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大罪人もう一度  作者: 御神大河
大切な人・二つ目の楔
19/36

18.マーガス鉱山攻略

 翌朝、ルクスたちは山へと入る。

 山の名前はマーガス鉱山。ドゥニージャ領の高山地帯をドワーフたちがマーガス鉱山地帯と古くから呼んでおり、現在もその中央に屹立きつりつする山々をまとめてマーガス鉱山と呼んでいる。

 マーガス鉱山は岩山であり、植物は蔦類やコケ類が自生する程度である。しかし、地下には温泉の熱源となるマグマが奔っており、地下水は寒い時期にも湯気が上がるほど温かく寒さを凌ぐには格好の場所となる。

 また、魔力の地脈でもあるため、生き物たちはマーガス鉱山の魔力に中てられ大きく強くなることができ、場合によっては魔獣へと変貌を遂げる可能性もあるため生存戦略として多種多様な生物がマーガス鉱山には住み着いている。

 結果、生き残れた多くの生物が強力な進化を遂げ、人の身ではマーガス鉱山で生活することはもちろん、入山するだけでも危険を伴う。


「マーガス鉱山には多くの魔獣が生息していて、中には危険な魔獣がいるという話だ。応援は期待できないから気を付けて進もう」

「周囲の警戒もだけど足元も気を付けてね」


 ゲミニ辺境伯からの面倒事にしたくないとの願いを受け、入山は村の人たちには秘密裏に行われている。よって、見送りは誰もいない。当然、援軍も期待できない。

 鉱山はしばらく人の手が入っていなかったため、山道は荒れ果て足場が悪い。

 そんな鉱山にルクスたちが足を踏み入れてすぐ、トックが足を止め周囲を見渡す。


「妙だな?」

「どうしたの?」

「魔獣が大量にいるという話だったが、ここまでほとんど見当たらない」

「警戒した方がよさそうね。強力な魔獣が現れて他の魔獣たちがこの土地を離れざる得なくなった可能性があるわ」

「そうだな……」


 ルクスたちは慎重にマーガス鉱山を進む。

 山を少し奥へ進んだところで、先頭を行くトックが再び足を止める。


「厄介だな」

「どうしたの?」

「ただでさえ岩肌が荒くて隠れ放題なのに、こっからは大量の横道がある」

「どうする?」

「どうするもこうするもないだろ。危険がないか調べないといけないんだ。全部しらみつぶしに入って確かめる」


 ルクスが最初の坑道に手をかける。


「ちょっと待て!基本個人行動は禁止だ!」

「なら、さっさと来い。ビビッて足を竦ませてたって日が暮れるだけだろ」


 あるかもわからない危険に怯えることをしないルクスの背を見て、『白妙の光』も覚悟を決める。


「アルメール、後方を頼む!」

「……」

「エリメール、灯りを頼めるか?」

「……」


 トックの発言に双子からの返答がない。

 トックの昨日のやらかしがあり、トックと双子の間に若干の距離感が生まれてしまっていた。

 その様子にアネルはため息を吐くと冷静に注意する。


「2人とも冒険者としてまだまだ未熟ね。私たちと一緒に研修期間を抜けたけど、やっぱりもう少し研修した方がよかったんじゃないかしら?」

「なんすか。その言い方。トックさんが悪いんじゃないっすか。アネルさんだって昨日あんだけ愚痴ってたくせに!」

「そうですよ!」


 双子がアネルに喰ってかかる。

 しかし、アネルは一切引く様子がない。

 アネルは双子の目をしっかりと見ると、厳しさの中に優しさを含ませながら諭すように話す。


「昨日のことはトックが悪い。でも、冒険者なら昨日のことじゃなくて今日、今この瞬間のことを考えなさい!任務は危険なの、命を落とすことだってある!それも一瞬でね!私情を挟んで任務やチームワークに支障をきたすのはもっての外よ!わかるでしょ?」

「「……ごめんなさい」」


 アネルの説教に双子は素直に謝罪する。

 アネルも笑って許す。


「わかってくれてありがと。むしろ、このタイミングでよかったわ」


 仲間としての結束が戻った『白妙の光』はルクスとともに坑道へと入っていく。

 坑道は、横幅はあるものの高さが非常に低い。子どもであるルクスや双子も屈まないと通ることができない。また、灯りがないと足元が全く見えず、入り組んでいるため探索には時間を要する。

 湿度が高く、進むたびに体力が奪われていく。

 坑道内には『白妙の光』の息遣いが反響している。

 それでもルクスたちは隈無く坑道を探索し、村から比較的近い範囲の坑道を全て見て回った。


「あ~しんど」

「ずっと腰を曲げてたからおばあちゃんになった気分す」

「でも、ほとんどの坑道が採掘し終わってたのか、埋められててよかったですね。埋められてなかった何倍時間がかかってたかわかりませんでしたよ」

「しかも、魔物や危険な生物は一匹もいなかったしね。それでも、もう日暮れだけど……山の奥の方のこと考えると気が滅入るわね」


 『白妙の光』は大粒の汗を垂らしながら朽ち果てた山道に座り込む。

 そんな中ルクスは少し離れた大きな岩の上で周囲を見渡している。


「師匠はやっぱり凄いです。全然息も上がってないですし」

「うちらとはレベルが違うっすね」

「ルクスー!何か見つかった?」


 アネルの呼びかけに、ルクスが振り返る。


「あそこに湯気が見える。多分、温泉じゃないかな」

「本当!」

「うちめっちゃ入りたいっす」

「わたしも」

「なら、近くに移動するか。今日はそこで野営しよう」


 トックの決定で、ルクスたちは温泉が湧きだしている近くの比較的平らな地形で野営する。



 空がまだ薄暗い朝早くからルクスたちは行動を開始する。

 山の奥に行けば行くほど、まだ採掘が完了していないのか、坑道が埋められておらず深くまで続いている。

 しかし、同時に天井も高くなっており屈む必要もない。結果、疲労が少なくて済む。

 また、空気や光の通りも良く、視界が確保できているため1本の坑道に対する探索時間はむしろ短くなっていた。


「なんか楽になってきたっすね」

「慣れてきたのもあるんだろうが、坑道がどんどん広くなってきてるのが一番の救いだな」

「奥の方が足場も安定してますね」


 事実、マーガス鉱山は手前の方が荒れており、奥は比較的キレイであった。


「なんだこれ?」


 ルクスは坑道に刺さっていた赤色の鉄棒に手を掛ける。


「ルクス!それに触るな!」


 トックの注意も虚しく、ルクスは鉄棒を引っこ抜く。

 開いた穴からシューっとガスが漏れ、嫌な臭いが辺りへと充満する。

 『白妙の光』は大慌てで坑道の外へと走る。


「バカルクス!早く逃げろ!」


 次の瞬間、ガスが爆発し坑道が崩れ落ちる。

 なんとか坑道から脱出した『白妙の光』は坑道があった場所を振り返る。


「ルクス!」

「師匠!」

「ゲホゲホゲホ。しまった」


 煙の中から煤だらけになったルクスが現れる。


「ちょっと!ルクス気を付けてよね!」

「そうっすよ!うちらルクスさんみたいに頑丈じゃないんすからね!下手したら死ぬっすよ!」

「師匠ぅ」


 『白妙の光』はルクスを睨みながら頬を膨らませる。


「この辺は採掘し終わってないからガス突出の危険があるって最初に行ったよな!?わざとかわざとなのか!?」

「悪かったって次から気を付ける」

「それ何度目だよ。マジで勘弁してくれな!命がいくらあっても足らん!」

「わかったって!」


 ガス突出のせいで索敵しきれていない坑道をいくつがダメにしてしまったが、ルクスたちは魔物と遭遇することも笑顔を絶やすこともなく順調にマーガス鉱山の探索を進めていく。

 マーガス鉱山の最奥に進む前にルクスたちは一度休憩を取る。食事は各々で準備した携帯食とゲミニ辺境伯から貰った食材で取る。

 休憩を取りながら各自が気づいた点を報告し、次の場所への作戦や注意点を立ててゆく。


「一日目はきつ過ぎてどうなることかと思ったっすけど、これなら楽勝そうっすね」

「確かにな。依頼難度は高かったんだが……。一つだけ、奥に行くほど足元がいいのは何なんだ?」

「奥に何かいるんでしょうか?」

「こっそり今でも作業してる人がいるとか?」

「流石にそれはないんじゃないかしら。ここに来るまでにそれらしい痕跡はなかったし。それより魔物がいるかもって話だったけど全然遭遇しなわね」

「うちもかなり気合入れて索敵してるんすけど、獣一匹いないすよ」


 マーガス鉱山は不気味なほど静かであった。

 生物の鳴き声がまるでなく、聞こえてくるのは風がそよぐ音と水が流れる音だけである。


「あの~。魔石が取れるって話でしたけどそれらしきものって見ましたか?」

「見てないな」

「取り尽くしたんすかね?」

「可能性はあるわね」


 ルクスはアルメールの発言でドワーフたちが山に執着していたことを思い出し、顎を撫でて思考を巡らせる。

 その様子にアネルが質問する。


「ルクスは何か気になったことはある?」

「……今のところ特に。何もないならそのほうがいいだろ」

「それもそうね」

「とにかく気を抜かずに行こう!」


 考えが纏まらなかったルクスはドワーフのことを『白妙の光』に言ってないこともあり、引っ掛かった疑問を口にはしなかった。

 話し合いが終了し、ルクスたちはマーガス鉱山の最奥へと足を踏み入れる。

 足を踏み入れた瞬間、ルクスが全員を止める。


「気をつけた方がいい」

「どうした?」

「足元が明らかに踏み固められてる。確実に何かいる」

「わかった」


 ルクスの発言で『白妙の光』は警戒度をさらに一段上げる。

 口数が減り、周囲を何度も確認する。


「ここがラストだな」

「明らかにここだけ違いますって感じね」


 ルクスたちはほぼ全ての坑道を探索し終わっていた。

 道中、底が抜けたり天井が崩落したりガスが噴き出したりなどのハプニングはあったものの、結局魔物どころか生物に遭遇することもなかった。

 最後に残った坑道は他の坑道とは見た目から違う。

 奥に進めば進むほど広くなってきた坑道の入り口であるが、最後の1本は高さ10メートル以上の大きな口を開いていた。

 エリメールがしきりに周囲を確認している。


「どうかしたか?」

「なんか…なんて言えばいいんすかね?さっきからその~……」

「監視されてる感じがするんだろ?」

「そうっす!見られてる感じがするっす。ルクスさんもっすか?」

「ああ。ただ姿を見せる気はないらしい」


 トックとアネルが周囲を見渡す。

 しかし、何も見つけることができない。


「坑道内にいるの?」

「すみません。さすがにそこまでは……」

「どうする──っておい!」


 尻込みしている『白妙の光』を尻目にルクスが坑道へと先陣を切る。

 坑道の中はほんのりと明るい。入口が大きい分、外からの明かりが入ってきている。


「坑道に入ったのに何も仕掛けてこないっすね」

「でも、確実になにかいるんだろ?」

「ああ」

「間違いないっす」


 ルクスたちが警戒しながら坑道を進むと、ただでさえ広い坑道の中に更に広い空間が現れる。

 天井がなく暖かい陽射しが差し込み、透明度の高い泉の水がキラキラと反射している。一面に青々とした芝生が生え揃い、ここだけまるで別の空間である。小さな小屋が一軒ポツンと建っているのも幻想さを醸し出している。

『白妙の光』は広場へと走っていく。


「この山にこんな場所があったのか!?」

「なんかホッとする場所ね」


 そうは言いつつ『白妙の光』も気は抜かない。特に小屋には細心の注意を払っている。

 ルクスは小屋に近づきドアをノックする。

 返事はない。

 ルクスがドアのノブに手をかける。

 鍵は掛かっておらず、ドアがゆっくりと開く。一歩足を踏み入れると同時に少しばかり床が沈み、大量の埃が舞い上がる。

 ルクスは口を手で覆って中へ入っていく。

 ルクスが小屋の中を探索している間、『白妙の光』は小屋を取り囲み小屋から出てくるものと周囲の警戒をする。


「しばらく使われてないって感じっすけど……」

「気配も感じません」

「一応気は抜くなよ」


 しばらくすると、埃まみれのルクスが小屋から出てくる。


「ルクス、どうだった」


 ルクスは首を横に振る。


「誰も。それに、置いてあるのは錆びついた食器や破れた服くらいで、この山の手掛かりになりそうなものなしだ」

「そうか」

「誰もいなくてよかった~」


 アルメールはホッと胸を撫で下ろす。

 ルクスは念入りに広場を確認する。


「ここはありだな……」


 確認が終了しポツリと呟く。



 ルクスたちは広場で一息つくとさらに奥へと探索と再開する。

 驚くことに広場を抜けた坑道の中もかなり明るい。周囲の鉱石が光を放ち、坑道内を青白く照らしている。


「こいつは──」

「きれ~い」

「すごいっすね」

「部屋の中みたいに明るいですね」


 まるでベニトアイトの中に入ったような光景に一同は感嘆の声を漏らす。

 『白妙の光』はテンションが上がり、足早にどんどんと奥へ進む。

 奥へ進めば進むほど鉱石の輝きは強くなる。

 アネルは惹かれるように鉱石を拾い上げる。

 アルメールがアネルの手に握られた鉱石を覗き込む。


「もしかしてこれって!?」

「魔石か」

「わたしにはキレイなこと以外わからないけど…魔力とか感じるの?」

「多少は……」

「オレはまったく。どうもこういう感知は不向きらしい」

「やっぱ鉱山を手放した理由は鉱石を掘り尽くしたからじゃなくて、別の理由だな。ここにある魔石だけでいくらになるんだよ。10世代は遊んで暮らせるぞ」

「手放した理由はやっぱり魔物関係なのかしら?気をつけていきま──」


 突如、ルクスたちを影が覆い、振り向く間もなく迫ってくる。


「キャッ!?」


 一早く気付いたルクスが攻撃の対象になったアネルを抱きかかえ回避する。

 攻撃の主は3メートル近い高さであり、人型であるが全身岩でできている。

 泥人形ゴーレム。生物を核として魔法によって生み出される自立型の泥人形。能力や知力は核となった生物のポテンシャルに依存するが、成熟の個体を核に使用してしまうと制御が利かない。泥人形という名であるが構成する物質は泥に限らず、岩や鉱石など多岐にわたり、大きさや硬度ももマチマチである。


「ゴッ──」


 トックが発言が終わる前にルクスは敵意剝き出しのゴーレム目がけて突っ込む。

 ルクスの速攻に反応することができず、ゴーレムの頭が砕け散り地面へと倒れる。

 だが、まだゴーレムの活動は終わってはいない。

 ゴーレムは右手でルクスをがっちりと掴むと左手で地面を叩く。

 ゴーレムの拳により坑道の底が崩れ落ち、ルクスとゴーレムは落下する。

 ルクスはゴーレムの手から破壊して抜け出すと、落下先である坑道の地下を確認する。

 坑道の下では無数の目が不気味に光り、落下するルクスに対しキチキチと音を立てている。

 ルクスの目的はマーガス鉱山で都合のいい場所を見つけることと安全の確保である。故に危険分子は排除しなくてはならない。


「丁度いい。この山からご退場願うとするか」


 共に落ちるゴーレムのドクンドクンと脈打つ胸部をルクスは空中で粉砕する。

 核を粉砕されたゴーレムの中から赤黒い液体が飛び散り、ゴーレムは機能を停止する。


「なるほど。核があるのか」


 空中を蹴り戻ることもできたルクスであるが、誘いに乗るように魔物の群れの中へと降下する。


「ルクスーーー!!」

「師匠!!」


 ルクスがゴーレムとともに落下したことにアネルとアルメールは動揺する。

 ゴーレムが作った空洞を覗き込み、不安そうな顔をしている。


「アネル!アルメール!そんなことしてる場合じゃない!!」

「これヤバいんじゃないっすか!?」


 『白妙の光』は後から現れたゴーレム2体に囲まれていた。

 ゴーレムは1体ですらビギナー級冒険者が戦える相手ではない。だが、それ以上に『白妙の光』には不安材料があった。


「ゴーレムはまず過ぎる」

「強いんっすか!?」

「それもある。ただそれ以上にこいつを魔法で作った奴がいるはずなんだ!」

「「!?」」

「撤退すか!?」

「ルクスはどうするの!?」

「とにかく!今はこいつを何とかしよう!」



 坑道の地下に降りたルクスは大量の魔物に包囲されていた。

 10体程度の岩でできたゴーレムと千を越える蜘蛛の群れ。

 蜘蛛の名前はアラネラ。黒や紺に黄色のストライプが特徴であり、全長1メートルほどの魔獣である。粘着質の糸と麻痺毒を含む牙と体毛を有しており、群れで行動する。稀に蜘蛛の体に人の体が乗っかったアラクロイドが誕生することがある。


「この中に意思の疎通ができる奴はいるか?」


 アラネラはギイギイと威嚇し、ゴレームは無言である。

 ルクスの質問に返答するものは誰もいない。


「しょうがない。鏖殺おうさつするか」


 ルクスはマーガス鉱山の敵対者を全て排除するため一歩踏み出す。

 蜘蛛たちは奥に大切なモノがあるように一斉に奥に続く通路の前に身を固め、激しく威嚇する。

 その様子にルクスは足を止める。


(奥に何かあるのか?)


 ルクスが躊躇したのを見て、四方を囲んでいたゴレームたちが襲い掛かる。

 ルクスは軽やかにゴーレムの攻撃を捌くと、流れるように胸部に血結魔法を叩き込む。


「来い!」


 ルクスはゴーレムの攻撃をほとんどその場から動くことなくいなし、次々にゴーレムを破壊していく。

 ゴレーム中から噴き出る赤黒い液体にすら当たることはない。


「さて、お前たちはどうする?」


 ゴーレムを全て破壊し終えたルクスは、アラネラの群れに一歩また一歩とにじり寄る。

 ルクスが近づくたびにアラネラたちは体を震わせて全力で威嚇する。

 ルクスが一定距離まで近づいた瞬間、先頭にいた数匹のアラネラがルクス目がけて飛び掛かる。

 しかし、飛び掛かったアラネラはルクスによって全て真っ二つに切られ、地に落ちる。

 ルクスは歩みを止めない。

 そのため一歩踏み出すごとにアラネラたちは襲い掛かり、地へと落ちる。

 結局、ルクスは全てのアラネラを排除した。

 アラネラたちが必死に守っていた通路の奥には青白く光る超が付く巨大な魔石の結晶。その中に何かが入っている。


「これを守っていたのか?」


 ルクスが結晶に手を伸ばし触れようとしたその時、坑道が派手に揺れる。


「あっ!?アルたちのこと忘れてた」


 ルクスは坑道が崩壊でもしたら困ると、急いで来た道を引き返す。


「アルメール!」

「大丈夫です!」


 『白妙の光』は2体のゴーレム相手に粘っていた。

 決して善戦しているわけでもないが、全員生存した状態で持ち堪えている。

 格上相手には引き気味に戦闘し、相手に隙があったとしても無理はしない。地道にコツコツ着実にダメージを積む。トックたちがこの1ヶ月で学んだ生き残る術である。

 それでも頑強で疲労もないゴーレム相手にはリスクをとってでも強く踏み込まないと致命傷にはならない。


「これじゃ埒明かないっすよ」

「火力がないんだから文句言わない!」

「けどこれじゃじり貧だ」


 と、急にアルメールが後方に下がる。


「アル!?」

「どうしたの!?」

「すみません。少しだけ時間を稼いでもらっていいですか?」

「2体相手に!?」

「考えがあるんだろ?やるしかない!」


 トックが体を張って前へ出る。

 ゴーレムは強力ではあるが所詮は人形である。プログラム通りにしか動けない。

 トックが前に出たことでゴーレムのヘイトがトックに集中する。

 アルメールはルクスに教わったことを思い出し、ゴーレムへの意識すら切って魔力のコントロールに集中する。


(魔力はうまくコントロールできれば空気すら掴める。つまり、魔力は物体に干渉できる。なら──)


 アルメールは全身の魔力を右拳に圧縮していく。

 魔力はマナによる力である。そしてマナ超過がある通り、マナには許容限界が存在する。膨大なマナを一点に集中する行為は操者の負担となり、場合によっては後遺症が残る深刻な事態へと発展しかねない。


「ぐうううぎいいいいいい」


 一カ所へと集められたマナがアルメールを自分たちの依り代としてより適したものへ変貌させようと牙をむく。

 アルメールはマナに飲み込まれないよう、削れるほど歯を食いしばる。

 トックはもう限界である。

 前衛であるトックは同じく前衛であるアルメールが下がったことで負担が二倍になっている。魔力を持たないトックでは僅かな時間しか稼ぐことはできない。

 必死に攻撃を受けていたがダメージの蓄積は早く、体力が持たずゴーレムの一撃を諸に受けて吹っ飛ぶ。


「トック!?」


 アネルの悲鳴が坑道に響いた瞬間


 バキンッ


 ガントレットが肥大化し、アルメールが1体のゴーレム目がけて走る。

 吹っ飛ぶトックと入れ替わりでゴーレムの懐へと突っ走ると、ゴーレムの胸部目がけて右拳を振り抜く。


 ズドンッ


 アルメールの拳によりゴーレムの胸部に穴が開き、中から赤黒い液体噴き出て崩れる。

 だが、今できることを出し切ったアルメールもその場で膝をつく。右腕は反動に耐えきることができす、あらぬ方向に曲がりダランと垂れている。

 そんなアルメールにもう1体のゴーレムが容赦なく拳を振り下ろす。


「アル!!」


 ゴーレムの拳がアルメールに振り下ろされる寸前、アネルの鞭がアルメールに巻き付きゴーレムの脅威からアルメールを逃がす。


「ありがとう……ございます……」


 アルメールは疲労と激痛で息絶え絶えである。

 トックは吹っ飛んだ先で気を失っている。


「さすがにヤバいわね」

「年貢の納め時ってやつっすかね」


 アネルとエリメールは前衛2人が崩壊したことで打つ手なくゴーレムを睨み付ける。


「よかったよかった。死んではないみたいだな」


 そんなピンチにルクスが吞気に現れる。


「ルクス!?」

「ルクスさん!?」

「師……匠……」


 ルクスはトックとアルメールの状態に死の危険がないことを確認する。

 背を向けているルクスにゴーレムが襲い掛かる。

 ルクスは体を半身はんみにしながらゴーレムの攻撃を躱すと、胸部へ鉄槌てっついを打ち込む。


 ズッパンッ!


 坑道内に派手な音が響き渡り、ゴーレムにぽっかりと風穴が開く。

 あまりにあっさりとした決着とルクスの桁外れな破壊力に、アネルとエリメールは言葉を失い腰を抜かす。


「さすが……師匠です……」


 自慢気に微笑んだアルメールは安心感から気を失う。


「とりあえずやるべきことは完了だ」

「……」


 ルクスが『白妙の光』を労うが、アネルもエリメールも返答する気力はない。

 危機を脱したルクスたちは気絶した二人とアネル、エリメールを休ませるため、坑道の中で見つけた広場で一晩過ごす。



 翌日、ルクスがトックを担ぎ、アネルがアルメールを担いで山を下りる。

 下山するアネルとエリメールの足取りは重い。疲労はもちろんであるが、それ以上に突如現れたゴーレムに対して何もできなかったという精神的な面が大きかった。


「ごめんねルクス」


 黙って歩いていたが、アネルの口から思わず言葉が洩れる。

 エリメールは悔しそうに唇を噛む。


「無事でよかったよ」


 自身が不甲斐なかった時の気持ちはルクスも居たいほど理解している。故に掛ける言葉が見つからず、素直な感想を口にすることしかできなかった。

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