神のイタズラ
「チヨダ士長!起きて下さい。」
「何だよ?チョウノ二士か。何かあったか?」
「あれを見て下さい!」
「き、きりざめじゃねぇか!?」
「いつ気が付いたチョウノ二士?」
「さっきですよ。これはチヨダ士長に報告しないとなと思いまして。」
「一体どうなってんだ?昨日までは無かったはずだが。霧の雨の様に姿を消していたきりざめが、突然現れた。」
「チョウノ二士、きりざめに乗り込むぞ。多分艦長や数人の幹部自衛官はいるはずだ。事情を聞こう。」
「すぐ準備します!」
「艦長!チヨダ士長とチョウノ二士です!ただ今帰隊しました。」
「お、おう。お帰り。」
「二週間もどこ行ってたんすか?」
「それは話すと長くなるから、カイドウ三佐やセンドウ三佐に聞いてくれ。」
「F番(釣り)でしのいでたんすからね?勘弁して下さいよ。」
「それは苦労をかけたな。」
ちなみに、チョウノキュウベイ二等海士は、ロックミュージシャンに成る為の資金を貯金する為に入隊。入隊してまだ3ヶ月のひよっこであった。意外にもハートが強く使える部下である。一方で、チヨダトシノブ海士長は、三回もの三曹への昇進試験を断っている変わり者である。だが次の昇進試験を断れば強制的に除隊であると言われている。シャバでフリーターをしながらFSPをやりまくると言う選択肢もあるが、高級車一台を買えるくらいの貯金が出来たのは、自衛隊にいれたからである。あしかけ9年いったん慣れてしまうと人間欲が出るものだ。
「チヨダ士長?他の隊員は見ていないか?」
「全く見ておりません。」
「他のクルーはどうしてこんなにバラバラに来るのか理解に苦しむ。」
「カイドウ三佐?今何人?」
「現状35人、海援隊の方が5人、幕臣エノモト様を加えて41人です。」
「そうか、いつの間にかそんなに集まってるとは思わなんだ。」
「まだ3分の1にも達していないか。ビラまきも意味が無かったのか?」
「そんな事ないっすよ。」
「カイドウ三佐?」
「またやります?」
「あれ結構疲れるんだよな。」
「とりあえず晴海から移動する気は無いんだが、もっと分かりやすい場所の方が良いかもな。」
「いや、充分分かりやすい場所ですよ?」
「元々は俺達、第一護衛隊郡第一護衛隊横須賀地方隊所属なんですから、横須賀に行くと言う手もあります。」
「この時代の横須賀なんか何にもないんじゃねぇ?」
「そうか、やはり晴海に居るべきか。」
「それに今は徳川幕府の元で仲間集めを特別に許可されてるんすよ?幕府の命令で出動命令が出る可能性もあるんですから、いたずらに停留場所を変えるべきではありません。」
「動乱の幕末に護衛艦が一隻いるだけで生じる穴は誰も埋めてくれない。むしろ幕府の最強の切り札となっている。」
「どうして神はこんないたづらをする?」
「もうゼアーへは戻れないんじゃないですか?」
「そんな事言わずディスから抜け出す方法が必ずあるさ。」
「艦長?もし自衛権を行使する事態になったらどうしますか?」
「それはその時判断する。乗員の命が最優先だ。マスターキーは便所の時も風呂に入る時も肌身離さず持っている。まぁ、そんな事に成れば未来は変わる。このマスターキーは幕末ではパンドラの箱だ。こんな鍵を使わなくて済む、そんな時代が来るのが一番良いがな。常々、私はそう思っている。」




