腹が減っては戦は出来ぬ
アズマミキヒサ二等海曹は、若手メンズアイドルの登竜門"メトロポップキング"の座に立っているはずだった。彼の芸能界入りを阻んだのは母親であった。父親も母親に同調して、いっその事自衛隊にでも入って、鍛え直して貰いなさい。と言われてなくなく一番キツそうな海上自衛隊に放り込まれた。
とびきりのアイドルが海上自衛隊に入隊したと広報が嗅ぎ付けると、アズマのファンが横須賀基地に殺到。警察が出動する騒ぎも発生した。アズマは人前に出るのは恥ずかしかったが、キャーキャー騒がれるのは、悪い気分では無かった。華奢な体の割にはフードファイター並の大食漢で、そのイケメンとは相反するものであった。
フジワラセイイチ三等海曹は、地味で目立たないアズマとは正反対のキャラであった。入隊同期なのに、アズマの方が一階級上なのは、アズマがイケメンで部隊の顔であるからだと信じて疑わなかった。とは言え、そんな彼等も海野一佐の大切な部下である。
「艦長、勝さんがいらっしゃいました。」
「おい、海野?」
「丁度良い。自分も勝さんに会いに行こうって思ってたんです。」
「それなら話は早い。ワシはもう隠居の年頃だと言うのに、次から次々に難題が降り注いでな、困っておるのじゃ。ところで海野、隊員はどのくらい戻った?」
「8割弱と言う位ですね。もう少しです。」
「なるべく急いでくれよ?」
「はい。」
「今日はそれだけじゃ。」
「勝さん?大分御疲れの様ですが?」
「そうじゃの。クタクタじゃわい。」
「海軍カレー、食べて行きませんか?」
「ほう、未来の海軍カレーが食べられるのか?」
「はい。お陰さまで炊事隊員も戻って来ましたので。」
「食わせろ!」
「30分程かかりますが、待てますか?」
「腹が減っては戦は出来ぬ。」
「戦ですか?」
「そうじゃの。情報戦じゃ。」
「流石ですね。幕末の思想を遥かに超越していらっしゃる。」
「インテリジェンスと言うのはな…。」
(やべぇ。勝さん、御説きモードに入ってしまった。)
「で、どうなんじゃ海野?」
「はい?」
「はい?じゃないよ。嫁の一人でも迎えたのか?」
「そんな事をしては未来が大きく変わってしまいます。」
「ほう、ちとはまともな答えを出せるようになったではないか?」
「そりゃあ、私だってゼアーに残してきた妻子に会いたいですよ。」
「それが男ってものだな。」
「きりざめ一隻が消えた位でゼアーの日本の防衛には何ら問題は無いでしょう。」
「また、性能の良いイージス艦を作れば良いもんな?」
「御名答。」
「とは言え、ゼアー(元々いた世界)の海上自衛隊も、相当混乱したはずじゃな?」
「そうなんです。それが心配なんです。」
「御馳走様。また来るわ。」
「はい。よろしくお願い致します。」




