不信任の証
二人は走った。この時代が幕末である事を知らなくても、この京都と言う街が狂っている事は容易に分かった。天誅ならぬ人斬りの横行。血で血を洗う志士達の殺り合い。そんな場所にTSPした二人のきりざめクルーの運は最悪であった。下級隊員である彼等は普通の自衛官である。運命と言うのはとてつもなく残酷だ。その波に彼等は必死で抗った。
「エエイ!どけどけ!泣く子も黙るサカグチリョウタ海士長だ!」
「そして、俺の相方は剣道6段の海上自衛隊随一の剣豪オオゼキダイスケ二等海士だ。」
二人は共に一般大学を卒業して入隊していた。就活に失敗した為である。高い所に立って先陣をきるのが苦手という事もあり、幹部候補生試験は受けなかった。
二人は一旗京都であげようとしたが、サカグチ海士長がふと我に帰り、追手を振り切り大阪まで逃げ延び、江戸を目指した。そのサカグチ海士長の判断は正しかった。大阪から江戸への定期便に何とか潜り込み、無賃乗船をしたが奇跡的にバレず一週間程で江戸に着いた。
「オオゼキ二士、あれを見ろ!」
「き、きりざめだ!?」
「海野艦長!」
「サカグチ海士長とオオゼキ二士だな?」
「はい、京都から生き延びました。そう言えば京都で薩摩・長州の者と見られるスパイに襲われましたよ?」
「ほう。」
「オオゼキ二士の一閃で何とか事なきをえましたが…。」
「やるじゃないか?その竹刀で。」
「その事案についてはTTSの出番では無さそうだな。スパイなんていくらでもいる。」
「TTSですか?」
「君は知らなくても良い事だよ、サカグチ海士長。」
「関西地区からのきりざめクルーのTSPはレアケースだからな。よく金も無しに江戸まで辿り着けたな?」
「無賃乗船しましたがね…。」
「大事にならなくて良かったな。いや、良くないか。」
「まさか幕末の京都にTSPしてるとは思いませんでしたからね。それを理解するまでには時間を要しましたが、何とかして江戸まで行けば何とかなると思っていました。まさかきりざめごとTSPしているとは思いませんでしたね。」
「幕末の日本に昭和の日本海軍の戦艦大和に戦艦武蔵がいるなんて、ただ事じゃないですね?」
「詳しい事はマル秘扱いなんだ。指定幹部以外アクセス不可能だ。不安に思うかも知れないが、私達幹部を信じて欲しい。」
「当たり前じゃないですか?俺達は京都で新選組のスカウトを断ってここに辿り着いたんですから。」
「そうか、まぁこんな状況だ。いつ出撃しても良い様に準備しておいてくれ。」
「はい!」
「艦長、良かったのですか?」
「ん?何が?」
「スパイかも知れないのですよ?」
「その時はその時だ。ぶっちゃけ曹士隊員の顔と名前は薄ら覚えだからな。」
「曹士隊員は泣きますよ。そんな事聞いたら。」
「名前を知らない隊員だってぶっちゃけいる。」
「あちゃあ泣。」
「そこをカバーするのがお前達幹部の役目じゃないか?」
「それはそうですけど。」
「スパイの一人や二人潜入したところでCIC戦闘指揮所には到達不可能だろう?」
「まぁ、艦内をクーデターしようってんなら話は別だが、そんな事になるとしたら、私の人徳の無さが引き起こすものであるだろ?」
「スパイ行為やらは海野艦長不信任の証って事ですね?」
「そう言う事だ。」




