23.初陣
部屋に入ったルクスとペトラは早速魔法の修行に入る。
「本当はもう少しのんびり教えていくつもりだったが、まぁ丁度いい機会だ。痛い思いをしないためにも今晩中に魔法を修得してもらう。いいな?」
「もう日が沈んどるが……部屋の中で修行するのか?怒られんじゃろうか?」
「命と明日がかかってんだし、少しくらい騒がしくても我慢してもらおう。それと修得できるまで、今夜は寝かさないからな」
「望むところじゃ!それでどうするんじゃ?」
「まずは魔法とはどういうモノかからだな」
ルクスはペトラの前へ手を広げる。
「なんじゃ?」
ペトラは首を傾げながらルクスの手を取る。
「違う違う。そうじゃない。魔力が見えるかってことを聞きたかったんだ」
「にゃ、なんじゃ、それなら最初にそう言ってほしいのじゃ!」
ペトラは慌てて手を離すと、ルクスの手を凝視する。
「どうだ?見えるか?」
「ダメじゃ、全く見えぬ」
「だろうな。まぁ、ウェーネとか見える奴もいるみたいなんだが、オレも見えない」
「そうなのか!?」
「ああ。じゃあこれならどうだ?」
ルクスの掌の上に赤黒い球が現れる。
「見えるぞ!」
「平たく言うと魔法ってのは魔力に効果を付与すること……だとオレは認識している」
「なんかフワッとした表現じゃの?」
「一応オレにも先生がいるんだが、教え方がだいぶ怪しいことが発覚して──」
「ルクスの先生!?どんな人じゃ!?」
「どんなって……だらしない人だぞ。服脱ぎ散らかす上に掃除はできねー。朝起きれねーのに昼寝が長い。ほっとくと食事も取らない。……ただ、オレが今まで出会った中ではぶっちぎりで強い」
「そういうことじゃなくて……その……魔法の先生と言うことは女の人じゃろうし……その……」
ペトラはごにょごにょと呟く。
「悪い。もう少しはっきりいいか?」
「なっ、なんでもないのじゃ……。それより、魔力に効果を付与するじゃったか!?どうすればいいんじゃ!?」
「そうな~……。ペトラは炎熱系の可能性があると言ってたし、魔力に火を付与してみろ。オレもやってみるから」
「火を付与って……」
ルクスの血結魔法はヴァコレラから与えられることで取得した。そのため、まっとうに魔法修得をしたことがない。自分が体験していないため、ペトラに上手いこと教えることもできなかった。
ペトラはルクスに応えようと手に魔力を集中させ、その魔力を火に変えようと力を入れる。
だが、一筋縄ではいかない。
ルクスもペトラも全く炎熱魔法修得の兆しが見えていなかった。
「ダメじゃ~。成功のイメージが全くできんぞ」
「……!?それだそれ!イメージだよ!ちょっと待ってろ」
そう言うとルクスは松明を取り出し、部屋の中で着火する。
「ちょ、ちょっとルクス!危ないのじゃ」
「大丈夫だって!それよりこれを左手に持て!それで右手で魔法を使え!これならさっきより具体的にイメージできるはずだ!」
「ま、まあそうじゃが……」
ルクスは血液が火の形を描くのみで本物の火にはならない。それでも修得のために呼吸を忘れるほどの集中力を発揮する。
そんなルクスの姿を見てペトラも気合いを入れる。
ルクスが集中力の限界を迎え大きく息を吸う。
同時にペトラも息を吸う。
「ダメじゃ……ワシには炎熱魔法の才能はないのじゃろうか……?」
「っ!?」
ペトラが弱音を吐いた時、ルクスが火の中に手を突っ込んだ。
「何しとるんじゃ!?」
「黙ってろ!オレの力ならこの程度何の問題にもならねぇ」
「……」
狂気ともいえるルクスの力への執着。
そんなルクスに感化され、ペトラも火へと小さくきれいな手を焚べる。
高温で手が焼かれ激痛が脳を支配しようとするが、その激痛を払い除け魔法の修得に全神経を注ぐ。
ペトラの手が赤から黒へと変わり始めたその時、ペトラの右手に炎が宿った。
「キャッ!?」
驚いたペトラは尻もちをつく。
ルクスは即座に松明の火を消すと、炭化しかかってるペトラの手をきれいに元に戻す。
「ふぇ?ルクス、この能力……!?」
「面倒事を避けたいから黙っていた。これがオレの本来の力だ。2人だけの内緒な?」
ペトラは驚きのあまり言葉を失い、コクコクと頷く。
「やっぱりペトラには才能があったな。オレにはやっぱ無理か~」
「ワシだってできたんじゃ、ルクスだってきっと──」
「実はな、色々と試した時期があったんだ。今ならイケるかと思ったんだけどな~、結果は見ての通りだ。それより、今の感覚を忘れないうちにもう一回やってみろ!」
「わかったのじゃ!」
ペトラの手には煌々と黄色い炎が揺らめいている。
「きれいじゃの~」
自らが生み出した炎に感動しながら、ペトラは左手にも同様に炎を灯す。
「これに移してみてくれ」
ルクスは松明を差し出す。
ペトラの炎が触れると松明は勢いよく燃え始める。
「ちゃんと火なんだな……。なぁ触れてみてもいいか?」
「危なくないのか?」
「オレの能力は説明したろ?問題ないって」
「それじゃあ……」
ペトラの炎へルクスが手を入れる。
「……?熱くない。どうなってんだ?」
新しい松明を手を同時にかざしても、今度は松明に炎が移らない。
「魔法ってのは凄いんだな……。燃やす対象を任意で選べるのか?」
「のぉルクス、ワシ魔法習得できたじゃろ……?……もう…眠い……」
「そうだな。これなら明日も大丈夫だろ」
魔力を習得できたペトラは安心したようにぐっすりと眠りについた。
翌日、ルクスとペトラはぺルディアの西門からプロウム平原へと出撃した。
目の前には百を越えるゴブリンの群れ。
「ギィイギィイギィイ!」
最初は慎重だったゴブリンたちも相手が2人のみだとわかるや否や、身を隠すこともやめて吠え始める。
「なんか気合い入っておるのじゃ」
「本気を出すなよ。相手がビビッて逃げたら面倒だ」
「そんなこと言われてもワシ、魔法を制御したことなんてないんじゃが」
「ほれ来たぞ」
ゴブリンたちは若く健康的な人間に、興奮した様子で襲い掛かってくる。
と次の瞬間、ルクスが後方へと下がる。
「ルクス!?」
「オレの後ろに隠れてても修行にならんからな。とりあえず1匹倒してみろ。一人前の魔道士なるんだろ?甘やかすつもりはないからな!」
「わ、わかっているのじゃ」
ペトラは不安そうに返事をする。
ゴブリンたちは女であるペトラ目掛け一直線に襲い掛かる。
対してペトラは手に炎を纏ったものの逃げてばかりである。
そんなペトラにため息をついながらルクスはアドバイスを送る。
「圧縮と放出!炎を相手に打ち出してみろ!そのままだと殺されちまうぞー!」
ペトラは炎を球体に圧縮すると、1体のゴブリンに照準を定める。
火球を打ち出そうとした瞬間、他のゴブリン腕を切り落とされその場で火球が爆発する。
ペトラは腕を堕とされた激痛から、腕を押さえてしゃがみ込む。
強烈な爆発に吹き飛ばされ萎縮していたゴブリンたちであるが、ペトラの様子にチャンスと見るや再び襲い掛かる。
ゴブリンたちの凶刃がペトラに突き刺さる直前、ルクスが魔法でペトラを引き寄せた。
「あーあ。ほら手出せ」
ルクスは味わったことのない痛みに大号泣するペトラの腕に触れる。
失われた腕が沸騰するようにボコボコと盛り上がると、煙を上げて何事もなかったかのように再生する。
ペトラをルクスに取られたゴブリンたちは怒りに任せてルクスに攻撃しようとする。
しかし、ルクスが生成した鞭によって軌道上のゴブリンたちは引き裂かれた。
「ギャアギャア!」
率先して襲い掛かった仲間が瞬殺されたことによって、ゴブリンたちは警戒して距離を取る。
ルクスの力は失われた腕を再生させることは可能であるが、破壊に伴う激痛がなかったことになる訳ではない。
いまだ治まることのない痛みにペトラの涙は止まらない。
「戦の最中に痛みで蹲ってる暇は普通ないんだけど……」
「うわあああああああああああああああああん!」
「敵に囲まてますよ~、ペトラさ~ん……。はぁ~、しょうがねーなぁ」
ルクスは頭を撫でながらペトラをあやす。
その間もゴブリンが慎重に距離を詰めようとするが、その度にルクスの鞭が撓り近づかせない。
思う存分泣き、顔がぐじゅぐじゅになったペトラが鼻をすする。
「もう大丈夫か?」
「……うん」
「いいか。やられたら痛いんだ。下手したら命を失うこともある。対策は痛みに慣れるか、攻撃を喰らわないかしかない。だから躊躇は捨てろ。ペトラが躊躇したことによって大切な人がその痛みを味わうことだってあるんだからな」
「うん……うむ!」
ペトラは力強く頷く。
「どうする?今回は見学しとくか?」
「やるのじゃ」
ペトラは首を振ると、激痛を噛み殺しながら火球を構える。
ゴブリンたちはルクスがペトラの側にいるせいで距離を取ったままである。
次の瞬間、ペトラの火球が一気に膨張する。
灼熱によりペトラを中心に上昇気流が発生し、突風が吹き荒れる。
「ペトラ!?」
極限まで集中したペトラにはルクスの声は届いていない。
「おいおいおいおい!!」
打ち出された火球は複数のゴブリンを呑み込む。着弾した途端、派手に爆発し周囲のゴブリンや草にも引火する。
爆発が強風を巻き起こし、炎は噴き出すように燃え上がる。
「手加減しろって言ったよな!?」
「しょうがないじゃろ!初めてなんじゃから!」
「草原を丸焼きにしましたなんてなったら大目玉だぞ」
「先生じゃろ!ルクスが何とかするのじゃ!」
「はあ!?」
ルクスとペトラが言い合いをしているうちに炎が沈下し始める。
「「あっ!」」
「ほら見い!収まったじゃろ!」
「知ってました感装うんじゃねぇ!にしてもどうなってんだ?魔法だと持続力がないのか?それとも普通にこうなるのか?」
「よくわからんが、これで1匹討伐に課題はクリアじゃな!」
ペトラは胸を張る。
しかし、小さく浅く呼吸しており、その声は固く乾いていた。
「問題ないか?」
「……何がじゃ?」
「……。よし!本格的に狩るぞ。オレを気にせずさっきの火球をぶっ放せ、あんくらいなら煤が付く程度だ。近接もちゃんと対処しろよ」
「どうすればいんじゃ?」
「反射的に炎を纏えるようにしろ。ペトラの火力なら触れただけで倒せるはずだ」
そこまで言うとルクスはゴブリンの群れに向かって走り出す。
ルクスが突っ込んだことにより、ペトラが思考する間もなく乱闘になった。
ペトラの起こした大爆発により思考停止状態になっていたゴブリンたちは、本能的に群れの中央に飛び込んで来たルクスを取り囲んで袋叩きにしようとする。だが、取り囲むために固まったことが仇になる。
ペトラの火球による絨毯爆撃を浴び大半が炭となり、なんとか生き残った者もルクスによって刈り取られる。
決着はあっという間についた。
「ルクス、怪我したりはしとらんか!?」
「ああ。体を魔法で守っていた上に直撃は避けたからな。それに思ったより加減できてたぞ」
「本当か!?」
「腕はどうだ?」
「痛いのじゃ……」
腕を押さえてべそをかくペトラの頭をルクスはくしゃくしゃと撫でる。
ペトラは照れくさそうにはにかむと草原の方を見る。
「……やりすぎたかの~」
「……」
青々と草木が生い茂っていたプロウム草原は火球により禿げ上がり、大量に転がるゴブリンの死体で赤黒く染まっている。
「帰るか」
早々に戦闘が終わったルクスたちは日が高いうちにぺルディアに戻る。
ルクスたちが早々に帰ってきたことに衛兵たちは困惑しながら開門する。
「あの~ゴブリンどもは?」
ペトラが黙ってしまっているためルクスが答える。
「片付けてきました」
「も…もうですか?」
「……現場を見てきていただいても問題ないですよ」
「い、いえ。決して疑っているとかではなく──」
「別に疑われていると思っていませんよ。むしろ確認してもらえるとこちらとしても助かります。取りこぼしがあれば警戒もできますし、冒険者たちへの説明も証人がいてくだされば楽ですから」
「そうですか」
衛兵はプロウム草原へ斥候を走らせる。
「では、我々はぺルディア内にいますから、なんかあったら教えてください」
「畏まりました!」
宿についてもペトラは沈み込んだままである。
「(あの時考える時間を与えなくて正解だったな)ペトラ~?ペトラさ~ん?」
「ワシ、命を奪ったんじゃな……」
時間が経ち冷静になってきたことで、ペトラは自分の手が赤く染まったことを実感した。
「魔道士やめとくか?別に魔道士としてじゃなくても生きる道はいくらでもあんだ」
「いや。父様の願いを叶えるためにもワシは魔道士になるんじゃ」
「そうは言ってもな~、ゴブリンで今の状況だとより人型の魔物だとかなりしんどいと思うぞ」
「痛みと一緒じゃ、そのうち慣れればいいんじゃろ?」
(慣れるか……。決意も固そうだししょうがないか)
ルクスはそれ以上確認することはなかった。
「初めての戦いだったんだし疲れたろ?少し休め」
「平気じゃ!それより近接を教えて欲しいのじゃ!さっきは結局できなかったのじゃ」
「休憩してからな」
「だからいらんのじゃ!」
「ダメだ。体は疲れていなくても精神は疲弊する。それに今の精神状態を身体的疲労で誤魔化そうとするのはやめろ。いずれ限界がくる」
「……」
ルクスに説得され、ペトラはベットの中に潜る。
ペトラが目を覚ましたのは、空が茜色に染まった頃であった。
北門と東門の方角からドラの音がぺルディア中に響き渡る。
「なんじゃ!?」
「おはよう。どうやら冒険者たちに撤退の合図を送ったみたいだな」
「じゃあ、ワシらは出迎えた方がいいのじゃろうか?」
「(公爵令嬢なら士気を挙げるためにも出迎えた方がいいんだろうけど)別にいいだろ。待っとこうぜ」
「じゃあ、少しだけ近接の練習をしたいのじゃ!」
ペトラにはいつもの無邪気でハツラツとした表情が戻っている。
そんなペトラの様子にルクスも自然と笑みがこぼれる。
「大丈夫そうだな」
「うむ。ちゃんと消化して覚悟を決めたのじゃ!」
ルクスとペトラは宿屋の主人に修行に適した場所がないか聞く。
「あまり人目に付きたくないので、広めの屋内がいいのだが」
「そうだね~。兵士さんたちが使ってる訓練場が一番と思うけど……」
「なるほど!助かりました。それと、冒険者が来たら訓練場にいると伝言をお願いします」
「いやちょっと君たち、兵士の訓練場なんて──」
宿屋の主人が言い終わる前に、ルクスとペトラは宿を出てしまう。
そして、訓練場を使わせてもらうために巡回中の衛兵を捕まえる。
「訓練場を使用させていただきたいのじゃが?」
「見ない顔だね~、君たち何者だ?おじさん今仕事中なんだけど」
「ワシらはゴブリン掃討のためウル・ドゥニージャから来たのじゃ。おぬしがダメなら兵士長の下に案内してもらえると助かるのじゃが」
ペトラと衛兵のおじさんが話していると西門を担当していた衛兵が大急ぎで走ってくる。
「どどど、どういたしました!?」
「ん?訓練場を使わせていただきたいのじゃが……」
「訓練場ですね!畏まりました!私が案内いたします」
走って来た衛兵に連れられてルクスたちは兵士の基地に案内される。
兵士の基地はぺルディアの中央付近にあり、宿舎や食堂、訓練場などが併設されている。
兵士とは国に雇われている国を守護する者たちである。
主な仕事は国から要請された町や貴族の守護であり、冒険者のように魔物を狩ったり行商人を護衛したりといった依頼は受けることはない。
また、兵士となるためには国を裏切らないことを証明するためにも、名前や出身地など身分を提示しなくてはならない。そのため身分の証明できない者は兵士になることができない。
ぺルディアには孤児が少なく、冒険者になる者より兵士になる者が多い。また、古くから兵士は冒険者のことを下賤な職業、冒険者は兵士のことを税金を食うヘタレといがみ合う犬猿の仲でもある。そのため、ペルディアには冒険者ギルドはなく、その分兵士のための基地が充実している。環境が整っていることもあり、他の土地から兵士になるためにこの町に訓練を受けに来る者も少なくはない。
「凄いとは聞いておったのじゃが、想像以上じゃの~」
「申し訳ございませんが少々お待ちください」
ルクスたちは基地内の貴賓室に通された。
暫くすると数名の完全武装の兵士を連れて、サイドが白髪のダンディーな男性が入って来た。
「大変お待たせいたしました、魔道士様。私、ドゥニージャ兵士統括司令官、ナーワー・ラートルと申します。以後お見知りおきくださいませ。魔道士様には此度のゴブリン掃討戦にご助力いただけましたこと感謝申し上げますとともに、我々兵士が打って出るわけに行かぬこと深く謝罪申し上げます」
「兵士の仕事は町を守ること。重々承知してる故、頭を上げて欲しいのじゃ、ナーワー殿。ワシの名は……」
ペトラの発言が止まる。
貴賓室いた全員の視線がペトラに注がれる。
「ワシはミラリアム王国ドゥニージャ公爵領領主、ドゥニージャ・ギエールの娘、ドゥニージャ・ペトラじゃ」
ペトラの自己紹介にラートルは飛び退くように立ち上がると、落下するかの勢いで跪く。
司令官の動きを見て、少し遅れて兵士全員がその場で跪く。
「公爵令嬢様であらせられましたとは、知らぬこととは大変申し訳ございませんでした!」
「「申し訳ございませんでした!」」
「ワシが報告しておらんかったのじゃ、気にしておらん。顔を上げて楽にはしてくれぬか?」
「なんとお優しい!公爵様には冒険者と諍いが起きないようウル・ドゥニージャでなく、この地に兵士の本拠点を置かせていただいたり、兵士強化のために支援金や支援物資を賜るなど深いご配慮を頂戴しております。そんな公爵様のご令嬢様の前で姿勢を崩すなど……」
兵士たちは平伏したまま一向に姿勢を崩そうとしない。
兵士の様子にタジタジとなっているペトラにルクスが耳打ちする。
「なぁ、面倒くさいし要件伝えて解放しようぜ」
そのルクスの耳打ちを聞き取ったラートルが顔を上げる。
「申し訳ございません。訓練場をご使用になりたいとのことでしたね。私が案内いたします」
(地獄耳かよ)
ルクスとペトラはラートルに案内されて訓練場へと向かう。
その間もラートルのギエール公に対する感謝の言葉とペトラへの謙りが止まらなかった。
ルクスも一応ペトラの従者ということにして自己紹介したのだが、従者には興味がないといった態度を隠す気もない様子であった。
訓練場は広いだけで何もない。屋内に広大な砂場が広がっているといった感じである。
「何もございませんが大丈夫でしょうか?よろしければ兵士がお相手いたしますが……」
「だ、大丈夫じゃ。それじゃ暫く使わせてもらうのじゃ。終わったらどうすればよいかのぉ?」
「外に誰か立たせておきますので、その者にお声掛けください」
「わかったのじゃ」
ラートルが訓練場から退出し場が落ち着く。
「身分は明かさないのかと思ってたぞ」
「たぶん明日は皆と一緒に戦うのじゃろ?じゃったら名を明かした状態でワシが活躍すれば父様の株も上がるのじゃ」
「色々考えてるんだな」
「タイミングが来ただけじゃ。それに伝令の人が到着できていれば最初から知られていたのじゃしな」
「それにしても、ギエール公って凄いんだな。どこでも慕われてるぞ」
「父様が領民からこんなに慕われているなんて知らなかったのじゃ。ワシも父様の顔に泥を塗らぬよう努力せねば」
ペトラは両手をギュッと握り気合いを入れる。
「じゃあやるか!近接戦闘においても魔力操作が重要だ。魔力をスムーズに循環させることによって大幅な身体強化がされる。さらに、圧縮や放出によって瞬間的な威力や速度の上昇に繋がる」
「何事も基礎は大事ってことじゃな」
「それと今まで教えてこなかったが、戦闘するなら帯纏も習得する必要がる」
「4つ目じゃな!確か魔力を纏って留めるんじゃったけ?」
「ああ。とりあえず帯纏をマスターするか」
「了解なのじゃ!」
ペトラの目はキラキラとやる気に満ちている。
ルクスは右手を出すと血結魔法でガントレットを生成する。
「おお~!かっこいいのぉ!」
「こんな感じで魔法を纏った状態でキープするんだ」
「やってみるのじゃ」
ペトラは派手に炎を放出する。その高さは数メートルにも及ぶ。
「ぬううううううううううううううううううううううううううう」
ペトラは何とか炎を抑えようと踏ん張る。
なんとか炎を抑えたペトラであったが、抑え込んだ分魔法が圧縮されボンッと激しい音を立てて炎が爆発した。
危険と判断したルクスが一度止める。
「待て待て!炎は出さずに魔力を帯纏させるところから始めよう。危なっかしくてかなわん」
「……頑張るのじゃ」
(こりゃ結構かかりそうだな)
ルクスの予想通り、ペトラは魔力を纏わせることにすら苦戦した。
魔力総量の高いペトラは帯纏でも人並みのようにはいかない。
魔力に腕が振り回され、その度に帯纏が切れてしまう。それでも一度も折れることなく、何度も何度も挑戦してようやく魔力を纏わせるに至った。
「はあ、はあ……どうじゃ……やったぞ……」
「じゃあその状態を維持してみろ。そうだな~、ひとまず一時間くらいかな」
「1っ、1時間……やってみせるのじゃ」
その後もペトラは帯纏を修得しようと顔を赤くしながら努力する。
しかし、完璧に修得する前にタイムリミットが来てしまう。
訓練場の扉がノックされ訓練場まで案内してくれた衛兵が顔を腫らして入ってくる。
「失礼いたします!冒険者の者が来ておりますが……」
「その顔何があった?」
「転んだだけです!お気になさらず。それで……」
「案内して欲しいのじゃ」
返事をしながらもペトラは魔力の帯纏を解いてない。
「解いてもいいぞ」
「これくらい無意識レベルでできるようにならんといけないんじゃろ?時間もないし頑張るのじゃ!それに、魔力は普通見えないんじゃろ?」
「まぁそうだけど……」
「ルクスの反応を見ればわかる、ワシは人より覚えが悪い。じゃったら人一倍努力しないといけんのじゃ」
「そうか……。ただ、魔力の放出には気を付けろよ。どうなるかは……言わなくてもわかるな?」
「気を付けるのじゃ」




