タイヨウ
タイヨウと言う寿司屋に出入りしているきりざめクルーと言うのは、イベ士長達の内偵により、エサキ三曹とエグチ二曹だと言う事が分かった。
「アダチ二士、行ってこい。」
「ここは最先任のイベ士長の出番っすよ。」
「相手は格上の下士官二人。確かに二士や一士の話なんか聞く耳を持つ訳ないか…。」
ガラガラ。「失礼します。」
「イベ士長!どうしたんですか?」
「まぁ、座れよ。後ろにいる奴等も来い。」
「大将、騒がせてしまってすみません。」
「ワシに構わず話を続けろ。」
「はい。2、3日前だったかな。きりざめで甲板掃除をしていたら突然気を失ってな。気が付いたら、この埠頭にいたんだ。制服姿でウロウロしていたら、タイヨウの大将に声をかけられて、今はこの店を手伝ってる。って訳だ。」
「なるほど。エグチ二曹の姿が見られませんが?」
「エグチ二曹は今仕入れに市場に行ってる。ところで、艦長は一緒じゃないのか?」
イベ士長が艦長の現況を伝えると、エサキ三曹は理解してくれた。
「ただ今戻りました‼」
すると大量の魚を持って来たねじり鉢巻のエグチ二曹が現れた。エグチ二曹にもイベ士長が現況を伝えると、エグチ二曹はこう言った。
「大将と艦長が良いって言うなら俺はここで寿司屋をやる。」
「ワシはありがたいが、お前の上司の海野さんがどう言うかによるぞ、エグチ。」
「イベ士長、艦長には上手く言っといてくれよ。」
「エサキ三曹はどうしますか?」
「俺もタイヨウの寿司屋にいさせてもらいたいな。現状下士官も士官もろくに集まって無いみたいだし。」
ただ二人はこう言った。
「きりざめが見つかり召集がかかったなら、その時は召集に応じる、と。」
エサキ三曹は父親が米国海兵隊の軍曹で、母親が日本人である。エサキ・ヘンダーソン・タケシと言うのがエサキ三曹の本名である。真面目で正直な好青年。高校時代はアメリカンフットボールのクォーターバックで、入隊する前はNFLのドラフトに名前の上がる程の実力派であったと言う。日本語があまり得意ではなく、隊内で孤立していたところを、同じアメリカンフットボール経験者のエグチ二曹に可愛がってもらっていたと言う。
一方のエグチ二曹は高卒入隊のバリバリ叩き上げ下士官で部内幹部候補生(C幹)を目指している努力家である。F番(釣りの事)が趣味で隊内では、その趣味がこうじて兄貴分的な存在感を示している。
「勝さん、ここは築地ですか?」
「ああ。せやな。」
「きりざめは横須賀にあるんと違うか?」
「やっぱり勝さんもそう思いますか?」
「車も電車もないが、陸路で2日もあればつくじゃろ。明日行ってみたらエエがな。」
「イベ士長、きりざめのクルーサーチは君に一任する。」
「分かりました。」
(ったく、いっつもこのキャプテンは勝手なんだよな。普通海路で横須賀だろ?まぁ、きりざめが見つかれば何でもいいや。)と言うイベ士長の心の声が漏れそうになるのを必死でこらえて一士、二士の隊員と共に、きりざめクルーを探しに行く。しかし、海士長を3期も更新する人間はレアだ。普通は三曹に昇進するか退職金をこんもり貰って除隊するというのが、普通である。こうした部隊を知り尽くしたベテランを防衛大学校卒業の若手エリートは嫌がる。だが、イベ士長も三曹に昇進する事を考えていないかもしれない。いずれにしろそれを決めるのはイベ士長自身である。
「おい、貴様!そこの西洋人、一体何をしている?」
「俺は日本人だ。」
イベ士長は勝さんの第一種軍装を来ていた為、幕府の役人に目の敵にされていた。
「そんな格好をして何をしている。近頃はこの近辺でJMSDFだの海上自衛隊だのって書いてあるビラを大量に巻いていると言うじゃないか?一般市民からも苦情が寄せられている。貴様が責任者だな。ちょっと来い。」
「皆、一旦解散。ちょっと尋問受けてくる。」
(つーかこの駐在員なんとかしてくんねーかな。)
「イベ士長!」
「うわぁどうしよ‼」