ダッシュと焚き火と魔除け像
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「スラッシュ!!」
expを14獲得。
レベルが5に上がりました。
スキル「スローイングダガー」を獲得しました。
「ふぅ…」
あの一戦の後からというもの俺はレベルの高い敵と戦うときに備えて何戦か雑魚敵と戦い、レベルを上げていた。
ある程度経験値が欲しかったのもあるのだが、なによりどれくらい戦えるかを把握しておくのが重要だと思ったからだ。
「痛み」と「疲れ」の程度。
この二つを理解しないことには正直、安全な攻略なんて夢のまた夢だろう。これが本来通りのOP抜け状態なら回復手段が限られるのでHPが減る可能性のある戦闘はあまり得策ではないのだが、こればかりはやっておくべきだろう。
今のところ分かったのは3戦ほどであればあまり疲れを感じずに連戦できるといったところだろうか。
はー、楽してニューゲームできるかと思ってたけど、ゲームの世界って思ったより楽じゃないね…
[そんなことを感じながら俺は繋がりの洞窟への道を進んでいた。
「バロバロ!」
そうそう、こいつもいたな。
はいはい、分かりました。訂正しますよ!
[そんなことを感じながら俺はバロバロさんと繋がりの洞窟への道を進んでいた。
まぁ、そんなこんなでモンスターを倒し、順調に道を進んでいた俺らだったが突如としてその足取りに暗雲が立ち込めることとなる。
その暗雲というのはそう文字通り暗雲である。
雲が厚くなり日が差さなくなって、空を覆いはじめたのだ。
「あ、やべ!」
流石にそろそろ直感的に分かりはじめてきた。このままでは間違いなく暗さで辺り一帯が見えなくなる。日も暮れて来ているので、このまま放置していると恐らくヤバイことになるだろう。
ゲームとしてやるのであれば暗さなど関係なく、背景のトーンが濃くなるだけで見えなくなることはないだろうがここまで現実に即したこの世界ではこのまま放っておくと恐らくほんとになにも見えなくなる。
そんな状態のまま先程のような戦いを行うのは流石に無謀もいいとこだろう。
モンスターの出ないセーフゾーンまで早く行かなければ…
「バロバロさん!急ぐよ!」
「バロ!」
バロバロさんも流石にこのままでは不味いと踏んだのだろう。
俺と並走するようにして速度を速めた。
しかし、モンスター達はあちこちに存在する。
ある程度は自前の走りの速度で振り切れるもののどうしてもエンカウントが避けられないやつが一匹だけいた。
時間がない…もって20分ってとこだろうか
逃げるのも手だが今はここで逃げるために防御連打する時間すら惜しい。
敵がゴブリン一匹だけなのを確認し、俺は速攻で仕留めにかかった。
「スローイングダガー!」
俺が投げたはっぱのナイフは青い光をまといながら吸い込まれるようにレッサーゴブリンの眉間に飛んでいく。
「ぐぎゃ!」
ドサリと音を立ててレッサーゴブリンは倒れ、あっという間に光の粒子へと変わり、その後、投てきしたナイフは放物線を描きながら手に戻ってきた。
ちょっともったいなかったかな…?
このはっぱのナイフは序盤で手にはいる武器にしてはなかなかの攻撃力を誇る。普段使いの短剣の攻撃力が9なのにたいし、なんと15もの攻撃力を誇るのだ。
じゃあ、常用すればいいじゃないかと思う人もいるだろう。だが、もちろん世の中そう都合よくいったりはしない。この武器は攻撃力こそ魅力的なのだが致命的に脆い。それこそ本物の葉っぱで作られたみたいなレベルで。
大体3回ほどこの武器を使って攻撃したら壊れるようになってる。
で、今そのうちの一回を消費したというわけだ。
まぁ、命あっての物種だ。背に腹は変えられないと割りきることにしようか。
とまぁ、はっぱのナイフの耐久値1回分という尊い犠牲を払いながら俺たちはなんとか暗くなりきる前につながりの洞窟の手前にあるセーフゾーンにたどり着くことができた。
セーフゾーンは正に開拓村と言った感じの場所で、新しいけれど素人が建てた感じが否めない掘っ立て小屋が数個と真ん中に皆で焚き火を囲むための広場がある簡素な場所だった。
「ふぅ、なんとか暗くなる前にたどり着けたな」
「バロ。」
目茶苦茶焦って走ってきたから正直、かなり疲れた。
だが、不思議なことに息はきれてなかった。
疲れはあるのに息はきれないのか…全くもって変な仕様だな…
まぁいいや、とりあえず今日はかなり疲れたしここら辺の道具漁ってさっさと休むことにしようか。
さてさてお楽しみの家捜しタイムの時間です。
まぁ、開拓村っていうだけあってぶっちゃけ取れる資源なんてのはあってないようなもんなんだけどね。
むしろ、折角今から頑張って開拓しようって時に物資を持っていくのは鬼畜の所業なのではないかと若干心を痛めてる。
とはいえ、こっちも生活がかかってるから容赦なく持っていくけどね。堪忍したもれ。
数少ない掘っ立て小屋の中を探してみると壊れた斧と猪の干し肉が見つかった。
目的のポーションはなかったが干し肉に微量だが回復効果があるのでまぁ良しとしよう。
家捜しが終わると外はすっかり暗くなっていた。これまでの町では街灯があったけどどうやらここでは真ん中の焚き火がその役割を担っているらしい。
燃料やら薪をくべるための人やらはどこへやら。
そんなことは関係ねぇとばかりに灯りを出して燃え続ける街灯については前々から不思議に思っていたが、この焚き火もどうやらその街灯同様の不思議光源らしい。
全くもって変なところで都合のいい世界である。
それなら疲れとか痛みとかなくていいんですがねぇ…
しかしながら改めて焚き火というのはいいものですな。
同じ不思議光源といえど街灯とはやはり雰囲気が違う。自分で火起こししたわけでもないがただゆらゆらと揺れる焚き火の焔をみつめるだけでなにかこう得も言えぬような気分になるもんですな。
ね、そう思うよね、バロバロさん。
俺は自分と同じように焚き火を囲んで隣に座る先程ピンチを救ってくれた戦友に心のなかで話しかけた。
もちろん、直接話しかけた訳でもないのでバロバロさんは反応せずに佇んでいるが…
うん…雰囲気ぶち壊れとるがな…
別になにも喋っていないのだが、最初会ったときと変わらず目ん玉がギョロギョロ動くの普通に怖いんよ…。
多分、普通に過ごしてるんだろうけどごめんな…
シンプルに怖いんよ…
…ま、まぁ、気にしちゃいけないよな。大事なのは心持ちだし。
そんなことを思っていると彼は懐をごそごそ漁り、なにかを取り出した。
あれはナイフ…!?
あれでなにをする気だ…?
まさか俺のことを…。
なんて思ってるとバロバロさんは更に懐から木で出来たなにかを取り出した。
あぁ、そういうことか…
そういえばここでもバルネロさん絡みの簡単なイベントがあったな。
「ははは、見つかってしまいましたか。いや、開拓を担う皆様に簡単な魔除けの木彫り像でも彫ろうと思いましてね。ただのお節介ですよ。」だっけか。
うん、マジでいい人だよな、バルネロさん。このゲームのヒロインはこの人だろって言う一部の熱狂的なファンがいるのもなんとなく分かる気がする。
ただね、バロバロさん。
表情と雰囲気があってないんだよ。魔除けのために木彫りしてるんだろうけど端から見たら逆に魔を呼び寄せる儀式してるみたいなんだわ。
この人、ほんと表情で損してんな…。まぁ、いまのとこ関わるのは俺しかいないから別にいいんだけども…。
「バロッ…!」
あ、指切った…
指から光の粒子が出ててなんか幻想的…
NPCでもこのエフェクトは共通なんだな…。
ってそんなこと感心してる場合じゃない!
急いで止血(?)しないと
いや、この場合光の粒子だから止粒子しないと!
なんて思ってるのもつかの間、バロバロさんは何事もなかったかのように鞄からポーションを取り出してなんの躊躇いもなく指にぶっかけた。
ワオ、豪快。
多分、HP的に言うのであれば1か2削れた程度だと思うんだけどなんの躊躇も見せずポーションバシャリはすごいな。
回復アイテムが雀の涙程度しかない俺だったらちょっとできねぇわこの使い方。
…そういやこの人、戦闘でも回復はちゃんと毎回やってくれるんだよな。
…うん、バロバロさんには前から色々文句言ってたけど今度からできるだけ媚びとくことにするか。
いつ、手持ちの回復なくなるかわかんねぇし。
そんなことを思いながら暫く待っているとどうやら魔除けの像は完成したらしい。
そういやゲームでは完成したところを見たことなかったけどどんな感じなんだろ…?
そうして、バロバロさんの手元を確認して見るとそこには立派なゴブリンがおりました。
ゴブリン!?
あの人あんなこといいながらゴブリン作ってたの!?
ちょっと驚いたわ。
まぁ、でもよく考えたら魔除けのために魔に関するものを作るってのはない話じゃないか。ハロウィンとかコスプレするのは恐ろしい格好をすることで悪霊達を遠ざける的な意味もあるらしいしな。
それにしてもリアルだなこれ。
なんか今にも動きそうだよ…
そうやってまじまじと手元を眺めてるとバロバロさんがこちらに気づいたのかこちらに視線を送る。
「バロ?」
「いや、なんか上手だなって思って」
「バロ。バロバロバロ!」
「だろう。自信作なんだ!」的なニュアンスだろうか。
まぁ、実際上手だし素直に誉めておこう。これからの回復のためにも。
そんな風にこの日は焚き火を囲み穏やかな夜を過ごすこととなった。
あの後、夜中に目が覚めたら目の前にゴブリンの彫刻があったのはびびった。
あれ、大分リアルだから普通にモンスターが来たと思ったよ。
ちなみになんかこっちに視線が向いてるのが気になったから置物を回転させておいたのは秘密である。