グラディエーターの細剣1
―――騎士はやがて馬を降り、鋼鉄の猛禽に乗り込んだ。
空は人々の夢だった。数えきれない人々が挑み、青空を血に染め上げていった。
歴史を紐解けばその試みは数え切れない。あらゆる時代で、あらゆる地域で、人は空に挑み散っていった。
人力で。魔術で。動物で。呪術で。信仰で。そして―――科学で。
やがて気球という方法で空への足がかりを得た人類は、だがその用途を即座に遊覧から軍事に切り替えた。
二次元的な、平面的な戦術は、三次元的な立体戦術には敵わない。
空を得た軍隊は神兵が如き武勇を発揮した。
文字通りに次元が一つ違う。航空戦力がある軍隊とない軍隊の戦いは、手足を縛っての戦いに等しい。
どうやっても、どうあがいても、航空戦力がない軍隊は勝てない。
故に、当然ながら彼らも黙ってやられはしない。空には空で対抗するしかない。
より高く。より早く。より迅速に。加速度的に技術は進歩した。
1億5000万年かけて進化した鳥類の飛行能力を、人間はたった数百年で超えてみせたのだ。
当初拙い幼児の歩みのように緩慢だった航空機の発展は、奇形的にまでに強引な進化を促され急速に激変する。
人は確信する。
空という無形の領地を占領した軍勢こそが、戦争の圧倒的アドバンテージを得ることを。
だからこそ求められた。敵地に偵察する為の偵察機ではなく、地上を蹂躙する為の爆撃機でもなく。
ひたすらに、空において最強であることを求められる航空機。
戦闘機が、作り出されたのだ。
戦闘機パイロットという業種が生まれたのは、当然ながら近代に突入してからだ。
歩兵は歩兵として存在したし、砲兵は弓兵の生まれ変わりといえよう。
だが流石に戦闘機パイロットの前身が存在しない―――かといえば、そんなことはない。
彼等もまた、古来より連なる系譜を有する歴史ある戦士なのだ。
近代戦争を象徴する機械工学と航空力学の神髄が、貴族騎士達の者達によって駆られたことを知る者は少ない。
馬を操り剣を振るった騎士達は、時代の変化に伴い初期の戦闘機パイロットとして大空の騎馬戦に身を投じることとなる。
そう、最初に空で戦ったのは他ならぬ騎士身分の者達だったのだ。
人類史上初の世界大戦、『第一次世界大戦』。
それからおよそ130年―――いまだ、騎士の血筋は途切れてなどいない。
現代技術によって徹底的にチューンナップされた『本物』の戦闘機を操り、レーサー達は大空を駆ける。
エアレース・レジェンドクラス。
改造規約はただ1つ、『プロペラ機であること』のみ。
「―――凄い数なのです」
その圧倒されるような雑踏に、気圧されたようにアリアは呟いた。
試合会場たる海岸、その浜辺の上に設置された各種天幕。
海上には多くの空部部室船が停泊しており、その数だけ各校の空部部員達も忙しそうに縦横無尽に歩き回っていた。
どこから現れたのか並ぶテントには出店が出張しており、節操も規則性もない商品が陳列されている。
まるで……というか、まさしく祭りなのだ。
「これ、全員が学生エアレーサーなのですか?」
敵情視察という名の散歩に出ていた武蔵とアリア。
感嘆の声を漏らす彼女の問いに、武蔵は簡潔に否定した。
「なわけないだろ」
素っ頓狂なアリアの疑問に、武蔵はチョップで返答する。
「痛いです」
「チームの大半はバックアップだ、8割は現場のメカニック関連だぞ」
「でも私達のメカニックは由良1人でなんとかなってますよ? そんなに必要なのですか?」
「整備は俺やハカセもやってるがな」
だが由良1人がメインなのは事実だ。人員配置はかなり歪な部類だろう。
「エンジニアは経験とセンスが問われるものだ。熟練工であれば1人で何人分も動ける」
「ブラック職場ですね」
「薄給どころか無給だからブラック以下だな」
超人天才なハカセや謎アンドロイドのタマはさておいて、あらゆる技術的問題に1人で対処出来る由良は弱小たる雷間高校空部にとって不相応に優秀な人材といえた。
彼女がいなければ、今頃武蔵は表に裏に忙殺されていたはずだ。
「由良ちゃんはあの歳で全部こなせる、超がつくほどの一流職人だ。普通は1機につき10人くらいつくのも珍しくはない」
「いやなんで私を数に数えてないんですか。私だって百式の整備くらいしてますよ!」
「この前組み上げ終わった後にナット余ってたのを忘れちゃいないぞ」
「多少締め忘れてたって平気ですって」
「家電や家具ならそうなんだがな、飛行機はビス1本で空中分解するからな、マジで」
セミモノコック構造の飛行機にとって、設計外の張力は亀裂の原因となる。
そして亀裂は一気に破断し、機体は突如空中分解するのだ。
故に飛行機の整備に感覚的な作業は許されない。あらゆるビスやナットを正しいトルクで絞めることを求められるのだ。
この感覚バカに整備を任せるのは極力控えさせよう。武蔵は今更ながら心に決めた。
「でも、飛行機って本当に手間暇かかりますよね。常時どこか壊れているじゃないですか」
落とした飴玉に群がる蟻のように、各々の飛行機に取り付き作業を行う他校のメカニック達を見てアリアは嘯く。
これまでの運用経験から、『自動車や船よりずっと安全』という安全神話すら確立しているはずの飛行機という乗り物が、意外と壊れやすいものだとアリアは理解していた。
「我が家にあるブラウン管テレビは未だに現役故障知らずだというのに」
「物持ち良すぎだろ、つかチューナーとか周辺機器の準備が逆に面倒だろそれ」
家電がメンテナンスフリーでずっと動くのに対し、飛行機は一度飛ぶごとに入念な整備を必要とする。
その落差は、よくよく考えてみればとても異常なものだとアリアには思えた。
「エアレーサーに使用される戦闘機がモノとして単純に古いから、ってのもあるが。そもそも規模の割に複雑すぎるんだよ、航空機っていうのは」
ギネスブックで認められる『人類の歴史上もっとも複雑な機械』も航空機の一種である。
軽さと高性能を両立させるのは完全な矛盾の突き詰めなのだ、その対価が工業製品としてのあまりの脆弱さに出ている。
「安静にしていれば軽傷なら勝手に治るくらいの治癒能力があってもいいのに」
「こえーよ」
武蔵はかつてプレイしたシューティングゲームの、触手の生えた戦闘機を連想した。
「生態部品なんてフィクションの中で充分だ」
以前目撃した巨大生物に関しては忘却するものとする。
藪を突いて蛇を引きずり出す必要などないのだ。
「傷が消える塗装とか、聞いたことがあるのです」
「あれはあれだ、なんというべきかな。カフェラテあるだろ」
「ラテアートとかのコーヒーの?」
「それ。細かい泡が上に乗ってるカフェラテだが、上から息を吹きかけると泡が割れて下のコーヒーが見えるだろ」
「ラテアート台無しですね」
「でも息を止めると泡が戻ってコーヒーが見えなくなるだろ。そんな原理だ」
「わかるような、わからないような?」
生物は複雑なだけのただの機械である、と提唱したのはデカルトだが、残念ながら人の作る機械は生物と呼べる域には達してはいない。
生物はあまりに複雑であるが故に絶えずどこか故障しているが、同時に絶えず自己治癒している。幸運と適切な管理が揃えば数十年に渡って特別な修理を必要としない機械など、生物以外にはありえない。
どれほど完成度の高い機械であっても、一定時間での部品交換やメンテナンスは必須となる。
機械は疲れ知らず、なんていうのは迷信だ。
機械というのは、人間が常に気を使わねばならないほどに『病弱』なのだ。
「でも機械だって、調子が悪い部分が急に機嫌を持ち直したりしますよ。時々自己治癒してるんじゃないかって思う時もあります」
機械あるあるである。
「機械が勝手に治ることはないから応急処置で済ませるな、ってのは修理屋の鉄則だがな」
絶えずどこかが壊れ続ける機械だからこそ、その面倒を見るという工程はマニュアルによる流れ作業にしにくい部分がある。それを学生が数で補うからこそ、他チームではバックアップが大量に必要となってしまうのだ。
「ほれ、見てみろ。あのチーム、メカニックの中には手持ち無沙汰な奴もいるだろ?」
「サボタージュとは関心しませんね」
「ああいうのは、むしろマネジメント上のミスなんだ。適切な場所に適切な人数を配置出来ていない」
1人の患者に10人の医者がついたところで治療が滞るだけだ。
その辺の理解が及んでいないと、技術者という正面戦力にのみ注視して、後衛の人員を軽視するという事態が起こりうる。
無論、機体とパイロットばかりが揃ってしまいメカニックが不足するよりはずっとマシなのだが。
「後ろで見学させてるのかも?」
「見てるだけで習熟するなら世の中プロフェッショナルばっかりだよ。解ってない人間に教えるってのはとても大変なことなんだぞ」
「まるで苦心して人に教えた経験があるような物言いですね」
「まさに今実践してるだろアンポンタン」
やって見せて、言って聞かせて、やらせて見て、ほめてやらねば、人は動かず。
教える側も頭を働かせてちゃんと考えなければ、人を育てることなど叶わないのだ。
「その点由良ちゃんは完璧だ。内気だがホウレンソウは徹底しているし、必要な場合は遠慮なく意見を求めてくる。何より可愛い」
「由良様々ですね」
「ほんとにな」
コーチたるハカセもあまり部活動には来ないので、実質的に武蔵とアリアの機体2機を維持するのは由良ほぼ1人の仕事となっている。
単身で2機の面倒を見る現状。それを武蔵が良しとしているのは、それすらも由良の能力キャパシティを下回っているからに他ならならない。
日頃の作業スケジュール管理から消耗部品の交換、想定外のトラブルに対する対処まで。由良はそれを軽々とこなしてしまっているのである。
「どこかでねぎらってやらんとな」
「セクハラなのです」
「お前結構スケベだよな」
会場をブラブラと一通り見て回った2人は、秋津洲へと戻り着く。
各国軍や民間から払い下げられた部室達の中、一際ショボい秋津洲にアリアは嘆息した。
「ちっさ! 秋津洲ちっさ!」
「航空機運用能力があるとはいえ、他が退役した空母や揚陸艦、ヘリ空母だからなぁ……水上機母艦なんて骨董品使ってるのは俺らくらいだ」
両脇に控えるキティホーク級(319メートル)といずも型(248メートル)に挟まれる秋津洲(114メートル)は、まるで主力艦と随伴艦である。
そのあまりのサイズ差に、船に戻るのに気後れしてしまうアリアであった。
「武蔵! 我々にも、もっと豪奢な部室船が必要だと思いませんか?」
「俺達の部費で正規空母なんて手を出した暁には、船を動かすだけで予算が吹き飛ぶっての。ほれ、開会式が始まるまで少し時間がある。対戦相手の情報を確認するからさっさと乗るぞ」
「はーい」
カンカンと金属板を打ち鳴らし秋津洲のタラップを登っていると、武蔵が思い出すように補足する。
「ああ、それと。さっきはああ言ったが、たぶん飛行機もそのうち自己治癒するぞ」
「え、なにそれキモいです」
「最近の航空機は人工知能を搭載してるから、自己診断してパーツを要求してきやがる。自己修復もその延長だろうさ」
航空機に搭載された様々なセンサーから得られる情報を統括診断し、異常がおきた装置を特定。
装置の交換手続きまでもを自分で行うコンピューターは、既に実用化されているのだ。
「さすがに飛行機から腕が生えて自分で装置を組み替えていくのはまだ不可能だが、結局のところ時間の問題だ」
「でもそれだと、装置のどこかが少しでも壊れていたら全損扱いになってしまいません? ヒューズ1つ飛んだだけで工場に送り返すのは乱暴では?」
「それもそうだが、機械はひたすら複雑化の一途を辿っている。現場の整備士による診断が限界に達しているんだ」
「だから現場には期待せず、後方に運んでしまえと?」
「勿論全てのトラブルでそれをやるわけじゃないが、まあ素人修理でエンジン止まったらつまらんだろう」
現場の人間に超専門的な修理技能を求めるより、優秀な専門家を工場に集中させて年々高速化する物流技術によって迅速に運び込んだ方が楽になってしまったのだ。
「地球の裏側から取り寄せた本が即日届くような世の中だからこそ可能な荒業だな」
「中途半端な技術しか持たない職人の立場のないご時世ですね」
「まあな。だがそれすら必要としない、完全な自己治癒が可能な工業製品ももう既に存在する」
秋津洲の甲板に到着した武蔵は、地面を指で差す。
「……飛空艇?」
「もっと下」
秋津洲は信頼性の高い部品をひたすら堅牢に組み込んであるだけで、治癒能力があるわけではない。頑丈すぎて100年後でも動いてそうな、余裕のある設計なのは確かなのだが。
「タマ?」
今頃格納庫で由良の手伝いをしているであろうマジカルアンドロイドを思い出すアリア。
「あれは謎な部分も多いから自己治癒しても不思議じゃないが、もっともっと下」
もっと下には何があっただろうか、とアリアは船の端から身を乗り出して下を覗き込む。
武蔵は静かにしゃがみ、アリアのスカートを覗きこもうとした。
「宇宙コロニー、セルフ・アークだ。こいつは燃料確保から部品の製造まで、全てスタンドアローンで可能となった世界初の機械だよ」
「どうしてしゃがんでるんですか?」
「ほいさ、えっさ、試合前のストレッチだ」
ごく不自然に屈伸運動を始める武蔵。
これまでは人の居住環境を宇宙に浮かべるには、常時数千人の専門家を張り付かせる必要があった。
だがそれはあまりにコストがかかり、人数が多いからこそヒューマンエラーのリスクも増える。
だからこそ、人工知能を搭載した次世代の宇宙コロニーの製造が行われた。
「仮にセルフ・アークが制御を失って宇宙に放り出され、かつコロニー内の人間が一切の専門技術を失ってしまっても、このコロニーは何百年だって自分を守り自立稼働し続ける。極端な話、人類が滅亡したって内部で次の知的生命体が生まれるまでセルフ・アークはゆりかごとして宇宙を飛び続ける。とんでもない話だな」
「まるで地球なのです」
「むしろ驚くべきはそれだけの環境保全能力を抱する巨大宇宙コロニー『地球』そのものなのかもしれん。ほんと奇跡の惑星だぜ」
「奇跡の星を食い潰す人類ホント害悪ですね」
「環境破壊する動物は人間だけじゃないし」
環境を破壊する動植物は意外と多いのである。
良くも悪しくも影響力は人間がぶっちぎりだが。
「他の星をテラフォーミングするよりずっと安上がりだし、これからはこのタイプのコロニーが主流になるはずだ」
宇宙で最も研究されている惑星の地球ですら、気象現象や地殻変動に人は振り回されている。よく判ってないどこかの星を無理に地球に近付けようものなら、どんな弊害があるか判ったものではない。
ならばセルフ・アークのような維持費が最小限で済む人工知能型スペースコロニーを建設するほうが、ずっと低リスクでローコストというものだ。
日本国内の都道府県の1つとして扱われるこの宇宙コロニー。内部の面積こそ県より小さいが、居住可能な許容人数は決して劣りはしない。
作れば作るだけ、県1つ分の国家としてのキャパシティが増えていく。これから宇宙人口は爆発的に増えていくのは有識者達にも確実視されていた。
「そのうち、人間は地球を忘れるかも」
「忘れはしないだろうが、価値は激減するな。そんで地球丸ごとが記念公園として保存対象になったりするんだぜ、『人類発祥の星』ってことで」
「保護の名のもとに飼い殺される原住民みたいですね」
「ハハハ」
お前の祖国的に笑えねえよ、と武蔵は乾いた笑いを漏らした。
とんだブラックジョークである。
コロニーの海を見つめ、武蔵はふと考える。
この宇宙コロニーを制御する人工知能は、おそらくは現行世界最強のスペックを誇る。
しかしそれでも、人間と同等の情緒を持つ『本物の人工知能』ではない。少なくとも表向き、そう公表されている。
「コンピューターウイルスもどきの人工知能が、宇宙コロニーの人工知能に劣るものか……?」
厳密にいえば、優劣の話ではない。
その日の気分で立ち振る舞いが変化する人工知能に宇宙コロニーの制御を預けるなど、それこそブラックジョークだ。
だが、それでも―――足元に巨大な比較対象があるからこそ、自称『本物の人工知能』であるタマの異常性が際立つ。
彼女の感情豊かな言動は自称通りの知性を感じさせるものだ。電波の向こうに生身の人間がいることを疑わせるほど。
しかし、そうではないことは初期の実験で立証済みである。
「でもやっぱり多いです」
「すまん、考え事してた。何の話だっけ」
「ここに集結した学生エアレーサー達ですよ。こっちに引っ越してきて、最大の人口密度かもしれません」
「そうか?」
「私は普段どれだけ小さな世界にいるのかと痛感します。セルフ・アーク内にある中等教育学校は100以上、カウンティというだけあります」
「日本風に言ってくれ、ややこしい」
「こんなにライバルの空部があるとは思わなかった、という話ですよ」
この人工の大地には、小規模な国家に匹敵する人が住んでいる。
普段は意識することがなくとも、やはり人口に比して相応に学校があり、空部があるのだ。
「そっちは新南部商業高校か。あれはセルフ・アーク大苫地区高校。うわ、町禄学園の連中が復帰してやがる。俺達雷間だって新参だし、今年は乱戦になるかもな」
武蔵は目ざとく各校の様子をチェックしていく。
船さえ覚えておけば、遠目でも学校名を確認するのは難しくはない。
「有名な空部ですか?」
「名前を把握している程度にはな」
「ああっ、武蔵くん、アリアちゃん! そんなところにいた!」
背後から声をかけられ、振り向くと妙子が書類を抱えて疲れた顔をしていた。
「大会のスタッフさんから開会式前にメディカルチェックにくるように、って言われたわ! もうっ、2人っきりでどこ行ってたのよ!」
「すいません、会場の雰囲気を見ておきたかったのでその辺回ってました」
「申し訳ありません。私が我儘を言ったのです」
「あっ、うんん! いいのよ、ごめんね声荒げちゃって」
わたわたと手の平を横に振る妙子。
武蔵に対するのとは違う意味で、妙子はアリアには弱い気があると武蔵は思った。
妙子は可愛い後輩に対し、いい格好したがるのだ。
「でもメディカルチェックって何をするのですか? 採血は苦手なのです」
「えっと、ええっと、手相……とか?」
知ったかぶりする妙子。
武蔵は口の端を三日月のように吊り上げ、同調した。
「その通りです。アリア、手相チェックはパイロットの重要事項だ。忘れるなよ」
「了解なのです」
「……いじわる」
妙子はいじけて、上目遣いで武蔵達を睨みつけた。
「ごめんごめん、だからそんな顔しないで下さい」
拗ねた美人には勝てないと、早々に降参すべく両手を挙げる武蔵。
「でも人相や手相の良し悪しでパイロットを選出した国は実在するんですよ」
「そう言ってまたからかう気でしょ。国防に関することを、そんなオカルトで判断するわけないわ」
「うげげ、信頼性なくなっちまった」
これ以上薀蓄を語ったところで信じてもらえないようなので、武蔵もトリビア発表会は閉幕することとする。
なお手相なんぞでパイロットをふるいにかけたアレな軍隊とは、外でもない日本海軍である。




