メニューと動画と見切り発車
皆様の反応が励みになります!
気に入った方は是非、感想とブックマークをお願いします!
気に入らなかった方は酷評とぶら下がってるタイプの電気のひもでシャドーボクシングをお願いします!
さて、一応の現状確認も終わったことだしぼちぼちやって来ますか。
だけどまず、異世界物のテンプレとして試すことと言えばこれだよな!
「メニュー!」
バッと目の前に黒地に白文字のメニュー欄が 現れる。
<Name:ヒイラギ マサヤ>
ほほう、これはゲームの操作と同じか…。ならば、もちろん閉じるのは…。
メニュー欄の枠をタップしながら手を払うような動作をすると、メニュー欄が消えた。
ふむ、これもいつも通り。
あれ?この場所でこれができるならばもしかして…?。
さていきなりだが、おそらく「始まりの泉」とおぼしきこの場所ではあるが、本当に「始まりの泉」であった場合いくつかの仕様が存在する。
一つ目の仕様は泉に向かっていくと目の前に泉の精霊があらわれて、信託を受けて冒険にでるためのオープニングが始まるという仕様だ。
これについては特に疑問はないだろう。お告げがあり、「勇者よ!旅立つのだ!」とか言われる的なあれである。
二つ目の仕様は泉に向かわずにこの場所から立ち去ろうとすると、出口付近で『自分を呼ぶ声が聞こえる』というテキストが表れ操作が強制的にストップさせられるという仕様である。
ここでは頭の中で直接、自分の名前を呼んでくれるらしい。
なんか透明感のある声で「ヒイラギマサヤさん…」って言われたときはちょっと興奮した。
まぁ、冒険始めるためのイベントだもの。
そりゃなにがあるか説明せずしていきなり外ほっぽりだすわけないよな。おれでも引き留めるわ。
さっき試しにやってみたが、実際に体の動作が強制的に止めさせられ脳内で名前が聞こえた。何回かやってみたけど毎回変わることなく繰り返された。
まぁ、言うなればこの場所においてはこの二つが主な仕様なのだが、実を言うともうひとつだけ全てに共通する「芋洗い」を「芋洗い」足らしめるための独自のシステムがある。
それはなにかって?
まぁ、見てみればわかる。今からそれを確認するのだ。
まず俺はストーリーを進めるために泉の方向へ歩みを進める…
なんてことはせず全くの正反対の強制的にストップをかけられる出口付近に体の挙動を止められないギリギリのところで立ち止まった。
その後、一歩だけ進むとほぼ同時に
「メニュー!」
と言った。
するとなんと…
本来起きるはずの強制的な挙動の停止が起きることもなく、頭の中で声が響くこともなかった…
…いやちょっと嘘ついた。
頭の中でおれを呼ぼうとする声があるんだけどその声がなんか息を飲むようにいきなり強制的にシャラップさせられてる感じがあった。
「ヒイラギマサヤさん…」って言おうとしてるんだろうけどなんか「ヒ…」って言うか言わないかの段階で言葉を出せずにその後なにも音がでなくなる感じ。
例えると自分がなにか話そうとしたのに友達とかが喋り始めて、言おうとしてることを飲み込んでその人に喋らせ始める感じに似てる。
あのちょっと不完全燃焼で可哀想な感じを想像してほしい。
あー…なんか急に小学生のときに休み時間で俺が「鬼ごっこする人この指止まれ!」って言おうとしたら隣の席の陽キャが「皆でサッカーやろうぜ!!」って言い始めたことにビックリしてそのあとにとっさになんにも言えずそのポーズで少しの間固まってたのを思い出した。
当たり前だけど皆サッカー行くし、なんか俺は休み時間入ってすぐに人差し指を上に向けて「説明しよう!」的なポーズをとりはじめたなんかよくわからんやつって扱い受けた。
回りの奴らは俺が天井のほう指差してると思って皆、上向き始めたりするしなんか散々だったな。
あれ以降おれのあだ名「マルオ君」になったんだよな…
ズバリ!丸縁のメガネをかけていたせいでしょう~!
やかましいわ
あー、ふとした瞬間に来る黒歴史ってほんと辛い。
今すぐ枕に顔うずめて「アァァァァァァアァ!!!!」って叫びたい気分。
………
………
…まぁ、とりあえずそれはさておきだ。今はこの作業を完遂しなきゃな。
その後おれは右手でメニューをピッと払って消し、ほんの少し進もうとした。
すると…
また頭の中で声が響きそうになったのですかさずおれは…
「メニュー!」
とさけんだ。
そうすると頭の中に「ヒッ…」って音が響くかどうかっていうタイミングと同時にメニュー画面が表れ、挙動は一切の制限を受けずに一歩だけ進むことができた。
「よしよし、ここら辺は変わってない!これなら行ける!」
俺はこの動作を繰り返し泉の出口の方向へ歩みを進め、泉から遠ざかっていった。
傍目からみたら「メニュー!メニュー!メニュー!」と叫びながら腕をひたすら左右に動かし、ピコピコ歩いてる変人にしか見えないのだが…
そうするとなんと!
オープニングを開始させるための仕様を無視して、「始まりの泉」のマップから抜け出して外のマップに出れてしまうのだ…。
始まりの泉と名のついた場所から何が始まるのかさえもろくにお告げも聞かずに、どんな物語が始まるのかを期待させる演出の効いたオープニングを見ることもなく、果てはチュートリアル的な操作をすることもなく、本来は出れるはずもない外のマップに出てしまった。
要はOP抜けしてしまったのである。
さて先ほどもいったが、これこそがまさに芋洗い独自のシステムである。
オープニング抜けをはじめとするストーリーを度外視したバグがゲームの一部となっているのだ。
さっきのやつだってなんか小難しいことをやってたように見えるが簡単な仕組みのバグを使ってただけである。
自分の名前が呼ばれる前に、挙動が強制的に止められる前に素早くメニューを開く。ただそれだけだ。
メニューを開いている間は自分を呼ぶ声が止まり、また出口の挙動ストップ判定がなくなる。しかし、一歩でも進んでしまえばまた判定が出てくるのでそれをまたメニューを開いて判定リセットをする。
単純にこれを繰り返し判定のある範囲から脱出したのである。
「はっはっは、また今回もオープニングを見れなかったな」
実を言うとこのゲームのオープニングをまともに見たことないというユーザーは全体の2割近くあるということがユーザーアンケートで分かってる。かくいう俺もその1人だ。動画サイト以外では見たことがない。
2割のプレイヤーはなにを目的として冒険を始めたのかよく分かんないまま冒険をしてるらしい。なかなかにシュールである。
え、普通こういうバグって対策とか取られるんじゃないかって?
まぁ、普通なら運営がパッチをあてたり、アプデをしたりすることにより対処をするのだが、ことこれに関してはパッチを当てようにも当てられなかったというのが正解だろう。
実を言うと俺が始める前のこの芋洗いというゲームはそこまで有名というわけでもなく、発売数や動員数が他のVR式のそれとなんら変わりはしない普通のゲームとして親しまれていた。
目新しさがない代わりに堅実で妥当なシステムで、ほどほどのゲームとして評価されその評価通りにゲームが楽しまれていた。
しかし、発売してから数日後のとあるときに普通のゲームから180度見方が変わるある一本の伝説の動画が動画サイトにあげられた。
その動画の名前は…
『精霊の話聞かずに外の世界に勝手に旅立ってみたwwww』
この動画はたちまち再生数を伸ばし、日刊のランキング一位の座を瞬く間に奪った。その後もその月の月間ランキング一位をゆずることなく殿堂入りものとして世界中で有名になった。
今、現在進行形で行われているOP抜けを初めとして、ゲームに登場するキャラクターのグラフィックがおかしくなるバグや人間をやめていると思えるような挙動の移動方法など。
アホみたいなバグが面白おかしく紹介されていた
もし動画があげられた直後に運営が気付き削除要請をしたら別の結果になっていたかもしれない。しかしそれは言っても、もはや差がなきことであった。
その動画が原因で「芋洗い」は…
笑いあり 涙あり バグあり なんでもあり
まさに自由度の高い不朽の名作となったのである。
つまりその動画のせいで商品の売上を左右するほどにこのゲームのバグが致命的に有名になりすぎたのだ。
一応、動画があげられた直後から対応パッチは制作されていたらしい。しかし、直後の売上高を鑑み、そのパッチを当てた場合のリスクを考えて結局当てずじまいになった。
そして動画が原因で運営の方針は「『本来』のゲームの進行に致命的な不具合をもたらすもの以外のほとんどを容認し、あとは自己責任」というスタンスに変更することになったらしい。
この方針のせいで幾人もの仲間が次元の狭間に取り残されたのは今思い出しても泣けてくるが
しかし、このように芋洗いというゲームはバグのおかげでユーザーが爆増し、運営のスタンスもあいまって接続率も高い水準で安定するようになってしまったのだ。
運営の望まぬ形ではあるのだが結果的には大成功してしまったのである。
「これが通じるってことはやっぱり芋洗いの世界でいいんだよな…!それにここの地形…、どうみても最初のマップだよな…!」
自分の中でもうここは「芋洗いの世界」なのだと確定することにした。この伝説のバグ技が通じた時点でもはや余計な疑いはどこにもなくなった。
先程まで持っていた先行きの不安が今では興奮に近いものになっていた。
「よっしゃー!やってやる!これは芋洗いの世界だ!俺だけの芋洗いの世界だ!やってやるぞ!」
まぁ、何をやってやるのかはテンションが高ぶってるので自分でもさっぱりわからないのだがこのときの台詞はただのノリで叫んでただけである。
でも、単純に嬉しかった。あれだけ熱中してのめり込んだゲームがこの身で体感できることに。
俺が現実よりも現実らしいことを経験してきた世界に来れたことに。
異世界(ゲームの世界)への転移
不安は興奮へ。疑いは確信へ変わった。
知る人ぞ知るバグだらけの普遍の名作「immortal alternative online」の世界へと転移を果たした俺の物語が今はじまった。