第97話 取引
『さあ四回戦と最後、第四試合となりました!コルト・ピカード選手対ブライア・グリーンドラゴン選手です!』
全世界の極悪犯罪者に、統計を取ったことがある。
この世で最も恐ろしい人物は誰かと。
全員が口を揃えて、こう言った。
コルト・ピカードだ、と。
彼は正義を執行することに、躊躇いがない。
光の名の元に、闇を打ち払う。
人間としてはできた方だが、その方法はかなりえげつない。
それをされて、生きて帰ってきた人間はいないとされている。
──断罪の使者は、表に生きる人間から呼ばれる名。
裏世界に生きる人間から呼ばれる名は──『恐怖の体現者』。
『コルト・ピカード選手はカルト法国にある大聖教会の司教!その力は凄まじく、カルト法国最強とされています!』
現時点で、カルト法国で彼に勝てる者はいない。
だからこそ、悪人に正義を躊躇いなく執行できる。
楯突くことは、不可能だからだ。
『対するブライア・グリーンドラゴン選手は今大会の番狂わせ!彼の披露する技術は底が見えません!』
無名だった男が、ここまで名を上げた。
それはまさしく強者の証であり、優勝候補の一角ともなる。
今大会一のダークホースだ。
「──『懺悔の密室』」
────開始早々、コルトはブライアを密室に誘い、他者からの干渉を受けなくしてしまった。
「⋯⋯どういうつもりだ?」
「まあ座れ、話がある」
目の前にいるのは、コルト・ピカード。
集めれるだけ情報を集め、対策もしてきた。
しかし、いざ対面してみると、こいつは俺と戦う気がないように思える。
⋯⋯何かの作戦か?
「俺はこの試合、お前に勝たせるつもりだ」
「⋯⋯一体、何故だ?」
「交換条件を提示する」
成程、俺にこの試合勝利を譲る。
その代わり、何か条件を呑めってことか。
どんな条件が要求されるのだろう。
「俺には未来が朧気に見える、戦闘とかには関係ない、この先このまま進んだ未来だ」
ちょっとした予知のようなものなのか。
その未来に、何か困難があるのだろう。
「カルト法国は、滅亡する」
「⋯⋯は?」
「この話にはまだ続きがある。俺が所属する大聖教会には双子の女がいてな、ソイツらが基本教会の仕事を担っている」
どこかで聞いたことあるような気がする。
大聖教会の美しい双子の姉妹、彼女達の前ではどんな嘘もつけない、と。
「まあその双子にも色々事情がある。カルト法国は俺が関与できないような所で悪事を働いているヤツが多いからな、俺が見つけれなければ悪は裁けない」
「バレなきゃ犯罪じゃない、の理論か」
「そうだ。だからこそ、滅亡するのだろう」
コルト・ピカードが気づけないような悪事、一体どんなヤツが仕切っているのだろうか。
本当にただならぬヤツなのだろう。
「もっと上手く説明したいんだが⋯⋯すまない、未来が朧気なものでな」
「別に、伝わればいい」
「それなら助かる。俺が言いたいのは、滅亡を止めてくれじゃない」
「じゃあ、一体何だ?」
「俺とお前で、協力関係を結びたい」
⋯⋯協力関係。
その言葉を聞いた時に、思わず俺は驚いた。
まさか今の俺に、そんな話が来ると思っていなかったのだ。
恐らく、コルトはカルト法国で起きている悪事を見つけようとしている。
だが、もしかすると一人じゃ勝てない相手かもしれない。
だから俺を味方につけたい、ザッとまとめるとこういうことだろう。
「それくらいでいいのか?」
「いや、むしろこれでいい。あまり親密になりすぎると、見えるものも見えなくなる」
「それなら俺は協力関係を結ぼうと思う」
「成立だな」
コルトはそう言うと、席を立った。
⋯⋯いや、チャンスかもしれない。
彼は大聖教会の司教、ソロミア皇国について聞いておこう。
もしかすると、何か知っているかもしれない。
「待ってくれ」
「何だ?」
「ソロミア皇国について、聞きたいことがある」
「俺も丁度気に入らないと思っていた国だ、話せることは全て話そう」
立ち上がっていたコルトはすぐさま座り直し、俺と目を合わせる。
今度はこっちが話をする番だ。
「近々戦争が起きるって、小耳に挟んだんだが⋯⋯」
「恐らく、次の各国首脳会議で正式決定するな」
「各国首脳会議って、王が集まって会議をするのか?」
「そうだ、何度か俺も着いて行ったことがあるが⋯⋯ソロミア皇国はかなり酷い」
舌打ちし、眉をひそめた。
恐らく、コルトは何か少しでもキッカケがあればソロミア皇国を断罪するつもりだ。
この様子だと、そう思う。
「スティア王国相手に、かなりの罵倒を浴びせる。俺は今代のユーザルト国王の時しか知らないが、恐らく全ての代の王にも同じだろう」
確か、初代国王と何かあったと聞いたような気がする。
そこまで詳しくは覚えてないが、俺達を目の敵にするってことは深い事情があるはずだ。
「ユーザルト国王は何も言い返さず、無視をしているが、他国もそれに何も言わない」
「何故?ソロミア皇国のやってることはおかしいだろう」
「反論すれば最後、その国は滅ぼされるか奴隷国家となるかの二択だ」
完全武力行使、という訳か。
いや、そうだとしても他国がまとまればソロミア皇国を潰せるんじゃないか?
「今お前は、他国が何故同盟を組まないか考えているだろう?」
「よく分かったな」
「その理由は主に二つ。一つはソロミア皇国の強さだ」
「それ程までに圧倒的だと?」
「そうだ。お前は人類に属する種族を知っているか?」
「純人間、エルフ、ドワーフ、獣人、巨人、精霊人の六種族、だったか」
「⋯⋯純人間以外の亜人五種族、その五種族の始祖がソロミア皇国にいるんだ」
────種族の、始祖。
その言葉を聞いて、衝撃を受けた。
何しろ本当にいるかどうかすらも怪しい、伝説上の存在。
それがいる、と言われた。
驚くなと言われる方が無理だ。
「その亜人五種族以外の始祖もいる、みたいな噂も聞いたことあるが、これは真偽は不明だ。亜人五種族の始祖は、確実にいる」
「確かに、強いな⋯⋯」
彼らの伝説上で起こした神話のような行為が本当にできるとなると、勝てるか怪しいなんてものじゃない。
勝てないのだ。
勝算があるとすれば、親父の『無天無双』。
あれさえあれば、何とか勝てる。
「もう一つの理由が、配下国だ」
「⋯⋯戦争を仕掛けて、配下にしているんだったか」
「驚くべきはその数だ。スティア王国、レジェンダ帝国、カルト法国以外は既にソロミア皇国の支配下と化している」
言葉が出なかった。
手と唇が震え、頭が混乱する。
その三国以外が、既に支配下?
馬鹿な、有り得ないぞ。
でも⋯⋯各国首脳会議で、ソロミア皇国の罵倒に異を唱えない。
その理由が支配下に置かれているから、何も発言できない、だとすると⋯⋯。
「俺も受け止めたくは無いが⋯⋯残念ながら事実だ。ソロミア皇国が危機に陥れば、ほぼ全ての国が救援に来る」
圧倒的とかいう次元じゃない。
ソロミア皇国に勝てる方法が思いつかない、恐らく詰みだろう。
だからソロミア皇国もそれを確信して、次の会議で戦争を仕掛けにくるのだろうか。
「だから、勝ち目があるとすれば『条件指定戦争』だ」
「⋯⋯条件指定戦争?」
「お互いにとある条件を提示し、お互いがその条件を了承しなければならない、という戦争だ。昔からよく使われている手法だな」
成程、少しでもこちら側に傾くよう仕向けるのか。
戦力を削らなければ、ソロミア皇国には勝てない。
だが、戦力に余裕のあるソロミア皇国が条件を呑むのか?
「何か疑問に思っているのか?」
「いや、ソロミア皇国が提示した条件を受理するのかと思ったんだ」
「それなら心配ないと思うぞ。今までの戦争で条件を拒否したことはないみたいだ」
それは驚きだ。
向こうの戦力に余裕があるなら、拒否した方が有利だと思ったのに。
一体どういう理由だろうか。
「聞きたいことはまだあるか?」
「一応、これを受け取ってくれ」
俺がコルトに渡したのは、銀色の指輪。
協力関係を結んだ瞬間、隠れて『創成』で作った非常事態を伝える指輪だ。
そこには協力関係を保証する効果もあり、裏切りは許されない。
当然、俺もコルトを裏切ってはならないのだ。
「それで連絡を取ることもできるし、非常事態の時には指輪が赤く光る。何かあったら伝えてくれ」
「分かった、本当に助かる」
コルトはそう言うと後ろを向き、指を弾いた。
すると密室が消え、観客がザワザワしながら俺達二人を見ている。
「降参する、ブライア・グリーンドラゴンの勝ちでいい」
コルトは試合場を去っていった。
実況に一礼し、俺も試合場を去る。
『え、えっと⋯⋯四回戦第四試合勝者、ブライア・グリーンドラゴン選手、です』
俺達二人以外全員が疑問を持ちながらも、準決勝が明日始まる為、会場を後にしていく。
「何を話してたんだ?」
「⋯⋯世間話程度だな」
「嘘つけ」
入退場の廊下に、シュヴァルツがいた。
今話していい内容じゃない、黙っておくのが正解だろう。
「明日、お前に勝つ」
「かかってこい、叩き潰してやる」
シュヴァルツはそう言うと、手を差し出す。
俺も手を差し出し、手のひらをバチンと叩いた。
決勝にいるのは親父、クライア・グリーンドラゴン。
最強の人間を倒す為に、シュヴァルツも倒す。
「捻り潰してやるよ、シュヴァルツ」
──明日の為に、作戦を練る。




