コンコルドの嘆願5
『2045年5月26日』
翌朝、武蔵はぐったりとしていた。
「おい、今回流石におかしいぞ」
「さくばんは……おたのしみでしたね」
「攻略率100パーセントが揃ってれば、まあそうなるよね」
先に仕掛けたのは信濃だった。
彼女も嫉妬していたのだ。
義理とかではない正真正銘の血縁でおっぱじめる大和兄妹。隣には由良がいるというのにだ。
情事の物音にいたたまれず退室しようとした由良は、信濃に捕まり流されるままに乱入した。
あとは混戦であった。イギリスの銃剣突撃部隊もかくやというほどの乱戦であった。
「あーもう、俺のベッドがめちゃくちゃだよ。誰が片付けると思ってるんだ」
「私なんだよなぁ……」
色々と色々なことになっている武蔵のベッド。
信濃はこれを片付ける手間を考えて、大きなため息を吐いた。
「お兄ちゃん。ご近所さんの目もあるし、いっそ地下室にベッドルームでも作ってよ。というかシングルベッドに3人は狭すぎだよ」
「うーん。まあな、ハーレム目指す者としては大きな寝室は必要か」
武蔵は携帯端末に手を伸ばし、ベッドサイズについて調べながら地下室改装の算段を立てる。
「なるほど。キングサイズの上に、馬鹿げた大きさのファミリーサイズベッドっていうのもあるのか」
「洗う身としては勘弁してほしいけど、まあハーレムならこれくらい必要かな」
小さな端末の画面に頭を寄せ合って計画する3人。
「地下なら……暖房器具も必要です」
「荷物用のエレベーター付けてよお兄ちゃん」
「色っぽい照明とかも欲しいな」
次々と必要なものを、通販サイトのカートに入れていく。
ファミリーサイズベッド、洗える巨大なカーペット、抗菌三角木馬、ミラーボールetcetc……
「お兄ちゃん、なんか変なのポチってなかった?」
「そうか? 確かにミラーボールは邪魔になるか」
「違う、そうじゃない。あっ、また分娩台とかポチってる! 謝って! 医療現場の人に謝って!」
裸のままでじゃれ合う兄妹だが、武蔵は遂に決済ボタンを強行して押してしまう。
「あーっ! 押しちゃった、由良ちゃんも止めてよ! お尻から出産プレイとかさせられるよ!」
「は、はい。産みます、なんでも産みます……」
「駄目だこのホモ、雌落ちしてる」
「つーかこの流れ、ほんと今回だけにしようぜ。性に奔放であることは悪だとは思わないが、俺達は学生だ。一線を踏まえた理性は必要だろう」
「ぶっさしながらぶっさされて悦んでた人がなんか言ってる」
「学校……行きましょう」
非日常から日常へ回帰すべく、登校する3人。
しかし、本当の事件は学校でおきていた。
『大和武蔵と五十鈴由良はホモ』
そんな張り紙が、学校中に貼られていた。
張り紙には写真が載っている。昨日、喫茶店にていちゃつく武蔵と由良の写真だ。
「いい度胸だ。俺に宣戦布告するという意味を、首謀者の脳髄に刻み込んでやる」
「学園ドラマだとシリアス感溢れる展開に切り替わるパートなのに、お兄ちゃんだとまったく深刻さがないね!」
けらけらと笑う信濃であった。兄の苦境などクソどうでもいいという態度である。
「お、お兄さん……どうしよう、沢山貼られてて回収しきれない……」
飄々としている大和兄妹に対して、涙目の由良。武蔵は少し考えて、張り紙を1枚だけ回収した。
「2人とも、昨日1日サボったんだ。今日もサボったところで問題ないな?」
「そりゃまあ、私は昨日サボってないけど。お兄ちゃんが望むなら、不良さんにもフリーターにもニートにもなるよ」
「お、お付き合い、します……」
「頼む。信濃は働け」
人波を逆行し、学校から出る3人。
「お兄ちゃんこれからどうするの?」
「やられたらやり返す。渾身のネタ振りには渾身のツッコミで応じるのが礼儀だ。だろう?」
犯人は夜中に頑張ったのか、張り紙は学校の様々な場所に貼られていた。
随分暇なものだと、武蔵はむしろ関心する。
「手分けして……張り紙を、探して剥がしましょう……」
「より多くの人間に内容を周知させる為、ポスターをコピー機で増して近隣周辺にもばらまくぞ」
「ええっ、減らすんじゃなくて……!?」
愕然とする由良。
「証拠の写真は昨日のニューハーフ喫茶店のものだ。登校時間中なので、撮った人間もサボっていたはず」
その場では平日の午前中ということもあって客足はまばらだったが、皆無というわけではなかった。犯人は私服だったので、武蔵としても特に気にする対象とならず同じ学校だとは気付けなかったのだ。
「犯人にとってこの告発の首謀者と暴露されるのは、同時に自分の不正が露見する不利益な展開だろう」
「そうでなくても、悪質なイタズラの犯人だしね。肩身は狭そうだよ」
「対して、俺達の関係については証拠が写真のみ。喫茶店での食事風景なんて、ただの友人だという証拠以上にはならない」
これがキスシーンならともかく、フィッシュアンドチップスでポッキーゲームしているだけなのだ。由良が女装しているあたり疑惑は禁じ得ないが、まだ、まあたぶん、ギリギリだけど、誤魔化せなくもない範疇なのだ。
問題の解決を『騒動の収束』と考えていた由良は張り紙回収を対策法として考えていたのだが、武蔵の考えは逆だった。
「この事態、犯人が見つかっても校内処分で終わるだろう。精々停学になるくらいだ。それもつまらん」
信濃は武蔵の意図を理解する。
「犯人の逃げ道を塞ぐんだね!」
「そうだ。現時点では学校内のみの問題だが、これを地域全体の話に広げて有耶無耶な解決で終わることを封じる」
ハカセの工場へ戻った3人は、せっせと張り紙をコピー。零戦に積み込み、空から街中に配布したのであった。
やってることが戦時中のプロパガンダである。




