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大罪人もう一度  作者: 御神大河
大切な人・二つ目の楔
18/36

17.ゲミニ家

 アルメールが指す先には立派な館が見える。

 ゲミニ辺境伯の館は大きさはさほどでもないが、夕日のように明るいオレンジ色のレンガを基調に翠色の屋根が美しく、庭は色鮮やかな草花が見事に剪定され、まるで庭園のようである。門も傷一つなく光が反射するほど磨き抜かれており、明らかに周りの家とは雰囲気が違う。


「公爵様の時もそうだったけど、やっぱり貴族様のお屋敷は緊張するね」

「ルクス、お願いだから失礼のないようにな」

「わかった。これどうやって入るの?」


 ルクスは館の門の前で首を傾げる。


「ここっすよ」


 そう言うとエリメールは門に付いた紐を引っ張る。

 一見特に変化はない。

 しかし、暫くすると館の中からメイドと思わしき女性が2人やって来た。


「こちらはゲミニ辺境伯様のお屋敷です。本日ご来訪の予定はなかったと記憶しておりますが、どちら様でしょうか?」


 ルクスはギエール公に用意して貰った配色が白と黒のみのシンプルな服。『白妙の光』はいかにも冒険者といった格好である。

 当然、メイドたちは警戒する。

 すると、エリメールとアルメールが深く被っていたフードを取る。


「いいから通して」

「失礼いたしました!」


 双子の姿を見たメイドたちは驚いた表情をすると1人が慌てた様子で館へと走り、1人がルクスたちを館へ案内する。

 館の応接室に入る直前、勢いよく走ってくる足音が近づいてくる。


「おかえりーーーーーーーーー!!」


 走ってきた男はそのまま双子に飛びつこうとする。

 が、エルメールはひょいッと避け、アルメールはルクスの後ろに隠れる。

 躱された男とは寂しそうな顔をした後、アルメールが引っ付いたルクスのことを睨む。

 そんな男に対して、ルクスは変わらず涼しい顔をしている。

 が、色々と察してしまったトックとアネルは顔面蒼白、冷や汗ダラダラである。


「旦那様?」


 客人に対し失礼な態度を取る男に、メイドは青筋を立てて威圧する。


「す、すみません」


 その圧に男はビクンと肩を跳ねさせ、すごすごと応接室に入る。


「どうぞこちらへ」


 メイドに促されルクスたちは応接室へ入る。

 ゲミニ家は応接室だけならドゥニージャ家以上の豪華さである。多種多様な武器と宝石が壁に飾られ、そのどれもが透明なガラスで覆われている。他にも魔獣のものと思われる巨大な顔の剥製や、モノクロで描かれた水彩画のような掛け軸など目を引くものが数多く飾られている。

 貴族の応接室に初めて通されたトックとアネルは、美術館にでも入ったかのように辺りを見渡す。

 席に着いた男が切り出す。


「私はここ、モンディーナ村を女王陛下並びにドゥニージャ公爵様からお預かりしているゲミニ・シーカーである。我が娘であるエリとアルが屋敷を飛び出した後、冒険者になったとは聞いていたが……君たちが娘たちの冒険者仲間かね?」

「はっ、はい!我々は『白妙の光』と名乗らせてもらっていまして、わ、私が『白妙の光』リーダーのトックです」


 トックはガチガチに緊張してしまっている。

 辺境伯は優しく微笑む。


「そうかそうか。娘にちょっかいをかけてはないだろうね?」

「も、もちろんです」

「それは良かった!もし手を出していたら殺すところだったよ。ハハハハハ」


 辺境伯は愉快そうに笑っているが、トックの顔は引きつっている。

 双子は辺境伯の行動や発言に明らかにイライラしている。


「それで?私に何の用かな?」


 辺境伯の発言を合図にルクスが一歩踏み出す。


「ワタクシはドゥニージャ公爵家でお世話になっております、ルクスとモウシマス」

「「公爵様の!?」」


 辺境伯とメイドたちが同時に驚く。


「そ、それで?」

「……」


 言葉を選ぶことが面倒になったルクスは、ギエールからの手紙を取り出そうと懐に手を入れる。

 その挙動にメイドたちはゲミニ辺境伯の前に立って警戒した様子で構える。


「よい」


 辺境伯の制止でメイドたちが下がったのを見て、ルクスはゆっくりと手紙を出す。

 手紙は赤黒い封筒に覆われている。しかし、その封筒はルクスが作り出したものであり、次の瞬間には剥がれ落ちて消える。

 驚いている辺境伯を意にも介さず、ルクスは悪意がないことを伝えるため手紙を差し出す。


「これを」

「拝読しよう」


 辺境伯は封を開け手紙を読み始める。

 その間、誰もしゃべらず誰も動かない。静寂が応接室に広がる。

 辺境伯は手紙の後半に差し掛かってところで驚嘆の声を出す。


「魔法!?」


 ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がると、ルクスを見つめる。


「どうかなさいましたか、旦那様!?」


 メイドたちは辺境伯を心配しつつルクスへの警戒心を高める。

 辺境伯は交互に何度もルクスと手紙を見る。


「あなたがルクス殿に相違ないですよね……」

「ああ」

「そうですか……公爵様からの件全て承りました。入山許可の手続き並びに公爵令嬢様の件、すぐに進めさせます」

「ギエール公への使者は少し待って欲しい。こちらで手紙を用意したいです」

「畏まりました。その手紙はどなたが?」

「オレが持って行く」

「では、ルクス殿から受け取り次第出立させます」

「助かる、です」


 辺境伯の態度が先程までと明らかに違う。強者のを迫力感じさせる獅子から一変、尻尾を丸めた子犬のようになっている。

 そのことをルクスと辺境伯の2人以外全員が感じていた。


「つかぬことをお聞きしますが、ルクス殿は我が娘たちとどういったご関係で?」

「依頼人と請負人」

「そうですか……。では、娘たちのことをどう思われておいでですか?」


 急な質問に双子は訝しげな顔をする。


「周りがよく見えてるし、判断も早い。二人とも冒険者として優秀だと思うけど……」

「いや、そういうことではなく、二人のどちらかを気に入ってくださってたりしないでしょうか?」

「「ちょっ、お父様!!」」


 父親の質問の意図を理解した双子が辺境伯を慌てて止めようとする──が、ルクスの発言で二人ともその場で止まる。


「オレは2人とも好きだよ」

「2人ともですか……」


 双子は耳を真っ赤にしながら声にならない声を上げる。

 トックとアネルは頭を抱えている。

 辺境伯は「2人ともでもありか……」などとぼそぼそ呟いている。


「いや、失礼。何か私どもの方でお力になれることがございましたら何なりとお申し付けくださいませ。そうだ!今晩お泊りになられるのはどうでしょう?歓迎の準備をさせますので」

「悪い。今日は温泉宿に泊まるとみんなと約束しているんです」

「そうですか……では何か他に入用なものはございますか?」


 そう言われルクスは悩む。

 するとトックがそっと近づき耳打ちする。


「あっそっか。温泉のある宿を紹介して欲しい」

「畏まりました。ではぜひご宿泊費は私に出させてください」

「いいの?」

「もちろんです。今後ともぜひ娘とゲミニ家をよろしくお願いいたします、ルクス殿。宿を準備させますので屋敷にて少々お待ちください」


 辺境伯とメイドたちは応接室から退室する。

 その際に、辺境伯は双子に来るように手招きする。

 双子は嫌な顔をしたが、トックの「行ってこい」との言葉により一緒に退出する。

 応接室から出た辺境伯は真剣な顔で娘たちに話す。


「他言は禁止、本人に言うのも絶対禁止だ。いいな」

「なんなの?」

「手紙に書いてあったのだが、ルクス殿は魔法が使える」

「!?」


 双子は真実か確認するように父親の顔見る。

 辺境伯は頷く。


「そこでだ。ルクス殿をゲミニ家に招きたい。温泉はいい雰囲気になる。大丈夫。お前たちは間違えなく美人だ。少々ムチムチ感が足りない、ガッ──ッ」

「最ッ低ー!」

「死んでほしいです、お父様」


 娘たちにシバかれて辺境伯は悶絶する。


「ふー緊張した」


 ゲミニ辺境伯が退出した応接室でトックが体を伸ばす。


「エリメールとアルメール、いいとこの出だとは思ってたけど、まさか貴族様とはね~」

「まぁ、アルメールは魔力を持ってるし、よくよく考えたら納得なんだけどな」

「もしかしてルクスもだったりするのかしら?」

「なくはないんじゃね?」

「そうだったら厳しいかな……」


 アネルは不安そうにチラッとルクスの方を見る。


「それにしてもルクスが2人を好きって言った時よく普通にしてたな、アネル」

「以前、勘違いしたからね。一回」

「あ~ルクスに年上はどうか聞いて、『歳とか関係ある?』って言われた奴な。俺が教えなかったら今でも浮かれてたかもな」

「うるさい。あと、下手な物真似やめて!……はあ~しょうがないじゃん。あんな風に助けられたんだよ!好きになるじゃん!」

「わかるけどね。顔もそこそこ整ってるし、何より超つえーからな。ただその分ライバル多いと思うぞ?絶対今後も増えるし」

「だから、トックに教わった通り頑張ってアピールしてんじゃん!」


「ガッ!?」


 扉の外から聞こえた悶絶声にトックとアネルは扉の方を見る。


「何やってんだろ?」

「さあな」


 一方のルクスは自分の荷物から言葉遣いの本を取り出すと先ほどの会話の反省と復習をしていた。



 ゲミニ辺境伯との交渉が纏まったルクスたちは辺境伯が紹介してくれた宿へと来ていた。

 ルクスたちは最低限の装備を身に付け、宿に荷物を預ける。


「ここからは自由時間とする。俺は1人で鉱山の今の情報を集める。できればこの後のことも考えて怪我したメンツは休んで欲しいんだが……みんなはどうする?」

「私は休ませてもらうわ。足手まといにはなりたくないし」

「うちも疲れたから休むっす」


 アルメールはルクスの袖をちょいちょいっと引っ張る。


「し、師匠!私に修行を付けて欲しいです!」

「「師匠!?」」


 アルメールの発言にアネルとエリメールが食いつく。


「師匠ってどういうこと!?」

「どういうことっす!?」

「ユーニウス村で師匠になってくれるようにお願いしたんです。そしたらいいって……」

「いいな~」

「ずるいっす!」


 ルクスに自分たちも弟子にしろと遠回しに伝える2人をトックがなだめる。


「まぁまぁ、魔力を持ってる人間は少ないんだ。今回はアルメールに譲ってあげなよ。それに仲間が強くなることはチームにとってもいいことだし」

「それはそうだけど……私もルクスについて行こっかな……」

「アネル……俺の話わかってないでしょ……。それに体休めるんだろ?」

「わかってる。わかってるわ」

「じゃあ、気晴らしに一緒に商店でも回るのはどうすか?アネルさん!」

「そうね。買い物でもしましょ」

「休憩は……まぁいっか」


 話が纏まったため、ルクスたちはそれぞれ別行動を開始する。

 トックは親しんだ村ということもあり迷いなく、花柳界へと直行する。

 アネルとエリメールは一番活気のある道へ出る。

 ルクスとアルメールは冒険者ギルドへと向かう。

 冒険者ギルドへの道すがらルクスは周囲を気にしていた。


「どうかしましたか?」

「辺境伯の屋敷を出てからずっと視線が追いかけてきてる。しかも複数」


 ルクスの発言にアルメールは周囲を見渡そうとする。

 その行為をルクスはアルメールの頭を掴んで止める。


「気づいてることを向こうに悟られたくない。このまま人気のない所に入るぞ」

「はい。ごめんなさい」

「別に構わない」


 アルメールはルクスに注意されシュンとしてしまう。

 そんなアルメールにルクスは暗い路地に入る前に声を掛ける。


「師匠としてアドバイスだ。何があっても表には出すな。付け入れられるぞ」

「はい」


 アルメールは表情をキリッとさせ、背筋を正す。

 ルクスたちは路地を抜け隣の通りに出る。


「何もなかったですね。私のせいで気づかれてしまったでしょうか?」

「いや、少しも敵意や殺気は感じなかった。恐らく調査・監視ってところだろうな」

「殺気?どうやって感じ取るんですか!?」

「どうやってって。五感を駆使するというか、第六感というか……け」


 経験という言葉が出そうになった時、ルクスは違和感に動きを止める。


(経験?いつのだ?記憶を失ってからそんな経験は積んでない。パトリア村でのことか?そんな村だったか?なにか……なにか忘れてる気が……)

「……師匠?……師匠!師匠!!」


 アルメールの呼ぶ声でルクスは我に返る。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。それでなんだっけ?」

「私強くなりたいんです。どうすればいいですか?」

「どうって……」


 ルクスは困りながらも、一度師匠になると引き受けたからにはと真剣に考える。


「まず、魔力に頼り過ぎていて動きが雑で無駄が多い。魔力がない奴との戦闘ならそれで圧倒できるだろうが、魔力を持つ者同士だとどうなるか、それは身をもって経験したろ?」

「……はい」

「それと魔力のない相手を舐めてかかるきらいがある。その動きが染みつくと、いざという時にもその不用意で無駄な動きが出る可能性があるからやめた方がいい」

「……わかりました……」

「要は基礎がなってないってこと。魔力云々はその後の話だな」


 ルクスに容赦なく指摘されアルメールは再びシュンとなり、肩を落としてトボトボと歩く。

 ルクスはポンッとアルメールの背を叩き、その姿を指摘する。


「普段から体の使い方は気にした方がいいぞ。バランスが崩れるからな。いざという時に自分を助けるのは普段の行いだ」


 アルメールは素直に背筋をピンとする。

 冒険者ギルドに入ると受付嬢が深々と頭を下げる。明らかに一度目とは対応が違う。

 ルクスが試練場を使わせてほしいと言うと、一礼し走ってリーエルを呼びに行った。

 受付嬢に呼ばれたリーエルも慌てた様子でルクスの下にやってくる。


「試練場を使いたいと?」

「ああ」


 リーエルはチラッと辺りを見渡す。


「ルクス様が使うんですか?」

「そうですけど?」

「……わかりました。許可します。終わったら受付に声かけてください」

「わかりました」


 ルクスとアルメールは試練場に入ると早速修業を始める。


「とりあえず今のアルの実力が知りたい。遠慮せずに殺す気でかかって来い」

「お願いします」


 アルメールはペコリと頭を下げるといつものように構える。呼吸を計り、一気に攻撃に移る。

 アルメールはガントレットで戦う近接戦スタイル。徒手は得意とするところである。

 しかし、ルクスは涼しい顔をしながら左手を後方に回し右手のみでアルメールの猛攻を捌く。

 「悔しい」そう思い、深く踏み込んだ瞬間、アルメールは足を掛けられ地面に突っ込んでいた。


「それ悪癖だぞ」

「はい」


 アルメールは立ち上がると再びルクスに挑む。

 結局、疲労から地面に仰向けになるまで挑戦しても、アルメールがルクスに一撃当てることはかなわなかった。


「そろそろ終わるか」

「すみません……」

「どうして謝る?」

「だって私が弱いから」


 アルメールは完全に自信を喪失している。


「謝ることはない。最初弱いのはみんな一緒だ」

「師匠もですか?」

「ああ。それにオレより強い奴もこの世にはまだまだいる。でもな、オレはいずれ誰よりも強くなる」

「師匠はなんで強くなりたいんですか?」

「なんでだろうな……。守れなくて後悔したくないとか、ムカつく奴をぶっ飛ばしたいとか、色々思いつくけど……一番は本能かな?」

「本能?」

「意識がはっきりした時に強くなりたいって感情があったんだ。たぶん自分にとって大切なことだったんだろうな。アルにも強くなりたい理由があるんだろ?」

「はい!」

「ならオレと一緒だな!絶対強くなるよ!」


 ルクスの言葉にアルメールは嬉しそうに笑う。


「そうだ、アルは空中に立てるか?」

「空中?空中に立つってどういうことですか?」

「いいもの見せてやるよ」


 そう言うとルクスはまるでそこに階段があるかのように空中を昇り始める。

 アルメールは言葉が出ない。


「魔力をある程度コントロールできるようになると空気中のマナを捉えて立つことができる。まぁ最初は水の上辺りから練習するといい」

「はい!」


 アルメールは覚悟を込め拳を固く握る。

 修行が終わったルクスとアルメールは受付嬢に報告し、宿への道を歩く。


「公爵様のとこの旦那。ちょいとばかし武器を見ていきませんか。きっとお目当てのモノもご用意がありますよ!」


 鍛冶屋のドワーフがルクスに声を掛けながら、アイコンタクトをする。


「アル、少し寄ってもいいか?」

「いいですけど……師匠、武器使うんですか?」

「いや。でもどんな武器があるのか知っておくのは大切だ。一瞬が勝敗を分ける勝負の世界では知識も重要な武器だからな。いろいろと話を聞いておいて損はないだろう」

「なるほど。勉強になります」


 アルメールはルクスに感心しながらついて行く。

 店は売り場の裏に鍜治場が付いており、すぐに修理ができるようになっている。繁盛しているようで客もそれなりに入っている。


「らっしゃい」


 鍛冶屋は挨拶をしながら奥へ案内しようとするが、ルクスがそれを制止する。


「武器を見ても?」

「え?もちろん構いませんが……」

「アルも適当に見てきていいぞ」

「はい。わかりました」


 アルメールが店の中を散策し始めると、ルクスは適当な剣を取ると世間話を始める。


「ここには魔道具も置いてるのか?」

「ええ、まぁ……」

「魔道具ってどうやって作るんだ?」

「この世界には魔力が大量に流れてる場所があります。そこを魔力の地脈と言うんです。ここの山もそうです。

 魔力の地脈が走ってる場所では稀に魔力が結晶化し、魔石というモノになる。それを加工すると魔道具になる。

 魔石の加工は難しくて、俺たちドワーフの中でも一部の者にしかできんのです。だからこそ俺たちは鍛冶の腕を食い扶持に出来ていたんです。だが……山が閉鎖しちまって……。重宝されてきたんだがな……どうやらお払い箱のようだ」


 鍛冶屋は悔しそうに唇を噛みしめる。


「なるほど。最近他に変わったことはあるか?例えば魔物が出るとか」


 そう言いながらルクスはスッと鍛冶屋へ手を伸ばす。

 それに気づいた鍛冶屋は「う~む」と悩みながらポケットから素早く鉱山の地図を渡す。


「魔物……すまんがわからん。ただ、山が閉鎖されてすぐの頃、子どもが消える事件が多発していたな。今は落ち着いたみたいだが、解決には至ってないはずだ。気をつけた方がいい」

「……そうか。邪魔したな」


 そう言ってルクスは剣を返す。

 ルクスと店主との会話が終わったことに気が付いたアルメールが寄ってくる。


「もういいんですか?」

「ああ」


 ルクスたちが店から出ると後ろから声を掛けられる。


「アルー!」


 エリメールが元気に手を振り走ってくる。

 そのまま商店を見て回ていたアネルとエリメールがルクスとアルメールに合流した。


「修業はどうだった、アル?」

「ダメダメだったよー。自分がまだまだ未熟だって思い知ったよ。

 それに、やっぱ師匠は凄いよ!魔力の扱いが次元が違うもん!魔力操作で空中に立てるんだよ!そんなこと、きっと王都の魔道士だってできないよ!」

「相当楽しかったのね。いいな~」

「お2人はどうだったんですか?」

「楽しかったわよ」

「うちもっす!でも、よかったんすか、アネルさん。トックさんと一緒じゃなくて?」

「なんでトック?」

「え?お二人は思い合ってるじゃないんっすか?」

「はあ?アイツと?ないない。だってアイツ女癖悪いもん」

「またまたー」


 そこから宿までトックとアネルが好き合っていると信じてやまないエルメールに、ひたすらアネルがトックの女癖の悪さを熱弁していた。


「わかったっす!わかったすよ!お二人はそういう関係じゃないんすね。……なんかショックっす」


 アネルの説明を流そうとするエリメールと納得させたいアルメールは言い争いしながら、自分たちが今日泊まる部屋の前へと差し掛かる。

 するとルクスとトックが泊まる予定の部屋から物音と複数の女性の声がする。

 「まさか!」そう言ってアネルが勢いよく扉を開ける。

 部屋の中には呆れる光景が広がっていた。


「「うーわ」」


 部屋の中ではトックが女性を3人も連れ込み、裸で体を重ねまさに大フィーバーしているところであった。

 アネルは呆れたように汚物を見るような眼をトックに向ける。

 双子は部屋の中の惨状から視線を外すと、「最悪……」と小声で吐き捨てる。

 ルクスは……いつも通りである。

 そんなルクスたちを見た女たちが勝ち誇ったように宣言する。


「あら、悪いわね!ルクス様は先に戴いたわ!こういうのは早い者勝ちが鉄則でしょ?」

「ルクス?」

「オレ?」


 勝ち誇っていた女たちであったが、ルクスたちの態度に困惑の表情をする。


「あなたたちルクス様を狙ってたんじゃないの?」

「ルクス?そいつはトックっていう小物だけど?」

「え?うそ!?だって──」


 女たちはトックを見る。

 トックはタラタラと冷や汗を流しながら、全員から目線を逸らす。


 パンッ!


 乾いた音が部屋に響き渡り、トックの頬が赤く染まる。

 女たちは脱ぎ散らかされた服を拾い上げると、ルクスの方へと近づいてくる。


「ねえ、あなたがルクス様なんでしょ?今晩、お姉さんたちといいことしましょ?極上のサービスをしてあげるから」


 そんな女たちから守るようにアネルがルクスの体を引き寄せる。


「ちょっと!あんた邪魔しないでよ!」

「「そうよ、そうよ!」」

「あら、こういうのは早い者勝ちが鉄則じゃなかったの?情報力の低いハイエナは、そこのルクスモドキで満足しておけば?誰も奪ったりしないから」


 文句を言う女たちにアネルは勝ち誇ったように言い放つ。

 女たちは返す言葉が見つからない。

 諦めた女たちは「最悪!」と言いながらプリプリと部屋から出ていった。


「最悪なのはこっちなんすけどね」


 女たちが出て行くと次は当然トックの番である。


「トック~?」


 アネルに呼ばれてもトックは叩かれ顔を背けた状態で動かない。


「トック!!」

「はいっ!」


 アネルに一喝されトックは飛び上がる。


「あの人たちトックさんを師匠と間違えてましたよね?」

「ウソついたんすか?」

「ウソはついてないんだ!向こうが勝手に勘違いしてたから黙ってただけで……」

「最ッ低っすね」

「死んでください」

「ア、アネル……」


 双子に冷ややかな目で見られ、アネルに助けを求めるトックであったが軽く一蹴される。


「今から宿の人に頼んで別の部屋を用意してね。

 あんたとあのあばずれたちの体液が飛び散った部屋とかルクスがかわいそうでしょ?あんたはこの部屋で寝るか野宿するかしてね。できなかったら私たちは辺境伯様のとこに行くから」

「オレは別に気にしないけど……」


 アネルの迫力にルクスも恐る恐る意見する。

 アネルはニコリとルクスに微笑む。


「いいルクス、こういうのはしっかり反省させないとダメなのよ。

 痛みを持って反省を促さないと虫以下の知性しか持ち合わせてない奴らは学べないんだから」

「お、おう」

「なにしてるのかしら?早く行動しなさい!」

「すぐに!」


 アネルの圧に負けトックは急いで宿の主人へ頭を下げに行く。


「ほらね。女癖悪いでしょ?」

「幻滅っす」

「ゴミです」


 高級宿のため金銭的に余裕がなくなってしまうトックは宿屋に必死で頭を下げて泊まる部屋を空室と交換してもらった。

 無事部屋の交換が済み、一つ安堵したトックがルクスの顔色を窺う。

 ルクスはドワーフが作成した鉱山の地図を静かに見ていた。


「あ、あの~ルクス?その~部屋のことなんだけど……」

「さっきも言ったがオレは気にしてない。部屋で休んでくれ」

「いいのか!」

「ああ。山で足手纏いになられる方が困る。それよりも何か書くものないか?」

「書くものって……ペンとかか?流石に……持って……」


 ハッスルと緊張で一気に疲労が溜まったトックはそのまま眠りに落ちた。

 ルクスはトックを起こさないようにゲミニ辺境伯家へ向かう。

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