wait
ビラ巻きの効果かは分からないが、イトウ一士が見つかった。
「お久しぶりです。艦長。え?そんなに時間経ってないって?」
「2、3日は経っているかと。」
「もう一人隊員がいたのですが、どうやらはぐれてしまった様です。」
「近くにいるんじゃないか?」
「土地勘もなくて、漁船に乗せて貰い空腹をしのいでいました。」
「自分達も海野一佐に見つけて貰うまでは似た様な事をしていました。」
「ところで、イトウ一士?他のクルーは知らないか?」
「仲の良かったクルー全員バラバラになってしまい、所在地は分かりません。あ、イベ士長。」
「イトウ一士探したぞ?あ、艦長!」
「無事かイベ士長。ところで他のクルーやきりざめは見なかったか?」
「いや、見てないよな?イトウ一士?」
「ビラもきりざめも他のクルーも見ておりません。」
「そうか。」
アダチ二士、アベ一士、イトウ一士は高卒1から3年目の新米隊員。イベ士長は変わっていて三曹への昇進を蹴って8年、きりざめでは最先任の海士長である。
「お前ら今日はどうする?」
「何がですか?」
「ビラ巻きだよ。」
「4人とも他のクルーの事は知らないんだ。これしか方法は無いだろ?効率良く4人でポイント決めてやろう。集合場所はこの埠頭。暗くなる前には済ませよう。」
色々なフレーズで試してみたがビラ配りの効果は一向に現れなかった。
「続けるのが大事なんだ。周囲の町人にも協力はしてもらっている。1000枚でも10000枚でもやろう。一応勝さんの許可の出たギリギリのエリアまで巻くつもりだが。」
「さっき貰ったから要らないよ。」
この辺りの人は感付いている。我々が未来人だと言う事を。
「ヤベ、そこまでは考えて無かった。モロバレだがまぁ良いか。」
「ああ、おやっさん!その辺の事は他言無用で御願いします。」
「お前ら、悪い奴じゃなさそうだ。分かった、勝さんの顔に免じて黙っておいてやる。」
ここは江戸・晴海埠頭、時は1866年10月15日。幕末の大きなうねりの中に巻き込まれているとは知らず、クルーを探し続ける海上自衛隊イージス艦きりざめ艦長海野玄太郎一佐以下4名。必死でビラ配りを続けた。彼等にとって最良の結果は、無事にクルーが帰って来る事である。この町に来て2週間。150人はいる筈のきりざめクルー。4人いたという事は、何もこの町周辺に限った話ではないのかもしれなく、幕末の動乱に巻き込まれているクルーもいるかもしれない。「こいつは大事かもしれないぞ。アダチ二士、アベ一士、イトウ一士、イベ士長。俺達の行動いかんでは日本の未来を変えてしまう可能性もある。とりあえずビラ配りはもう止めよう。」
「艦長、御言葉ですが我々は右も左も分からないガキんちょではありません。自立した大人です。…。って生意気ですよね?」
「いや、イベ士長の言う通りだ。私はどうやら過保護に成りすぎていた様だ。」
「先の事なんか気にせずビラ配りましょう‼」
「海上自衛隊の方が良いんじゃないすか?JMSDFだと若い隊員には分かりにくいかもですねぇ。」
その辺りのニュアンスは試行錯誤の繰り返しであった。だが即効性はなく、中々思う様には伝わらなかった。
「もう止めようか?」
「そうですね。もう疲れました。」
さて、これからどうしたら良いものか勝さんに相談する事にした。部下も4人に増えた。ビラ配りの効果は出ているのかも知れない。
「勝さん、クルーが思う様には見つからないのですが?」
「ビラってのはな、配って1日や2日で、効果はでないんだ。忘れ去った頃に効果がでる。そんなもんだ。」
「はい、分かりました。ここは待てですね?」
「wait、待つのも大事かもしれない。」