コンコルドの嘆願8
『2045年5月28日』
翌日、武蔵は大人の階段を駆け上がることにした。
その日は休日であった。今回の件でハーレムの具体性に手応えを得た武蔵は、前々から興味のあった1つの試みに挑んだのだ。
「今日はハーレムデートだ!」
男性1人に女性多数の、胃に穴が開きそうなチャレンジに挑んだのだ。
若者たちの待ち合わせに多用される、駅前のワニワニパニック選手のオブジェ。面倒事も済んだとあって、武蔵は晴れやかな気分で仁王立ちしていた。
「で、呼び出されたわけですが……正直、いつもの面子ですよね」
「右を見ても左を見ても女の子。世界に光あれ」
「あの……男も、います」
ハーレムデート。複数の相手を同時に楽しませ満足させねばならない、男として最大級の無謀な試み。
そして同時に、複数人の美少女を侍らすという至高の娯楽。
しかし―――武蔵は思ったほどの感嘆もなければ、思ったほどのプレッシャーもなかった。
ぶっちゃけ、それはいつもの光景であった。
「手でも繋いで見るか?」
「全員満足させねばならないのですよ? 貴方の手、5本もあるんですか?」
「手足は合計5本あるぞ」
「5本目の足とやらをへし折りますよ」
「あららー、アリアちゃんのイメージする5本目の手足ってナンダロー? っていうか、想像するソレは覚醒状態なんだー。スタンバイ状態じゃなくて覚醒状態で想像しちゃうなんて、やらしい子ー」
あまりに幼稚な揶揄であったが、ウブなアリアにはそれなりに効いた。
顔を真っ赤に染めた彼女は、武蔵の脛を蹴り飛ばす。
「あばばばば」
「武蔵の塩辛! 納豆! シュールストレミング!」
「お前発酵食品に恨みでもあんのか……?」
「腐った物を食べるなんて正気の沙汰じゃないのです」
「お前二度とチーズもパンも食うなよ」
アリアと言い争っていると、左右の手を掴まれる。
「とりあえず、今日のところは……ね?」
「甘えさせて下さい……お兄さん」
左右の手を取った、信濃と由良。
やれやれと肩を肩だけで竦め、6人は街中へと繰り出す。
「むう。私はどこを握ればいいのよ」
「まあまあ、両手が塞がっているんだから食事の時に『あーん』とかすればいいのよ」
「なるほど。お姉さんらしいところを見せたげるわ武蔵くん!」
きゃっきゃと語らう武蔵と時雨。
誤記ではない。そこには確かに、5人目のデート相手がいた。
「武蔵とデートなんて、すっごく久々!」
「なんでお前いんの。怖いんだけど」
何故か当然のように混ざり込んでいる白露時雨。
武蔵は視線で信濃に訊ねる。
『こいつに知らせたか?』
『まさか。蜂の巣突いて遊ぶ趣味はないよ』
昔馴染みの信濃にとっても、時雨は蜂の巣扱いだった。
「武蔵のハーレム計画は順調みたいね。まさかこれほど多くの女の子を囲んでるとは」
女子(一部男子)の面々を見て、時雨は感嘆する。
アリアは慌てて訂正した。
「待って下さい時雨さん、この中で武蔵と関係を持っているのは3人だけなのです!」
「貴女以外の全員じゃない。それに、デートに招集されてちゃんと集まってる貴女も大概よ」
「がーん」
武蔵のハーレム計画に徐々に馴染んでしまっていたことにショックを受けるアリア。
「違うのです。デートなんて、聞いていなかったのです。まあ変な予感はしてましたが」
以下が、女の子達にデートを申し込んだ際の反応一覧である。
信濃はあっさりとオーケーが貰えた。
由良も同じくあっさり承諾。
妙子は困っていたが、なんだかんだチョロい人なので押し切れた。
アリアは部活で必要な物を買うから付き合えと騙した。
花純は「武蔵くんとはそういう関係ではありません」ときっぱり断られた。
時雨は呼んでもいないのに居た。
なんだかんだで集まってはもらえたが、前途は多難である。
「武蔵、結局部活の買い出しはしないのですか」
「今日買うのは、部員同士の連携という目に見えない宝物さ」
「じゃあ金払って下さいよ。部費から出すと思ってたので、私ほとんど持ってきてませんし」
さっと手を差し出して、金よこせのジェスチャーをするアリア。
武蔵は彼女の手をフニフニ握って、サスサス撫でて、柔らかさを堪能した後に1万円札を乗せる。
「はい、お小遣い」
「いや、本当に渡されても困りますが……」
「甲斐性だよ甲斐性。ツンデレなアリアちゃんは、こういう大義名分がないとデートしてくれなさそうだし」
「はいはい、デートすればいいんですよね。このお金は余った分は貰いますよ」
「貢げば好意を持たれるって、昔のゲームみたいだな」
「ただ利用しているだけなのです。貴方に対する認識は変動してません」
変動なしというのは、それはそれで奇妙な話であった。
普通の友人なら『金払うからデートして』など言われればドン引きである。
「だがこれで、俺のハーレム計画も終わりが見えてきた」
「1人、けんもほろろな人がいますが」
「それだよ」
武蔵は神妙な顔で肯定する。
「そう、それは空に果てがないように……俺のハーレム道は、これからも続く」
「宇宙コロニーのここは空に果てありますけどね」
「俺達のハーレムはこれからだ!」
武蔵は人工の空へ拳を突き上げる。
生徒会長 朝雲花純を口説き落とす日はそう遅くはない。武蔵には、そんな予感があった。
というか、そう思っておくことにした。
今章はこれで終わりです。おつかれさまでした。
次章については、推敲に手間取ってるので少し遅れそうです。しばしお待ちを。




