第98話 親友同士の対決──前編
『準決勝第一試合はベル・デフレーション選手が魔力切れの為、現在療養中とのことなので棄権!決勝に進むのはクライア・グリーンドラゴン選手です!』
ベルは今、目は覚ましている。
しかし魔力切れを起こした直後の戦いは、不調によって魔力が暴走してしまうことが多い。
その為、棄権することとなった。
クライアは決勝へと進み、準決勝第二試合の勝者と戦うことになる。
『それでは本日は一試合のみ!準決勝第二試合はシュヴァルツ・レッドドラゴン選手対ブライア・グリーンドラゴン選手です!』
二人が同時に入場し、拍手と歓声が沸き起こる。
何しろ、二人共十五歳という若さでこの準決勝にいる、賞賛するべきことだ。
『見事シガレット家の異端児、クーキリス選手を下した『剣聖』シュヴァルツ選手!果たしてその華麗で豪快な剣技はどんな牙を剥くのでしょうか!』
シュヴァルツの腰には、いつも通り二本の剣が差してある。
聖剣と、轟炎真焔丸だ。
ここまで勝ち上がってきた剣術には、油断も隙もない。
『対するブライア・グリーンドラゴン選手ですが、コルト・ピカード選手との対戦状況は一切不明ですが、イラン・リーバルブ選手との戦いはまるで不死身とも呼ぶべき姿でした!』
何度でも自身を治療し、イランの剣術を耐え切る。
今大会で付けられた二つ名は、『廻甦の闘士』。
何度も蘇り、戦い続ける姿を見ての二つ名だ。
今大会の戦いぶりだと、ブライアにピッタリの名だろう。
『『剣聖』対『廻甦』──勝者はどちらか!』
「この時を、待っていた」
シュヴァルツが、そう俺に言い放つ。
するといきなり二つの剣を抜き、構えた。
最初から全力で来るつもりだろう。
《ブライア、俺が昨日言ったこと、覚えてるな》
勿論、覚えてる。
昨日作戦を立てている時に、ヘルスから言われた。
絶対に最初から全力でいくな、と。
最初は少しずつ、少しずつアイツの体力を削る。
そして最後を飾る瞬間だけ、全力を叩き込む。
こちらも最初から全力でいくと、シュヴァルツの調子を上げかねない。
それだけは絶対避ける為に、ちまちまとダメージを与えていく。
「──『聖滅焔鳴』」
「『陽の光・護光』」
太陽の光で、シュヴァルツの斬撃を受け止めた。
そして斬撃を吸収し、光の威力を上昇させ、仕掛ける。
「『陽の光・燼醒』」
いくつもの光の刃を飛ばし、少し距離を取る。
しかし、シュヴァルツは光の刃をいとも容易く斬り裂き、俺の方へ向き直った。
「バケモンが」
「逃げるなよ──『聖紅炎天』」
一瞬で俺の間合いに入り、剣技を放つ。
だが、俺はまだ余裕だ。
「『空の歪』」
空間を歪ませ、剣技を俺に到達させない。
シュヴァルツからすれば、いきなり未知の守りをされたんだ、混乱するに決まっている。
届いたと思った剣が、届いていないのだから。
「⋯⋯?」
「『陽閃殴撃』」
一撃、光の如き速さで打ち込む。
完全に入ったと思ったが、シュヴァルツに腕を掴まれていた。
「捕まえた──『紅の光刃』」
「『時の歪』」
シュヴァルツだけの時を歪ませ、少し巻き戻す。
シュヴァルツは手を離し、俺は速度を保ったまま拳をシュヴァルツに入れ込んだ。
「──ガハッ!?」
「『戦陽の煉帝』」
更に、上空に魔法陣を描き、シュヴァルツに太陽の如き煉獄の炎を放つ。
避けようとするが、ガッチリと腕を掴み、限界まで逃がさない。
「離せ!」
「嫌だね、大人しく食らっとけ」
そして煉獄の炎が近づいた瞬間、思い切り上空に吹き飛ばす。
これで決まるとは思えないが、多少なりともダメージにはなるだろう。
「闘志よ滾れ──『赤の闘志』!」
そうだ、赤の闘志。
炎関連の影響を一切受けなくなり、力が増す闘志。
俺の『太陽』は、もう機能しない。
「めんどくせぇな!」
「そりゃどうも──『炎熱聖永斬』!」
俺の放った炎を纏いながらも、上空からの強襲。
──避けるのは造作もない。
「『壊絶焔聖照』!」
俺が避けた瞬間、そのまま俺がいる方向へ突き攻撃。
それも何とか躱し、距離を大幅に置く。
試合場が地獄に変わる前に、魔法は消した。
自分の魔法とはいえ、あんなのに巻き込まれたらたまったものじゃない。
「クッソ、めんどくせぇな!」
「こっちのセリフだ、ちょこまかするな!」
『太陽』を主に、炎系統を封じられた俺と、全て躱され、攻撃が当たらないシュヴァルツ。
現時点では、圧倒的に俺が不利。
だが⋯⋯まだ時間が欲しい、限界まで稼ぐ。
「『聖紅庭焔』」
シュヴァルツが剣を振るうと、試合場の地面が燃え盛る地面へと変わった。
俺は炎を避けなければならないが、シュヴァルツは炎を完全に無効化させる。
俺の不利は変わらず、か。
「『聖斬光炎閃』」
聖なる光に包まれた剣閃。
聖剣は邪魔だが、今はまだその時じゃない。
対処は後回し、とりあえず準備できるまで耐える。
「動くなよ──『聖斬光炎閃』」
今度は更に数を増やしてきた。
全部避けるのは難しい、少しの剣閃は相殺させる。
「『緑斬閃征』」
今地面に降りるのは危ない、空中でシュヴァルツの攻撃を耐えよう。
⋯⋯やはり、ここまで攻撃が当たっていないのに、攻撃を激しくしてこない。
先に手を出して欲しいんだが、それはシュヴァルツも理解しているのか。
理性か本能のどっちかが、手を出したら負けると感知している。
恐らく、直感な気がする。
「ブライアの考えてる事は相変わらず分かんねぇ」
──きた!
これは確実に試合の流れが変わる一手を出す前兆だ。
まだだ、まだ我慢しろ。
「お前みたいに頭良くないけど──俺には感がある」
二刀流、一気に構えた。
来いシュヴァルツ、潰してやる。
「──ここだ──ッ!!」
──俺の腕が、吹き飛んだ。
痛みに悲鳴を上げる暇もなく──俺は心の底から歓喜した。
ようやく、痺れを切らした。
圧倒的不利だった俺。
更に、両腕も斬られた。
──ヘルス、作動させろ。
《任せとけ──『矛盾の天秤』》
『矛盾の天秤』──俺とヘルスの二人で開発した魔法。
事前にある条件を設定し、試合の最初の方で下準備をする。
『キッカケ』ができた瞬間──ヘルスが作動させ、俺はその恩恵を受けて戦うのだ。
今回の条件は有利不利の関係。
どちらかが有利になり、どちらかが不利になった瞬間、条件を満たす。
有利な方は上へと、不利な方は下へと向かう。
その天秤の傾きが大きければ大きい程、強い効果を発揮するのだ。
「──バカめ」
一言、そう言って俺は笑う。
天秤は徐々に均衡を保ち──静止した。
有利不利が完全に、平等となる。
「──は?」
俺の左腕が再生し、シュヴァルツの右腕が吹き飛ぶ。
更に『聖紅庭焔』も会場され、闘志も消え去った。
これでこそ、完全な平等。
シュヴァルツは何が起こったか理解していないはずだ。
天秤は既に止めてある、有利不利はもう関係ない。
懸念するべき事項は、シュヴァルツの奥の手だ。
だが、今はチャンスを物にする時間。
「世界『緑に染まりし緑龍の世界』」
鮮やかな緑が、試合場を埋め尽くす。
さあ、『世界打破』を見せてみろ!
「思うつぼなのは分かってるけど⋯⋯仕方ない──『世界打破』!」
緑が、割れた。
ガラスのように崩れ去り、元の試合場が現れる。
これが『世界打破』──凄い!
「仕切り直しだ──『赤の闘志』」
「そうこなくっちゃな──『緑の闘志』」
キッカケは作れた、後は攻勢を保つ。
残りの世界数は三回、オニシエントの『全知全能』があればもう少しできるだろうか。
恐らく、『世界打破』の条件はかなり厳しいはずだ。
そして、ここまで頑なに世界を出してこない。
シュヴァルツの『世界打破』は、自分の世界を犠牲にしているのだろうか。
⋯⋯だとすれば、シュヴァルツは世界を展開できない?
いや、それは有り得ない。
シュヴァルツは俺が世界を二度展開した姿を見たはず。
それを見て、今『世界打破』をしてくるとは思えない。
だったら違う条件か?
もしくは、シュヴァルツも俺みたいに世界をいくつも展開できるのか?
「『紅雲聖閃』」
「『緑閃光鋭』」
二刀流に一本で対抗するのは、かなり体力を消耗する。
明らかにシュヴァルツの方が手数は多いし、威力も高い。
だけど、もう負けたくない。
一年の頃の剣術大会のことは、未だに覚えてる。
もうシュヴァルツに、負けたくない。
「──溜まったな」
「何がだ?」
「見てろよ──世界『不屈の剣聖を辿る闘志の世界』」
シュヴァルツの、世界。
これは、二つ目の世界か?
俺の仮説が間違いっていた?
──いや、思考をゼロにしろ。
今のアイツに俺の思考を邪魔するなんて戦術はできない、全部感のはずだ。
考えれば考えるだけ、思考が複雑になって、単純なアイツに負ける。
まずは冷静に、この世界を探れ。
さっきの『世界打破』から三分が経過した。
このまま俺が世界を展開したら塗り替えれるはずだが、それは多分シュヴァルツの思うつぼ。
あのライアウトってヤツと同じで、条件を逆転させているのか?
(『分析・解析眼』)
世界の情報を、全て見抜く。
その間にもシュヴァルツの猛攻が続くが、間一髪で回避し、シュヴァルツの秘密を探す。
(やはり、後出しの世界に絶対負けないように条件を逆転させてる⋯⋯俺が勝ち目を見出すとすれば、『世界打破』を決めるしかない)
と、なれば⋯⋯シュヴァルツを解析する。
『世界打破』やコイツの世界の全てを、知り尽くすしかない。
(『世界打破』はやっぱり自分の世界を犠牲にしている⋯⋯シュヴァルツの世界は──成程!)
シュヴァルツの世界効果は、『不屈』だ。
潰れても塗り替えられても、何度でも復活する。
だけど、発動間隔時間は三分。
そこから段々伸びていくのか。
三分、六分、九分と、三分間隔で伸びていく。
だからさっきも丁度三分で世界が展開されたのか。
次の発動には六分かかるが、六分で決着は無理だろうな。
(ホーリーさん、犠牲を貸して下さい)
《当然、いいわよ》
(恩に着ます)
できるかは分からない。
けど⋯⋯やらなきゃ、負ける!
「いくぞ──『世界打破』!」
赤く燃ゆる闘志。
その炎が徐々に盛り下がっていき──割れた。
パラパラと、崩れていったのだ。
「成功だ!」
「──ッ!?」
次の発動は六分、できることならそれ以内で決着だ。




