12.先生と生徒
先程までの挨拶の和やかな雰囲気から一変、ドゥカスとアーギンは仕事モードに入る。
「マスター、ゴブリンのことは?」
「ああ、詳しくはそこのペーペーから聞かせてもらう。ただな……時間はかけたくないんだが、人手が足らん可能性がある……」
「どうするつもりだ?」
「とりあえず、明日公爵様に場合によっては衛兵を動かせないかお願いする必要があるかもな」
「被害がでかくならないといいが……それでなんだが、それに巻き込まれたせいで到着がこんな時間になっちまってな。公爵様を起こすわけにもいかねーんで、ルクスたちの今日の寝床を手配して貰いてーんだが……今から手配できるか?」
「ギルドの裏手にあるギルド管轄の寮に空きがあるはずだ。他はさすがに厳しいんだが……」
アーギンはチラリとルクスを見る。
「森の中で寝たこともあるし、どこでもいい」
「そうか。おい!誰か案内を頼む!」
「わ、私が!」
アネルが挙手をする。
「アネルか。ではルクス、ウェーネ殿、アネルに案内してもらってください」
「わかった」
ルクスは冒険者ギルド寮の空き部屋へ案内される。
「この部屋を好きに使っていいから」
「ありがとう。アネル」
「え、えっとウェーネさんの部屋は──」
「私は結構です」
「え?」
「少々準備がありますので、一度帰宅します。ルクス様、明日またお迎えに参りますので」
「ああ」
「では、お先に失礼いたします」
一礼するとウェーネはその場を去る。
見送るとルクスは部屋へと入る。
「ね、ねぇルクス、もし、もしよかったら……冒険者ギルドに顔出してね……」
「ああ。案内してくれるんだろ?」
「へ?あ、うん。その~……おやすみね」
「ああ。おやすみ」
アネルはそっとドアを閉める。
廊下からパタパタと走り去る音が聞こえる。
ルクスはベットに横になると目を閉じる。
翌朝、外から聞こえる声でルクスは目を覚ます。
窓の外を見下ろすとすでに街は活気づいている。人を呼び込む店主、世間話をする人々、走り回る子どもたち。
ルクスにとっては1年振りになる賑やかな人の声。
ルクスは拳に息を吹き込むと、新たな生活を始める決意を固める。
気合を入れたルクスは部屋を出ると寮母さんに体を洗える場所がないか聞く。
寮には風呂がついており、仕事が終わった冒険者のために常に開放されている。
ウル・ドゥニージャの風呂はパトリア村のものとそれほど差がない。浴槽はなくシャワーで体を洗う。パトリア村と違う点はお湯が出ることと蒸し風呂が設置されてることである。
「あんた見ない顔だね。新人かい?」
「ルクスっていう」
「そうかい。今は誰も入ってないから貸し切り状態だよ!ゆっくりしてきな!」
「ありがと」
ルクスは風呂で体を清める。
風呂でのんびりしていると寮母さんが呼ぶ。
「ルクスー!あんたに客だよ!」
ルクスが風呂を上がるとウェーネが待っていた。
「おはようございます、ルクス様。ご入浴中、お邪魔してしまい申し訳ございません」
「おはよ。ドゥカスは?」
「外に」
「そう。じゃあ行こうか」
外に出るとドゥカスの他にアーギンも待っていた。
「おはようさん!」
「おはよ」
軽く挨拶をし、公爵家へと向かう。
公爵家はウル・ドゥニージャの中心部にある。周囲は石壁に囲まれており、衛兵が見回りをしている。貴族の家といった感じである。
しかし、すぐ側では店が開かれ、住民が道を清掃しているなど生活感がある。公爵家の衛兵も街ゆく人たちと談笑している。平民との距離は感じない。
衛兵が公爵家に近づくルクスたちに気が付き、敬礼する。
「ルクス様でございますか?プラレス様から話は伺っております。少々お待ちを」
そう言うと衛兵の一人が公爵家へ走ってゆく。
暫くすると門が開く。
中ではメイド1人と執事1人が出迎える。
「お待ちしておりました。ルクス様。私、当屋敷でメイドをしております、プエル・アンキーナと申しましす。こちらは、執事のケッラー。どうぞよろしくお願い致します。」
「よろしく」
「ドゥカス様、依頼の達成確認致しました。後ほどギルドへ報告と達成報酬を上げておきます」
「ありがとうございます」
「ウェーネ様もありがとうございました。そちらの成功報酬も後ほど──」
「そのことなのですが、後でドゥニージャ公にチョットだけ交渉させて欲しいのですけど?」
「畏まりました。お話通しておきます。アーギン様、お久しぶりです。何用でしょうか?」
「うむ。近辺でゴブリンの群れが発見されてな。そのことで公爵様と少々話がしたい」
「畏まりました。お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「出来るだけ早いと助かる」
アンキーナは一人一人サクサクと話を処理してゆく。アーギンまで話し終わるとケッラーに目配せする。
目配せしたケッラーは一礼して屋敷へと走ってゆく。
「それでは皆様ご案内致します」
ルクスたちは屋敷の貴賓室に通される。
机やソファー、カーペットなどの家具は高級なものを使っており貴族といった雰囲気である。しかし、装飾品は多くない。部屋の飾りは至ってシンプルである。
ルクスはアンキーナに勧められソファーへ腰掛ける。
「椅子をご用意いたしましょうか?」
アンキーナが他の3人に気を利かせる。
代表してアーギンが答える。
「いや、結構だ。それより、我々が交渉の場にいてよいのか?何であれば外で待っているが……」
「お三方は交渉内容がわかっておられるでしょうし、成立するにせよ決裂するにせよ、結果を報告するから問題ないと旦那様から仰せつかっておりますので」
「そうか」
3人はルクスのソファーの後ろへ立つ。
コンコンコン
ドアがノックされる。
アンキーナがドアを開けると、茶色の髪と瞳をした優しそうでハンサムなおじ様が貴賓室に入ってくる。
「初めまして。私、ミラリアム王国最東領・ドゥニージャ領の領主をしております、ドゥニージャ・ギエールと申します。ミラリアム王国女王陛下、レクス・オプリス・カルギーナ様より公爵位を拝命しております。よろしくお願いいたします」
ギエールは一礼し、丁寧に挨拶する。
ルクスがソファーに座ったまま口を開こうとした時、後ろにいるドゥカスがルクスの襟を摘まんで持ち上げる。
「挨拶の時は立つんだ」
「そうなの?」
「おう」
振り向くルクスにドゥカスはギエールに挨拶するように促す。
「ルクスだ。よろしく」
「おいコラ──」
「構いませんよ、ドゥカス。よろしくお願いします。ルクス様」
「様はいらない」
「わかりました。では、ルクス君と呼ばせて頂きます。どうぞお掛けください」
ギエールに言われ、ルクスはソファーに腰を落とす。
ギエールは距離を測るように雑談から入る。
「いや~それにしても思ったよりもずっと若くて驚きました。しかも男の子とは」
「若いのはわかるけど、男は珍しいのか?」
「珍しいですよ。魔法適正は女性の方が高いようで、魔道士の数も圧倒的に女性の方が多いのです。そのため男性の魔道士は取り合いになるほどなのですよ」
「ふーん、知らなかった」
「まぁ、魔力を持つ人間自体少数ですからね」
「ギエールも魔法が使えるの?」
ルクスの呼び捨てにドゥカスは小声で注意する。
「公をつけろ!公を!ギエール公か公爵様と呼べ!」
「そうなの?すまん、ギエール公」
「構いませんよ」
ルクスは「いいんじゃん!」というようにドゥカスの顔を見る。
しかし、ドゥカスは首を横に振る。
ルクスとドゥカスのやり取りを微笑ましく見ていたギエールは、ルクスの聞く姿勢が戻るのを待ち、ルクスの質問に答える。
「質問に戻りますが、残念ながら私は魔法を使えません。ですが、幸運なことに魔力を持って生まれました。おかげで平民だった私が貴族である妻にも拾ってもらえたんです」
「魔力があるのに、魔法が使えない?そんなことあるの?」
「ええ。魔物の中にもそう言った種族が存在します。ルクス君もあったゴブリンもそう言った種族ですね。ただ、魔力による身体強化は可能ですから、持ってない者よりは多少強いですよ」
「なるほど……」
ルクスは改めて自分が何も知らないことを思い知る。
「あのさ、なんか俺に依頼があるんだろ?」
「申し訳ない。無駄話が過ぎましたね」
無駄話によりルクスを不快にしたと勘違いしたギエールが頭を下げようとするが、ルクスがそれを制止する。
「そうじゃなくて、その~……え~と……依頼受けるからさ──」
「お待ちください!!」
ルクスの発言をギエールとウェーネが同時に止める。
ウェーネは発言をギエールに譲る。
「我々としてはルクス君とは今後ともぜひ懇意にしたいと思っております。
だからこそ、注意させていただきますが、依頼内容を聞く前に依頼を受けるという行為をしてはなりません」
「……すまん」
「いえ。こちらこそサッサと本題に入らず、ダラダラと回りくどいことをいたしました」
ギエールは優しく微笑むと本題に入る。
「私からの依頼ですが、魔法の講師を頼みたいのです」
「魔法の講師?」
「はい。私にはペトラという現在12になる娘がいまして、魔力を保持していることがわかっております。
ですが、現状私と同じく魔法を発現しておりません。
私は何としても娘に幸せになってほしい!
だからこそ、魔法を習得させてあげたいのです!
もちろん、報酬も私が用意できるだけの金額を用意させていただきますし、他に必要なものがございましたら何なりとおしゃっていただいて構いません!!
どうかよろしくお願いいたします!!」
ギエールは土下座をする勢いで机へ頭を下げる。
そんなギエールを見たことがないのか、ドゥカスとアーギンは慌てている。
しかし、ルクスは迷わず返答する。
「今その依頼を受けることはできない」
「な、何故です!?」
ギエールは必死にくらいつく。
「あんたの娘がどうしたいのか聞いてない」
「!?」
「この国では魔法が使えることが特別なことだということも、幸せを掴みやすいということもわかった。ただ、それで苦労した奴もオレは知ってる」
「……確かにそうですね。
……どうやら娘を思うがあまり、娘の気持ちを置いてきてしまったようです。では、娘に会っていただけないでしょうか?ルクス君であれば平気だと思いますので……」
「わかった」
「ありがとうございます!ああ、その前にルクス君の要望を聞いてもいいでしょうか?」
ギエールの言葉にルクスは深く息を吐くと自身の要望を言う。
「ああ。え~とだな、道中も今のギエール公の話を聞いても、オレは世の中のことを何も知らないと思った。だから……オレに知識を付けてくれないか?」
「知識?」
するとギエールの後ろに立っていたアンキーナが発言する。
「よいと思います。失礼ながら、ルクス様にはあまり常識や教養といったものがないようですし、お嬢様が先生として世の中のことを教えるということでいかがでしょう?人に教えるのは何よりも身になりますので、お嬢様にとっても良い経験になるかと」
「あの子が先生というのは非常に心配だが……どうかね?」
ギエールは悩むも自分で決めきることができず、ルクスへと投げる。
「なんでもいいよ」
「では、やらせてみようか……」
ギエールはまだ不安そうであるが納得する。
ルクスとギエールの交渉は一旦終了する。
アンキーナがドアを開ける。
「では、ルクス様、ウェーネ様、お嬢様の下へご案内いたします」
「待て。私が案内しよう。アーギン、ドゥカス、しばし待ってもらえるか?」
「承知です」
「じゃあ、アンキーナ2人を頼む」
「畏まりました」
ルクスとウェーネはギエールの案内でペトラの下へ向かう。
ペトラの部屋は屋敷の最奥の部屋である。
ペトラの部屋に続く廊下は明かりが点いておらず、光は窓から差し込む光のみ。きれいに清掃されているが、付近の部屋は使われていないのか生活感が感じられない。
ルクスもウェーネもその妙な違和感に気付いていた。
ウェーネは当然警戒する。
「公爵様、何故あのメイドではなくわざわざ公爵様が案内を?」
「彼女ではペトラを紹介することが難しいのです。お2人を部屋の前まで案内したら後は何もできませんので」
「どういうことです?」
「どうも魔力のない者はペトラの近くに長くいられないようなのです」
「……?」
「魔素超過か」
ウェーネは疑問の表情を浮かべるが、ルクスが答えを口にする。
その言葉にギエールは過剰に反応する。
「魔素超過?魔素超過とは何ですか!?」
「確か、許容量以上の魔素を体に取り込むと症状が出るって先生から教わったな」
「その魔素超過が発症しない方法とかはあるのでしょうか?全員とは言いません、せめて家族や、使用人の者たちだけでもあの子が普通関われるようにできないでしょうか?」
「魔素超過に耐性を持つには魔素をコントロールする才能が必要。才能があれば耐性を付けられるけど、なきゃ無理」
「……そうですか……」
ギエールはガックリと肩を落とす。
「けどな、ペトラって奴を他の奴と普通に関わらせることはできる」
「ほっ、本当ですか!?」
続くルクスの言葉にギエールは頭を上げ、ルクスの手を握る。
「ペトラって奴が魔力をコントロールすればいい。まぁ、これも才能次第だけどな」
「可能性はあるのですよね!?お願いできますか!?」
「あ、ああ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
ギエールは何度も何度も頭を下げる。
もの凄い圧に引き気味のルクスであったが、娘を思うギエールの姿に肩の緊張が抜ける。
ギエールは足取り軽く、ペトラの部屋へと向かう。
コンコンコンッ
「ペトラー、起きてるかい。父さんだよ」
「……」
「今日はペトラに会わせたい方がいるんだけど~」
「……会いとうない」
「そう言わずに、なっ。魔法が使える方なんだ。もしかしたら、ペトラもみんなと一緒に過ごせるようになるかもしれないんだ」
「……ほ……本当か?」
「もちろんさ!だから、ちょっとだけでもいいんだ。会ってくれないかな?」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ!」
部屋の中でバタバタと動き回る音がし、しばらくしてからドアの鍵がカチャンと音を立てる。
「まだ待つのじゃ」
「……」
「よいぞ」
ギエールはノブを下げてドアを開ける。
ドアがほんの少し開いた瞬間、ウェーネが飛び退く。
部屋から溢れ出した異常な魔力に、ギエールも必死に耐えてはいるがほんの少し顔が歪む。
2人の様子を見て、部屋の中で入口から最も遠いベットの上で掛布団に包まり小さくなっているペトラは俯いてしまう。
ルクスは遠慮することなく部屋に入ろうとする。
「お待ちください、ルクス様!!」
ウェーネが止める。
「ちょ、ちょっと待ってな」
そう言うとギエールは一度ドアを閉める。
「公爵様、この部屋はなんですか!?私は魔力感知には自信がございます!にも関わらず、扉を開けるまで一切感知することができませんでした!これほどの魔力です、いくら分厚い壁であったとしても全く魔力が洩れないというのは不自然です!!」
ウェーネはギエールに疑念の目を向ける。
ウェーネに疑いをかけられたギエールであったが、一切動じることなく丁寧に解答する。
「先ほどお2人とも体感していただけたとは思いますが、娘のペトラの魔力は尋常ではなく、並の人間では近くにいるだけで目眩や嘔吐を引き起こし倒れてしまいます。
そのため、この部屋の壁には封魔液という特殊な液体を練り込んであるのです。
ですので、娘の魔力が外へ洩れることはありません。それもあって、ウェーネ様であっても壁を挟んでの魔力感知ができなかったのだと思われます」
「封魔液?」
「ええ。数年前に王都で開発された魔力を封じることのできる不思議な液体です。これにより、即時処刑するしかなかった犯罪を犯した魔道士を処刑するのではなく拘束することも可能になりました。加えて、封印系や拘束系の魔法が使えずとも魔物を封印したり拘束したりできる他、室内で飼うことできるようになったとか」
魔力を封じるという言葉に、魔道士であるウェーネは嫌悪感を示す。
ルクスも封魔液には引っかかり質問する。
「その液体があれば魔力のない奴でも魔力のある奴に勝てる?」
「可能性はなくはないですが、不可能に近いでしょうね。魔力は身体強化もされますから……魔力のない人では太刀打ちできないでしょうね。ただ、魔力を持つ者同士で片方が封魔液を所持していた場合は、もしかしたら戦闘は一方的になるかもしれませんね」
「ふーん。なるほどねー」
聞きたいことが聞き終わったルクスは、封魔液の施された部屋に入るのを渋っているウェーネに言い放つ。
「ウェーネ、部屋に入りたくなければドゥカスたちの所に戻ってもいいぞ?別に今顔合わせをしなければいけないわけではないからな」
「いえ、お供させてください」
ルクスはドアを開けペトラの部屋へと入る。
ペトラの部屋はパステルカラーの女の子の部屋と言った配色である。
しかし、部屋の中にはペトラの苦悩と我慢の跡が見える。
机やベット、床にはぬいぐるみや本が散乱しており、服も脱ぎ散らかされている。その上、いくつかのぬいぐるみや服は引き裂かれボロボロになっている。
ルクスはチラリと部屋の様子を確認すると、毛布に包まっているペトラを真っ直ぐと見る。
ギエールやウェーネと異なり平然としているルクスに驚き、ペトラは思わず声をかける。
「おぬしは苦しくないのか!?」
「別に」
「そ、そうか……」
嬉しそうにするペトラを見て、部屋の前で尻込みしていたギエールは根性を見せる。
ウェーネとともに部屋へ入るとドアを閉め、互いを紹介する。
「ペ、ペトラ、こちらがさっき紹介した魔法が使えるルクス君だ」
「よろしく」
「私の娘のペトラです」
「ペ、ペトラじゃ」
ペトラは下から窺うようにルクスを見る。
対照的にルクスは見下ろすようにペトラを見る。その角度はまるで格下を蔑んでいるように映る。
「な、なんじゃ!?」
ルクスの圧に押されたペトラが小さく威嚇する。
「なぁ、ギエール公、魔力のコントロールにはそれなりの覚悟と精進がひつようになるんだが…こいつ根性なさそうだけど大丈夫なのか?」
「なんじゃと!?父様、なんなんじゃこの失礼な奴は!?」
ルクスの素直な感想にペトラは不快感を露わにする。
ギエールはそんなペトラを宥めるようにルクスのことを説明する。
「え~とね、こちらのルクス君はペトラがみんなと一緒に暮らせるよう、魔力のコントロール方法を教えてくれる魔法の先生だよ。
それと、ルクスは田舎で育ってあまり世の中のことを知らないようだから、ペトラはルクス君に世の中のことを教えてあげる先生になってあげて欲しいんだ」
「ワシが先生?なんじゃ、おぬしアホなんじゃな!」
ペトラがさっきのお返しと言わんばかりに煽る。
その発言にルクスの蟀谷がピクリと跳ねる。
「あ゛?お前は客が来てんのにビビって毛布に包まってる逃げ腰のひきこもりだろうが。知ってるか?挨拶する時には立つのが常識なんだぜ」
「ビビっとらんわ!」
ペトラが掛布団を取っ払い、ベットの上に立つ。
ふわりとした赤みの強いブロンドの髪に、琥珀のような美しい瞳。肌はあまり陽を浴びることができなかったため白く、小柄な体格。小さな口からは八重歯が覗いている。
「こらこら、はしたないからベットの上に立つんじゃありません」
ギエールがペトラを注意する。
注意されたペトラは素直にベットから降り、腰に手を当てルクスの前へと進み出る。
ベットから降りるとペトラの背の低さが余計際立つ。
ルクスはギエールに不安をぶつける。
「なぁ、こいつ本当にオレより知識あるのか?」
ギエールが入る間もなくペトラがくってかかる。
「今、ワシの背を見て言ったじゃろ!失礼な奴め!おぬし歳いくつじゃ!年下じゃったら許さん!土下座じゃからな!」
「14だけど。お前は?」
「なぁっ!?ムぅ……レディーに歳を聞くのは失礼なんじゃぞ!常識じゃ!」
ルクスはペトラのことを鼻で笑う。
「レディーって。ちんちくりんのお前がか?」
「むうー。女の子にもダメなんじゃ!それとお前じゃない!ワシにはペトラと言う名があるのじゃ!」
「はいはい。ペトラな」
元気に言い合うペトラを微笑ましく思いながらも、ペトラの魔力に耐え切れずギエールは膝をつく。
ウェーネもしんどそうに汗を拭う。
「父様!?」
「大丈夫だよ。そ、それでルクスくん、依頼を受けてもらえるだろうか?」
「とりあえず魔力のコントロールは教える。第一印象よりかは根性ありそうだし。魔法に関しては…また別だ」
「ワシも先生やるぞ!このアホに常識というモノを叩き込んでやるのじゃ!」
「2人ともありがとう。何か必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ」
こうしてルクスとペトラはお互いがお互いの先生となった。




