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大罪人もう一度  作者: 御神大河
ゴブリン掃討戦・二つ目の楔
28/36

27.掃討依頼完遂

 巣の中を殲滅したルクスは、ゴブリンの巣から少し離れた所にある扉の前に立っていた。

 鉄でできた扉は押しても引いてもびくともしない。

 ルクスは周囲をざっと見渡す。しかし、他に入れそうなところもない。


「逃げられることはないだろ」


 ルクスは扉を破壊して中へと入る。

 岩山の中は至る所に灯りが設置されており、非常に明るい。

 そしてかなり広い。

 山をくり抜いたという感じであるが、高さも幅も5メートル以上ある。

 マスクを消して周囲の香りを嗅ぐが異臭はほとんど感じない。


(ここにはゴブリンがいないのか?)


 ルクスは悪臭のストレスから解放されたことから伸びをすると、奥へと進む。

 少し進むと巨大で重厚な扉が現れる。

 ルクスは両手を扉につくと力を込めて押し開ける。

 扉が反発しながらゆっくりと開く。


「ここは……」


 扉の奥には散乱した紙と大量の鉄の檻やかせ。ぱっと見、人影はない。

 ルクスは周囲を警戒しながら慎重に生活感が一切ない部屋の中へと入る。

 床に落ちている紙を一枚拾い上げると埃が舞う。


「使われていない実験室ってところか……」


 ルクスは部屋の隅に置かれた木造の机へと向かう。

 そして、机の上で束になっている紙をペラペラと捲る。


「魔族の隷従化?」


 そこには魔族の隷従化に関する実験レポートが記載されていた。

 ルクスは椅子に腰かけるとそのレポートを読み始める。


「なになに。まず、刻印者と奴隷商は別物である。奴隷は服従しているに過ぎず、奴隷商には神から与えられる刻印者の紋章が発現しない。奴隷商など刻印者からすれば取るに足らない存在である。(はぁ?)

 他者を隷従できる力を持つ者は、魔力を持つ者の中でもさらに刻印者としての素養を持つ者のみに限定される。つまり、刻印者とは魔道士と同様、いやそれ以上に尊ばれるべき存在であるべきである。(他者を隷従する刻印者を尊べは難しいだろ)

 隷従の際、刻印者と隷従者の両名に隷属関係の証として紋章が刻まれる。刻印者は左手の甲に隷従者は首に……。

 刻印者に現れる紋章は一度発現すると決して消滅することはない。王族どもはこれを真似して宮廷魔道士の左手に魔道士刻印をしているくせに、隷従刻印を神の呪い宮廷魔道士刻印を神の祝福などと触れ回っている。何と面の皮の厚いことか。(神の呪いねぇ……消せない刻印は呪いでいいだろ。てか、魔族の隷従化は?)」


 ルクスは本題が記載されてそうなページをペラペラと探す。

 そして、一番下の紙に目をつける。


「おっ!えーっと…現在、刻印者への昇華が確認されているのはニュートのみである。これは神が与えたもうた特権といって過言ではない。そして、隷従対象とできるのは人はもちろん妖精人エルフ小人ホビットなどの人族、獣人デミティア鳥人ハーピィなどの亜人族である。つまり、妖精族や魔族、竜族などの隷従は不可能である。しかし、これが可能になれば我ら人類がこの世界の覇権を握れるということであり、これこそが神が人類に特権を与えた意味、至上命題である。私、エボル・ビルフィクスがその歴史の最初の一歩を踏み出すことをここに記す。……ってこれで終わり⁉」


 ルクスは続きがないか机の上の紙から探す。


(これじゃあ思想強めの奴が宣誓しただけじゃん)


 机の上に続きがないとわかるとルクスは床に落ちた紙を集めて目を通す。


「被検体04……失敗。……被検体13……失敗。……被検体補充完了。……被検体29……失敗。……被検体53……失敗。なんだこれ?こいつゴブリンで実験してたのか……」


 散乱していた紙の中にはゴブリンのサイズや生後日数と一緒にイラストが記載された実験記録があった。

 その他にも実験に関する様々な考察が書かれている。

 ルクスは散乱していた紙を纏めると一通りザッとチェックする。しかし、その全てが失敗と記載されたレポートであった。


(この場所は破棄って感じか……?足取りを追うのは無理そうだな……)


 ルクスが実験室から顔を出すと外とは闇に包まれていた。タイミング悪く空は分厚い雲に覆われ、月明かりすら差し込んでいない。


(なんも見えねーな。方角に自信ないんだよな~。しょうがない、朝まで待つか)


 ルクスは岩山の中へと引っ込む。



 突如現れたオーガを倒し、クオダム高原のゴブリンの掃討に成功した冒険者たちは勝利の歓喜に沸いていた。

 プロウム草原、クオダム高原、トラン道、3か所の警備は兵士が引き継ぎ、臭いに誘われて新たな魔物が寄ってこないように大量の死体を全て焼いた。

 クオダム高原は激しく燃える炎により夕日より朱く染まっていた。

 ペルディアでは冒険者たちによる宴が開かれたいた。


「酒持ってこーい!」

「こっちも足りてねーよ!」


 仲間が治療中の者も仲間を失った者も勝利の暁には、刻まれた恐怖を振り払うとともに明日へ踏み出す活力を得るため、笑顔を作り勝利の美酒に酔いしれる。

 これが、常に生死と隣り合わせの仕事をこなす冒険者の流儀である。

 そのことはペルディアの町民たちも理解している。

 そのため命を懸け、凶悪な魔物から自分と自分の家族を守ってくれた英雄たちに料理と酒をたらふく振る舞う。トックやファトゥスのような怪我を負った非常に優秀な冒険者には高価な回復薬などを無料ただで与える金持ちなどもいる。

 そうして恩を売ることで再び何かあった時、冒険者たちが率先して依頼を受けてくれるのである。


「あんまり飲み過ぎてペルディアの住民の皆さんに迷惑かけんなよ!」

「おいそこ!喧嘩するんじゃないよ!」


 ペルディアには明るい声が響き渡っている。

 そんな中、アネル、アルメールは『白妙の光』が泊っている宿でドゥカスに詰め寄っていた。


「だから、ダメだって言ってるだろ!」

「なんでよ!負傷者だって運び終わったんだし、私ら動ける人たちだけでも追いかけた方がいいじゃない!」

「そうですよ!これは元々私たち冒険者の仕事だったんですから、これじゃ師匠に任せっぱなしじゃないですか!」

「それはそうなんだが……ただ、危険だからルクスはペトラ様をお前たちに預けていったんだろ?そんな場所に今の状態で行くわけにはいかないだろ」

「危険だからってルクス任せにするんですか⁉」

「そうですよ!」

「いや──」


 アネルたちが言い争っているとエリメールと包帯ぐるぐる巻きで松葉杖をついたトックがペトラを連れて部屋に入ってきた。

 エリメールはペトラが部屋に入ると外に声が漏れないようにすぐにドアを閉める。


「なに言い合ってるんだ?部屋どころか宿の外まで声が響いて周りの奴らが気を遣って離れちまってるぞ」

「ペトラ様を護るには好都合っすけどね」

「トックあんたからも言ってやって!」

「エリからも言って!」

「トック、お前のチームだろ!説得しろ!」


 トックとエリメールは3人の圧に押される。

 エリメールはスッとトックの背後に下がるとトックの背中を押す。そして、我関せずをアピールするようにペトラに席を用意する。

 エリメールに押し付けられたトックはため息を吐くと3人を落ち着かせるためにも椅子に座る。


「普通さぁ、オーガ討伐のために体張った奴が戻ってきたら「怪我大丈夫?」の一言くらいあるんじゃねーの?まぁいいんだけどさ~」

「お疲れ様なのじゃ」

「なんすかそのアピール」

「「…………」」

「ペトラ様~」


 チームメンバーの冷たい対応と対照的な、ペトラの労いの言葉にトックは手を握ろうとする。

 そこをエリメールに止められる。


「それ、公爵様にチクるっすよ」

「調子に乗りました、すんません。……で、どうした?」


 おちゃらけていたトックは3人へと振り返ると本題に入る。


「ルクスを追いかけたい!」

「師匠を追いかけたい!」

「ダメだ」


 トックは即答する。

 エリメールもやっぱりかといった感じで肩を竦める。


「なんでですか⁉」

「ルクスから与えられた俺たちの任務はなんだ?」

「ペトラ様を護衛することです」

「でも、それなら完遂じゃない!実際、傷一つないわけだし!」

「まだ終わってないだろ?」

「「!?」」


 トックの鋭い眼光に勢いよく噛み付いていたアネルとアルメールが押し黙る。


「ペトラ様の護衛はルクスが戻るまで、当然だろ?それに対象はゴブリンや魔物に限らない。ペトラ様が公爵令嬢様であられると知れば、悪意を持って近づく輩が現れるかもしれない。そういった奴からの護衛も依頼内容だと思うが?それともなんだ、ルクスからの依頼は適当でいいってことか?」

「「そんなことない!!」」

「なら、従ってくれ」

「わかったわよ」


 アネルとアルメールを何とか説得できたことでドゥカスは安堵する。


「明日からルクスを追いながらカロン村より奥のゴブリン掃討戦に入る。皆にある程度のところでお開きしろと伝えてくるから、お前たちも明日の準備をしといてくれ。それと、今日は会議に出なくていいぞ。しっかり休んでくれ」


 そう言うとドゥカスは部屋を出る。

 ドゥカスが部屋から出ると『白妙の光』の会議が始まる。


「すまぬ。ワシのせいでルクスのことを追わせてやれなくて……」

「ペトラ様は悪くないですよ。そもそも、じきに暗くなるってのに戦闘地帯に向かうなんて危険すぎるって話ですし。アネルとアルメールは少し冷静になれ」

「「ごめんなさい」」

「それより、ペトラ様は今晩はどちらにお泊りになりますか?聞かれるの鬱陶しいかもしれないっすけど、ウチらルクスさんに護衛を頼まれていますんで勘弁してほしいっす」

「泊まる場所はおぬしらに任せるのじゃ。護衛しやすい所を選んでくれ。よろしく頼むのじゃ」

「どうするっす?」

「そうね~。流石にこの部屋じゃ狭いわよね~」

「俺はこの状態だし、男だしで、活躍できなそうだから、適当にその辺に泊まるよ。つうわけでこの宿でもいいじゃないか?」

「でも、この宿だと他の宿泊客もいますよ?ご令嬢の護衛なら別の宿の方が……」

「「う~ん」」


 宿泊先で『白妙の光』が悩んでいるとペトラが提案する。


「のぅ。ワシが泊っている宿はどうじゃ?あそこはあまり人がいないと思うのじゃが……」

「なんて宿ですか?」

「さぁ?名前は知らんのじゃ」

「では、案内して頂いても?」

「わかったのじゃ!」


 行き先が決まりペトラと『白妙の光』が宿を出ると、冒険者たちとペルディアの町民たちがペトラたちを待っていた。


「「ペトラ様万歳ーー!!」」

「「公爵様万歳ーー!!」」

「「ペトラ様ーー!!」」

「「ドゥニージャ領に幸あれ!!」」

「「『白妙の光』もありがとう!!」」

「「せーのっ!アネルお姉さまーー!!」」

「「アルメールちゃーーん!!」」

「「エリメールちゃーーん!!」」


 皆が飲み物を掲げ賛辞と感謝を述べる。

 町民はもちろん冒険者たちも大きな不安感と緊張感を抱えていた。そんな中で激戦を勝利したことにより、ペルディア全体に一体感が生まれていた。

 その光景がペトラは全身が震えるほど嬉しかった。

 ペトラは歓声に応え、手を挙げる。


「今日の勝利は冒険者諸君の勇気とペルディアの住民並びに兵士たちの支えによるものじゃ!ドゥニージャ領領主ドゥニージャ・ギエールに代わって礼を言う。ありがとう!そして、これからもドゥニージャ領を他所にも誇れる良き場所にするため皆の力を貸してほしい!!よろしく頼むのじゃ!!」

「ペトラ様万歳ーー!!」

「「万歳ーー!!」」

「ほら、お前ら!戦いはまだ終わってねーぞ!明日もあるんだ!あまり羽目を外し過ぎるなよ!」

「「へーい。……もう一回乾杯だーー!!酒持ってこーい!!」」


 皆への挨拶を終えたペトラは『白妙の光』とともに人目を避けつつこっそりとペトラが泊っている宿へと向かう。


「ここじゃ」

「……ここって……」

「この町で一番高級な宿っすよ……」

「さすがご令嬢様ですね……」

「確かにここなら一番安全だな。ペトラ様、ペトラ様がここにお泊りになっていることを知っている者はどれくらいいます?」

「そうじゃの~。ルクスとドゥカスという者。後は宿の者くらいじゃと思うぞ。ルクスも人目を避けておったしの」


 ペトラの泊っている部屋に荷物を置いた『白妙の光』は早速、安全面が確保されているか宿全体のチェックを始める。


「あの~すみません。ルクスの部屋はどこですか?」

「ルクスの部屋?あ⁉え~っと……その~……」


 マーガス鉱山でのこともあり、特に気にしていなかった男女が同じ部屋で寝食を共にする行為。その行為の特殊性を思い出したペトラはアネルの質問に誤魔化し方が見つからず、口が詰まる。


「どうなさいました?」

「いや、あのルクスだぞ。わかるだろ」

「護衛としては効率いいっすからね」

「とすると部屋どうします?」


 焦るペトラとは対照的に『白妙の光』はケロッとしている。

 その様子に世間では男女同部屋は普通のことであり、変に思うことが恥ずかしいことなのではないかと思いペトラは確認する。


「の、のぅ。あまり外のことに詳しくないんじゃが、その~……男女が同じ部屋で寝泊まりするのは世間では普通のことなのじゃろうか?ルクスと出会うまでは、ワシはずっと一人部屋じゃったのじゃが……」

「いや、普通ではないと思いますよ」

「でも、おぬしらは当たり前といった感じじゃが……」

「冒険者ですからね、その辺気にしませんね。互いに背中合わせの仕事が多いですし、その辺は信頼関係がないと」

「それに節約できるっすしね」

「あと師匠もその辺は気にしなそう」

「な、なるほど……」


 ペトラが納得した所で話が部屋について戻る。


「部屋どうします?」

「トックだけ元の宿でいいんじゃないっすか?女性組がペトラ様の護衛に当たるわけですし」

「えっ⁉俺もこの宿泊まってみたいんだけど……」

「ならペトラ様と同じ部屋ってわけにいかないから、別の部屋とってね。自腹で」

「じばっ⁉値段わかってるよね⁉めちゃくちゃ高いんだよ⁉それにほら、オーガ相手に頑張ったリーダーにちょっとくらいご褒美があっても……」

「だから、今晩の護衛任務は担当しなくていいっすよ。明日に備えて元の宿でしっかり休んでくださいっす!」

「いや、そういうんじゃなくて!別にこの部屋でもよくない?」

「ダメに決まってるじゃない!ていうかさっき、活躍できなさそうだし~男だし~って言ってたじゃない」

「でも、ルクスは──」

「ルクスはいいの!」

「師匠はいいんです!」


 トックは一人寂しくトボトボと帰宅の途につく。

 外はいまだに宴が開かれ活気に溢れている。宴は夜遅くまで続き、冒険者と町民は歓喜と安堵を思う存分味わった。



 朝になってもルクスが戻ってくる気配がない。夜回りをしていた兵士からもルクスについての報告は上がってこなかった。

 ペトラの胸には不安と焦燥が募り始めていた。暗い表情で宿の窓から町の様子を眺める。

 冒険者たちはカロン村の奥への行進と待ち受けているであろう戦闘に向けてせわしなく動いている。


「師匠なら大丈夫です。絶対に」

「そうっすよ!簡単にやられるような人じゃないっす」

「エリ。アル。準備できた~?ペトラ様行きますよ」


 ペトラたちは出撃準備の出来た冒険者たちに合流する。

 武器を細かく確認する者、フィストバンプやチェストバンプをする者、神に祈りを捧げる者。

 冒険者たちは各々のやり方で気合いや集中力を高めている。

 冒険者たちの中にはトックの姿もある。

 トックはレギュラー級冒険者からビギナー級冒険者まで分け隔てなく会話をし、時には握手に応える。緊張している者や尻込みしている者には自ら笑顔で声をかけ背中を押しており、その姿はよき兄貴分といった様子である。


「トックー!」


 アネルがトックを呼ぶ。

 その声でペトラが来たことを察した冒険者たちは害意がないことを示すため、小さく頭を下げるとトックの側から離れる。


「もう平気なのか?」

「ええ。回復薬のおかげでこの通りです」


 トックの体は回復薬により一晩かけて治癒している。

 それを証明するようにトックは腕を回して見せる。

 そうこうしていると、ドゥカスから号令がかかる。


「出撃メンバーは揃ったな!たった今、先行していた偵察の冒険者チームが帰ってきた。報告ではカロン村まで魔物を視認できず、恐らく安全だろうとのことだ!というわけで、一先ずカロン村の奪還を目標に動く。だが、決して油断するな!いいな!では、行くぞー!」

「「おっしゃああああああああああああああああああああ!!」」


 冒険者たちはペルディアの北門から出撃する。

 カロン村までの道のりは順調に進んだ。

 一度通ったこともあり、ペトラも慣れたものである。

 昨日の今日もあり、冒険者たちは一様に再びのオーガの襲来に気を張っていたが杞憂に終わった。

 しかし、冒険者たち特にビギナー級冒険者たちにとってはカロン村こそが試練の場所であった。

 カロン村が見えてすぐ異変に気付く。

 辺りに漂う異臭と大量の獣。獣はその全てが肉食性。

 冒険者たちは警戒する。


「おら!あっち行け!」

「シッシッ」


 獣たちは冒険者たちが追い払うと微塵も抵抗する素振りを見せず林の中へと去ってゆく。

 あっさりと獣を追い払えた冒険者たちはカロン村を調査する。そして、ゴブリンたちの廃棄場所へと辿り着く。


「なっ、これ!?──うっ」

「うええ」

「おええええぇぇぇぇぇぇ」


 獣によって内臓を食い荒らされた苦悶の表情を浮かべる村民が排泄物に埋もれている。

 予想を超えたあまりに兇悪な光景に、ビギナー級冒険者たちは堪らず目を逸らし嘔吐する。

 レギュラー級冒険者たちも歯軋りが聞こえるほど奥歯を噛みしめ、顔を歪ませる。

 ゴブリンに蹂躙された村がどうなるかを知り、冒険者たちは完全に意気消沈状態であるが、そうも言ってられない。

 火をくべて死者を弔うと、奥の村も奪還するためにカロン村に防護柵などを築き、拠点とする。



 時を遡り、冒険者たちが起き始める少し前のまだ周囲が薄ぼんやりとした黎明れいめい時、地鳴りのような複数の咆哮によりルクスは目を覚ます。

 ルクスが大きな欠伸をしながら実験室から出ると、外では3体のオーガがゴブリンの死体を取り合い争っていた。


「オーガ?」

「「グゥヲアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」


 ルクスとオーガたちはほぼ同時にお互いを視認する。

 生きた新鮮な人間。オーガにとってはご馳走である。

 3体のオーガは我先にと競い合うようにルクスに襲い掛かる。

 戦闘意思のなかったルクスであったがオーガの様子を見てため息を吐くと戦闘態勢に入る。

 掴みかかってくる1体目の腕を潜り抜けると、拳を振り抜き胸部を吹き飛ばす。即座に振り下ろされる2体目の腕を踏み付けると、後ろ回し蹴りで顔面を消し飛ばした。

 2体が瞬殺されたことで残ったオーガは怯む。しかし、引く気はない。

 地面に転がるオーガの腕を引き千切ると握手するかのように握り込むと、ブンブンと振りかざして威嚇する。


「撤退のネジが外れてんのか?ゴブリン以下の知性だな……」


 振り下ろされる腕を空中へ躱すと、ルクスは巨大な棍棒を生成しオーガを文字通り叩き潰す。

 派手に体液を飛び散らせ、オーガは縦に押し潰されたプレスせんべいのようになっている。


「戻るか」


 オーガを倒したルクスはペルディアへ向けて走り出す。

 陽が高くなった頃、ルクスは林から立ち昇る煙を目印にカロン村に到着した。


「誰だお前!」

「バカ!ペトラ様のお付きの魔道士様だろうが!すぐドゥカスさんに報告だよ!」

「え?あっおう!」


 カロン村では冒険者たちが絶賛拠点作り中であった。

 ルクスは村の中央にある屋敷に案内される。

 そこにはペトラとドゥカス、そして『白妙の光』が待っていた。


「「ルクス!」」

「師匠!」

「おかえりなのじゃー!」

「おう!ただいま」


 ルクスを見て皆笑顔になる。

 飛びつきそうなアネルとアルメールはトックとエリメールにより襟元を押さえられている。


「心配ないと信じていたが、無事で何よりだ。それで、ゴブリンの巣は見つかったのか?」

「ああ。片付けてきたよ」

「そうか。なら、すぐにでも掃討に……片付けた?」

「ああ」


 ドゥカスは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。

 逆に『白妙の光』は笑い出す。


「あはははは!ルクスが巣を見つけたってんだからそりゃそうだよな!」

「さすが師匠です!」


 余裕そうな『白妙の光』を見てドゥカスは照れを隠すように咳払いをする。


「なら、残党狩りや報告などは問題なければこちらでやっておこう。助かった」

「ああ。頼む」

「それで、ペトラ様とルクスはこれからどうする?最後まで見届けるか?」

「いや、ウル・ドゥニージャに帰るよ。やることないしな。それでいいか?」


 ルクスはペトラに確認を取る。


「そうじゃの。後は冒険者に任せるとしよう」

「畏まりました。では、護衛の準備を──」

「必要ない。それよりもなるべく人数をかけて皆が無事に大切な人の下まで帰れるようにして欲しいのじゃ」

「お心遣い感謝いたします」


 カロン村で冒険者たちからの万来の謝辞に送られて、ルクスとペトラはペルディア近郊に大量発生したゴブリン掃討依頼を完遂し、ウル・ドゥニージャに帰る。

 空は澄み渡り、心地よい風が吹いている。


「のぉ、ルクス」

「どうした?」

「アルメールの言う師匠ってどういうことじゃ?」

「あっ」

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