対応できるよう警戒しながら、声をかける。


「チッ。いい反応するじゃねーか、てめぇ!だがよぉ、腕イッちまったろ、ああ!?」

「ぼさっとすんな!クエル連れてとっとと行け!!」


 目の前にいる男の発言を無視してルクスはユーリスに命令する。


「で、でも──」

「ユーリス!!!!」


 ルクスの圧に押されユーリスはクエルの腕を掴むと村へ向かって走り出す。


「逃がすわけ──」


 男がクエルとユーリスを追いかけようとルクスから目線を切った瞬間、ルクスの拳が男の顔面へと放たれ、男のターゲットが変わる。



 ユーリスに引っ張られているクエルが抵抗するように速度を落とし、ユーリスに疑問をぶつける。


「ちょ、ちょっと!!あんたルクスを置いてくの!?」

「クエル、君を安全な場所まで連れてゆく。そしたら村へ危険を知らせて欲しい。ボクはすぐにルクスの下へ戻るよ」

「そんなことしてる間にルクスが死んじゃったらどうすんの!?明らかにヤバい人じゃん!?ルクスを助けなきゃ!!」


 クエルがユーリスの手を振りほどきルクスの下へ行こうと振り返ったと同時に、吹き飛ばされたルクスが2人の横を通り過ぎる。


「がはっ!」

「はっはっはっはっは。マジでしぶてーな、おい!」


 ルクスは全身傷だらけで、肩で大きく息をしている。

 男は気分良さそうに肩で風を切りながら歩いてくる。


「やめて!!」


 男の前へクエルが両手を広げて飛び出す。

 男は鬱陶しそうに見下すと、躊躇なく裏拳でクエルを吹き飛ばす。

 拳が顔に直撃したクエルは10メートル以上吹き飛ぶ。打たれた頭は陥没し、首が捻じれ、何度も地面を跳ねる。

 クエルが吹き飛んだ瞬間、ルクスとユーリスのとった行動は全く別であった。

 ルクスは間髪入れずにまだ吹き飛んでいるクエルの下へと走り出していた。高速で回り込みクエルを受け止めるとダランと落ちた首を支える。


「クエル!?クエル!?」

「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」

「まだ生きてる!?諦めんなよ!!意識をしっかり持て!!」


 ルクスはどうしていいかわからなかったが、辛うじて息のあるクエルに必死に呼びかける。


「おい!ユーリ……ス……」


 ユーリスは男への攻撃を選択していた。

 殺意のこもった表情で男の懐へ飛び込むと、男の顎がかち上がる。

 グラついた男が怒りを露わにしユーリスの顔面へ拳を振り抜く。

 しかし、ユーリスの周囲に発生した水の塊が男の拳を滑らし、男の拳はユーリスの顔横をすり抜ける。


〈──グラキアルマトス──〉


 ユーリスの拳は氷の武装を瞬時に覆うと男の顔面へ叩き込まれる。

 今度は男が大きく吹き飛ぶ。

 男は何とか体勢を立て直すとユーリスへと向き直る。


「調子に乗んじゃ──!?」


 ユーリスは足から水をジェットエンジンのように噴射すると同時に、氷の滑走路を作り出し、畳みかけるため間合いを詰める。

 以前ルクスに見せたように両手で高速回転する水球を作ると、両手で圧をかけ薄く平たくする。


 キュイイイイイイイイイイイイイイイイイン


 空気を切り裂く高音とともに、円形の水の端が空気摩擦によりオレンジに光る。

 男は危険を察知し、焦った表情で体を捻じる。

 周囲に派手に血が飛び散り、男の片腕が飛ぶ。


「クッソおおおおおおクソがあああああああああああ!!!ふざけやがって!!殺してやる!!殺してやるぞ!!!」


 男は失った腕を抑えながら喚くと、なおもユーリスへ攻撃しようとする。


「そこまでだよ、ガウディー。帰るよ」


 突如現れた存在にユーリスは警戒して距離を取る。


(こいつの仲間?今どうやって現れた?)


 どこからともなく現れた男もガウディーと同じ服を身に纏っている。

 男はユーリスのことなど気にも留めず、虚空に向かって語りかける。


「イディオ。ガウディーの腕も頼む」

「フェームス!てめぇ、俺はまだそいつとの決着がついてねぇんだよ!」

「そうか。残念だが時間切れだ」


 そう言うと2人は消える。


「どうなってんだ……?」


 訳がわからずルクスが呟く。

 その声で我に返ったユーリスが慌ててルクスに駆け寄る。


「クエルは!?」

「え?ああ、生きてるぞ……たぶん……」

「よかった……って傷が!?」


 殴られて酷い損傷をしていたクエルの傷は跡形もなく消えていた。


「ルクスがやったの?」

「……わからん……」

「まぁいいや。とにかく孤児院へ運ぼう。孤児院には治療室があるから」


 ルクスとユーリスは気を失っているクエルを担いで、孤児院まで走る。



 無事に孤児院についたルクスとユーリスは、治療室のベットにクエルを寝かせる。

 意識を失っているクエルの前で沈黙が流れる。

 ルクスもユーリスも今日の出来事を思い返していた。


「あのさ──」

「ユーリス──」


 お互いの覚悟のタイミングが被る。

 ルクスがユーリスに先を譲る。


「さっきの奴らの肌や纏う雰囲気、アレは人間のものじゃない。奴らは恐らく魔族だろう。ルクス、君が魔族の子を助けたことは知っているし、あの時遠くから眺めてることしかできなかったボクにそのことについてどうこう言う権利がないこともわかっている。だからこそあえて宣言しとくよ。やっぱり魔族は人の敵だ。今後、ボクは躊躇うことなく魔族を殺す。例え、あの時のか弱い魔族であってもだ」

「……そうか……俺は明日からお前と修行できない」


 ルクスの発言にユーリスの蟀谷がピクリと動く。


「ルクスは今回のことがあってなお、魔族の肩を持つのかい?」

「別にオレもお前の行動にどうこう言うつもりはない。……ただ、今回のことでオレが如何に無力なのかがわかった。実際、お前が善戦、と言うか押していた相手にオレは手も足も出ず、一方的にボコられただけだからな。オレは明日から先生の所へ行く。だから、お前とは修行が出来ないと言っただけだ」

「魔族を庇う人の所へか?」

「魔族を庇ったのはオレも同じだろ?それで言ったらその時点でオレはお前の敵ということになるが?……何だったら、腕ずくでオレの行動を縛るか?」

「…………わかった。明日からは別行動だ」


 その夜の孤児院の夕食は楽し気な会話が飛び交う日常とは一転、食器同士がカチャカチャと当たる音のみが部屋に響く異様な雰囲気であった。

 いつも静かで落ち着いているユーリスから緊張感の漂うピリピリとしたオーラが発せられている。

 ルクスとユーリスの間に何かあったのかと、子どもたちはチラチラと2人の様子を確認するが、ルクスは何事もなかったかのように食事をしている。

 ルクスもユーリスもお互い何もしゃべること無く、さっさと食事を終えて自分たちの部屋へ戻り、静かな夜が更けていく。



 ルクスは紅黒城の口と呼ばれる森の前に来ていた。

 前回は何一つとして知識も準備もなく乗り込み、全身を傷と吐瀉物で汚しあえなく撃沈した。

 だが、今回は違う。

 食料や水分を背負いこみ、枝を切り落とし目印を付けるためのナイフを用意している。何よりも全身から魔力を帯びている。


「さぁて、リベンジだ」


 ルクスは左手の拳に息を吹き込み気合を入れる。

 そして、紅黒城の口へ足を踏み入れる。

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