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ジュラヴリの遺児2



「いいか、○産主義者っていうのは『押すな』と書かれたボタンを『これ押したら絶対ろくなことにならないな』と予想出来つつも押してしまうような連中だ」


 武蔵は信濃に正座をさせ、必死の説得をされる。


「小学校の時にいたろ? 消火栓のボタンを押してこっぴどく怒られてた奴」


「お兄ちゃんだよねそれ」


「そもそもが、○産主義なんて禄なもんじゃないと当初から言われていた。ただたまたま圧政で破綻寸前の国があって、そこに縋るものがあったから飢えた大衆が縋っただけだ。そんなの蜘蛛の糸に縋るようなものだ、常識的に考えて切れるだろ。溺れる者は藁をも掴んで、哀れそのまま沈んでしまうんだ」


「まあ確かに切れましたね、文学的にも冷戦的にも」


「あいつ等は宗教を否定しているが、その宗教だって結局は平穏を確保する為の手段に過ぎない。○産主義は無宗教という名の宗教であり、その教義が人の業を、欲を考慮していなかったからこそ崩壊した。人は効率や理屈だけで生きられないと証明した、それが○産主義の唯一の功績だとも言える」


 嘆くように武蔵は嘆く。


「いわば国家規模でウケ狙いに鼻ピーナッツした挙句、国家規模で鼻からピーナッツが取れなくなって泣きを見る集団なんだぞ!」


「お兄ちゃん、今日は今朝からキレッキレだね」


 思想に対して色々と珍妙な見識を持った武蔵であった。


「でもお兄ちゃん。○産主義にはいい部分もあると思うな」


「と、いうと?」


「人体実験し放題。強権でスケベし放題」


「それ人権軽視ってだけだから!」


「女の子合意の上でフラワーゲームとかしたくない?」


「……見くびるな! 俺はそんなのじゃない!」


「ちょっと間がありましたが」


「うらー!」


 信濃が武蔵に飛び付いた。

 転倒する兄妹。兄に覆いかぶさった信濃はグフグフ笑いながら武蔵の服を脱がしにかかる。


「ハニートラップだよお兄ちゃん!」


「これだから○産主義国家は!」


 伝統的に国民を大切にしない西側諸国では、若い女性を消耗品のように浪費するハニートラップも簡単なのだ。

 背後に回り、ズボンを脱がせにかかる信濃。


「信濃のフラワーゲーム! ゲへへすけべしようぜぇ!」


「この赤い雌豚め!」


「いい加減遅刻しますよ」


 アリアがパクパクとフレンチトーストを食べてしまう。

 15切れあったはずのトーストは、何故か4切れしかなかった。


「……おい、アリアさんや」


「私は資本主義国家出身なので。心配せずとも偶数残しておきました、2切れずつ平等に分ければきっと平和ですよ」


 ある意味とても○産主義国家らしい結末(オチ)であった。







「足りん。何かないか、信濃?」


 資本主義の雌犬にフレンチトーストを奪われ、物足りない兄妹は何か腹に入れようと棚を漁った。


「非常時用常備即席乾麺でよければビーチク(備蓄)があるよ」


 小難しく言っているが、カップ麺である。

 朝食がカップラーメンとはアバンギャルドな献立だが、この際仕方がない。

 ○産主義者の正式装備である火炎瓶を手入れする信濃を眺めつつ、武蔵は頬杖をついて3分待つ。


「ねえお兄ちゃん、建物解体用の鉄球って防ぐ手段あるのかな?」


「野球のバットで打ち返せば?」


「歳がバレるよお兄ちゃん」


 そんな巨人のスターにしか出来ないような解決法はともかく、現実的に考えれば鉄球を防ぐ方法など存在しない。


「鉄球そのものを防ぐより運転手を狙った方が早いと思うぞ。鉄球を振り回しているのは装甲化されていない鈍重な重機だ、やりようは幾らでもある」


 ○産主義者に幻想を抱いている、というか別の目的があるとしか思えない信濃に武蔵は溜め息を吐く。

 若者が○産主義にかぶれるのは、所詮中二病のようなものだ。脳内でどれだけ成功しようと、現実に適合するのは長い年月を積み重ね運用される現用の法なのである。

 長らく研究された体制を「事業仕分け」や「改革」などと称して効率化しようとしても、大抵余計な手間を増やすだけなのだ。


「なあ、どうして○産主義なんだ?」


「お兄ちゃんをハニトラ出来るからだよ?」


「オゥフ……」


 頭を抱える武蔵を尻目に、信濃はそそくさと玄関へと向かう。


「お兄ちゃんも早く出発するんだよー? おべんとはいつもの場所だからね」


 バタンと遠くで閉じる玄関ドアの音。

 しばしフリーズしていた武蔵は、ふと我に返りラーメンを飲み干して登校準備を開始する。

 弁当を鞄にいれようとして、なんとなく気になり蓋を開ける。

 ボルシチであった。


「弁当まで赤化してやがる……」







 空中バスの発着場には、アリアが1人ぽつんと立っていた。


「よっ」


「おや、早く出た意味なかったですね」


 隣に立った武蔵は、前置きもなく話す。


「すまんな。たまにあるんだ、信濃の暴走」


「兄が兄ですからね、色々抱え込んでしまうのでしょう」


「まあ生理みたいなもんだろう。一過性のものだからほっとけばいい」


「うわぁ……」


 女性を前にあっけからんとデリケートな単語を口にする武蔵に、アリアは眉を顰めた。


「つーかなんでお前と合流することになってるんだ。信濃はどこ行った、俺より先に出てっただろう」


「何故と言われても、空中バスが来る時間は決まってますし」


「信濃は?」


「通りかかったショベルカーの上に直乗りしてどこかにいきました」


「タンクデサントかよ」


「信濃、学校はどうするのでしょうか?」


「サボる気だろうさ」


「大丈夫なのですか? そんな適当に学校を休んでも」


「あいつ、成績はトップクラスだ。多少休んでも病欠で誤魔化せる」


 家出した信濃を追うわけにもいかず、身支度を終えた2人はいつもの通り学校へ向かう。

 しかしアリアの表情は晴れなかった。


「私、信濃に何か迷惑をかけていたのでしょうか」


「うーん?」


 唐突な物言いに、武蔵は目を丸くした。


「アイツ、そんなこと言ってたか?」


「いえ、そんな気がして」


 ただの勘だが、そう的外れでもない気がするアリアであった。

 武蔵はやや考える。


「信濃は、散々抱え込んだ挙句に定期的に爆発するタイプなんだ」


「それはまた、難儀ですね。というかストレスを抱えるタイプには見えないのですが」


 信濃の強烈な性格は、アリアもよく見知っている。

 自由と呼ぶべきか、むしろ無軌道無秩序と称するべきか。

 あまりに右往左往する行動理念に、普段人を振り回してばかりの武蔵すら翻弄する人物。それがアリアから見た信濃という少女であった。

 故に、武蔵の次の言葉は驚愕を生じさせる。


「あれが、本来の性格でないにしても?」


 衝撃的な発言に、アリアはしばし声を失った。


「ええっと、あのブッ飛んだ性格が、演技だと?」


「少なくとも昔はあんなのじゃなかった」


「いえ、まあ……普段のイカれた性格は確かに通常人類の範疇から逸脱していますが」


「いや人の妹ボロクソ言い過ぎだろ、ブッ飛んだとかイカれたとか通常人類から逸脱とかうんことか」


「待って最後の言ってない」


 アリアはしばし武蔵の言葉の意味を解そうとするも、すぐに音を上げる。


「ちょっと想像出来ません、また私のことをからかおうとしてませんか?」


 半信半疑のアリアに、武蔵は一枚の写真を見せる。


「これは?」


「中学時代の信濃だ」


 そこに写っていたのは、清純派な雰囲気を醸す正統派美少女であった。


「どうだ、全然違うだろ」


「今でも普通に美人だから、全然違うと言われても困りますが……それよりどうして妹の写真を持ち歩いているんです?」


「え、いやそれは、ほら、オカズとして?」


「誤魔化そうとして変な性癖暴露しないで下さい、Brother(ブラ) complex(コン)


 バス停には既に少なからず学生が集まっていた。すぐにチヌークがやってきて、いつものように危なげなく広場に着地する。

 不自然にブレーキがかかるローター、広場を囲む柵が地下に下がり生徒達がぞろぞろとヘリに乗り込む。

 武蔵とアリアも、いつもの席に収まった。


「むしろ気を悪くしないでくれ。ああいう形でしか本心を話せない面倒な奴なんだ」


「ああ、いえ別に気にしてはいません。きっと私に非があったのです」


「よくないと思うぞ。自分を卑下して解決を事態の図るのは」


「……覚えておくのです」


 いまいち釈然としない顔のアリアだが、武蔵が心配して注意したのは理解したので適当に頷いておく。


「そうだ、それだ。善処しますってのは魔法の言葉だな」


 めんどくさい兄妹だ、とアリアは溜め息を吐いた。朝からお疲れである。


「もしかして、私の存在は迷惑だったのでしょうか」


「本当に嫌いな相手ならもっと酷いさ、あいつ頭はいいから敵対した相手には容赦しない」


 信濃の暴走。それは、あくまで歪んでいるだけの吐露の発散だった。


「誰だって建前と本音がある。本音なんて、生活している中でそうそう人に伝えるもんじゃないんだろう。だから、あの手この手で相手にそれとなく理解を求める」


「信濃にとってのそれが、あの○産化なわけですか」


「信濃がグレているうちは、甘えてくれている。俺はそう解釈している」


 しかしそこで手詰まりであった。武蔵には、信濃が何を思って時折グレるのかが判っていない。


「そこで同性であるお前の出番だ。信濃が何を考えているのか、一緒に考えてくれないか」


「無茶を言わないで下さい……私と彼女の仲なんて、まだ短いのです」


 と言いつつも、アリアにはピンとくるものがあった。


「女性関係ではないでしょうか」


「うん?」


「いえ、なんとなくそう思っただけなんですが」


 これもやはり女の勘、というべきか。

 アリアは、武蔵の女性関係について信濃が鬱憤を溜めているのではないかと予感していた。


「どうなんだろう。俺は男としては、信濃に嫌われている気がするからな。嫉妬しているとは思えないのだが」


 意外な意見に、アリアは武蔵の顔をジロジロと見てしまった。


「な、なんだよ。イケメンだからってあまり見つめるなよ」


「いえ、黄色い猿だなあって」


「お前半分日本人のハーフだったよな?」


 朝から兄妹で事実婚やら近親相姦やら言ってる2人が、その実仲が悪い。その見解はアリアを戸惑わせるには充分だ。


「意外と複雑怪奇ですね、貴方達の関係」


 話している間にヘリは学校前に到着し、学生を吐き出していく。

 昇降口へ向かう途中でも、話は継続された。


「とはいえ判る気もします。貴方のハーレム願望は、女性からしてみれば少々キショイ」


「キショ……!?」


「逆に考えてもみて下さい。1人の女性がいたとして、貴方はそれを取り巻く親衛隊、その他大勢になりたいと思うのですか?」


「いや無理。それは無理」


 その点に関しては、武蔵もごく一般的な感性の持ち主であった。


「俺はハーレムを築いて、大勢の女性に囲まれてエロいことをしたい。その光景を男女逆にしたところで、他の男が気になって精が出ないだろ色んな意味で」


「ちょっとは願望隠したらどうなんですかね人として」


「裸同士の男とか、見た目からして汚くてどうしようもない」


 問題発言だった。


「裸同士の女性はいいのですか? 女性としても、隣の女性が気になってそれどころではありませんよ」


「見ている分には楽しい」


「そろそろ怒られますよ、色々な方面から」


 アリアは自分の身体を隠すように腕を抱く。際どい話をしていて、なんとなく気恥ずかしくなってきたのだ。


「どうした急に背中に手を回して。……ああ、それ胸か」


「胸ですよ。言っておきますが皆無じゃないんですから。ちゃんとあるんですから」


 赤面し、引きつった不審の目を向けるアリア。

 まったく好意的な視線ではないが、何故か武蔵にはやたら可愛く思えた。


「はあ……なんと言いますか、貴方の影響で淑女らしからぬ会話に多少耐性が出来てしまった気がします。以前の私ならこんな下品な話出来なかったはずです」


「淑女」


 語尾に(笑)がつきそうな声で、武蔵は呟いた。


「貴方はハーレム願望を実現しようとする前に、妹に話を付けるべきです」


「いやそもそも、信濃の悩みが俺のことだって決まったわけじゃ……」


「やっほー、おはよー武蔵くん、アリアちゃん!」


 声をかけられ目を向けると、妙子が笑顔で手を振っていた。


「おはようございます」


「おはよう俺の女」


 アリアは武蔵の脛を蹴った。育ちのいい彼女は、こういった無礼を許さない。

 周囲の視線がやや集まる。妙子はそのモデルのような容姿から、学年問わず人気のある女生徒なのだ。

 陳腐な言い方をすれば、学園のアイドル。あるいはマドンナ。

 死語のような表現だが、そんな立ち位置ではないと否定出来ない程度には偶像視されていた。


「どしたの、こんなところで話し込んで?」


 そんな周囲の評価など気にもせず、妙子は後輩に語りかける。

 男子にとって色々と優越感を覚えるに足る立場だが、武蔵はそういう点においては昔から特異な生き方をしているので興味はなかった。

 トップクラスのエアレーサーなどしていると、普通に女性にモテたのだ。優越感など今更である。


「いえ、武蔵のハーレム願望について物申していたのです。そんなのを受け入れる女性がいるなんて期待するな、って」


「えっ? ええ、そうねぇ」


 突然狼狽する妙子。


「部長からも言ってほしいのです。ハーレムに加わってもいい、多妻の1人でも構わないという女性などそうそういるものではない、と」


 もっと誠実に生きろ、と主張するアリアだが。

 妙子は何も言わず、困ったようにぎこちない笑顔を貼り付けたままだった。


「……部長?」


「ま、まあ、その辺は人それぞれじゃないかな? あまり自分の考えを押し付けるのも、良くないかな、なんて」


「アリア、さっき言ったろう」


 武蔵は真顔で再度口にする。


「俺の女、って」


 アリアはハッと何かに気付いたような顔をして、数歩後ずさった。


「ああん、引かないでアリアちゃん」


「まさか、部長。受け入れたのですか、この変態の主張を」


「……まあ、今後次第、かな? 一時予選通過みたいな?」


 唖然とするアリア。知人の常軌を逸した決断に、即座に現実的な可能性に至る。


「部長、何か弱みを握られたんですね。ちゃんとケリを付けないと禄なことになりませんよ」


「お前な……」


「刑事ドラマだとよくあるパターンです。弱みを握って脅していた被害者が、加害者を追い詰め過ぎて逆に殺されるって」


「俺死ぬの? 流血沙汰なの?」


 容赦ない酷評に、武蔵は憮然とアリアを睨む。

 だが当の妙子は、顔を赤らめるだけで無言を貫いた。


「部長?」


 さすがに何かがおかしい、と思ったアリアは訝しげに名を呼ぶ。

 妙子は観念したように溜め息を吐き、述懐する。


「その、私も一夫多妻なんてどうかと思うけど……武蔵くんは、可愛いかなって」


「つつつ、つまり?」


「ちょっとは肯定的に見ようかな、場合によってはそういう未来もいいかな、みたいな……?」


 アリアは愕然とした。非常識な武蔵に影響され、妙子もまた非常識に片足を突っ込んでしまっている。


「も、勿論簡単には認めないわよ? 奥さんが沢山いたら、お金だって必要だし! 武蔵くんが色々な問題を背負いきれるような頼りがいのある人になれるのか、しっかりと見定めるんだから!」


 逆にいえば、甲斐性さえ示せばハーレムも許容するという発言であった。

 周囲の数名の男子が突然ダッシュしてどこかへ行った。


「ああ、そういえば日本って大奥とか妻妾同居とか女学院に女装美少年が1人紛れ込む漫画とか、割と一夫多妻的な文化があるんでしたね……」


「それは誤解……じゃないのか?」


 訂正しようとして、歴史的事実故に否定しきれない武蔵であった。

 近代以前では、ハーレムなど世界中にあったのである。


「まあ、本人がそれでいいのならもう何も言いません。私には関係のない話です」


「お前も妻候補だぞ奴隷アリア」


「勝手に加えないで下さい。あと奴隷扱いまだ続いてたのですか」


 いつまでも校門で話し合っていては遅刻する、と移動を開始する3人。

 しかし学校側より、大勢の生徒がやってきてすぐに歩みを止めることとなる。


「なんだあれ?」


「さあ、火事でも起きて校庭に避難しているのではありませんか?」


「それなら校内放送があるはずよ」


 わんさかと迫りくる生徒達。よく見れば、それらは全員男子である。


『我ら足柄親衛隊! 我らが女神を誑かし、こともあろうか二股を画策する不埒者を許すな!』


 恨み節を唱和する彼らに、3人は顔を見合わせた。


「先輩、親衛隊なんていたんですか」


「初めて知ったわよ。罪な女ね、私」


「部長、この中で彼らに言葉が通じそうなのは貴女だけです。説得して下さい」


 アリアに促され、妙子は一歩前に出る。


「あー、えっと。止まってちょうだい」


『イエッサー!』


 素直に停止する足柄親衛隊。

 どうでもいいが、女性に対しては「イエス、マム」である。


「まず、私は貴方達のことを認めていません。迷惑です」


『ぐはっ!?』


 非公式の辛い現実であった。


「それに、武蔵くんとのことは私が決めたこと。第三者がどうこう口を挟む話ではありません」


「す、すいません……」


「なんでお前が謝ってるんだアリア」


「最後に、私は人間です。女神ではありません」


「……あ、はい」


 知ってます。

 誰もそう言える雰囲気ではなかった。


「ふう、これで納得してもらえたわね」


「そういうわけにもいかないみたいです」


 安堵の表情を浮かべた妙子に、武蔵が訂正する。

 親衛隊達は横列に並び、野球部が地面を整備する時のT字のアレを構えていた。


「あ、あれはテストゥド隊列!?」


「なんですかそれは」


『ypaaaaaaaaa!』


 掛け声と共に突撃してくる親衛隊。もはや色々混ざっている。

 どうしたものかと悩んでいると、アリアが一歩前に出た。


「ん? どうした、身を呈して新たなアイツ等の偶像になるつもりか? ちょーっと胸がなさすぎて無謀だぞ」


「あの掛け声を聞くとイラッとくるのです」


 ヨーロッパ人の本能であった。


「何か妙案でも?」


「とりあえず核地雷で足止めしましょう」


「本土に核を埋められるソーセージ帝国と、核と同居させられるニワトリの気持ちも考えろよ!」


 アリアは仁王立ちのまま、親衛隊に呼びかける。


「話し合いをしましょう。こちらは譲渡の用意があります」


「いきなり弱腰ね」


「駄々をこねれば譲渡を引き出せると思われたら厄介だぞ。それ一番ダメなパターンだ」


「とりあえず武蔵の身柄を引き渡します」


「ちょい待てやこら」


 口先で言いくるめ、自分の腹は痛めない。

 紅茶な国の外交だった。

 こいつに任せてはおけない。そう奮い立った武蔵は、自分で迫り来るローマ帝国軍を押し留めることにする。


「ここは俺の出番だな」


「武蔵!」


「武蔵くん!」


 威風堂々。

 迫りくる男達を前に、武蔵は妙子の腕を引き自分の元へ寄せた。


「きゃあ?」


 突然の行為に赤面する妙子。

 まさか、ここで……朝の学校前でいちゃつくことで、妙子が『俺の女』であることを証明しようというのか。

 ここは受け入れるべきか、しかし心の準備は出来ていない。

 狼狽する妙子の顔に油性マジックが添えられる。


「こいつがどうなってもいいのか。諸君等のアイドルの顔に落書きされたくなければ、すぐさま降伏しろ」


 最低だこいつ。

 全員の心が一致した。


「くそっ、どうする?」


「本当に落書きすれば奴は間違いなく足柄先輩に嫌われる、ブラフにきまっている!」


「いや、俺は1985年9月のレバノンで同じ光景を見たいことがある」


「ああ、あの大統領と同じ目をしてやがる……!」


「外国人っぽい貧乳少女も悪くないなグヘヘ」


 一時膠着状態に陥った戦場。

 貧乳呼ばわりされて銃剣突撃していったアリアを尻目に、武蔵は妙子の手を引く。


「行きましょう、このまま前進するのは危ない」


「そうね。武蔵くんは当然として、私も身の危険を感じるわ」


 結果的に殿を務める形となったアリアを残し、武蔵と妙子は部室へと逃げることとなった。

 本日はサボり確定である。




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