武蔵のライスカレーとサイダー
ゼアーで知る日系人とディスで知る事になる日系人の出現には、かなりの誤差がある。ゼアーでは、開国してからようやく海外に自由に移動する事が可能になったが、ディスでは既に一部の国や地域への移動や定住化が進んでいた。国家元首である天皇陛下に政治的権限を与える大政奉還はディスでは行われていなかった為である。その為、ゼアーよりは庶民的な開国となってしまったのだが、その分江戸幕府の権限が強くなり薩摩・長州との大きな内戦は回避されていた。
ライト・マクリエル・ツバサ三等海曹32歳も、そんな日系人である。父は日本人で母親が米国人で、両親は薩摩にいる。料理が得意なライト三曹は、その腕を買われて、各部隊を転々とするが、きりざめで落ち着いた。得意な料理はライスカレー。エゲレス(英国)海軍のレシピを参考に開発した自信作である。一方、ラウス・ハタケヤマ二等海曹24歳は、高卒入隊組の衛生兵で看護師資格を持っている。そんなつもりは毛頭無いが、もし自衛隊を辞めても飯を食って行ける。
二人は横須賀で発見されて、江戸の晴海埠頭に送られた。
「トリタニ士長、御苦労。戻って良いぞ。」
「はい。分かりました。」
さて、戦艦武蔵はと言うと…?
「本艦は、アラビア海及びインド洋を通過。間もなく清国海域に到達します。」
「アカギ中将?近道したい気持ちはよーく分かりますけど、この航路では清国海軍を刺激しやしませんか?」
「海野一佐、大日本帝国海軍の誇る戦艦武蔵が清国ごときに恐れを為すとでも?」
「アカギ中将…。リスクは大いにありますが、日本への最短ルートではあります。」
「だろ?」
「万が一の場合に備えて第1種戦闘配置を…。」
「海野一佐、この艦の主は誰だ?」
「アカギ中将です。」
「助言は感謝するが、黙って私に任せなさい。」
「はい。分かりました。」
「ところで海野一佐、一つ聞いても良いか?」
「はい。何でしょうか?」
「ディスとかゼアーとか言っているがそれらは何だ?」
「アカギ中将には話してませんでしたね。ディスとはこの今いる世界の事で、ゼアーはあちらの世界、つまりタイムスリップ(TSP)する前の世界の事です。」
「ほう?分かりやすいな。ならば我々のゼアーもあるのだな?」
「いえ、ゼアーは一つしかありません。」
「それにしても武蔵のサイダーは激ウマですね?」
「海野一佐のいた未来ではもっと進歩しているのだろう?」
「まぁ、そうなんですが、艦内にサイダーを作る器械をおくと言う発想は無いですね。」
「大艦巨砲なんて時代遅れだしな。」
「それは時代の流れじゃないですか?」
「だが、私は何があってもこの武蔵と乗組員を守ると決めているんだ。」
「同じ艦長として共感出来ます。」
「ハンバーガーにコーラを飲んでいる様な軍隊(米軍)にライスカレーを食べている日本海軍が負けるとは思えないのだがな。」




