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大罪人もう一度  作者: 御神大河
大切な人・二つ目の楔
20/36

19.再会

 無事モンディーナ村に着いたルクスたちは、できるだけ人目を避けてシーカー辺境伯家へ向かう。

 トックとアルメールは重傷でいまだ目を覚ましていない。


「お嬢様!?」


 俯くエリメールと気絶しているアルメールを見て、ゲミニ辺境伯のメイドたちが蒼い顔をして走り寄ってくる。

 気絶しているアルメールをメイドに預けるとアネルは大慌てで冒険者ギルドへと走ってゆく。

 ルクスたちはそのまま辺境伯家の一室に案内される。

 気絶している二人の容体をメイドが確認する。

 アルメールは拳を粉砕し、右腕がひしゃげている。

 トックは両腕と肋骨が折れ、全身に打撲を負い皮膚が紫になっている。アルメール以上に重症である。


「アルは大丈夫なのか!?」


 ゲミニ辺境伯が息を切らしながら部屋へと飛び込んでくる。娘の状態を聞き、気が気でなかったことが伺える。

 看病しているメイドが即座に返答する。


「ご心配なく。呼吸も脈も安定しています。命に別状はないかと」

「そうか……」


 ゲミニ辺境伯は安堵から椅子へ座り込む。


「エリは大丈夫か?」

「うちは大丈夫。怪我もない……」


 ルクスは2人に対し特に何もするつもりはない。

 ルクスは現在2種類の力を使える。

 一つは血結魔法。ルクスの先生であるヴァコレラから学んだ魔法であり、メインとして使っている魔法である。

 そして二つ目は、ルクスが最初から保有していた力であり、ヴァコレラがかつて語ったようにこの世界において特異なものである。その力は世界の火種になりかねない。

 ルクスもそのことを理解している。故に、可能な限り使わず、使うにしても人目は避ける。決して他人のために力を行使することはなく、自身の利益のためのみ己が力を振るう。そのことを心に誓っていた。

 勢いよくドアが開き、アネルが入ってくる。


「回復薬をギルドから貰ってきました!」

「ありがとうございます!お代は後ほど」


 受け取ったメイドは気絶している2人に回復薬を無理矢理飲ませる。

 回復薬とは、マナを大量に保有する魔草まそうという草を煎じて作る薬であり、この薬から摂取したマナが体内の細胞の再生能力を向上させ、安静にしていれば傷をきれいに治すという優れものである。

 魔草はマナが豊富な限られた地域にしか生えずとても稀少である。また、回復薬を作るのにも高度な技術を要するため非常に高額で取引される。当然、一介の冒険者が常備できるようなものではない。

 回復薬を飲ませ、全員が一安心したのを見てルクスは部屋を出ようとする。


「待ってください!ルクス殿!」


 ゲミニ辺境伯がルクスを呼び止める。

 その大きな声に反応してアルメールが目を覚ます。


「うっ……し……師…匠……」

「アル!?」

「お嬢様!?」


 その場にいたルクス以外の全員がアルメールの側に寄る。

 しかし、アルメールはルクスに話しかける。


「師匠、ありがとうございます。……師匠のおかげで…私ゴーレムを倒せました……」

「ゴーレム!?」


 ゲミニ辺境伯は驚きの声を上げる。


「ゲミニ辺境伯、聞きたいことはアネルやエリ、アルから聞いてくれ」

「どちらへ?」

「手紙に書いてあったと思いますが?…アネル、オレはまだ用がある。依頼は完了だ。お前たちはここまででいい」

「まっ──」


 そう言うとルクスは部屋を出る。

 館から出たルクスをドワーフたちが狭い路地から見ていた。

 ルクスがそれに気づくとドワーフたちは一礼する。

 ルクスは路地裏へと入っていく。


「帰ってきてたんですか、旦那」

「さっきな。山への監視はどうなっている?」

「配備できてます。蟻一匹はいることはできませんぜ」


 ドワーフは自信満々に胸を叩く。


「そうか。南西にある隠し通路、あそこだけ配備を退けといてくれ」

「なぜです?」

「連れが来る」

「なるほど……畏まりました」


 ルクスと話していたドワーフが別のドワーフに指示を出す。

 指示されたドワーフはコクンと頷くと駆けてゆく。


「ここからある程度の期間、山はオレが占領する。何もしなければ騒ぎにならないとは思うが…念のため頼む」

「お任せください!それで……いつ終わりそうなんで?その~」

「終わった後は山に干渉する気はない。お前たちの好きにしたらいい」

「ありがとうございます!」


 その場にいたドワーフ全員が頭を下げる。


「さて、もう一掃除するか」



 ルクスは再びマーガス鉱山の最奥の坑道へと戻ってきていた。

 マーガス鉱山でペトラを迎えるためにも、危険因子になりうる魔石の結晶の中にいる何者かを排除しなくてはならなかった。

 ルクスは魔石の結晶に手を伸ばす。


「それに触れないで貰えるかしら!」


 魔石の結晶に触れる直前、ルクスの後方から何者かが声をかける。

 ルクスはゆっくりと振り向く。

 ルクスの目の前には記憶にあるシルエットが立っている。

 全身を覆う濃色のローブ、紅黒城の口で見たアポストなる者たちと酷似したシルエット。


「ついて来て貰える?ここで暴れられては困るのよね」

「いいぜ。オレもここを壊したくはないしな」


 ルクスはローブの女の後に続き、坑道の外へと出る。


「ここで何をしているのかしら?最近は虫一匹すら入ってこなかったはずなんだけど?」

「お前に関係ないな。それよりこの山から消えてくれないか?この山を使う予定があるんでね」

「それはできないわ。我らが神に拝謁するには進化が必要なの!そのためにも魔石の中で眠っている化け物には糧になって貰わないとだから」


 ルクスは聞き覚えのある単語の羅列に眉を顰める。


「神?進化?何者だお前?」

「アポストって言うんだけど、聞いたことないかしら?人類の進化と発展を目指す全ての人類が協賛すべき組織よ!」

「そうか。だったらやっぱしオレの敵だな」


 ルクスから魔力が溢れ出す。


「こっちこそやっぱりなのだけど。私のかわいい子たちを殺してくれちゃったのはあなたね!ムカついてきちゃった!まあどちらにしろ、アポストの崇高な理念に賛同できないあなたはここで殺すんだけどね」


 ルクスの体を影が覆い、ゴーレムの拳が叩き込まれる。


「毎回後ろから拳を振り下ろすだけ。芸がねぇな」


 拳を振り下ろしたゴレームの腕はルクスに直撃することなくボロボロと崩壊する。

 ルクスは一歩も動かずゴーレムの攻撃を防いでいた。


「ふーん。思ったよりできるの、ね!」


 女が両手を地面に付くと魔法陣が発現する。

 ルクスの周囲にも無数の魔法陣が現れ、眩しく輝く。

 ルクスは辺りを見回す。

 魔法陣からは100を超えるゴレームが召喚される。


「そうやって召喚するのか」

「この数を目の当たりにしてもその余裕、本当に度胸があるのね。けどその余裕の態度いつまで保てるかしらね」


 女の発言が終わると同時にゴーレムたちがルクスへ襲い掛かる。


<紅威>


 その場からルクスが消える。

 その直後周囲のゴーレムが破壊され、崩れ落ちる。

 バシュンバシュンと衝撃音が響き渡る。

 ルクスは高速移動しながらゴーレムを1体1体確実に破壊していく。


「そんな…バカな…」


 100を超えるゴーレムが数分後には瓦礫の山へと変貌していた。

 残っているのは女を守るように立っている青く輝くゴレームのみ。


「どうした、突っ立って?再召喚は出来ないのか?それとも人形遊びはやめたのか?」

「クソッ」


 大量のゴーレムを失った女はルクスを睨み付ける。

 闘志の火は消えておらず、女はこの山から引く気は1ミリもない。

 ルクスが女を仕留めるために拳を振り抜く。


 ガチンッ


 ルクスの拳がゴーレムによって防がれる。

 ルクスの攻撃を止めたゴーレムは腕を思いっ切り振り抜く。

 振り抜かれた腕はルクスの体を捉え、ルクスは吹き飛ぶ。


「舐めてるから!」


 ルクスは転がった後地面を跳ねて着地する。

 砕けた腕を相手にバレないように服の中で修復し、問題ないか手を開いたり閉じたりして確認する。


「あら、折れたと思ったんだけど…頑丈ね」

「そいつはどうも。その岩の塊は特別製か?てか岩でもないのか?」

「そうよ!この子は特別なの!魔力持ちを触媒に魔石で作ったゴーレム。食人鬼オークどころか鬼人オーガだってミンチに出来るわ」


 ゴレームが構える。

 ルクスもこの戦闘で初めて構えを取る。

 ゴーレムの体は流れるマナにより青く、ルクスの体は高速で循環する血液によって紅く、ドクンドクンと脈動する。

 女が瞬きを終えた時、ルクスはすでにゴーレムの懐にいた。

 打ち出されたルクスの拳によって、30トン以上あるゴーレムの体が数センチではあるが浮き上がる。


「グッッ」


 ルクスの顔が歪む。

 ルクスの拳が衝撃に耐えきれず、潰れて無くなっている。

 ルクスはそのことが相手にバレないように消滅した拳を隠しながら距離を取る。


「…なんて威力してるの……」


 女は唖然とする。

 だが、ゴーレムの体は窪んだ程度でひびすら入っていない。


「でも、関係ないわ!どうやらあなたじゃこの子には勝てなそうね!距離を取っちゃてもうお終いかしら?」

「ふぅーーーーーーーーーーーーー」


 ルクスは深く息を吐く。

 すでにルクスの拳は修復されている。


(魔力を圧縮するだけじゃあの魔石の塊には届かないな)


 ルクスの瞳孔が細く絞られる。同時に大量の魔力が溢れ出る。


「なっ!?なに、その魔力は……?」


 ルクスの魔力に女が怯む。

 先に動いたのはゴーレムであった。

 ゴーレムは図体のわりに速い。しかし、その攻撃は相手に目がけてただ闇雲に振るうだけで単調で荒い。

 ルクスはゴーレムの攻撃を捌くと腕の繋ぎ目に血液を注ぎ込む。


「破ぜろ!」


 血液が膨張しながら激しく脈動し、ゴーレムの腕が内側から弾け飛ぶ。

 ゴレームには痛覚がない。また、核が破壊されない限り活動を止めることもない。

 一向に勢いの落ちないゴーレムの攻撃を回避しながら、ルクスはインパクトのタイミングを計る。


(確実に仕留めるためにこいつが踏み込んで来たタイミングで、潰す!)


 ルクスのバックステップに合わせて、ゴーレムが突進してくる。


(ここ!)


 ルクスがカウンターを合わせようとした瞬間、突如ゴーレムの腕に魔法陣が出現し肥大化する。


「なッ!?」


 そのままゴーレムの腕が振り下ろされる。

 叩き付けられた地面には派手にひびが入り、巨大な地響きと振動が辺りを包み込む。


「ふふふふ。魔石でできてるって言ってるのに何にも警戒してないなんておバカちゃんね!だからペチャンコになるのよ」


 女は勝ち誇ったように笑う。

 だが、腕を上げたそこにルクスはいなかった。


「なんで!?」


 女が驚愕の声を上げる。

 ルクスは空中から降ってくるとゴレームの頭に着地する。そのままゴレームの頭部を足で前方へと押す。

 不意を突かれたゴーレムは前へとつんのめる。

 ルクスはゴレームの背に着地すると、ゴレーム目がけて拳を振りかぶる。


「ガントレットオオオオオオ!」


 アルメールが使用していた物にそっくりの赤黒いガントレットがルクスの腕を覆い、ゴレームの無防備な背中目がけて打ち下ろされる。

 ルクスの拳と地面にプレスされ、衝撃の逃げ場が無くなったゴーレムの体は、核ごと弾け飛ぶ。

 核を失ったゴーレムはゴロゴロと崩れ落ち、魔石の欠片となった。


「ウソ!?ウソでしょ!?ありえない!ありえない!ありえない!人間が勝てるはずがない!」


 女はその場にへたり込む。

 ゴーレムを破壊したルクスは何も言わずににじり寄る。


「待って!待って!あなたアポストに来ない?そうよ!あたしが組織にあなたを紹介してあげる!あなたの力ならすぐに上に行けるわ!だから──」


 ルクスは剣を生成すると女の首を落とした。


「さて、あの結晶の中に化け物がいるといっていたな」


 ルクスは再び最奥にある魔石の結晶の前へと戻る。

 戦闘前と戦闘後では僅かにではあるが魔石の結晶の輝きが違う。


「周囲から魔力を吸収してんのか?」


 破壊するためルクスは魔石の結晶に触れる。

 触れるとまるで心臓が跳ねるように魔石の脈動がルクスにも伝わる。


「ゴーレム以上に外部から破壊するのは骨が折れそうだな」


 ルクスはゆっくりと魔力を流し込む。

 ルクスから流し込まれた魔力が徐々に魔石の結晶へと侵食し、赤黒く染まっていく。

 ルクスが一定以上魔力を流し込んだところで魔石の結晶がバクンッと跳ね、ひびが入る。

 驚いたルクスは距離を取る。

 ひびは一気に全体に広がり、割れる。

 魔石の結晶が液体化し、そして魔石の中で眠っていた者が目を覚ます。


 紫と白が混じった切り揃えたかのようなショートヘア。ルビーのように赤く光る瞳。美しくバランスのいい上半身。誰もが目を奪われ感嘆の声を漏らすであろう圧倒的美貌。

 しかし、そんなことは些細なことであった。

 輝く瞳は合計で8つ。下半身は毛がなくつるりとした蜘蛛。アラクロイドである。

 魔石の結晶の中からずり出てきたアラクロイドは体を起こす。


「おはよう!言葉は理解できるかな?」


 ルクスは対話を試みる。

 すると、アラクロイドは跪く。


「はい。糞以下の人間ニュートに利用されそうになっていたわたくしを救い出していただきまして感謝申し上げます。わたくしはクア・アトラと申します。どうぞ、アトラとお呼びください。よろしければご高名こうみょう頂戴してもよろしいでしょうか?」

「名前?ルクスだ」

「ルクス様でございますか。改めて、忌々しき封印から解放してくださいましてありがとうございます」

「気にしなくていい。こちらの都合でやったことだ。それより、目覚めたばかりで悪いが、この山から去ってもらえないだろうか?この山をしばらくの間使う予定があるんだが」

「……畏まりました。その前に一つお願いが」


 アトラはルクスを真っ直ぐ見る。


「なんだ?」

「出会ったばかりにもかかわらず、不躾ぶしつけではありますが、ぜひ主としてわたくしの忠義をお受け取り願えませんでしょうか?ルクス様」

「なに?感謝ならする必要はないと言ったはずだが?」

「はい。ただ、わたくしがルクス様のお側にいたいのです」

「……」


 そう言われルクスは沈黙してしまう。


(特に部下を欲しいとか思たことないんだよな~。それに理由もよくわからん。面倒ごとは早めに対処するに限るのだが……。ただな~、へりくだっている相手を消すのはな~)


 悩むルクスに対しアトラは真っ直ぐな瞳で訴えかける。


「いかがでしょうか?」

「わかった。好きにするといい。だが、悪いが今のところ部下の類は必要としてないんだ。そこは汲んで欲しい」

「もちろんでございます!忠義を受け取ってくださり感謝いたします!」

「なら、他の行き先を準備してやれなくてすまないが、この山から出て行ってくれるか?」

「畏まりました。いつか配下としてお側に置いていただける日を心待ちにしております」


 それだけ言い残すとアトラは姿を消す。


「ん~なんだかな~」


 ルクスは今の対応が正解だったのか、再度マーガス鉱山を念入りに調べながら頭を悩ませる。



 数日後、マーガス鉱山にペトラが到着する。

 ペトラは封魔液を土に染み込ませ固めたものを握りしめ可能な限り周囲に魔力が拡散しないようにし、少人数の護衛のみを付け荷馬車でやって来た。

 それでも、護衛にも馬にも影響が出ておりかなり苦しそうにしている。

 ルクスは待ち合わせ場所となっているマーガス鉱山南西の隠し通路の前でペトラを迎える。

 ペトラの護衛はできるだけ早くペトラから離れたかったのか、ルクスと合流した途端荷馬車を放置し一目散に離れていった。


「おいおい。この荷物オレが運ぶのかよ……」


 ルクスが逃げっていた護衛に呆れていると、荷馬車からペトラが降りてくる。

 周囲には当然誰もいない。

 マーガス鉱山でルクスとペトラは2人きりになる。


「よお、ペトラ。久しぶりだな!」


 ルクスはペトラを笑顔で迎える。

 ペトラはルクスを睨み付けながらツカツカと早足で歩み寄る。


「バカ!アホ!間抜け!うそつき!ルクスノうそつき!!」


 そして、ルクスをポカポカと殴り始める。

 ルクスはペトラがなぜ怒っているのかわからず、困惑していた。


「ちょっと、ちょっと待ってくれ!なに怒ってんだよ?」

「いなくならないって、幸せにしてくれるって約束した!約束したじゃろ!なのに…なのに次の日何も言わずにいなくなった!!」

「──あっ!」


 ペトラは感極まって泣き出してしまった。

 ルクスもようやく自身のミスに気が付いた。

 ルクスはマーガス鉱山へ向かう際、浮かれてペトラに何も告げていなかった。しかも今の今までそのことに気が付かず、ヘラヘラとペトラを出迎えたのであった。


「すまん。その~……すまん」


 ルクスは言い訳の言葉も見つからず、ただ謝罪する。

 過去に家族から見捨てられた経験を持つペトラにとって、ルクスがいなくなったことでどれ程の絶望を味わったかは想像に難くなかった。それも、言い合いをしたその日にルクスは出立したのである。

 ルクスと言い争わなければよかったという後悔と見捨てられたかもしれないという絶望、「ルクスがマーガス鉱山にいるから行ってきなさい」と父に言われたものの本当はそこで捨てられるのではないかという不安、そしてルクスが自分を笑顔で待っていてくれたという安堵から、ペトラは大粒の涙が止まらなかった。

 ルクスは泣き続けるペトラにどうしたらいいのかわからず、オロオロとしている。


「ペ、ペトラ?本当にごめんな。えっと~…どうしたら許して貰える?」

「今度…今度デ、デー……その~……」

「デ?なんだ?遠慮なく言ってくれ!今回は全面的にオレが悪い!」

「……どっか連れてって!」

「おう!任せろ!一緒にどっか行こうな!」

「後……」

「おう。いいぞ」

「約束……もう一回約束して欲しいんじゃ!」


 ペトラはルクスを上目遣いで見つめる。その瞳には不安の色が映っていた。

 ルクスはペトラに伸ばしそうになった手を固く握ると、必ず約束を守ると誓う。


「ああ。幸せにしてやる。約束する」

「そ、そうか……。よかったのじゃ……」


 ルクスの言葉にペトラは俯いたまま赤面する。

 ルクスは護衛が置いて行った荷馬車を引きずりながら、ペトラを鉱山の最奥で発見した広場へと案内する。


「ほお~、きれいじゃの~」


 ペトラは初めて見た外の美しい景色に感動し、走り回る。

 その姿をルクスは微笑ましく眺める。

 広場に満足したペトラがルクスの下へ駆け寄ってくる。


「気に入ってもらえたみたいでよかったよ。ここなら人に迷惑が掛かることもないはずだ」

「ありがとぅ」

「気にすんな。約束だしな」


 ルクスは広場にポツンと建っている小屋のドアを開く。


「ここまでの道のりで疲れてるだろ?魔力のコントロールの練習は明日にして今日はもう休め」

「よいのか?」

「体調は万全の方が効率がいいんだよ」


 ルクスにリードされペトラは小屋に入る。


「思ったよりも中はきれいなんじゃの」

「ペトラが来るからな、一応掃除しといたんだ。席について少し待ってろ。飯作るから」

「ルクスは料理ができるのか!?」

「最近やってなかったけど、ちょっと前までは毎日作ってたんだ。だから味も問題ないと思うぞ、安心しろ」


 そう言いながらルクスは荷馬車の積み荷から食材を取り出し、サクサクと料理し始める。

 そんなルクスの後ろ姿を見ながらペトラはポツリと呟く。


「ワシはルクスの横におれるじゃろうか……」


 ルクスとペトラは食事を終え、就寝の準備をする。

 小屋には小さいベットが一つしかなく、他に代わりになりそうなものもない。

 ペトラはモジモジする。


「の、のぉルクス、ベットが一つしかないようじゃが……ワシと一緒に寝るのか……?」

「ダメだったか?」

「え!?ダメというか……そのじゃな、男女が一緒に寝ると子どもができるのじゃろ?その~…ワシはルクスとの子どもならゴニョゴニョゴニョ……」

「…………なるほど。…………そういう行為は、その~……ギエール公への義理もあるからな……なしだと思っているんだが……」

「じゃあ、ワシが床で寝る。ルクスはベットを使うといいんじゃ」

「は?なんでだよ。ペトラもベットで寝ればいいだろ?嫌ならオレが床か外で寝るし」

「一緒に寝たら子どもができるんじゃろ!?」

「だからそういう行為は……ん?」

「なんじゃ?」


 ここでルクスが勘違いに気付く。


「ペトラ、もしかして一緒に寝た『だけ』で子どもができると思ってる?」

「できるんじゃないのか?来る前にアンキーナが注意してきたのじゃが……」

「プッ。アッハハハッハハハハ」

「なっ、何がおかしいんじゃ!?もしかして嘘つかれたのか!?」

「いや、嘘ではないぞ。クククッ。ただ、まぁ、アッハハハ」

「なんなんじゃ!」

「すまんすまん。ペトラが可愛らしくてな!」

「にゃ!?」


 ルクスの素直な感想にペトラが赤面する。

 ルクスはペトラの純粋さを心地よく感じていた。

 ルクスは小屋の灯りを消すとペトラにじゃれつくき、そのまま一緒にベットへ転がり込む。


「ルクス!?」

「一緒に寝るだけなら子どもはできないから大丈夫だよ!嫌なら言ってくれ床で寝るから」

「別に嫌では……」

「おやすみ」


 ルクスは目を閉じ、眠りに落ちる。

 ペトラは緊張で暫くの間眠ることができなかった。


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