21.不穏な足音
ペトラがマーガス鉱山に入ってから50日以上が経った。
「どうじゃ!完璧じゃろ!?」
ペトラはルクスの手を支えにしながら、グラグラと水面でバランスをとりながら立っている。
膨大な魔力に振り回されていたペトラであったが、ようやく睡眠を取りながらでも魔力をコントロールできるようになっていた。
「まぁ及第点だな。これで問題なく生活できるはずだ」
「そうか……これで……」
ペトラは喜びを嚙みしめると、にこりと笑う。
「じゃあ帰るか!」
ルクスとペトラは坑道内をきれいに掃除するとマーガス鉱山を下りる。
「ペトラ、寄りたい場所があるんだがいいか?」
「もちろんじゃ!」
ペトラは嬉しそうに鼻歌を歌っている。
「機嫌いいな」
「外の世界を見るのは初めてじゃから!楽しみじゃ!」
ルクスとペトラは足取り軽くモンディーナ村を目指す。
モンディーナ村に着いたルクスは顔をしかめる。
(雰囲気がだいぶ違うな)
「ここモンディーナ村じゃろ?華やかな村じゃと聞いていたんじゃが……」
「迷子になるなよ」
ルクスは警戒しながら村を歩く。
ルクスがまず向かったのはゲミニ辺境伯家であった。
「これはこれはルクス殿!無事にお戻りになられてよかったです。それで山…は……そちらの方は?」
ペトラはルクスの後ろに隠れている。
そんなペトラにゲミニ辺境伯は気付く。
ルクスはペトラに挨拶するように促す。
「わ、ワシは…アム王国ドゥ…ジャ領……」
いつもの威勢のよさは一切なく、消え入りそうな声で挨拶する。
ゲミニ辺境伯はうまく聞き取れず、困ったような顔をする。
そんな2人の様子に肩を竦めると、ルクスが代わりに紹介する。
「こいつはペトラ。ギエール公の娘です」
「公爵令嬢様!?」
ゲミニ辺境伯は慌てて膝まづく。
「失礼しました。私はここモンディーナ村をお父様よりお預かりさせていただいております、ゲミニ・シーカーと申します。ペトラ様を存じ上げなかった無知どうかご容赦ください」
「き、気にしてないのじゃ……」
「寛大なお心遣い感謝いたします」
「辺境伯、堅苦しいのはなしにしませんか?オレもペトラも気にするタイプじゃない」
「畏まりました」
ゲミニ辺境伯は一礼すると本題に入る。
「ルクス殿、山は?ゴーレムがいたとか……」
「問題ない。召喚者含め、山を占拠していた奴らにはご退場願った。それとこちらの用事は終わりました」
「そうですか!では、もう山は安全と!」
「今のところはですがね。それでなんだが、ドワーフたちがどこにいるかわかりますか?」
「ドワーフですか?なぜ?」
「ドワーフたちに山を使う間、他の奴が入ってこないように見張りを頼んでいたんです。終わったら報せるという約束で」
「やはりルクス殿でしたか……」
「やはり?」
ゲミニ辺境伯は現在のモンディーナ村の状況を説明する。
人間とドワーフとの間に山のことで亀裂が入っていること。そのため居住区を分けていること。全体的に空気が張り詰めており、治安が悪化していること。
「ですので、私から──」
「ダメだ。引っ搔き回してしまったようだが、ドワーフたちにはきっちりオレから伝える」
「……畏まりました」
ゲミニ辺境伯はルクスに言われると従うほかなかった。
「ルクス殿、今後のご予定は?」
「ドワーフに報告した後は冒険者ギルドで足を借りてウル・ドゥニージャに帰るつもりですが。なにかありましたか?」
「いえ、あなた方は特別ですので面倒事には巻き込まれないようにと」
「そうか」
「それと!『白妙の光』はウル・ドゥニージャに戻っているはずですので、会うことがありましたらよろしくお伝えください」
「ああ。わかりました」
ルクスとペトラはゲミニ辺境伯への挨拶を終えるとドワーフたちに会いに行く。
「さっきの話ワシのせいじゃな……」
「いや、ペトラのせいじゃない。対立の要因を不用意に作ったオレが悪い」
ドワーフたちの住処は村の隅へと追いやられており、何者かに荒らされていた。
人気はあるのだが、ルクスとペトラの気配を感じてドワーフたちは身を隠している。
「代表者はいるかー!」
ルクスが呼びかけると奥の方で微かに動きがある。
「誰もおらんのじゃろうか?」
「いや、たぶん代表者を呼びに行ったよ」
しばらくして一人のドワーフがやって来る。
「おおおおお!ルクス様ですか?戻ってこられたのですね!」
「ああ。こっちの用事は済んだ。後は好きにしてくれ」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
何度も頭を下げるドワーフに見送られながらルクスとペトラは冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドにはドワーフの姿はなく、人間の冒険者たちもピリピリとしている。
ペトラは空気感に当てられルクスにぺったりとくっつく。
「リーエルはいますか?」
「どちら様でしょうか?」
「ルクスという者です。要件はリーエルに聞けばわかるかと」
そう言われ受付嬢はリーエルを呼びに行く。
ルクスがリーエルを待っていると冒険者チームが絡んでくる。
「よお、あんたら見ない顔だな。依頼すんなら俺たちにしなよ!きっちりこなすぜ!」
「おいおい!抜け駆けしてんじゃないよ!私らにしなって!」
ルクスは依頼書が張り出されている掲示板をチラリと見る。
掲示板にはほとんど依頼書がない。また、張り出されているのはどれも難易度が高く、手が出しづらいモノばかりである。
依頼の数が少ない冒険者たちが勝手に依頼者の取り合いを始める。
そのまま揉み合いとなり、一人の冒険者が突き飛ばされペトラにぶつかる。
「何するんじゃ!痛いじゃろ、アホ!」
「んだと、クソガキ!」
「ガキ!?ガキはどっちじゃ!いい大人が揃いも揃って醜く争いおって!」
「「あん?」」
ペトラの発言に争っていた冒険者全員がペトラを威圧する。
しかし、ペトラも引く気がなく、負けじと威嚇する。
「なんじゃ?ワシ間違っとらんじゃろ!悪いのはおぬしらなんじゃから素直に頭を下げたらどうじゃ?」
「こっんのガキー」
冒険者がペトラに詰め寄ろうとする。
「何をしてる!」
「ま、マスター」
タイミングよくリーエルが冒険者たちを叱りつける。
リーエルは冒険者たちに散るようにジェスチャーする。
リーエルに怒られた冒険者たちは舌打ちをしながら解散する。
「なんなんじゃあいつらは!」
「うちの馬鹿どもが申し訳ございません」
ペトラは腹の虫がおさまらない。
そんなペトラの様子にリーエルは深々と頭を下げる。
「べ、別におぬしが悪いわけじゃないじゃろ」
「ペトラはこう言ってる。それより事情は知ってるんだろ?」
「はい。ご無事ということは山は問題ないと思っても?」
「ああ。辺境伯にもドワーフにも報告は終わってる」
「……そうですか。今後はどうなさいますか?」
「オレたちはウル・ドゥニージャに帰る。そこで、足を借りたいのだが」
「畏まりました。護衛の方は?」
「悪いが依頼者になるかもしれない奴に喰ってかかるような足手纏いは不要だ」
そう言われてしまうとリーエルは何も言えない。
「申し訳ない。馬を2頭回すように手配します。入り口の方で少々お待ちいただけますか?」
ルクスとペトラはギルドを出ると入口の側で待つ。
すると、先程の冒険者たちに取り囲まれる。
「お前らのせいでマスターに目を付けられただろ」
「そうよ!どうしてくれんの?」
「ワシは悪くないのじゃ。おぬしらが……」
冷静になってしまったペトラはルクスに隠れながら威嚇する。
「隠れてないで出てきなさいよ!」
「なんだったら俺たちが可愛がってやるよ!」
パンッ
冒険者がペトラに手を伸ばした瞬間、ルクスがその手も弾く。
「てーな!何すんだコ──!」
ルクスは喰ってかかって来た冒険者の胸ぐらを掴むと上空へ高々と放り投げる。
「なっ!?お前へ──!」
ルクスはもう一人の冒険者も掴むと同様に放り投げる。
大の大人を片手で軽々と持ち上げるどころか、上空へ高々と放り投げるという行為がとんでもないということは馬鹿でも理解できる。
怖気づいた一人の冒険者が逃げ出す。
ルクスは転がっている石を拾うと、逃げ出した冒険者へ向かって投げる。
「ぐあああああああああああああああ」
石は冒険者の足を貫通する。
足が破壊された冒険者は激痛に悶える。
その姿を見た冒険者たちは顔面蒼白である。
ルクスが次の冒険者を投げようと手を伸ばすと、冒険者たちは一斉にその場で土下座をする。
「「すみませんでした!許してください!」」
誰も顔を上げない。
そこに馬とリーエルがやって来る。
「……これは……」
「後頼んでも?」
「もちろんです。何度も何度も本当に申し訳ない」
冒険者たちとのいざこざをリーエルに任せてルクスとペトラはモンディーナ村を後にする。
2日後、ルクスとペトラはトラブルなくウル・ドゥニージャに到着した。
2人とも久しぶりのウル・ドゥニージャに大きく空気を吸って体を伸ばす。
「この村も初めてちゃんと見たはずなんじゃが、なぜか懐かしさがあるのじゃ」
「これからは好きに見て回れるぞ」
「うむ。それでなんじゃが…今から見て回ったり……?」
「先に帰還の報告だ」
「むー」
ルクスとペトラはドゥニージャ公爵家に向かう。
出迎えたメイドのアンキーナと執事のケッラーはペトラの姿を見るや否や大慌てでギエールを呼びに行く。
そのためケッラーが貴賓室にルクスとペトラを通す。
ドタドタと屋敷中を走り回る音が響き渡り、暫くして貴賓室のドアが激しく開く。
「ペトラーーーーーーーーーー!おかえり!おかえり!無事か!?怪我はないか!?」
「おかえりなのじゃ~」
ギエールに強く抱きしめられ、ペトラは苦しそうに返答する。
アンキーナとケッラーも目元をハンカチで抑えながら喜んでいる。
「魔力のコントロールうまくいったみたいだな!偉いぞー!頑張ったな!さすが私の娘だ!」
「さすがお嬢様です!!」
興奮状態のギエールとアンキーナはひとしきりペトラを褒めちぎる。
落ち着いたギエールは机に手をつき机につくほど頭を下げる。
「ありがとう!ルクス君!この恩は一生かけて返そう!本当にありがとう!」
「頭を上げてくれ。ギエール公が拾ってくれなければオレはあそこで野垂れ死んでいたんだ。こちらこそ感謝している」
「そうなのか!?」
ルクスの発言にペトラが驚く。
「ああ。ギエール公はオレの命の恩人だよ」
「じゃあ、ワシがこうしてみんなに会えるようになったのも父様のおかげじゃな!ありがと、父様!」
「ペトラ~」
ペトラの笑顔にギエールは悶える。
が、次の瞬間フリーズすることになる。
「そうじゃ!アンキーナ、ワシに嘘ついたじゃろ!」
「何のことです?」
「男と女が一緒に寝たら子どもができるというやつ!あれ嘘じゃたぞ!」
ペトラの発言にルクスとアンキーナは頭を抱え、ギエールはショックから思考停止状態になっている。
「失礼いたします」
固まった空気を溶かすように貴賓室にウェーネが遅れて入ってくる。
しかし、入ってきたウェーネの様子がペトラを見た途端豹変する。
視点が合ってない顔で何やらブツブツと呟きながら部屋から出て行ってしまう。
心配したケッラーがウェーネを追いかける。
「ど、ど、どどういうことだルクス君!!娘に手を出したのか!?」
ギエール公がもの凄い剣幕でルクスに詰め寄る。
「待て待て待て待て!手ー出してないって!!」
「本当だろうね?」
「マジマジ」
「こんなにかわいいペトラに手を出さないのはそれはそれでムカつくが、まぁいい」
(めんどくせーな)
ギエールは一つ咳払いをすると真剣な表情をする。
「私はルクス君のことを信頼もしてるし気に入ってもいる。だから将来的にペトラがどうしてもというのであれば…本当ーにどうしてもというのであれば、その時は…まぁ考えなくもない。しかしだね、まだ早いと思うのだよ。理解ってくれるかね?」
「へいへい。オレだってギエール公に不義理を働くつもりはないよ」
ペトラが口を開くのが見えた瞬間、ルクスはこれ以上話が拗れないよう食い気味に話題を変える。
「それより、ギエール公。ギエール公からの依頼の達成率はまだ半分だったな」
「うむ。受けてくれるのか!?」
「いや、前にも言ったがペトラ次第だ」
「ワシ?ワシがなんじゃ……?」
ペトラは不安そうな顔をする。
「ギエール公はペトラに魔法の習得を望んでいる。そもそも本来こっちがメインだったんだ」
「?魔法は覚えた方がいいのじゃないのか?魔道士はこの国では何よりも大切な職業じゃろ?」
「そうだな。だが、悪い面も知っておいた方がいい」
「悪い面?」
「少なからず、殺しに関わることになる」
「魔物を殺すんじゃろ?それくらいは知っとる。人々の生活を守るためには致し方ないことじゃ」
「魔物だけとは限らない。人の国同士でで戦争になったら?犯罪者が人間だったら?ペトラは殺せるのか?そういう仕事は間違いなく舞い込むぞ」
「……殺せる!今は無理でも必ず殺せるようになる。ワシは自分だけ安全なら、それで満足というような弱虫になるつもりはないのじゃ!」
ペトラの瞳は鋼よりも硬い意志で強く光る。
ルクスはこれ以上ペトラの気持ちを聞く必要はないと判断する。
「じゃあもう一つ」
ルクスはギエールの方を見る。
「魔力があるからと言って魔法が使えるとは限らない。それはギエール公自身が身をもって理解しているだろ?」
「ええ」
「だが、ギエール公はペトラが魔法を使えると確信しているように映るんだが…理由があるのか?」
「私の妻、つまりペトラの母親は炎熱系の魔道士だ。それと以前、私はペトラには魔法が発現していないと話したが、実は魔法の兆候はあって、妻が家を出ていってしまった日にペトラは一度発火事件を犯してる」
「「!?」」
「実際ペトラがやったのか不明なんだが、状況的にはペトラの可能性が高いのではないかとな……」
「なるほど……。いいだろう?魔法会得の依頼引き受けた」
「のおのお!ワシ覚えたい魔法があるんじゃが!」
「ほう。なんだい!?」
ペトラはルクスの服を引っ張ったにもかかわらず、魔法を教える訳でもないギエールが体を乗り出す。
「あのじゃな、琲信の魔女様の魔法が使いたいのじゃが……」
「ペトラは本当に琲信の魔女が好きだね~」
「当たり前じゃ!夜空のように美しい髪に鍛え抜かれた体!数多の武器を使いこなし、空を飛び、様々な眷属とともに邪龍を討った強さ!億すことなく立ち向かい、弱気を助ける精神!正に皆が理想とすべき人物じゃ!」
ギエールはルクスに耳打ちする。
「実はペトラの口調は琲信の魔女の真似なんだよ」
「だろうな。あの物語、オレも何度も読まされた」
こそこそと話すルクスとギエールにペトラは頬を膨らませる。
「何をこそこそ話しているんじゃ!」
「いや~別に」
ギエールは話を逸らす。
「そう言えば、ルクス君の魔法、勝手に調べて申し訳ないが、あれはあまり外で使用しない方がいいかもしれない」
「オレの魔法?」
「ルクスの魔法ってどんなのじゃ!?」
ペトラが興味を持ったためルクスは魔法を披露することにする。
ルクスは手のひらに球体の血液を溜めると、それを次々の小動物の姿に変化させてゆく。
「おお~。でもなんか地味なのじゃ」
ペトラは血結魔法をあまりお気に召さなかった。
「ルクス君、それは血結魔法と言って吸血鬼の魔法と呼ばれている。人間でも使える者が極少数いたという記録はあるが…あまりいい目は向けられないと思う」
「そうか(先生教えとけよな。てか、オレの使える力人前で使わない方がいいのばっかじゃん)」
「レアな魔法ってことか?じゃったらワシも習得してみたいんじゃが!ルクスとお揃い、にゃ!──」
ルクスがペトラの頭を軽くチョップする。
「人前で使わない方がいい魔法なんて困るだけだろ。それと魔法は基本的に選べない、琲信の魔女の魔法がどんなのかわからんが覚えられる可能性は少ないぞ」
「なーんじゃ、そうなのか……」
ペトラは残念がる。
「聞いた感じだとペトラは炎熱系の可能性が高いだろうな。よかったじゃねーか使える魔法の目星がついてて」
「ん?使える魔法はわからんのか?」
「オレは知らないな」
「確か魔導学院になら魔法適正を判別できるアイテムがあると聞いたことがあるのだが……」
「ま、ないもんはしょうがない!地道にやろうぜ」
「うむ!」
話が纏まり、ルクスが席を立つ。
「どこか行くのかい?今日はペトラの魔力コントロール成功を盛大に祝おうかと思っていてね、ぜひルクス君にも参加して欲しいのだが……」
「冒険者ギルドに顔を出す。一応、『白妙の光』に挨拶しておきたい」
「ワシも行きたいのじゃ!」
ペトラの希望にギエールは難色を示す。
「う~ん。疲れてるだろう?ゆっくりしたらどうだ?」
「行きたいのじゃ。お願いじゃ~父様~」
「う~ん。しょうがないな~」
ペトラのおねだりでギエールの鼻の下は完全に伸びきっている。
ルクスは呆れながら冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドでは受付嬢が入口を閉めようとしていた。
「すんません。もう閉まるんですか?」
「ルクス様!?申し訳ございません。実は今ほとんど冒険者が出払ってるんですよ」
「出払ってる?」
「はい。以前ルクス様も遭遇したゴブリンの群れ、あれが予想より難航してまして…動かせる冒険者のほとんどを対応に回している状態なんですよ」
「『白妙の光』もそこに向かったのか?」
「はい。依頼から戻ってきてすぐ出立しました」
ルクスが受付嬢と話していると冒険者ギルドの中からウル・ドゥニージャ冒険者ギルドのマスターであるアーギンが出てくる。
アーギンはルクスとペトラを見ると驚いたように目を見開き、周囲を確認する。そして、その行動をなかったかのようにルクスに声をかける。
「……おお!ルクス!?帰ってきてたのか!」
アーギンの妙な間にルクスの返答は淡白なものになる。
「ああ」
「『白妙の光』は全員無事に戻って来た。ありがとな!」
「約束だったしな」
ルクスがアーギンと会話していると受付嬢が小さく、だが真剣な声で「マスター」と言う。
アーギンは神妙な顔になる。
悩みに悩んだアーギンは公衆の面前であるにもかかわらず、ルクスに向かって土下座をする。
「ルクスの腕を見込んでお願いしたい!ゴブリンの掃討作戦に参加してもらえないだろうか?魔法を使える君にお願いすることがどれほど厚かましいことかは理解している。相応の報酬も待ってもらうことにはなるが、必ず用意する!ここでゴブリンを何とかしないと街の人間が安全に生活することができんのだ。だからどうか!!」
周囲の住民たちもアーギンの哀願の行方を祈るように見守り、中にはアーギン同様に地に頭を伏す者もいる。
当然、この街の長の娘であるペトラもアーギンの哀願に感化され縋るようにルクスを見る。
「チッ、ペトラ悪いが先に帰ってくれるか?オレは──」
「嫌じゃ!この街のピンチなんじゃろ!?だったらワシも話を聞きたい!」
「は~ぁ、ここで話す内容じゃない。話しは中で聞く。いいな、アーギン?」
ルクスは低い声で返答すると、冒険者ギルドの中へと入る。




