盾と無人と固定物
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とは言え先ほどは大層に始まったと大言壮語したはいいが、序盤も序盤(ただしOP抜け中)なのでやれることはそう多くはない。
ある程度までゲームを進めなきゃインターネットで協力プレイができるようにもならないし、スキルも揃わない。そもそもこの状況にインターネットがあるかなんてわからんが。
そういうわけでこれからやれることはとりあえず動画にのっていた通りの真似をして移動するだけである。
最初の目的地は始まりの町ルーニア。とりあえずレッツゴー!
「お、スライムやん。そんであっちはレッサーゴブリンか」
歩いていると早々にモンスターの影があちらこちらに見え始めた。
このゲームはシンボルエンカウントでマップ中にモンスターの姿があらわれそれらと接触すると戦闘が始まる仕様となっている。
「へー、こいつらこんなグラフィックしてんだ。結構凝ってるな」
ある程度の距離からまじまじとモンスターを観察していると
「あ、やべ」
どうやらモンスター達に気づかれてしまったようだ。
さてさて、普通ならばここで始めての戦闘と参りたいとこだがここで俺が取る行動は
『逃げる』の一択である。
一部を除きシンボルモンスターの走る速度よりもプレイヤーの走る速度の方が早いため通常のフィールドでは自らモンスターと戦おうとする以外では、戦闘になることが少ないシステムになってる。
もし仮に戦闘になったとしても初期装備の盾で2、3回相手の攻撃を防御すれば簡単に戦闘から離脱しやすくなるのでやはり基本は戦闘らしい戦闘を起こさずに逃げやすい設定になっている。
初心者への救済措置である。これを利用しない手はない。
ともあれ人によっては逃げるんじゃなくて序盤なんだから倒して経験値でも稼げよと思うかもしれないが、今は事情があって積極的に戦うことができない。
それについては後ほど説明するとして、例え戦闘にはいっても先ほど説明した逃げの方法を利用して「逃げる」の一択。
今はこれが本当に重要なのである。
実際に先程も接敵に気づけずにエンカウントしてしまったが危うげなく対処することができた。
「よし、無事逃げきれたな…」
先程まで初期モンスターの定番中の定番スライムと戦っていたが、体当たりを盾で受けること三回、その後逃げることで無事に逃げきれることができた。
しかし、早速ゲームと現実で違うことが精神にダメージを与えてきた。
「ていうかなんなんだよ…あの感触。きもいわ…。」
盾でスライムの体当たりを受けた瞬間に感触があるのだ。ゲル状のゼリーがつぶれた「グチャ!」という生々しい感触が。ポヨンとかいう生易しいものではない。「グチャ!」である「グチャ!」
「しかも粘液が盾にこびりついてるし…」
今では少しカピカピしてるが、表面の一部はまだ粘液でグッチャグッチャである。控えめにいって見てて心地のいいものではない。
「後で手入れしねぇとな…。」
とりあえず盾を思い切り振って、いまだこびりついてる粘液を落とす。スライム独特の匂いは残ったが今のうちにできることは精々これぐらいだった。
精神的なダメージはおったものの、差し迫った脅威ではないので気を取り直して移動を再開することにした。
モンスターにエンカウントしないようにダッシュで走り続け、無理をすることなく最初の町にはすぐに着いた。
目の前には馬車が3台は通れそうなほどの立派な門や緻密につまれた石作りの橋。
本来なら気の良さそうなおっさんが「ようこそ!ルーニアへ!」とか言って出迎えてくれるそうなのだがどうやらそれはないらしい。
まあ、必須のイベントでもないのでとりあえず勝手に町のなかに入らせてもらうことにした。
「…………」
なぜか町の中はひどく静かだった。
露天にはアイテムがあるのに人1人おらず、宿屋を覗いてみても人影のひとつすら見えなかった
更には町の大通りとも言える場所にすら人の気配は感じとれなかった。
裏路地に行ってみる。
変わらず人の気配はない。
建物の中に入ってみる。
さっきまでまるで人がいたかのように食事の準備がしてあるがそれでも人の気配はなかった。
本当に誰もいない。息を潜めて隠れているような気配の一つすらないのである。
「やっぱこの状態普通に怖いわ…」
さて、いまのこの状態を不思議に思う人はたくさんいるだろう。そう、実は今のこのOP抜け状態というのはちょっとしたデメリットがあるのだ。
まず前提条件としてOPを見ることはほぼ全てのストーリーとクエストの一番最初のフラグをたてる重要な要素であることを話しておく。
OPを見ることで様々な町のロードが行われて、町の住人が出現したり、町の中のイベントが発生するようになるのだ。つまり、OP抜けをすると一部を除いてNPCのほとんどが出現しなくなってしまうのである。
つまり、今この町で人を一切みかけないのは単純におれがOP抜けをしたせいなのである。
あらかじめ知っていたとはいえ、ゲームの中の話と現実では全く違う。正直、神隠しにあったようでちょっと怖い。
今の状態についてはとあるイベントを起こすことによって解決できるが、それまでこの状態にしてしまったことを後悔しそうだ。
がんばろう…
さて、話はなぜ序盤なのにモンスターから逃げるかという疑問について戻させて頂くのだが、その答えはこの状況をみて頂ければわかるように人がいないからなのだ。
人がいないからそれがどうモンスターを倒さずに逃げるのに繋がるのかって?
要は回復できる場所がなくなるのだ。宿屋しかり道具屋しかり、果てはセーブを行ったりする神殿に至るまで。
一部のNPCを除いてゲームとしての機能が失われるレベルで人がいなくなるのだ。
この「芋洗い」というゲームは人の協力が得られないのはつまりこういうことなのだと教えてくれるとても身になるゲームでもあるのだ。(ただし制作者にそういう意図はない)
その後もあちこち探し回ったが結局人は見つからずじまいだった。
こうなれば仕方がないのでとりあえずこの町の中で回収できるアイテムを回収しておく。
この町で手にはいるアイテムを思い出しながら散策をしたところ畑で薬草を2つと毒消し草が1つ、防具屋の裏手で皮の帽子が手に入った。
早速皮の帽子は装備しておき、残りはアイテムポーチの中にしまっておいた。
「できることはこれぐらいかな…」
本来だったら道具屋でこの町で最も攻撃力の高い「金属スコップ」を手に入れるのが定石なのだが今は考えても仕方のないこと。
…いや、まてよ
ここってゲームの世界だけど割りと自由に行動できるよな…。
ゲームでは特に触ることが出来なかったけど、今なら適当な家の中に入って普通のアイテム以外のもの漁れるんじゃないか…?
天啓のように突然閃いたことに我ながら天才かと関心をする。
20分後には衝撃の事実がわかるとは露もしらず、早速行動に移してみることにした。
「どういうこっちゃねん!」
バシーン!!ピキッ!
結果からいうと物を回収するどころか何一つわずかに動かすことすらできなかった。
まず試しに本棚から本を抜こうとしたところ、ガッチガチに隣と接着剤でくっついてるかのごとく微動だにしなかった。
次にテーブルのコップをとろうとしたのだが、テーブルにくっついて離れないのだ。しかも根を張ってるかのようにテーブルも横に動きすらしない。
なんかちょっと腹がたったので盾で思いっきり叩いてみたら明らかにガラスで出来てるように見えるコップではなく逆に盾が少しかけた。
今日だけで表面を粘液でネトネトのカピカピにして、その上乱暴に扱って一部を欠けさせてしまった。
盾には悪いことをしてしまったと思う。俺が盾だったら多分キレてる。
結局、盾の耐久値を下げただけで、得られるものはなにもなかった。
物理法則もへったくれもなく町のあらゆる物が全てガチガチに固まって僅かに動きすらしないのだ。どこまでも奇妙なものである。
多分、これオブジェクト判定じゃなくて諸々合わせて背景とか壁とか床とかの一部とかの判定になってんな…
くっそ、運営め…。ここまで細部のグラフィックこだわってんならここら辺もリソース割いといてくれればいいのに…。
まぁ、ダメでもともとだったんだ。とりあえず今日のところは動き回って暗くなってきたし休憩して明日考えるか…。
そう思い、おもむろに椅子をひいて座ろうとする。
が、椅子が動かない。
ああ、なるほど…。これも背景判定だったな…。見た目はもういかにも座ってくれみたいな雰囲気があったからついうっかりしてたぜ。
押せども引けども動かせないうえにテーブルが邪魔で座れないので他の椅子を探す。しかし見渡したところ同じような椅子しかここにはないらしいので他の部屋を探して歩き回る
が、「ガンッ」と布で出来てる製品とは思えない音を出してカーペットに蹴躓く。
「うおっと!」
結構盛大にこけてなかなかに無様な格好をさらすがカーペットは山の如しで毛並み一つさえ乱れていない。
かなり腹立たしいが気を取り直して他の部屋に入ったところ、ベッドがあった。
こういうときはとりあえずベッドの上でダラダラするのがいい解消法だと義務教育を終えたことのあるおれは理解しているので勢いよくそれに寝転がる。
ガキーン!!
が、ガチガチに硬い枕に頭を強打する。
「だらっしゃぁぁぁ!ふざけんなぁぁぁ!家具の役割どこにいったぁぁ!お前らの家具の役割どこにいったぁぁ!」
あとでメニューを開いて見たところ少しHPが減っていた。もはや休むどころの話ではなかった。
「かってえなぁ!おい!かってえなぁ!」
今時リアクション芸人でもやらないようなキレかたをみせながらベッドをバンバンと叩く。
実際にベッドは岩で出来てるかのようにガチガチだった。
上に乗っかってる毛布を剥がそうとしてみても全く動かない。それどころか毛布の端で指が切れそうになった。
もはやこれはベッドではない。殺意のある凶器である。
生まれて初めて家具にここまでの怒りを覚えた気がする。見た目と違う硬さをもつということがこれほどのストレスになるのを初めて知った。
その後、色々試してみたのだがどの物体も一向にそれそのものが持つ柔らかさが戻ってくることはなかった。
もやもやするものが残るがもう外はすっかり日が沈み真っ暗なため、仕方がなく大人しく目の前のベットで寝ることにする。
かてぇ…
ベッドに寝てるはずなのに気分は祭壇に捧げられた人身御供である。
「見た目とのギャップ」が人を傷つける
というのを身をもって知った1日だった。