プロローグ
「勝さん!勝さん!!この艦ですよ。」
「全く何だよ?騒々しい。」
「あれ?中に誰か居ますよ?」
「よし、俺が行こう。」
「勝さん、チョイ行動早いかな。」
「お主名は?」
「…。」
「答えんか!」
「何だ貴様は?」
「私は海野玄太郎一等海佐だ。このイージス艦の艦長だ。」
「イージス艦?嗚呼、ワシは海軍奉行勝海舟だ。」
「うちのクルーが何処へ行ったか知らないか?」
「知らんなぁ。それより海野一佐、お主まさか未来から来たのか?」
「その質問は此方の方が聞きたいですね?」
「黒船来航は知っているだろう?」
「ああ、教科書で習いました。その幕末かと思いましたが、どうやらチョイと違う様ですね。今は西暦何年ですか?」
「1866年の10月だ。」
「流石は近代日本海軍の父勝海舟さんですね。貴方の言う通り私達はどうやら未来からやって来た様です。」
「何年程後じゃ?」
「2022年から来ましたので150余年前になります。」
「JMSDF?japan-marine-time-self-defense-force 海上自衛隊?…何だそれは?」
「諸外国で言う海軍に相当する組織で、Japan-NAVYとも呼ばれています。」
「それは分かった。としても困ったなこんな軍艦がここにあると。」
「とりあえずここに係留させてもらって宜しいてしょうか?どうせクルーがいなければ動かせませんので。」
「本当に大丈夫か?誰かに盗まれたりはしないだろうな?」
「盗める人間がいるとなると、それは未来からやって来た他のクルー以外には考えられません。それよりもリスクを承知でクルーを探しに行きたいのですが、どうしたら宜しいでしょうか?」
「その制服では目立ち過ぎる。ワシが仕度してやるから、和装に着替えろ。代金は立て替えておいてやる。」
「そこは勝さんの奢りで。」
「馬鹿者が今さっき会った人間の脛をかじるとはどういう了見だ?和服なら買わなくてもワシの家にたんまりある。好きなものを使え。ワザワザ大金はたいて和服を新調する必要はない。」
「お邪魔します。へぇ、勝さんクラスのお奉行様ともなると、こんなに和洋服をお持ちなんですね。洒落てるなぁこの洋服。あーどれにしよ?」
「これでも来ておけ。」
時は2022年の日本。東京オリンピック・パラリンピックも無事終わり、ロシアのウクライナ侵攻による記録的なインフレに苦しむ日本と世界経済。そんな中で黙々と任務をこなす海野玄太郎一等海佐らイージス艦きりざめのクルーであった。ある朝いつもと同じ様に起きて同じ様に乗り組んだイージス艦の中には誰もいなかった。艦から出てみるとそこは幕末の東京湾であった。これが所謂タイムスリップと言うものなのか…。いなくなったクルーは何処へ行ったか?いずれにしても、それは海野にとって全く受け入れがたい現実である事に違いは無かった。
「勝さん、この軍艦一つでメリケンでもエゲレスでも楽勝ですよ。何なら幕末の世を変える事も出来ます。」
「そんなに凄い艦なのか?」
「未来の技術を侮らないでください。クルーが揃った暁には、勝利の為に薩摩長州に立ち向かう事も可能です。」
そんな訳で幕臣勝海舟の世話になる事から、物語は始まる。