22.掃討戦会議
ルクスとアーギンはギルド長室で向かい合って座る。
その空気は非常に重い。
こういった交渉の場に慣れている受付嬢の飲み物を差し出す手がカタカタと震えるほどに、ルクスから威圧感が漂っている。
話の取っ掛かりを探るように、アーギンはルクスの横にちょこんと座っているペトラについて質問する。
「そちらのお嬢さんはどちら様かな?」
「ワシはミラリアム王国ドゥニージャ公爵領領主ドゥニージャ・ギエールの娘、ドゥニージャ・ペトラと申します。どうぞお見知りおきください」
ペトラの自己紹介に受付嬢は驚いた様子で、即座にその場に跪く。
「ペトラ嬢!?これはこれはご丁寧に……あっしはここの冒険者ギルドのマスターをしております、アーギンと申します。公爵令嬢様はご病気を抱えていると伺っておりました故…息災のご様子拝見でき光栄にございます。公爵様には日頃より大変目をかけていただいておりまして──」
「そんな挨拶はいい。本題に入ろうぜ」
「そ、そうか……」
ペトラに対し朗らかな表情を見せていたアーギンであったが、ルクスの発言に背筋を正す。
「相手はゴブリンでいいんだな?」
「恐らく……」
「はっきりしないな。ゴブリン以外もいるのか?」
「今回の戦いはかなり長引いてる。ゴブリン以外の魔物がいる可能性も否定できない」
「規模は?」
「こちらの戦力は大方派遣してしまっていて、このままだとじり貧だ。街にはギルド長であるあっしと最低限のレギュラー級冒険者、後は街を守る衛兵たちだ。実は…戦場では戦力になれないであろうビギナー級冒険者も借り出しているという状況だ。敵の数は……不明だ。すまん……」
「場所は?」
ルクスの質問に受付嬢は慌てて机の上にドゥニージャ領の周辺地図を広げる。
その地図を指差しながらアーギンが説明する。
「ここから馬で一日ほど行ったところにペルディアという町がある。こことペルディアの間に位置するプロウム草原とペルディアの奥にあるクオダム高原の2ヶ所で接敵したとの報告を受けている。報告に間違いがなければ今もこのペルディアが我々の拠点のはずだ」
「プロウム草原もクオダム高原もどちらも後ろは山か……向こうさんは撤退しやすい位置を取りながら攻略しやすそうなペルディアを挟み撃ちにしようとしたのか。よくこの町堕ちなかったな」
「君のおかげだルクス。恐らく君が遭遇したゴブリンたちは斥候だったのだろう。それが急に崩壊したもんだから奴らは侵攻に二の足を踏んだのだろう。結果、こちらも早急にチームを組むことができ、まさに町が襲われているところにギリギリで間に合った」
「なるほど。そのまま雪崩れ込むようにペルディアが拠点になったわけか……。指揮は誰が取ってるんだ?」
「陣頭指揮はドゥカスが取っているはずだ。この街で最も経験豊富で実力も申し分ないのでな」
ルクスのアーギンが話しているとペトラが不安そうに質問する。
「のぉ、ルクス。敵の数も不明で、今も劣勢の可能性があるんじゃろ?ルクスだけでそんなに変わるのか?」
「ペトラ、オレ結構強いからね?ゴブリンじゃ何万匹かかってきてもオレには勝てないと思うよ」
「そうなのか!?」
「相性的にもゴブリンがオレに勝つ術はないだろうからね(オレもオレで人前で魔法を制限されるんだけどな)」
「じゃ、じゃあワシからもゴブリン退治お願いしたいのじゃ。苦しんでるのはウル・ドゥニージャ公爵領の領民たちじゃ。公爵領の娘として何とかしてやりたい。ワシはみんなに安心して笑って暮らしてほしいのじゃ」
「……ペトラ様」
アーギンと受付嬢は感慨に浸る。
ルクスは大きくため息を吐く。
「まぁ、どうせ受けることになっただろうしいいけどな」
「え?」
「ギエール公にも話は通ってるんだろ?」
ルクスはアーギンを睨む。
「う、うぬ。……相談させて頂いてはいた…」
「だろうな。依頼を受けよう。ただ、条件がある」
「聞こう」
「さっきゴブリンであれば何万匹いようが問題ないと言ったが、オレ対ゴブリンでゴブリンの殲滅が条件の場合だ。オレの力は残念ながら広範囲を守れるものではないのでな、足手纏いや人質を救ってやれる可能性は低いし、そんなものに意識を割く余裕もあるかわからん。だから向こうでは、自由にやらせてもらう。いいな?」
「うむ」
「なら前線にもそう伝えといてくれ。面倒ごとは御免被りたい」
ルクスが椅子から立つと釣られるように全員が立つ。
「ペトラ。受付で待っててくれ。アーギンに少し用がある」
「わかったのじゃ!」
ペトラは素直に部屋から出る。
どうすべきか迷っていた受付嬢であったが、アーギンから出るように指示されそっと退出する。
「切羽詰まった状況で形振り構ってられないといった感じか?」
「……」
「ペトラを利用した交渉、今回は一度目ということで目を瞑ってやる。次はない」
「肝に銘じておく」
張り詰めた空気の中、アーギンは退出するルクスを黙って見送ることしかできなかった。
冒険者ギルドから戻ったルクスとペトラをギエールとアンキーナが豪勢な料理とともに出迎える。
「おかえり2人とも」
「お帰りなさいませ」
「ただいまなのじゃ!」
大勢での食事にはしゃぐペトラに手を引かれ、ルクスは席へと着く。
「アンキーナも立ってないで一緒に食べるのじゃ!」
「ありがとうございます。ですが、私は使用人の身、ご一緒するわけには──」
「ワシは気にしないのじゃ!」
アンキーナとしてはペトラの誘いは小躍りしたいほど嬉しいものである。だが、立場上受ける訳にはいかない。
ペトラとしては一緒に食卓を囲みたい。ペトラにとってアンキーナは最後まで親身にお世話をしてくれた家族のような存在である。
困ったように2人はギエールを見る。
「ペトラもこう言っているんだ、アンキーナ席に着きなさい」
「畏まりました。失礼いたします」
「ケッラーはどこに行ったのじゃ?」
ペトラは辺りを見回す。
すると、アンキーナが報告する。
「実はウェーネ様を追いかけて行ったきり姿が見えず…どうやらお屋敷にはウェーネ様共々いらしゃらないようなんです」
「事件に巻き込まれておるんじゃ!?探しに行った方が──!?」
「落ち着きなさい、ペトラ。街は衛兵が巡回している、何かあったら父さんにも報告が入る。それにウェーネ殿は魔力保有者だ、ケッラーも一緒にいれば心配ないだろう」
ギエールはペトラを優しく落ち着かせる。
「う、うむ。悪い方向に考えるのはよくなかったの。信じて持つのじゃ」
その後は和やかな雰囲気で食事が進む。
食後のデザートを食べ終わり、全員が一息ついたところでルクスが話を振る。
「ギエール公、ゴブリン掃討戦の話どこまで聞いてる?」
「そうであった、そうであった。ルクスに折り入って頼みがあるのだが──」
「その話はアーギンから聞いて受けることになった」
「そうか。冒険者ギルドに行ったのだものな。協力非常に感謝する」
ギエールは頭を下げる。
「頭を上げてくれ。それで提案があるんだが」
「提案?何かね?」
「拠点になっているペルディアに行くことになると思うんだが、全員ついて来ないか?」
「よいのか!?」
ペトラは目を輝かせて食いつく。
ギエールは一瞬眉を顰めた後、疑問をぶつける。
「君の提案は戦地に行くというものだが。意図を聞いても?」
「ああ。この街の現状の戦力は街を守る衛兵と冒険者が少々だそうだ。そして、相手方の数も配置もわかってない風だった。つまり、確実に後手を踏むことになる。戦力の追加も見込めなさそうな以上、敗北は濃厚だろうな。だったら例え最前線であろうとオレの側にいる方が安全だ」
「なるほど。君がゴブリンの大群をも問題ないにならないというのであれば君の意見はもっともだな」
「ルクスはゴブリンなら何万匹いても勝てるらしいんじゃ!」
「そうか。君がいてくれて本当によかったよ。提案には感謝する。ペトラを頼めないだろうか?」
「父様は!?」
猛反発する勢いのペトラをギエールは静かに、強く諭す。
「ペトラ、私はウル・ドゥニージャの長であり、領民の手本となるべき存在だ。その私が自身の身のみ案じ、領民を捨ててこの街を逃げるわけにはいかないんだよ。それに王都から何かあった際に対応できなくては、ドゥニージャの名に泥を塗ることになってしまうだろう」
「じゃったらワシも──」
「ペトラはまだ重責を背負う必要はない。それに魔法を覚えるのだろう?ルクスの側で学んできなさい。それにここが危険になるとは限らないよ。案外一番安全かもしれないんだから。心配しなくていい。わかったかい?」
「うん」
ギエールの言葉にペトラは小さく頷く。
「アンキーナ、君もルクスに守ってもらうといい」
「ご冗談を。私は旦那様のメイドですよ?主人を置いて自分だけ逃げるなどあり得ません。どうぞ一緒にいさせてください」
「そ、そうか……」
アンキーナの即答にギエールは照れながら頭を掻く。
ゴブリン掃討戦に赴くためにペトラはアンキーナに手伝ってもらいながら準備を進める。
ルクスはギエールの部屋をノックする。
「どうぞ。──ルクス!?どうかしたかね?」
「ギエール公、本当について来なくていいんだな?大量のゴブリンはペトラの修行にうってつけだ。他の奴らには悪いが修行の場として利用させてもらう。その分、当然この街の危険度も上がることになるが?」
「二言はない。それと可能な限りペトラを優先して欲しい。ペトラには間違いなく魔法の才能がある。その才は何千何万人の魔法を使えない者よりも優先されるものだ」
「わかった」
翌日、ギエールとアンキーナに見送られてルクスとペトラはペルディアへ出発した。
ペルディアまでの道は不気味なほど静かであった。魔物どころか人の気配すらない。
「あそこじゃ」
「思ってたよりずっと大きいな。これなら拠点としても最適だな」
ペルディアに着いたのは出発翌日の夜であった。
ペルディアは町というよりも要塞のようであった。町をぐるりと囲む深い堀。見上げるほど高い防壁に等間隔で配置された篝火が煌々と夜闇を照らしている。
防壁の上を衛兵と冒険者が巡回し、山から頻繁に現れる魔物の対策は万全である。
入り口は4ヶ所の頑強な門で閉じられている。その1ヶ所に向かってくる2人の人影を巡回している冒険者たちが発見した。
冒険者たちは武器を構えて門の前と頭上の防壁に集まってくる。気を抜けない日を長く送っている冒険者たちの目は血走り、ピリピリとした緊張感を放っている。
衛兵の一人がルクスたちに指示を飛ばす。
「止まれー!」
「おいおい。夜の戦場で大声出すなよな」
ルクスは呆れながら、守るようにペトラを半身隠して止まる。
「指示通り止まったけどよ、これ開ける気あんのか?こんな場所で大声出すわけにもいかねーだろ」
「ワシに任せるのじゃ!」
ペトラは自慢げにルクスの前に出ると灯りを掲げ、つけたり消したりする。
「何やってんだ?」
「むっふっふ。町の中の者に開けるように合図を出したのじゃ」
「へー。そういうのがあるんだな」
「ワシもルクスの先生じゃからな!まだまだ世の中のことはワシの方が詳しいのじゃ」
「あいあい」
ペトラの合図を受け、跳ね橋が降りペルディアの門がゆっくりと開く。
「で?これって動いていいのか?」
「どうなんじゃろ?」
「まぁ、行くか。変な疑いをかけられたり、なめられたりしないように堂々としてろよ」
「わかったのじゃ!」
門には大勢の衛兵と冒険者が緊張した面持ちでルクスたちを迎える。
「2人だけ?お前たち何者だ?」
「その前に武器を下ろすのじゃ!援軍に来てやったのに失礼じゃろ!」
大勢の人間に武器を構えられながら取り囲まれたペトラは、内心ビビりながらも精一杯の虚勢を張る。
「はぁ~(噛みつけとは言ってないんだがな……)、陣頭指揮を任されてるドゥカスはまだ生きてるかな?ドゥカスに聞けばわかると思うんだが」
「ドゥカス?」
衛兵たちはルクスたちを観察する。
ルクスとペトラの格好はピックニックに来ているかのような軽装である。防具はしておらず、武器の類いを持っているようには見えない。
そんな格好で戦場に現れた2人に対し、衛兵たちは確証はなくとも魔道士ではないかという可能性にいきつく。衛兵たちはお互いに顔を見合わせると、大急ぎで走り出す。
「少々お待ちを!!」
暫くするとドゥカスが大急ぎで走ってくる。
「おお!ルクス!来てくれたのか!」
「ああ。ドゥカスも生きてたんだな」
ドゥカスは嬉しそうにルクスの手を握ると周りに持ち場に戻るよう指示を出す。
「疲れてるだろ?すぐ宿を用意するから休んでくれ!明日は頼らせてもらうだろうしな!」
「その前に今の状況と今後の動きを確かめたい。構わないか?」
「もちろんだ!だったら俺の宿に来てくれ!部隊長たちもすぐに集合させる」
ルクスの提案によりゴブリン掃討戦に参加している部隊長たちがドゥカスが泊っている宿に緊急招集された。
「遅い時間に急に招集をかけてすまない。全員揃っているかな?」
「『白妙の光』は呼ばなくていいの?あいつらの活躍には目を見張るものがあるでしょ。トック君くらいは呼んだ方が……」
「夜も遅いのですし、休ませてあげましょ。常に前線で体を張ってるあの子たちが潰れたら崩壊しかねませんよ」
「それで、何かあったのかドゥカス?随分と急だが」
部隊長たちは挨拶も兼ねた軽い雑談を交えた後、本題に入るためドゥカスに質問する。
「今しがた公爵様からの援軍が到着した。非常に大きな戦力だ。ということで皆に紹介しておきたい」
そう言うとドゥカスが部屋の陰に立っているルクスとペトラに注目を集める。
ルクスは小声でペトラに自己紹介するように促す。
「ほれ、挨拶したれ。堂々とな」
ペトラはコクリと小さく頷く。
「ワシはペトラ。こっちはルクスじゃ。今回のゴブリン掃討戦に急遽ではあるが参加させてもらうことになった。よろしく頼むのじゃ」
「子ども?」
「ペトラって、公爵様のご令嬢がペトラってお名前じゃなかったっけ?」
「そうだったかしら?だとしても公爵令嬢様がこんな危険なところに来ないでしょ」
「それより、我々は昼のゴブリンどもと戦闘し、その上こんな夜分遅くに呼び出されたのだぞ。にもかかわらず、援軍だか何だか知らんがこんな子どもを使いに寄越してリーダーが来ないとはどういう了見だ?」
「確かに!」
「そうよ!公爵様の命だか知らないけど戦場では平等でしょ!?」
「皆落ち着け!」
戦場でピリピリとしている部隊長たちをドゥカスは一喝する。
一瞬の沈黙が流れる。
ペトラが口を開かないためルクスも何も発言しない。
ルクスとペトラはここに来るまでにある決め事をしていた。それは、ルクスがペトラの従者として動くということである。
ペトラは公爵の娘であり、ルクスは現在その公爵に世話になっている立場である。また、ウル・ドゥニージャに限らずルクスとペトラの2人で動くときにはギエールの顔を立てるためにも、面倒事を避けるためにも周囲に主従関係であると思うようにすると決めていた。
「そうだな。少し冷静になろう。そちらの隊長はどこにいるのかな?この会議に出席できない理由があるのだろ?」
「勘違いしているようなので先に訂正しておくが、援軍はこの2人だ」
「「2人!?」」
ドゥカスの返答に一同訝しげな顔をする。
「ドゥカス、貴様は大きな戦力と言ったはずだが?冗談なら笑えんぞ」
「そうよ!たった2人、しかも年端もいかない子どもよ」
「決して冗談などではない。こちらの2人は魔道士だ」
「「魔道士!?」」
部隊長たちは一斉にルクスたちを見る。
その目には畏怖と少しばかりの嫌悪が浮かんでいる。
そんな部隊長たちにドゥカスは忠告する。
「わかっていると思うが、無暗に反発したりしてくれるなよ。たった1人にさえ我々全員で挑んでも手も足も出んからな」
「まるで見知ってるような発言ね」
「ペトラ様は初対面だが、ルクスとは知り合いだ。ルクスの強さは一部ではあるが目にしている」
「はっ!魔道士って言ってもガキじゃねーか!本当に戦力になんのかよ」
「ファトゥス、子どもであろうとも魔力を保有しているだけで大人よりはるかに強い。それが魔法ともなれば言うまでもない。常識のはずだが?」
「チッ。そーかよ」
部隊長一同は作戦を話し合うため周辺地図を取り囲む。
「で、魔道士様2人はどこで戦っていただけるのだ?」
「ルクス」
ペトラの指示を受け、ルクスが前に出る。
「今の戦況を教えてもらっても」
「正直言って良くないわ。敵はゴブリン、それと亜小鬼を複数確認している。奴らは西のプロウム草原、北のトラン道、東のクオダム高原とぺルディアを取り囲むように展開しているわ。数は数千、もしくは万を越えてるかも。トラン道の先の村は多分全滅、その村の人たちを使って大量繁殖したんでしょうね。そのせいで狩っても狩ってもキリがなくて徐々にじり貧になってきてるわ」
率直な戦況報告に重たい空気が室内に充満し、歯軋りの音が響く。
「こちらの戦力は?」
「我々冒険者が遊撃で、衛兵たちはぺルディアの守護よ。裏をかかれてここを襲われでもしたら私たちの負けが確定してしまうから、衛兵を戦場に出すわけにはいかないのだけれど……ぶっちゃけそのせいでじり貧になっているのよね」
「今更言ってもしょうがないだろ!」
「わかってるわよ!ただこの状況だと愚痴りたくもなるでしょ!」
「大体わかった」
話が逸れそうなところをルクスの一言で引き戻す。
「冒険者は3ヶ所に分かれて戦闘。いずれも耐えることはできているが劣勢であり、このままではじり貧。この解釈でいいですね?」
「まぁ、平たく言えばな」
「敵の拠点は割り出せてます?」
「ハッ、割り出せてたら攻め入ってるぜ」
ルクスへの態度の悪さにペトラが睨む。
それに気づいたドゥカスがげんこつで対立を避ける。
「目星も付いてないと?」
「残念ながらな。恐らく村の奥の山だと思うが、流石にこの状況下で捜索する余裕はなくてな」
状況整理が終わったところでルクスは考え込む。
考えているルクスにドゥカスが提案する。
「なぁルクス、オレとしてはどちらかがプロウム草原、どちらかがクオダム高原と言った感じで挟むような形でゴブリンども制圧できればと考えているんだが……」
「待てよドゥカス!魔道士様2人を一か所に固めて短期決戦の方がよくないか?」
「なら、どこから先に殲滅するの?中央のトラン道が一番激戦区だと思うんだけど!?」
「中央で割ったらゴブリンどもが四方八方に散って殲滅しずらいでしょ!戦力を寄せるならプロウム草原かクオダム高原のどちらかよ!」
「俺の所には別に必要ねーよ!」
ルクスたちを巡って部隊長たちが言い争いを始める。
纏まりのなさにドゥカスは頭を抱える。
「ルクスの意見はどうだ?」
ルクスの返答に皆が耳を傾ける。
「そうだな。オレたち2人でプロウム草原の敵を相手にしよう。代わりにプロウム草原を担当していた冒険者を他の2ヶ所に割り振ってくれ。それなら2ヶ所とも押し込めるんだろ?」
「な!?2人でプロウム草原を担当するだと!?どんだけの数のゴブリンがいるのかわかってんのか!?」
「ゴブリンならいくらかかってこようと問題ない。それだけの力の差があるのでな」
「吹くのもいい加減にしろよ!この戦いはなドゥニージャ領全体の命運がかかってるんだぞ!」
「いい加減にしろ!ファトゥス!さっきから何なんだその態度は、失礼だぞ!!」
「何魔道士に尻尾振ってんだよ、ドゥカス!あいつらに見下されたこと歳喰って忘れたか!?魔道士は俺たちを馬鹿にしたんだぞ!!」
「お前が今やってること、あの時の魔道士と何が違うんだ!?ルクスがお前に何かしたか!?私情で一方的に突っかかるのはやめろ!!」
ドゥカスとファトゥスが激しい言い合いになる。
今にも殴り合いになりそうな2人を止める者、それぞれの言い分に納得し頷く者、我関せずといった様子で静観する者と各々の態度がバラバラであり、場が騒然となる。
「こんなんで大丈夫なんじゃろうか?」
「さぁな?」
ペトラはルクスに耳打ちする。
「とにかく、ルクスに謝罪しろ!」
「落ち着けよドゥカス。別に気にしてない」
「……そうか。すまんなルクス」
「ちょっといいかしら?」
「どうぞ」
「ファトゥスじゃないけど、私も2人でプロウム草原を担当するのは疑問だわ。魔道士が圧倒的に強いのは理解してるけど、だからって魔道士というだけで信用もできない。じり貧になってでもぺルディアを守ると決めたのよ?相手を甘くて見てぺルディアを堕とされました、それどころか私たちまで挟み撃ちですなんて絶対にご免被りたいのだけど?」
部隊長たちはルクスの返答を待つ。
「……力の証明としてここでいくら捻じ伏せたところで、敵を1匹も通さない証明にはならないだろ?だったら衛兵をプロウム草原側の門へ固めるといい。他は戦力が増えるんだ抜かれる心配はないだろ?」
「いや、あなたたちが負けたらぺルディアが危険に曝されるじゃない!絶対負けない証明が──」
「その必要はないはずだが?そもそも冒険者が負けてもぺルディアが堕とされないために衛兵をこの町の篭らせているんだろ?万が一オレたちが負けても被害は2名で特に大きな損失にはならないだろ?」
「横撃の心配が──」
「それも関係ないな。戦場を見る限り、相手は常にこちらを取り囲もうと動いている。だったら、そもそも横撃もくそもないだろ」
「……」
「ああ、それと魔法で味方を巻き込まなくて済むというメリットがあるな」
「よいのではないか?こちらの戦力も上がるのだし」
「そうね。自身もありそうだし好きにやらせてあげましょ!」
最後の発言がダメ押しとなり部隊長たちはルクスの案を了承した。
「では、プロウム草原はルクスたちに任せることにする。俺は今からルクスたちを宿に案内してくる。悪いがプロウム草原を担当していた者はどちらの戦場に加わるか決めといてくれ。解散!」
ルクスたちを宿に案内するドゥカスは謝罪する。
「すまんな。普段はもうちっとまともなんだが、冒険者の中には魔道士をよく思わない奴もいてな……」
「ドゥカスもそうだっただろ」
「こいつは耳がいてぇ」
「そう言えば、ウル・ドゥニージャからの伝令は来とらんのか?」
「伝令?来てませんね」
「てことはほとんどの人がワシもルクスのことも知らぬということじゃな」
「面倒なんだか、都合がいいんだか……」
ドゥカスが紹介してくれた宿はペルディアで最も高級な宿である。
機嫌を取っておくようにと、なるべく人に会わないようにとの配慮であった。
「それじゃあ明日は頼む」
「ああ」
ルクスたちを宿へ送り届けると、ドゥカスは自身の宿へと戻っていった。




