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ローエングリンの未練2

久々ですし短いので2話更新しました。

これは今日2話目なのでご注意ください。




 梅雨などという誰も望んでいない初夏の風物詩を、コロニーの人工知能は適当に済ませたらしい。

 そんなコロニーの人工知能だが、その後の夏本番に際しては手を抜くようなことはしなかった。


「熱いぃ……暑いじゃなくて熱いぃ……ばっかじゃねえのコロニー制御してる人工知能……」


「いくら日本領とはいえ、湿度まで再現することないじゃないですか……」


 自室のベッドで暑さに悶えぐったりと横たわる武蔵と、その上に覆いかぶさりぐったりするアリア。

 その様子は、さながらハンバーグ上のチーズのバツ印。

 暑いならなんで人の上に乗るんだよお前は犬か、と抗議したい武蔵であるが、そんな余力もない。


「クーラー付けましょうよー」


「ない。扇風機で我慢しなさい」


「いや宇宙開拓時代でクーラーないって、そんな……え、まじで?」


 武蔵の発言を嘘だと考えて室内を見渡したアリアは、本当にそれらしき機械がないことに愕然とした。


「ど、どうして……!? クーラーくらい買いましょうよ!」


 アリアは信じられなかった。

 エアコンがない部屋に住む文明人がいるのか。そんな部屋に住んでいながら文明人と呼んで良いのか。


「これが半文明国家なのですか」


「美人なら差別発言が許されると思うなよ」


 抗議しつつも武蔵は実のところ怒ってはいない。

 背中にのしかかる美少女の重さと体温が心地よい。美人ならなんでも許されるのだ。


「というか部屋に不法侵入してる奴がなに言ってんだ。暑けりゃ帰れ、お前ん家にはエアコンないのか」


「宇宙コロニーでは年中快適な温度湿度が保たれていると思ってましたから……」


 なんということか。アリアの家にはエアコンがないのだ。

 彼女もまた非文明人であった。


「そりゃま、コロニー自体が巨大な空調完備の建物みたいなもんだしな」


 暑さにグロッキーな現状においても、コロニーの空調設備は普通に稼働している。

 空調制御の不調はコロニー内部の生物の死を意味する。

 セルフ・アークのエアコンは基本的に、年中無休24時間稼働なのだ。

 即ち、夏の暑さも冬の寒さも全て予定通り。何らかの不調とか、そういうのでは決してないのだ。


「最近のコロニーを制御する人工知能は住人を殺しにかかってる」


「わざわざ夏だからって暖房強くするなんて、とんだエネルギーの無駄使いだと思いませんか」


「逆だ。普段は冷房ガンガンで適温にしてるんだよ、夏は冷房緩めて温度を上げてるんだ」


 宇宙は寒いという通説は嘘である。

 いや別に嘘ではないのだが、外壁を大気に触れているわけでもない宇宙コロニーは熱を逃がす術がかなり限られているので、放っておくとすぐに熱々に熱せられてしまう。

 魔法瓶の中に発熱するカイロを入れておくようなものだ。人間の体温はカイロほど熱くはないが、熱が生じるばかりで廃熱がないとなると、どこまでも温度は上昇してしまう。

 それこそがセルフ・アークの夏という現象なのだ。

 そんな熱量は冷媒ガスでコロニー中からかき集められ、あの手この手で宇宙空間に放出される。実はここが一番面倒くさい。


「そう聞くとなんだか大きなだけの冷蔵庫みたいですね、宇宙コロニーって」


「実際理屈は大差ない。冷房の仕組みは100年前から変わってないよ」


 暑さにかえってムラムラしてしまった武蔵は、腹の上で定位置を求めてくるくる回っているアリアの尻を撫でてみる。


「くそっ、肉っ気の欠片もない」


「言いたいことはそれだけか」


「由良の方がまだ柔らかかった。大臀筋だこれ。男の尻だこれ」


「泣くぞ私だって」


「お兄ちゃん、そろそろ出かける時間……あーっ!」


 武蔵を呼びにきた信濃が、重なり合った武蔵とアリアに驚愕の叫びを上げる。


「お兄ちゃんとアリアちゃんが例年にない暑さに悶えつつ宇宙コロニーの冷房事情を語りながら、定位置を探してくるくるしつつお尻撫でてるー!」


「お前いつから見てた」


「不純異性交友はしばらくナシって約束したでしょお兄ちゃん! 男女七歳にして席を同……同席しちゃダメなんだよ!」


 ことわざがうろ覚えだった。


「水着姿でウロチョロするお前に倫理面でどうこう言われたくはない」


 信濃は家の中を水着で過ごしていた。

 とはいえ今日ばかりは武蔵もあまりうるさく言うつもりはない。この暑さからだけで脱衣に走っているわけではなく、今日は友人達と海水浴に出かける予定という十二分な言い訳もあるのだ。

 それに水着といってもパーカーを羽織っており、これまでのメイド服だったり○産主義だったりするよりは遥かに常識的な行動といえる。


「とにかくお出かけだよお兄ちゃん。水着姿の女の子達がお兄ちゃんを待ってるんだよ!」


「待っているというなら、彼女達からこの部屋に遊びに来てほしいところだ。浜辺で水着なんてただのTPOの一環だろう。学校で制服を着るのと何が違うんだ。プールで水着を着るなんて当たり前なんだ。俺は教室でスク水を着る女の子達を見たいんだ」


「なにを急に語り出すのですか貴方は」


 思わずツッコむアリア。

 とはいえ露出度の多い女性達が武蔵を待っているのは事実。彼は魔王のような高笑いを上げつつベッドから立ち上がる。


「他の野郎がいないってのは喜ばしいな。俺の嫁達を他の男の視線に晒したくない」


「バイト先のハカセさんも来るよ、お兄ちゃん」


「それより待って今の悪役笑い何」


 集まるのはいつもの面子。それに追加して、これまであまり接点を持てなかった朝雲花純も参戦である。

 足柄妙子の友人である生徒会長。武蔵達がいつも迷惑をかけたりかけられたりかけたりかけたりかけたりしている間柄の女性だ。


「よしっ!」


「言っておくけどお兄ちゃん、股間のアレスティングフックを降ろした男の人なんてケダモノ扱いされるだけだからね?」


「俺がエロ目的の下半身男だと思われては困る。俺はかわいい子が好きなんだ、エロいことが好きなわけじゃない」


 何言ってんだこいつ、と少女達は白けた目を向けた。


「さっき私のお尻を撫でたじゃないですか」


「そもそも好意と性欲が結びつかないなんて有り得るの?」


「うーん、でも世の中には子孫を残すことに直結しない愛の形も色々ありますよ? 同性愛とか」


「アリアちゃん、同性愛でも性欲はあるからね?」


 愛という紀元前より語られる大いなるテーマについて議論するアリアと信濃に対し、武蔵は咳払いで水を指す。


「とにかく! そういう色々な愛の形を受け入れる新国家、それがセルフ・アークなんだ!」


「なんか無理にまとめようとしてますよこの人」


「こんなお兄ちゃんでごめんねお義姉ちゃん」


「うわぁ、勝手に籍入れられてる……」


 国家、思想、宗教、多種多様な価値観を倫理に反さぬ限り全て受け入れるべくお膳立てされた土壌。

 新世代の実験人工国家セルフ・アーク。多くの学者知識人達が目指す、国境なき新たな価値観。

 それは次世代の世界常識か、あるいは愚者達による時代の徒花と終わるか。

 どうなるかは、やってみなければ判らない―――だからこそ、人は実際に試してみることにしたのだ。


「少なくとも、こういう人が自分の欲求を叶える為の試みじゃないと思うのですが……悪法も法、ということなのでしょうか」


 崇高な理念の元に目指される新国家樹立の歩みが、一気に俗物で低俗なものに貶められた気のするアリアであった。





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