第96話 剣聖VS異端児
『四回戦第三試合はシュヴァルツ・レッドドラゴン対クーキリス・シガレットです!』
先程とは一変し、試合場が微妙な雰囲気へと変化する。
理由は単純、クーキリスだ。
いや、クーキリスというより、シガレット家が、という方が正しいだろう。
『新たに誕生した『剣聖』シュヴァルツ・レッドドラゴン!その聖なる剣を呼び起こす瞬間は見れるのだろうか!』
赤い髪を揺らしながら、シュヴァルツが入場した。
二つの剣を腰に携え、クーキリスを待つ。
『対するクーキリス・シガレットはシガレット家で唯一ここまで勝ち上がってきた強者!歴代で見ても異端児と呼んで間違いないでしょう!』
黄緑と白の髪を揺らしながら入場したクーキリス。
その左手に見えるのは桃、青、茶、緑、黄の指輪。
果たしてどんな権能を持つのだろうか。
「初めに、シュヴァルツ・レッドドラゴン」
「⋯⋯何だ?」
「その歳でここまで勝ち上がってきた強さを認めましょう」
そう言って、クーキリスは三歩下がる。
そして左手を天に掲げ──指輪が光り輝いた。
「その実力──『剣聖』を、見極めましょう」
ニヤリと笑い──星を形取った。
五芒星が、クーキリスの頭上で回る。
「『星快の剣』」
黄金の剣が、五芒星の中心から出現した。
そして剣の切っ先をシュヴァルツへと向け、光を放つ。
「──『轟炎真焔丸』」
その名を呼び、右腰に差さった剣を抜く。
そして抜剣した瞬間──光を斬り払った。
赤色の目は、光すらも捉える程に成長している。
「ハハッ、いいね!」
「来い、ぶった斬ってやる!」
クーキリスの剣にシュヴァルツもテンションを上げ、不敵に笑う。
お互い陽気な性格で自分の心に忠実だから、相性が良いのだろうか。
「最初からぶっ飛ばしてくよ──『永翔晴快』」
クーキリスが天高く舞い、上空に魔法陣を描く。
青色の魔法陣は、試合場全体を覆う程までに巨大。
シュヴァルツはそれを笑いながら見つめ、剣を天に掲げた。
「『悪滅永征』」
青色の魔法陣から放たれた魔法は、無差別に試合場の地面を抉る。
観客席の結界に当たり、反射して試合場にいるシュヴァルツへと襲いかかった。
「『聖焔緋剣』!」
対するシュヴァルツは、青い光線を真っ赤な炎で斬り裂く。
そして地面を砕く程の跳躍をし、クーキリスに斬撃を放った。
「『永久不滅』」
桃色の魔法陣がクーキリスを覆う。
シュヴァルツの斬撃は無効化され、消え去った。
その光景にシュヴァルツが驚いていると、クーキリスは攻撃を畳み掛ける。
「『天去共絶』」
幾つもの茶色の魔法陣が出現し、地を砕く程の砲撃がシュヴァルツに襲いかかる。
ここで終わるクーキリスではない。
今度は黄色の魔法陣を茶色の魔法陣に重ね、多重魔法を放った。
「『閃灯宴興』」
眩い光が砲撃に重なり、光の如き大砲へとなった。
全弾がシュヴァルツを狙う、完全追尾弾。
これを乗り越えなければ、シュヴァルツに勝利はない。
「──『聖閃光慧』」
シュヴァルツが全身に光を纏った。
龍を宿す赤い目は聖なる青い光と重なり、全てを打ち砕く紫の瞳かのように見える。
そして──シュヴァルツが動いた。
「『紅喰聖架の花園──咲き誇れ』」
赤く光る花が試合場に咲き乱れた。
その赤き花は、シュヴァルツに放たれた光の如き弾丸を全て喰らい尽くす。
──これは『心象顕現』と呼ばれる──二つ以上の能力を使用した時に発生する、己の心の中を解き放つ技。
弾丸を喰らい尽くす程の花園、という咄嗟に思いついた閃きを形にする程の力なのだ。
「『心象顕現』か──ッ!」
「花園よ、力を貸せ──『紅滅聖架の花園──打ち砕け』!」
喰らい尽くした弾丸を、全て打ち返す。
先程とは違い、紅花により聖なる炎を纏った弾丸が、クーキリスに襲いかかった。
「嫌なヤツ──『悪閃苦凍』」
青色の魔法陣が、聖炎の弾丸を凍らせる。
そのまま全ての弾丸が砕け、破片が地面に散らばり落ちた。
序盤からのハイレベルな戦いに、観客は魅了されている。
この歳で自身の心を体外に顕現できるのは、素晴らしいと表現する他ない。
相手が『心象顕現』を使用しても、冷静に対処する判断力は優れていると評価せざるを得ない。
「接近戦ね──『征軽剣殿』」
「俺に剣術勝負か──『豪炎厳闘』」
黄金の剣が緑を纏い、焔の剣と衝突する。
バチバチと火花を散らし、お互い口角を吊り上げた。
「『閃快透斬』──ッ!」
「『焔過反刹』──ッ!」
少し距離を取り、透明な斬撃を放つ。
対してシュヴァルツは、自身の周りに焔を呼び起こし、斬撃が近づいた瞬間にその斬撃を斬った。
黄金と焔の間に割って入るのは──光の剣。
「『聖焔煌乱』」
シュヴァルツの左手に『聖剣』が握られた。
それを手にした瞬間に、聖なる剣術をクーキリスに放つ。
対するクーキリスは、黄金の剣を半分に割った。
一つには一つ、二つには二つをぶつける。
シュヴァルツの二刀流には、二刀流で対抗せねば勝機はない。
「『鏡の雫』」
黄金の剣が聖なる斬撃に触れた瞬間、寸断され、試合場の果てまで吹き飛んだ。
そして放たれた全ての斬撃を斬り裂き、一息つく。
「今の技、本当なら跳ね返すのに⋯⋯あんたの斬撃、強すぎるのよ」
本来『鏡の雫』は触れた斬撃の向きを転換し、放った本人に斬撃を飛ばし返す。
しかし、シュヴァルツの斬撃はあまりにも強すぎた。
だから跳ね返すではなく、斬り裂いて吹き飛ばすを選んだのである。
「てことは、余裕ないんだな」
「⋯⋯さて、そうかしらね」
クーキリスが、まるでまだ奥の手がある、と言わんばかりに不敵に微笑んだ。
シュヴァルツはそれが痩せ我慢なのか、本当に奥の手があるのかは知る由もない。
ただ、全力の相手を叩き潰すのみ。
「『聖閃赤乱花』」
聖なる炎の剣を持って、クーキリスに剣技を放つ。
シュヴァルツの剣技は今大会で見てもトップクラスに完成度が高く、イラン・リーバルブに勝るとも劣らない。
その上、『聖剣』と『豪炎真焔丸』の二刀流。
対処が難しいなどの次元じゃない。
大会に出場する強者であろうと、防御不可能だ。
剣術を少し覚えたクーキリスでは、対処不可能かと思えたが────
「──権威継承」
黄金の波動が、立ち昇った。
剣技を放つ途中だったシュヴァルツは距離を置き、様子を観察する。
黄緑の髪は金色の髪へと変わり、その目は全てを見透かす美しい白眼となった。
「──正式当主、クーキリス・シガレット」
──シガレット家には、当主となった瞬間に膨大な力を与えられる。
それはどこからくる力で、誰に与えられたのかは不明。
しかし、条件は判明している。
──同年代のシガレット家に生まれた者を、皆殺しにすることだ。
その条件を達成した時、当主へと成る権利が与えられる。
だからクーキリスは適当に理由をつけて、同年代のシガレット家を皆殺しにした。
本来なら、別に関与するつもりもない。
だが、クーキリスは力が欲しかった。
例え人の道を外れようと、母を討つ為に──。
「これ、すっご⋯⋯負ける気がしない!」
力を溢れさせるクーキリスは、拳を握ってシュヴァルツを見つめる。
その目に見られたシュヴァルツは──
「──ッ!?」
背筋が凍る程の悪寒が、シュヴァルツを襲う。
ただ一度見られただけ。
それだけで、シュヴァルツは恐怖を覚えた。
「やっちゃおっか──『天去共絶』」
茶色の魔法陣が、空中に描かれる。
しかし、量も大きさも先程の比じゃない。
今度こそ絶命しかねない程に、威力と速度が上昇した。
更に、魔法陣を強化する。
「『光満永烈』」
茶色の魔法陣が桃色に光り、その魔法を永遠に強化する。
シュヴァルツの顔が引き攣り、クーキリスの顔が笑みに染まった。
シュヴァルツはこれを全て捌けるか?
──否、流石の剣術でも不可能だ。
ならば、どう対応するか。
「⋯⋯使いたく、なかったんだよな」
『世界打破』に続く、対ブライア新兵器。
ブライアは全てを使って相手を潰しにかかる。
剣術、魔法、武術、ありとあらゆる全てを使うのだ。
だから、シュヴァルツはその全てを潰す。
──『魔法を使うブライア』を潰す兵器。
「────『縛糸魔禁』」
シュヴァルツの指から、十本の糸が出現する。
クーキリスはそれを見た瞬間、鼻で笑った。
「そんな細い糸で、何ができるのかしら?」
「まあ見てろよ」
今にも襲い掛かりそうな魔法砲撃に、糸が絡まる。
そしてそのまま天へと立ち上り、試合場の天井を覆った。
「──発動」
その言葉を呟いた瞬間──全ての魔法陣が消え去る。
クーキリスが魔法で生み出した黄金の剣も、空にある魔法陣も、全てが消えた。
──魔法を司る糸、それが『魔糸』。
シュヴァルツが各地を放浪して、迷宮に挑戦した時に偶然発見し、これは使えるぞと自身の体に忍ばせていた。
「嘘、でしょ⋯⋯?」
「残念ながら現実だ」
外面こそは冷静だが、内心は焦りに焦っている。
ブライアがこの戦いを見ていないはずもなく、確実に魔法禁止の糸を対策してくるはずだ。
更に、『世界打破』も見せてしまった。
確実に勝てる、と言えなくなってしまったのである。
「──『烈炎閃花』」
とりあえずこの試合を終わらせようと、全てを焼き尽くす炎を放つ。
最後のクーキリスの顔は──歪んだ笑みだった。
『四回戦第三試合勝者、シュヴァルツ・レッドドラゴン選手!』
首から上を失い、胴体が焼け焦げたクーキリスが地面に倒れる。
冷徹な顔をしたシュヴァルツが、クーキリスを見下ろした後、試合場を去っていった。
「あの顔⋯⋯何なんだ、アイツ⋯⋯」
悪意とも、憎しみとも取れないあの笑みは、一体何だったのか。
いや、考えるだけ無駄だと、シュヴァルツは頭を振り、ブライア戦のことに切り替える。
「見事だった、シュヴァルツ・レッドドラゴン」
気づけば、目の前にコルト・ピカードがいた。
ブライアの対戦相手、決して油断のできない相手。
しかし何故か⋯⋯彼からは、勝つという気が感じられなかった。
「あんた、何をするつもりだ?」
「⋯⋯何、とは?」
「勝つ気持ちが一切感じられない、どういうつもりだ?」
「そうだな⋯⋯確かに、勝つつもりはない」
コルトはそう言い切る。
しかし、次の言葉は何故か、そう感じさせる程に迫力があった。
「負けるつもりもない、広い意味でな」
次戦、コルト・ピカードは何をするつもりなのか。
シュヴァルツには、何も分からなかった。




