アイヌの元海将補
ここは蝦夷地(北海道)。別に慌てて等いない。船の一隻でも有れば江戸に行ける自信はある。申し遅れた。ワシはコバヤシテイキチ一等海尉、海上自衛隊一筋35年でもうすぐ定年である。趣味はF番(釣り)である。もう一人連れがいる。ワシの弟子にしてB幹大学院卒の出世頭オオクボケイイチ二等海尉である。叩き上げとエリートでは、考え方に差があるのは否めない。ただワシの教えたF番の腕はまだまだ未熟である。
さて、まずは現在地を把握せねばならない。周囲には人影も無い。これは困った。
「あ!コバヤシ一尉、彼処で酒盛りをしている人達がいますよ?」
「あのな、よく見ろ。あれはアイヌ民族。見て分からんか?」
「何故です?」
「標準語が通じない。外国人みたいなものだ。今のワシ達に…。」
「オーイ!そこの二人、此方へ来いよ。」
「え?標準語話してますよ。コバヤシ一尉?」
「どうやらワシ達は運が良かったみたいだ。」
「お主ら海上自衛官じゃろ?」
「何故それを??」
「その制服で分かったよ。私はハヤシタイチ元海将補だ。アイヌと本土のハーフだ。だから標準語も分かるしアイヌ語も分かるんだ。ここの部落のアイヌ民族に命を助けて貰ったからね。ここに定住しているんだ。平成の時代からTSPして来たんじゃ。」
「ここから、江戸へ向かいたいのですが?」
「それなら函館に向かうと良い。弘前への定期船が周航している。弘前から先は歩いて江戸を目指す事になるが、屈強な海上自衛官なら余裕だろ?函館までの20㎞は私が一緒に行ってやる。とりあえず、今日はもう遅い。ここで1泊して行け。」
「何から何までありがとうございます‼」
「可愛い後輩の為だ。」
「コバヤシ一尉?あの人マジで海将補だったんすか?」
「知るかよ。でも、ワシ達の制服を見て海上自衛官と見抜く眼力に間違いはない。どうせ迷い子になるだけだ。親切な人じゃねーか?それに預かろうぜ?」
「はい分かりました‼」
こうしてコバヤシ一尉とオオクボ二尉は、函館に向かった。
「じゃあ、私はこれで。」
「ありがとうございました。それでは。」
「コバヤシ一尉、弘前よりも江戸に行く船がありますよ?」
「一人2両か…。ちょっとここで待ってろ!」
(この時計を質屋に入れる日が来るとはな。)
「10両になりますが?」
「それで構わぬ。」
こうしてコバヤシ一尉とオオクボ二尉は、江戸に着いた。
「とまぁ、こんな感じの旅路でした。」
「そのハヤシと言うアイヌ人の海将補はきりざめクルーではないが、俺達より先にTSPしてたってのは、マジか?」
「アイヌ民族と戯れていた彼には、海将補の面影は全くありませんでしたが、初老の彼は防衛大学校卒業者だと言って自慢していましたから、嘘はついていないはずでした。」
「とにかく、よく戻ってきた。」
「はい、ありがとうございます。艦長。」




