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大罪人もう一度  作者: 御神大河
はじまりの村・一つ目の楔
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3.才の自覚

 魔獣騒動の翌朝、職員と孤児全員が孤児院の食堂に集まり賑やかに朝食をとっていた。

 騒動の際に、多くの子どもたちが初めて見る恐ろしい魔獣に襲われたという事実と、今後襲われた場合大人たちが孤児である自分たちを必ず守ってくれるわけではないという可能性を冷静に認識てしまい院内はプチパニックが起こってしまっていた。

 騒動の中心にいたルクスは更なるパニックの原因になる可能性があったため、騒動後は子どもたちには極力接触しないようにと院長から言い付けられていた。

 そのため、ルクスはここにきて初めて孤児全員と顔合わせすることとなった。

 と言っても記憶のないルクス以外の全員が既にお互いのことを家族のように知っている。


「ねぇルクスお兄ちゃん、今日は何して遊ぶ?」

「バカ!今日は強くなる修行つけて貰おうぜ!」

「修行?誰に?」

「ルクスにいに。めっちゃ強かったんだぜ!」

「そうなの!?なんでケン君知ってるの?」

「えっ、服屋のばあちゃんに聞いた」

「おばあちゃんボケてるから言ってる事信用しちゃダメって聞いたよ!」


 孤児院の子どもたちは精神的にとても強い。

 生きるのに苦労するほど追い詰められている訳ではないが、それでも親がいない以上、できることは自分たちでやらねばならないという意識が他の子たちによって孤児院に入院した頃から自然に刷り込まれている。

 そのおかげで昨日のパニックも一晩経ったことで、一人一人の中で消化が済んだ状態となっていた。

 幼い孤児たちは年長であるルクスを慕い、遊びや修行の提案をする。と同時にルクスの雰囲気が変わったことを鋭敏に感じ取り、さり気なく探ろうとしている。


「悪いな。今日はちょっとやることがあるんだ」

「えー!修行つけてよ!」

「遊びがいい!」


 ルクスの発言に子どもらしく我儘を押し通そうと詰め寄る。

 ルクスが躱し方に困り、机の一番隅で静かに食事をとっているユーリスにアイコンタクトで助けを求める。

 ユーリスは一瞬目が泳いだ後、覚悟を決めて子どもたちを説得にかかる。


「ほ、ほら。みんなで一斉にルクスに詰め寄ったらルクスが困っちゃうでしょ?それにルクスも今日は用事があるって言ってるし、また今度にしたら?ね?」


 整った顔から繰り出される爽やかスマイルを引っ提げての優しくあやすような説得。

 大人や年頃であれば一発で説得されたであろう破壊力であるが、子どもは残酷である。


「は?ユーリスは関係ないじゃん!」

「そうだよ!いつも遊びに参加しないくせに!」

「いつも暗くてジメジメした所に一人でいて変だよ。ナメクジみたい!」

「そうだ!そうだ!ナメクジ!」

「ねぇ、ルクスお兄ちゃん遊ぼ?」


 子どもたちにブーイングを浴びせられ意気消沈状態のユーリスに申し訳なく思いつつ、引き続き継続される遊びの提案にあたふたしているルクスに助け舟を出したのは院長であった。


「こらっ!食事中にはしたないですよ!元気が良いのは良いことですが食事マナーはちゃんとなさい。それとルクスもそろそろ13歳なんですからやるべきことがあるのは当然です。仲が良いのは良いことですが皆そろそろルクス離れをするように!」


「「はーい」」


 院長の一喝に子どもたちは一堂に大人しくなる。

 そして、食べ終わった子から食器を片付け、外へ遊びに出掛ける。

 最後の一人の食事が終わったのを見届けて、ルクスも孤児院を出る。


 孤児院を出たルクスはルスヴァンが指差した地図には載ってない泉があるという森の前に来ていた。

 鬱蒼(うっそう)とした木々によって陽射(ひざ)しが遮られ森の中だけ夜のように暗い。湿気によって周囲より空気が重く、見通しの悪い森は侵入を拒むように異様な雰囲気を放っている。


「さて、行くか」


 そんな森の中へルクスは足を踏み入れて行く。

 森には生き物の気配がほとんどない。ルクスの目に入る生物は小さな虫や爬虫類、両生類の類いのみである。

 その証拠にけもの道が一切なく足場が非常悪い。

 この森に対しての知識がないルクスは何倍もの重力がかかったように錯覚しており、一歩踏み出すごとに体力が急激に奪われていく。

 暫く歩いた段階でルクスは異常に気付く。


「くそっ!方向感覚が……それどころか平衡感覚もおかしい!?」


 その場に止まり、右手の拳を口に当て大きく深呼吸をすることで焦る頭をリセットする。


「舐めてたな。目印を付けず森を進んだのは悪手だったか…だがこれは…」


 後ろを振り返り反省を口にするが、──もう遅い。

 完全に異常事態が発生していた。

 方角を見失ったどころか時間感覚も機能しなくなっており、森の中に陽が差さないことも相まってどれだけの時間森の中にいるかがわからなくなってしまっていた。

 だが、ルクスに撤退の意思はない。そもそも平衡感覚に異常が発生してしまった以上、確実に来た道を戻る方法があるわけでもない。

 そうして森の中を突き進むルクスに更なる異常事態が襲い掛かる。


「なんだこれ!?」


 森に入る前、ルクスは孤児院の上から目指すべき泉を確認していた。

 平坦かつ同じ高さの木々が密集している森であるため、泉が存在している場所が広大な森の中に隙間となって浮かび上がっていた。

 そう、確かに平坦であった。しかし、目が回っているかのようにルクスは何に躓くでもなくその場に転ぶ。


「まずい。真っ直ぐ立てない!?足元が歪んでんのか!?」


 症状は時間が経つごとに悪化の一途をたどる。上下感覚も崩壊し、世界がさかさまになって見えるようになり、吐き気が襲い始める。

 ルクスは既に立って歩くことが出来ず、何度も体を横にして休みながら獣のように四つ足で這って進む。

 全身に擦り傷を負い、泥と度重なる吐瀉物としゃぶつでドロドロになった身を這いずってようやく抜けた先は見覚えのある場所であった。

 ルクスは森の中で何時間もさまよった挙句、森に入るため最初に決意を固めた場所へ戻ってきていた。

 満身創痍のルクスは黙って孤児院へ帰り、風呂に直行する。

 ルクスの心は決して折れてはなかった。

 頭を冷やすように冷水を被りながら、次のための対策を思案する。


(……あれは普通の森じゃない。まずは情報が必要だ。……それから事前準備をしなかったのは大問題だ。下手したらあそこで死んでいた。……今後は何事にもリサーチと事前準備は徹底する必要があるな)

「……必ず攻略する」


 更なる決意を胸にする。

 風呂から上がったルクスに、ちょうど食事が終わった子どもたちが駆け寄ってくる。


「ルクス兄!?」

「どこ行ってたの?心配したよ……」

「大丈夫?」


 一瞬の安堵はあれど、皆一様に不安そうな顔をしている。


「平気だよ。ちょっと外に出ただけだ。そんなに心配するようなことじゃないだろ?」


 ルクスの軽い返しに子どもたちは猛反発する。


「ちょっとじゃないよ!3日もいなかったじゃん!」

「そうだよ!魔獣が出た次の日にいなくなんないでよ!」

「クエルが卒倒してたぜ。謝っとけよ、ルクス兄」


 子どもたちの圧に押されながらも、ルクスの頭の中には微塵の反省もなく不可思議な森の攻略でいっぱいであった。


「わかった。わかった。それよりユーリスいるか?」


 乱雑に話を切り、子どもたちをいなそうとした時背後からユーリス声がする。


「ボクに何か用かい?」

「ああ。ちょうど良かった。少し聞きたいことがある。時間あるか?」


 ユーリスはチラッと子どもたちの方へ目をやる。


「……場所を変えようか。ルクスの部屋でいいかい?」

「ああ」


 反省の色が見えないルクスとそのルクスの仲間となったユーリスに対し、不満を爆発させる子どもたちを振り切ってルクスとユーリスは部屋へ逃げ込む。


「ルクス、君の行動はボクには理解できる。強くなるには多少の無茶も必要だろう。でも、心配させるのも事実だ。今回は君が悪いよ」

「わーってるよ。説教は勘弁してくれ。同い年のは特に効く」


 開口一番反省を促すユーリスであったが、その言葉には真剣さは乗っておらず言葉の端々から嬉しさが溢れていた。

 強くなるという村では理解を得られない行動を取ったルクスは、ユーリスからしたら村で唯一の理解者となってくれる存在であった。

 そのことを理解しているルクスもユーリスの説教に冗談めかして返す。


「本題の前にまずは、ほらっ!」


 そう言ってユーリスはパンとボトルに入ったスープを差し出す。

 3日ぶりの食事の香りがルクスの鼻腔を刺激し、ルクスの腹がギュルルルと音を立て消化をするための準備を始める。腹の音を合図にルクスは差し出された食事に獣のようにかぶり付く。

 手が止まらないルクスを温かい目で見守りながら、ユーリスが話を進める。


「それで、何が聞きたいんだい?」

「森について」

「森?魔獣が出た森かい?」

「いや、そっちじゃない。隣の陽も通らない森だ」

「そっちか。……って紅黒城こうこくじょうの口に入ったのかい!?」


 ユーリスは青ざめた表情を浮かべ、驚愕から大声で叫ぶ。その後ハッとして声のボリュームを絞る。


「ごめん。ついびっくりして」

「別にいい。それより紅黒城の口?なんだそれ?」

「あの森の通称だよ。森の更に奥に紅黒城と呼ばれる城があったらしい。だから今でもそう呼ばれているんだ」

「あった?今はないのか?」

「ないんじゃないかな?500年くらい前に国を挙げて捜索したらしいんだ。かなりの規模だったそうで30万人近くの兵を投入したって」

「500!?古すぎないか?」

「まぁね。不思議なことに紅黒城にはあの森からしか辿り着けないらしく、兵もあの森から入ったんだって。ただひどい成果でね、30万人の兵はほぼ壊滅、帰ってきたのは3桁程度だったそうだよ。で、その帰ってきた人の曰く、城らしきものは発見できなかったって。そんな惨状だっだから紅黒城の口の調査はやらないと国が決めたんだよ。ルクスはどう思う?」

「どうって言われてもな…。てか、どこから仕入れた知識だ?」

「月に一度行商人が来るんだけど、そこにあった本だよ。王都から流れてきたんだって」

「その本今ないのか?」

「残念ながらね。本は高いから孤児のボクたちじゃ手が出せないよ。ちょっと借りて覚えてたんだよ」

「他に紅黒城の口に関しての情報は?」

「別名で不入不戻森ふにゅうふれいしんと呼ばれているよ」

「不入…あんだって?」

「不入不戻森ね。入ったならわかるでしょ?あそこには人も動物も入らない。一歩踏み込むと戻ってこれないからね。君が戻って来れたのは奇跡的と言っていい。だから、もう入るべきじゃない!」

「ユーリスも入ったことないのか?」

「ないね。と言うか近づきたくもないよ」

「ん?なぜ?」

「あの森は…うまく言えないけど異様な感じがするんだ。戻って来れないのも多分、そのせいだよ」

「魔法が関係あるのか?」

「多分……」


 ルクスはユーリスの発言を聞き、紅黒城の口攻略の糸口を見つけニヤリと笑う。

 その表情に危険を察しユーリスが止める。


「ちょ、ちょっと!入るのはまじでおススメしないからね!」

「ああ。わかってる。…なぁ、ユーリス。魔法について教えてくれないか?」

「え?」

「魔法だよ!水を操ったりしてたろ?イメージでいいんだ!魔法の感覚を掴みたい」

「あ、うん!いいよ!ただ今日はもう遅いからまた明日ね」

「ああ!」

「おやすみ!」


 明日の修行が決まり、ユーリスは嬉しそうに鼻歌を歌いながらルクスの部屋を去っていく。

 人の気配がなくなったことにより、気が抜けたルクスは沈むように眠りに落ちていく。



 翌日、ルクスとユーリスは孤児院内の礼拝室の地下に来ていた。

 地下室は天井が10メートル近く、石版が敷き詰められた床は100メートル×100メートルの1ヘクタール近い、かなり広い空間が広がっている。

 地下のため光が一切入らず、4メートル間隔程度にオレンジの炎が揺れるランタンが設置されている。薄暗い室内は物が何一つないにも関わらず端から端まで見渡すことが出来ず実際よりも広く感じる。


「こんな場所があったのか」

「この孤児院は元々礼拝堂で、戦争の際にここは避難場所として利用されていたそうだよ。ボクがいつもここで魔法の練習をしているからランタンも使えるよ」

「確かに広いが……なんでこんな場所で魔法の練習を?」

「ここは避難所として使われていただけあって、壁が厚く耐久性と防音性が高いからね。ボクらが使う魔法は危険なものなんだ。もし暴発したら大目玉じゃ済まないよ。ただでさえ魔法は煙たがられてるのに……」

「暴発したことあるのか?」

「今の所はないよ。でも、念には念をだよ」

「ふーん。まぁ、いいや。じゃあ早速やろうぜ!」

「うん!まずはどんな感じで魔法を扱うかだけど、こう……体に空気を取り込んで練り上げる!って感じ?」

「何で疑問形なんだよ?」

「しょうがないじゃん!今までボク以外に魔法を扱える人に会ったこともないし、教えるのだって当然初めてなんだから!」

「へいへい。で、ユーリスは最初どうしたんだ?」

「と、取り敢えず適当にそこに楽に座って」


 ルクスはユーリスに言われた通りその場で胡坐あぐらをかく。

 ユーリスもルクスに向かい合って同じように胡坐をかく。


「じゃあ、深呼吸しながら空気中から取り込んだものを、血液と一緒に体全体に行き渡らせるイメージで……体内の魔法の根源みたいなのを感じ取って」

「みたいなの?……感じ取れって言われて感じられるもんなのか?」

「多分ね。少なくとも才能があるなら感じ取れるはずだよ。ボクはそうだった」

「なるほどね」


 ルクスとユーリスは2人とも深く集中する。


『期待しているよ──』


 逆光に照らされたシルエットがルクスの脳内に浮かぶ。

 数瞬後、両の横腹から貫かれたような激痛に襲われ、座っていたルクスは跳ね上がる。


「だ…大丈夫?」


 心配そうにユーリスが声を掛ける。

 外見には何の変化もない。

 しかし、ルクスには大きな変化が起こっていた。

 ルクスは全身の皮膚が一斉に呼吸をしているような違和感を覚えていた。同時に五感全てが研ぎ澄まされていくのを感じている。

 続いて、体内に意識を向ける。

 次の瞬間、ルクスは体を丸めて床に倒れ込む。

 魔力が濁流の如く渦巻き、内臓を今にも張り裂かんばかりに揺らしているような感覚に襲われる。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」

「ルクス!?ルクス!?ルクス!?」


 ユーリスが慌てて駆け寄り、何度もルクスの名前を呼ぶ。

 ルクスは体を落ち着けるため深呼吸をしようと荒く息を何度も吐く。

 呼吸が落ち着いてくると、無理矢理にでも現状に体を慣らすため、歯が全て擦り潰れるほど歯軋りをしながら魔力を制御しようと吐き気に耐え続ける。

 苦痛に身をよじること数時間、ルクスはなんとかいつも通りの呼吸を取り戻していた。


「はぁー……はぁー……はぁー……。すげーな……これか……掴んだぞ……魔法の感覚」

「よかった……」


 ルクスは達成の感覚を体に感じ、思わず感想を漏らす。

 ユーリスもルクスの容体が落ち着いたことを見て、安堵と疲労の混ざった様子でポツリと呟く。


「よっしゃ!ガンガン行こうぜ!」

「うん!次は体の中で循環している力を体の外へ解き放つ修行をしよう!対象があった方がいいだろうからお互いに目掛けてやろう!」


 ユーリスはテンションが上がっていた。

 初めて自分と同じく魔法を扱える存在。初めての誰かとの修行。初めて意志を持って他人に力をぶつけられる。先刻までルクスを心配していたことを忘れるほど今は気分が高揚していた。

 高揚した自分自身に言い聞かせるためにも、これから行う実験の注意事項を確認する。


「せーのっ!で同時に魔法を体の外へと放出する。もしかしたら、魔法酔いが起きるかもしれないから、そうなりそうだったらすぐに放出を止めること。」

「わーってる。全力でやれよ」

「もちろん!じゃ行くよ!」

「ああ」

「せーのっ!」


 ルクスとユーリスは全身をりきませ一気に魔力を開放する。

 空気が振動し地下室に空洞音が響く。

 ユーリスの魔力はかなりのレベルである。力のない者であればその圧のみで容易に押し潰すことも可能なほどである。押し潰されそうな圧の中、浅く息をしながらルクスはなんとか精神を保っている状態であった。

 対して、ユーリスも驚愕していた。つい最近まで魔力のマの字も知らなかった目の前の少年の魔力は先日村を襲った魔獣に比肩しうるレベルに達していた。

 しかし、ユーリスの精神は凪いだ水面みなものように落ち着いていた。

 軽く息を吐き、ルクスが魔力の放出を弱める。遅れて、ユーリスも魔力の放出を弱める。

 ルクスは全身の感覚に異常がないかを確認しながら確認を取る。


「魔法酔いはなさそうだな。ユーリスはどうだ?」

「ボクの方も平気だ」


 ユーリスは笑顔を見せる。


「ユーリス、お前手ー抜いたろ?」

「え?……いや……そんなこと……」

「まぁいいや。それにしても力を放出するのってかなりきついな。頑張ろうと思ったんだけど持たなかった」

「そうなの!?結構長時間放出できてたんじゃない?凄い圧だったし……」

「そうか?悪いな、途中で止めちまって。ユーリス、まだイケたろ?」

「え、まぁ……」

「やっぱな……くそ~、向いてねーんかな?」

「そんなことはないと思うよ。……じゃあ、今度は魔法を練り上げる練習だね!」


 気を取り直したルクスが次の修行に入ろうとした時、ユーリスが突然地下室の天井を見上げる。

 そして、険しい表情のまま何も言わずに走り始める。

 ユーリスの急な行動に、ルクスは何が何やらわからない状態で慌てて追走する。

 ユーリスは確信を持って孤児院内の一室の扉を走ってきた勢いそのまま乱暴に開ける。


「きゃっ!?」


 前触れもなく突然開け放たれた扉に驚いた院長が椅子から転げ落ち、そのまま腰を抜かして床に座り込む。

 そんな院長を介抱しながら孤児院の職員の一人であるシスター・グラーティがルクスたちに落ち着き払った様子で質問する。


「何事です?」


 しかし、ユーリスはキョロキョロと辺りを見回し、まるで質問が聞こえていなかったかのようにシスター・グラーティの質問を無視して逆に質問を投げる。


「他に誰かいませんでした?」

「いえ。今孤児院には私と院長、そしてあなた方2人の4人のみのはずですね」

「もう一人、オース神父は?」

「オース神父です?彼は村で開かれてる魔獣の対策会議に出席するためさっき孤児院を出ましたね」


 シスター・グラーティは自身の質問が無視されたことに注意するわけでもなく淡々とユーリスの質問に返答していく。

 そんなシスターにてられユーリスも次第に冷静になる。


「そう……ですか……」

「そうですかじゃありません!!何事ですか!急に職員室に飛び込んで来て!」


 ただ、院長はお冠である。

 物凄い剣幕でルクスたちに捲くし立て始める。


「あ!?こらっ!待ちなさい!!」


 面倒くさいことになると直感したルクスたちはそそくさとその場から退散する。

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