二浪の先輩
「おい、ヤマノ!起きろ!」
モリカワ二尉は、防衛医科大学校卒業のエリート医官で、ヤマノ二尉の一学年先輩であった。しかし防衛医科大学校卒業後2回の医師国家試験に落ち、後輩のヤマノに先を越されてしまった形となっていた。防衛医科大学校卒業後に医師国家試験に合格した者は、二等陸海空尉の何れかに昇進し、全国の各部隊や自衛隊病院等で勤務する。防衛医科大学校も一般医大と同じ6年制である。先にきりざめに配属されたのは、ヤマノ二尉の方であった。
「ん?何すか??モリカワ先輩?つーかここどこすか?」
「確証はないんだが、どうやらTSPしちまったみたいだ。」
「他のクルーやきりざめはどうしたんすか?」
「ヤマノがずっと眠りこけてたから、調べ不充分じゃないか。」
「すんません。モリカワ二尉、近くに村がありますよ。」
「情報収集行くぞ。」
「うぃす。」
「1867年2月でここは横浜らしいです。」
「江戸の晴海埠頭に徳川幕府海軍の最新鋭軍艦が現れたらしい。」
「それきりざめじゃないすか?つーか幕末かよ笑」
「ん?イベ士長!こんなところで何を?」
「察しはついているであろうと思いますが、」
と、イベ士長は、状況を全てモリカワ二尉とヤマノ二尉に話した。
「なるほど、出待ちとは考えたな。」
「横須賀方面から来るクルーが多くて、この辺りでリレーして晴海埠頭まで送迎するんですよ。」
「そうか。海野艦長は?」
「江戸晴海埠頭のイージス型護衛艦きりざめにおられます。いち早くこの幕末にTSPしてクルー集めに奔走中です。お二人は貴重な医官ですので、きりざめへは私が同行させて頂きます。」
「それはありがたい。」
「では、急ぎましょう。」
「え?徒歩?」
「今まで送迎した隊員の中で文句を言う人は、誰一人いませんでしたが?」
「そうか…。」
「イベ士長?」
「どうしました?小便ならその辺でなさって下さい。」
「いや、そうじゃなくて。どう見ても俺達より年上じゃん?」
「はい?」
「なんで三曹にあがらないんですか?」
「ずっとこの組織にいるつもりはないからです。入隊して5年ほどになりますが、昇進の話は全てお断りしています。それにお二方の様なエリートではありませんから。」
「ま、自衛隊は年功序列ではないですからね。」
「若い内に防衛大学校を目指すべき立ったと悔いています。」
「別にエリートが全てじゃないぜ?俺なんか2回も医師国家試験に落ちてたんだぜ。」
「そうなんですか。」
「おう。」
「おい、ヤマノ?あれ見ろ!?きりざめだ。」
「私の役目はここまでです。それでは。」
「おう。ありがとうイベ士長。」




