馬車と油断と投げナイフ
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おはようございます。
結局昨日は村の中で1日を過ごし、なんか部屋が多くて手頃そうな村長の家で一晩を過ごました。
寝心地はまぁ、察してくれ
それよりもまず話を聞いてほしいんだ。
恋人とか奥さんとかいるやつとかなら簡単にできると思うんだけど目が覚めたときに愛する人が目の前で穏やかな顔をして寝息を立ててるのを想像してみてほしい。
なんかそこはかとなく幸せな気分にならないか?
なになに?「超わかる」だって?
流石だな。話が早くて助かるよ。
あぁ、ちなみにおれは彼女いない歴=「産まれてからゲームで何故か視界が真っ赤に染まった時まで」
だからよくわからん。
まぁ、それはさておきとりあえずそんな風に愛する人が目の前で寝ている光景を想像出来ただろうか?
そしたらその顔を今度は目がグリグリ動く満面の笑みをした小太りのおっさんに入れ換えてみてほしい。
ははは、「ばか野郎、なにそんなキモいこと想像させんだ!!」だって?
うるせぇ、俺はいまそれを味わったところだ。おまえらも存分に味わえ。
(※この話ではイメージで構わないのでバロバロさんの寝起きイラストを募集しています。もし書いてくださる方がいらっしゃったらコンプライアンスが許す限り主人公の気持ちを皆に体験していただきたいのでこの話の挿絵として採用したいと思います。コンプライアンスが許す限り。)
はい。
というわけで最高の目覚めを味わったところで今日も「芋洗い」を進めていこうと思います。
やるぞ~
あのあと色々と試してわかったんだけどバロバロさんはどうやら俺のパーティメンバーという扱いではないらしい。
メニューを開いても「パーティ編成」の項目には名前もなかった。
多分、臨時的に行動を共にするタイプのNPC的な扱いなのだろう。戦闘にもパーティにも参加しないが、ストーリーには関連する的な。
実際、この人のイベントでモンスターとのバトルに入ってもこの人は特に攻撃とかしないしな。
でも、時折「みなさん、回復しますよ!」って言ってバトル中に外からポーションを供給してくれたりするんだよな。
まぁ、でもいまは移動する時にひたすら後ろをついてくるがただそれだけの存在だ。
「バロバロバロバロwwww」
訂正。
ただひたすら後ろをついてきてバロバロ鳴きながら涎を垂らしながらニチャるがそれだけだ(^q^)
よく聞くと「バ(ルネ)ロ」って超早口で自分の名前を言ってるっぽいんだが、独特の高音と発音の仕方のせいで「バロバロ」聞こえてるっぽい。
だからなんだって話だが、バロバロさんも本名を忘れてほしくないんだろう。おれは否が応でもバロバロさんと呼ばせてもらうが。
さて、この人のことは一回おいといてだ。
昨日は町のなかを散策したお陰である程度纏まった食料が手に入った。久しぶりに食べた肉はもう本当においしかった。バロバロさんじゃなくても涎が出るくらいだ。
あぁ、ちなみに肉はギルドキッチンで調理させてもらった。前の場所では台所は背景扱いだったが、ギルドキッチンはプレイヤーが料理をするための設備としてゲーム内でも使用するものだったのでちゃんと使用可能なオブジェクト扱いだったようだ。
生肉食べてもゲームの世界だからもしかしたら大丈夫なのかもしれないけど正直、気持ち的にはやっぱお肉はローストビーフとレアステーキを除いてよく焼いておきたいしな。
ギルドキッチンの機能が生きててよかったぜぃ…。
とまぁ、食料が手に入ったのは良かったのだが問題はその後だ。
まとまった量があると言っても別に無限というわけではない。
もって3日~4日といったところだろう。
あまり多いわけでもないし、さっさと次の食料を手にいれるためにもストーリー(もうこの段階でストーリーもクソもなく物語としての大筋は破綻している)は進めておきたい。
「バロバロバロwww」
……あと、普通のNPCでいいからまともな人間に早く会いたい。
ということで早速また町の外に出ることにする。
安全なところに留まっていたい気持ちはあるが町のなかには人がいないからね。ぶっちゃけモンスターの存在を除けば町の中も外もあんま変わらんわ。
とりあえずの目的地はあそこかな。この村から1日ほど歩いた場所にあるダンジョン。「つながりの洞窟」
……
ということで町を出て街道を歩いています。
道は思ったよりもモンスターが少なく、あまり走らなくても快適に進むことができそうだ。
天気もいいしあとは便利な乗り物にでも乗れればもっと快適だと思うんだけどバロバロさんどう思う?
「バロバロバロwww」
そっかぁ。そうだよね。健康のためには歩いた方がいいよねー。
人間、健康が第一だもんねー。
足腰って以外とすぐ衰えるから鍛えておかないとねー。
でも、それはそれとして
「バロバロさんだけ馬車に乗って移動してんのずるくない?」
~町の外に出た直後~
外に出るための準備が終わり、盾の手入れも終わったところで俺は町の外に出た。
そして町の入り口から一歩踏み出した瞬間…
バロバロさんは消えるようにその姿をくらませた。
「え?」
昨日、なにをしても目の前から消えなかったバロバロさんがいきなり目の前からいなくなったのには驚いた。
そしてもしかして解放されたのかも…と喜ぼうとしたのも束の間…
バロバロさんは再び現れた。
馬車に乗って。
なんだ。いなくなったわけじゃいのか。と少し残念な気持ちだったのだが同時にこの馬車を見たときは少しだけ感動した。
昨日、散々バロバロ音を出すだけだった粗大ゴm…、ゲフンゲフン、もといバロバロさんがまさか移動手段を確保してくれるなんてって思っていた。
俺はバロバロさんにありがとうとお礼を言って馬車に乗ろうとしたところ…
バロバロさんに御者席から蹴り飛ばされた。
「バロバロ!バロバロバロバロ!バーロー!」
そんでなんか目茶苦茶怒られた。
え、これ移動手段として確保してくれたんじゃないの…?
あとさっきのバーローは絶対口癖とかじゃなくてシンプルな悪口だろ。おまえは工藤新○か。
中学生の頃、クラスから浮きに浮きまくり寝たふりをすることでクラスメイトの悪口を聞こえないアピールをしてた俺の耳は誤魔化せんぞ。
正直、目茶苦茶腹は立ったが、ここまで怒るのはなんか理由があるのだろう。
俺は少し痛む頬を抑えながらバロバロさんに質問をすることにした。
「バロバロさん?」
「バロ?」
「これって移動手段として用意したものじゃないの?」
確認のために先程思ってたことをそのまま口にした。
「バロ?バロバロバーロ。バロバロバロバロwwwww」
多分、翻訳すると
「なにを言ってるんだ?違うに決まってるだろ。はっはっはっwww」
的な感じだろう。
はっはっはっ。おまえあとで覚えとけよ。言葉はわからずとも以外と身振り手振りでニュアンスは伝わるんだからな。
今まで以上にこのバロ太郎にヘイトを感じつつとりあえず俺はこいつのことは無視をして「つながりの洞窟」に向けて歩くことにした。
しかし、なにかしらの強制力が働いてるのか相も変わらずやつはなぜかおれの後ろをついてくるようだった。
おれが己の足で地べたを一歩ずつ噛み締めて歩いているのに、あいつは涼しい顔して馬車でゆっくり座りながらついてきやがる。
なんかシンプルに腹立つなこれ。
あ、でもそういや…
普通に攻略しようとしてもおんなじ感じに別に馬車に乗れたりはしないんだっけ。
まともにプレイしてた実況者の動画とかでも
「商人だから荷物運ぶのに馬車を利用しているのですが、1人旅用で小型のため荷物運ぶのが精一杯で人は乗せれないんです。大変申し訳ありません」
とかバルネロさん言ってたな。
まぁ、じゃあ仕方ないのか…
「バロバロバロバロバロwwww」
…とはいえ、やっぱ腹立つな
本来のストーリー通りならバロバロさんもといバルネロさんってフランクリン村でものすごく歓待してくれるし、村のギルドを通してアイテムを取引してくれたりするから馬車に乗れないなんてことは全然気になんないんだけどこの状態だとなんか無性にあいつを殴りたくなってくる。
あぁ、こいつの馬車の車軸折れたりしねぇかな。
なんて呪詛めいたことを考えながら俺は歩みを進めていた。
しかし、そんな呪詛巻きに気をとられ過ぎて油断してたのがいけなかったのか…
「うわっとい!!」
街道横の高い草から飛び出てきたモンスターに気づかず、おれはそのモンスターと接触してしまった。
▶️ミニプラントとレッサーゴブリンがあらわれた。
完全に油断していた。
思いがけない戦闘に入ってしまったので、俺はすぐに戦闘態勢を整えることにした。
しかし、自分の腰に下げてる盾を構えようとした次の瞬間…
シュパ!ザク!
俺の脇腹をミニプラントが発射してきた「はっぱのナイフ」が捉えた。
「ッ……!」
……待ってくれ。
これは洒落にならない…。
別にはっぱのナイフの速度が速すぎたということでもない。さっきの一撃でHPが減りすぎたわけでもない。
おそらくこれまで通りのゲームならこんな戦闘なんて屁でもないだろう。
しかしゲームとは圧倒的な違いがあった。
「痛み」があるのだ
ちゃんと脇腹にナイフで抉られたかのような鋭い痛みが。
思わず、傷口を見る。
血は出ていない。
しかし、傷があるとおぼしき所は表面の部分が削れポリゴンが霧散するようなエフェクトが出ていた。
これがこの世界でいうところのダメージエフェクトということなのだろう。
なぜだろうか。傷口を確認したら余計に痛みが強くなった気がした。
しかし、いまは戦闘中である。
痛みがあることも傷口を確認して痛みが強くなったことも目の前のモンスター達には関係ない。
やつらは姿勢を構え、更に攻撃を行ってきた。
レッサーゴブリンがこちらに向かって走ってくる。そして手に持った錆びた槍を俺の顔めがけて突き出してきた。
やつらの攻撃はここが初心者のためのフィールドであることを踏まえても直線的で予備動作が大きい。
俺は上半身を捻ることでその攻撃を簡単にかわした。
「いっつ…!!!!」
しかし、上半身をひねれば当然腰をそして脇腹を稼働させることになる。攻撃は当たらずとも痛みがひどくなった気がした。
違うのか…。これはゲームとは違うんだ…。
ゲームでは感じたことのない痛みにおれはこれがリアルなのだと改めて思い知らされた。
ゲームじゃない…現実なんだ…。
ベッドで頭を強打した時も痛みはあった。でも、あれとは明らかに違う…。
俺は目の前にいる敵が命を奪おうと武器を振るいはじめて「痛み」というのがなんのためにあるのかを知ることとなった。
少し呼吸が荒くなり、額に汗が浮かび始めた。
…こえぇな。
生まれてこの方、戦争も喧嘩も経験したことのない平和な世界でぬくぬくと育った俺である。
ゲームで「経験値稼ぎ」をしたことはあるが「命のやり取り」なんてものはしたことが1度もない。
おれは思いがけず遭遇することとなった命のやり取りに背中が凍り立ち尽くしてしまった。
しかし、それが良くなかった。
攻撃をしてきたレッサーゴブリンに立ったまま気をとられるばかりでをおれはミニプラントがモゾモゾと体を動かし、こちらに頭部を向けるのに気づいていなかった。
そして…
シュン!!という音がした方向に視線を向けると…
眼前には緑色のナイフが迫ってきていた。