16.モンディーナ村
メンバー全員が揃った『白妙の光』は気合いを入れて任務へと向かう。
気合いが入り過ぎて、行商人夫妻との待ち合わせ時刻よりもかなり早くついてしまうほどである。
「よく食べますね……」
「腹減ってるからな」
「あれ?アルメールってルクスに対して敬語だったっけ?」
ルクスたちは空いた時間で食事を済ませる。
しばらくすると行商人夫妻がやってくる。
「おや、みなさんお早いですね。待たせてしまいましたかな?」
「「おはようございます!」」
「おはようございます。また、よろしくお願いします」
ルクスたちは無事ユーニウス村を出立する。
エリメールが再び見張り役を名乗り出たことにより、配置はユーニウス村までと同様である。
「悪いが少し寝る。何かあったら起こしてくれ」
出発してすぐ、ルクスが横になる。
トックはすぐに承諾する。
「わかった。ありがとう」
「おやすみなさい」
ルクスに礼を言うトックにアルメールは質問する。
「なんでお礼を?」
「アルメールも知ってると思うが、冒険者は他所のギルドに行ったら何かしら依頼を受けなけりゃならない。それが、慣習であり名前を売ることにも繋がるからな。
当然、俺たちも簡単な依頼だがこなしてきた。で、俺たちが依頼をこなしてる間、ルクスはずっとアルメールを守ってくれてたんだ。襲撃があったばかりで、町の中も不安定で何かあるかわからなかったからな。
それと……俺はこの2日ルクスが寝てたのを見てない。依頼に行く時も帰ってきた時も、夜中に目を覚ました時もだ。たぶん、夜俺たちが寝ている時も起きていたんだろうな」
アルメールは寝ているルクスの背中を見つめる。
「何かあったら今度は私たちがルクスを助けてあげましょ!」
「当たり前だ!」
「もちろんです!」
ルクスたちを乗せた荷馬車はモンディーナ村へ進んでゆく。
「よく寝ますね」
「そんなに疲れてたのかしら……」
「寝れる時に寝とくタイプなんじゃないか?今のところ問題もなかったし、十分な睡眠が取れたと考えたらいいことだろう」
「いざとなれば起こしてくれって言われたっすけど、そろそろ到着っすよ」
ルクスたちは道中、一晩野営したがその間もルクスが起きてくることはなかった。
「ルクス……ルクス、起きて……」
アネルに呼ばれルクスは目を覚ます。
「どうした?」
「モンディーナ村に着いたよ」
「わかった」
モンディーナ村はドゥニージャ領最北端の村である。
ユーニウス村に比べると明らかに村の規模が大きく、周囲は木の防護柵で囲まれており入場口には見張りが2人立っている。
「止まれー!ここで身元と目的を確認する!」
行商人夫妻の説明が完了し、ルクスの番になる。
「お前の身元と名前は?」
「名前はルクス。今はドゥニージャ公爵にお世話になっていて、高山地帯の調査に来ました」
「公爵様の!?」
行商人夫妻は驚くが見張りたちの様子は違う。
「公爵様の?なぜ公爵様の客人がこのような方法で?公爵様の馬車ではなく?」
「そっちの方が面白そうだったから」
見張りたちは完全にルクスを疑っている。
見かねたトックが横入りする。
「横から失礼。俺はウル・ドゥニージャの冒険者ギルドを拠点としている『白妙の光』のリーダー、トックと申します。そこのルクスが言っていることは本当ですよ。
我々の仕事は鉱山調査のための道案内と行商人の護衛ですから」
「ルクス?公爵様の客人を冒険者が呼び捨てするのか?」
「俺とルクスは友人ですから」
「公爵様の客人と冒険者風情が友人?」
「ええ、そうですけど。何か不都合でも?」
物腰柔らかに説得しようとしたトックであったが、見張りの高圧的な態度に、トックは見張りは火花を散らす。
するともう1人の見張りが仲間を諫める。
「まぁまぁ、落ち着けよ。これで本当に公爵様の関係者だった時めんどくせーぞ。それに、この冒険者が身元を保証するって言ってんだ問題ねーよ」
「だが!!」
冷静なもう1人の冒険者が、熱くなっている見張り仲間を手で制止すると、トックの方を向く。
「公爵様の客人という方が問題起こした場合は連帯責任ってことで構わないよな?『白妙の光』のリーダーのトックさんとやら」
「構わねーよ」
「だとよ」
「チッ、通れ!」
見張りに睨まれながらルクスたちはモンディーナ村に入る。
モンディーナ村は古くから高山地帯からの恩恵を受けて発展してきた村であり、この村の商品はどれも人気が高い。
大通りには多くの行商人が行き来し、様々な店頭がズラリと並んでいる。店の装飾には宝石の類がちらほらと埋め込まれ太陽光にキラキラと反射し、煌びやかである。鍛冶屋がカンカンと鉄を叩く音と、少々粗めの石畳を荷馬車が通るたびガラガラと立てる音が、より活気のある雰囲気にしている。
ルクスはそんな大通りの路地を見ていた。
「どうしたの?ルクス」
「あそこ……」
「物乞い?小さい子も……かなり多そうね……」
「この村には孤児院とかはないのか?」
「ないな。というより必要なかったんだ。
モンディーナ村ではみんな余裕のある生活をしていたからな。治安を維持のために、寝床も配給も十分すぎるくらい行き届いていて、孤児院がなくても孤児も他所よりは簡単に生きていけたんだ。俺もその1人だったし」
「でも、そうは見えないけど……」
「鉱山閉鎖のせいで、余裕がなくなったんだろうな」
ルクスたちは行商人夫妻の荷馬車に乗ったままモンディーナ村の冒険者ギルドへ向かう。
モンディーナ村の冒険者ギルドは、こちらもウル・ドゥニージャの冒険者ギルドほどではないにせよかなり立派である。冒険者たちが入れ代わり立ち代わり出入りし、所属冒険者の多さが伺える。
荷馬車が冒険者ギルドの前に停まると、トックとアネルが荷馬車から降り冒険者ギルドへ入っていく。
「エリメールとアルメールは行かなくていいのか?」
「大丈夫っすよ。どうせすぐ戻ってくるっすから」
「あ、あの!」
アルメールが大きな声を出す。
「アル、音量調節できてないっすよ」
「ごめん」
「なんだ?」
「え~と、その~……アルメールだと長いと思いますので、良ければアルと……」
アルメールの発言にエリメールは驚く。しかし、すぐに笑顔になりアルメールの提案に乗っかる。
「いいじゃん!じゃあうちのことはエリって呼ぶっす」
「だ、ダメでしょうか……?」
「わかった。じゃあ改めてよろしくな。アル。エリ」
「よろしくっす!」
「よろしくお願いします」
ルクスが改めて双子に挨拶を終えた時、トックとアネルが冒険者ギルドの受付嬢を連れて出てくる。
受付嬢を介して『白妙の光』と行商人夫妻は任務完了の手続きをする。
その間、行きかう冒険者たちが『白妙の光』を横目でチラチラと見ている。
双子はその視線を避けるようにフードを深く被る。
「それではこれで依頼達成の手続き完了です。ウル・ドゥニージャの方にもこちらで報告を回しておきます。お疲れ様でした」
「はい。お願いします」
「いや~、本当にありがとうございました。また縁があったら、ぜひ『白妙の光』の皆さんに依頼させてください」
「もちろんです!いつでも依頼お持ちしておりますので、またよろしくお願いします!」
任務達成を見届けてルクスと双子は荷馬車から降りる。
行商人夫妻は改めて深々と頭を下げると『白妙の光』と別れる。
「さて!改めてギルドに挨拶に行くか!」
「顔を売るのは大事よね。ルクスは?」
「中見てみたい」
「じゃあみんなで行きましょ!」
モンディーナ村の冒険者ギルドの中はウル・ドゥニージャの冒険者ギルドよりもずっと清潔である。1階は受付用のスペースと飲食用のスペースできっちり分けられており、受付の前には赤いカーペットが敷いてある。
「なんか雰囲気違うな」
「上品な感じよね~」
「ここは特殊だからな。ミラリアム王国の端っこの方だし、山にも囲まれてる。だから余所者が比較的少ない。
加えて特産品と温泉があるから経済状況も安定……してた、この村の居心地を気に入って居つく奴も多い。
そういうわけでここの秩序を乱そうとする奴は排除され、同じような奴が量産される。よく言えば安定している。悪く言えば変化しない」
「ふ~ん」
「まぁ、ここの教育体制もあるけど……」
トックはボソッと呟く。
「教育体制?」
ルクスがトックの発言した教育体制について聞こうとした時、冒険者ギルドの奥の鉄扉が開き、中からスラッとした手足と腹筋が美しい女性が現れる。
後を追って青ざめた顔をした若者5人が今にも吐きそうな表情で出てくる。
「あれだよ」
「なにあれ?」
「行ってみるかい?」
そう言うと、トックは奥の扉の方へ向かう。
「久しぶりだな。リーエル」
「あら!もしかしてトック?久しぶりね~!ちょっと、というかだいぶ雰囲気変わったわね」
「まあな。また嫌がらせか?」
「あら!嫌がらせなんて失礼しちゃうわ!大切なことよ。ところで後ろの子はどちら様?」
リーエルは顔ににこやかな表情を張り付けながらルクスを警戒する。
そんなリーエルにトックがルクスを紹介する。
「こちらはルクス。公爵様の客人で今回の俺たち依頼人だよ」
「公爵様の!?」
リーエルは声を張る。
公爵という言葉に一部の冒険者たちがざわつく。
「声がでけーよ」
「ごめんごめん。公爵様のお客人とは……うっうん、失礼。私はモンディーナ村の冒険者ギルド長、ムスクル・リーエルと申します。公爵様には大変よくしていただいておりまして、村の者皆公爵様に感謝しております。お手間でなければぜひ公爵様にもよろしくお伝えください」
「ああ。それで?扉の奥で何してたんですか?」
固い挨拶を適当に流し、ルクスは気になったことを直球で聞く。
その質問にリーエルは困った顔をする。
「え~とですね、ルクス様……」
そこにトックがフォローをする。
「ルクスなら別に大丈夫だよ。たぶん俺たちよりもずっと慣れてる。さっきのは何日目?」
「何日?」
「あいつらは2日目よ」
ルクスは2人の話が分からず首を傾げる。
「なぁ、何言ってるかわからん」
「ごめんなさいね。その~、このギルドでは冒険者になるための教育というか試練があってね……」
「試練?」
「口で説明するより見せた方が早いだろ」
トックにそう言われ、リーエルはルクスを扉の奥に案内する。
『白妙の光』もその後に続く。
鉄扉の奥にある試練場は高い鉄の塀で囲まれた円形の広場である。きれいに清掃されており何も置いてない。が、土に血が染み込んでおり、生臭い匂いが広場に漂っている。
「ギィイギィイギィイ」
「ガウガウガウ」
「ゴブリンと……コボルト?……それに……」
試練場の中央に紋章の入った首輪を着けられたゴブリンとコボルトが計5体生きたまま地面に張り付けられている。
小人狼とは、ゴブリンと同じく二足歩行する小型の人型魔族。顔と腕、脚は毛のない犬のような見た目であるにも関わらず、尻尾は大きくフサフサしている。人の部分も犬の部分も尻尾も全て鼠色である。
ルクスの発言にリーエルは感心する。
「ご存じでしたか」
「ああ、ギエール公の屋敷の本で知った。実物を見るのはゴブリンが2回目、コボルトは初」
「では特性もご存じで?」
「いや、見た目と強いか弱いかだけ。ゴブリンとコボルトは弱いって書いてあった」
「なるほど……侮りを生みかねない雑な表記ですね」
そう呟くとリーエルはまるで授業をするように解説し始める。
「ゴブリンは見た目に似合わず狡猾です。オスしか存在しないため、繁殖の際は他種のメスを攫い繁殖を行います。当然、人も繁殖対象です。
繁殖力が高く、一度に10匹ほど産み母体によっては耐えきれず死んでしまうこともあるそうです。加えて成長も早いので放置するとあっという間に被害が広がります」
「家畜のメスだけ消えたら気をつけろって言い伝えがあるっすよ」
「女性冒険者は向かわせるなってルールもあるな」
「コボルトは?」
「コボルトは臆病で慎重な性格です。基本群れで行動し、群れのリーダーはオスとメスのペアです。
子どもの肉を好み夜闇に紛れて行動するため、気付いた時には手遅れだったということもよく聞く話です。一定期間で寝座を変えるため一掃という意味ではゴブリンより難易度が高いと言えます」
「寝室は家族一緒が望ましいって言い伝えがあるっすよ」
「昼に寝込みを襲うのが鉄則ね」
ルクスはうーんと唸る。
「みんな詳しいんだな」
「そりゃあ冒険者だもの。知識がないと生きていけないわ」
「基本的な魔族だけですけどね」
ルクスは再び視線を試練場の中央へ戻す。
「それで?試練ってなにすんの?」
「あれを殺すんですよ」
「戦闘ってこと?」
「拘束は解かないから戦闘ではないな」
「無抵抗?意味あるのそれ?」
ルクスの発言を聞いたアルメールとエリメールは驚愕の表情をする。
一方、リーエルは悲しそうな表情をしている。
「これはね、殺しの覚悟を試す試練ですよ」
「殺しの覚悟?」
「ええ。冒険者であれば遅かれ早かれ命を奪わなければならない状況に必ず遭遇します。その時に躊躇ったら、殺されるのはこっち。無駄死にさせないためにも、殺せるか殺せないか試験する必要があるんです」
「2日目ってのは?」
「試練は3日間に亘ってやるの。1日目は犬や猫などの獣。2日目は今見ているように人型の魔族。で、3日目は……」
リーエルはそこまで言って言い淀む。
「3日目は?」
「人間だ」
「「人間!?」」
トックの言葉にルクスではなくアネルと双子が声を上げる。
「人間って言ってももちろん犯罪者よ。それでも猿轡を嚙ませたりはしないから全力で命乞いされるけどね」
「トック以外は試練受けてないの?」
「私はこの村の出身じゃないからね」
「うちらもウル・ドゥニージャで冒険者になったっすから……」
「たぶん他所ではこんなことやってねーよ。この村だけ」
「じゃあトックはこの試練突破したんだ」
ルクスにそう言われトックは黙る。
黙ってしまったトックに代わりリーエルが返答する。
「トックはね、3日目で脱落したわ」
「「そうなの!?」」
ルクスと『白妙の光』のメンバーがハモる。
一斉に視線が集まったトックは座りが悪そうに頭を掻く。
「魔族は問題なかった。なんなら猫の方が吐きたい気分だった。で……人間は無理だった……。当時はどうしても殺せなくて、結局ウル・ドゥニージャで冒険者になったんだ」
「ほんとはね殺せなくていいのよ。殺しなんて可能な限りやらない方がいいし、冒険者にだってできることならならない方がいいんだから」
「かもな。でも俺には冒険者しか生きる選択肢がない」
トックはルクスを見る。
「ルクス、お前には感謝してんだ。お前がいなければ俺は、殺す覚悟もなくあそこで殺されて人生終了してた。よくねーのかも知れねーけどよ、お前のあっさり殺す姿をかっけーと思った。だからここまでこれた。ありがとな」
「私も!ありがと!」
アネルがルクスに抱きつき、重たかった空気を明るくする。
モンディーナ村の教育体制を聞き終わったルクスたちは試練場から出る。
冒険者ギルド内には先程までいた冒険者たちがほとんどいない。
残っている冒険者たちは監視をするようにルクスたちを見ている。
リーエルはトックに話を振る。
「トック、あんたも一人前の冒険者なんだろ?だったら何か依頼を受けていきな!」
「言われなくてもわかってるよ」
リーエルに言われルクスたちは依頼掲示板を眺める。
「な~んか差が激しいな」
「お使いレベルのモノと難易度の高いモノはあるのにその間がほとんどない」
「これは面倒っすね」
「そうね。簡単すぎると舐められかねないし、難しすぎるのもね……」
『白妙の光』が悩んでいる間に、小柄で立派な髭を蓄えた冒険者がルクスの肩を軽く叩く。
肩を叩かれたルクスは当然振り向く。が、ルクスと同じ高さには誰もいない。
ルクスが視線を落とすとそこには、立派な髭を生やした非常に小柄な男が立っていた。
ルクスに気付いてもらったその男は、辺りを警戒しながら小声でルクスに話しかける。
「あんた公爵様の知り合いなんだって?ちょっとだけいいか?」
「あんたら山小人ってやつですか?」
「え?ああ、そうだ」
「初めて見た。本当にずんぐりむっくりしてるんですね」
「ま、まあの……それで、よければついて来てくれんか?」
ルクスは面倒ごとを察し『白妙の光』を巻き込まないように、黙ってドワーフたちについて行く。
ドワーフとルクスは冒険ギルドのすぐ側の路地裏へと入っていく。
路地裏に入った所で路地の陰からそれなりの数のドワーフたちが現れる。
多少警戒するルクスであったが、そんなルクスに向かってドワーフたちは一斉に土下座する。
「お願いです。お金を、お金を少しばかり恵んじゃくれないでしょうか?
鉱山へ魔物が現れて以降、俺たちは仕事がなくなっちまった。みんなを食わせるために冒険者になったが、採掘や鍛冶しか能のねぇ俺たちに出来ることはほとんどない上に、人間の冒険者たちは実入りのいい依頼を自分たちで独占して、俺たちドワーフには受注させてくれねぇ。そのせいで実力に見合ったまともな依頼を受けられず、みんな腹を空かせてる。どうか子どもたちの分だけでも……どうか……」
ルクスが周りを確認すると、他のドワーフたちも頭を地面に擦りつけ、子どものドワーフたちは物陰からジッと事の行方を祈るように見つめている。
「って言ってもな~、悪いがオレはほとんど金を持てないぞ」
そう言いながらルクスは硬貨の入った袋を手渡す。
ドワーフは地に張ったまま袋を受け取ると、感謝を述べる。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「待て。タダという訳にはいかない。当然見返りは払ってもらう」
そのセリフにドワーフたちは絶望する。
「な……なんでしょう、見返りというのは……先ほども言った通り、俺たちは大したことは出来ないのですが……」
「別に大したことじゃない。
オレはこれから山を数日間占領しなくちゃならないんだ。その際、一人でも山に入られると不都合だ。
そこで、お前たちには山へ人が入って来ないようにしてもらいたい。当然、用が終わったら山はお前たちの自由にしてもらって構わん。あんたらドワーフにとっても山が返ってくるのはメリットなんだろ?どうだ?」
「山を取り返してくださるのですか!?願ってもない!ぜひ、ぜひ協力させてください!!」
「それともう一つ。山の詳細な地図が欲しい。隠し通路から何から全て記載したものを遅くとも明日の朝までには用意してくれ。出来るか?」
「もちろんです。最優先でやらせて頂きます!」
「よし。交渉成立だ」
ドワーフたちとの交渉を終えたルクスは冒険者ギルドへ戻る。
タイミングよく、依頼はまた後日決めることにした『白妙の光』が挨拶を終え、冒険者ギルドから出てくる。
「もう!どこ行ってたの、ルクス?」
「別に」
話を逸らすようにルクスは本題に入る。
「少し寄りたい所があるんだがいいか?」
「寄りたい所?」
「この村を治めてるゲミニ辺境伯って人に会いたい」
ルクスの発言に双子の肩がビクンと跳ねる。
トックとアネルは苦い顔をしている。
「どうした?」
「なっ、なんで会いに行くんすか?」
「ギエール公から手紙を預かってる」
「手紙?なんだ、よかった~」
「なにが?」
「客人ってことならあんまり緊張しなくて済むのよ」
「それにルクスのことだから、いきなり突撃して暴れたりするのかと思ってな」
「そんなことしねーよ」
「悪い、悪い」
トックとアネルは安心して胸を撫で下ろす。
しかし、双子はまだ嫌そうな顔をしたままだ。
「じゃあ、辺境伯様の屋敷へ向かおうぜ!」
トックの号令で一同は辺境伯の屋敷へと向かう。
歩きながらルクスは鼻を鳴らす。
「村に来た時から気になってたけど、村中に充満してるこれ、なんの匂い?」
「硫黄だよ。この村は鉱石と武器、それと温泉が名物だからな」
「温泉?」
「温泉知らないんすか?温泉てのは地下から出るお湯のことっす。この村ではそのお湯を使って経営してる店がいくつかあるんすよ」
「温泉入ったことないなら今日は温泉宿に泊まりましょうよ!私も入ってみたいし!」
「美容にいいとか……」
「ほんとに!?」
女子メンバーが温泉談議を始めたのを見計らって、トックがルクスに肩を組み、小声で話しかけてくる。
「あのさ、ルクスはもうあっちの方には興味あるのか?」
「あっち?」
「だから、その……この村では花柳も盛んなんだよ」
「花柳?」
「何話してるんすか?」
「おわっ!」
エリメールに突然話しかけられてトックは動揺する。
女性陣にはあまり聞かれたくない内容だったため、トックの目は完全に泳いでしまっている。
「い、いや~何でも、ないけどな~」
「トック、あんたルクスにくだらんこと吹き込んだら承知しないわよ?」
アネルの冷ややかで圧のこもった声にトックは委縮する。
「了解です。すまんルクス、さっきの内容は忘れてくれ」
「え~気になるっすよ」
「どうせくだらないことよ」
ルクスと『白妙の光』がじゃれていると、アルメールが大きな屋敷を指差す。
「見えてきましたよ。あそこです」




