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第94話 地獄VS厄災──後編

人々の伝承に、それは一切残っていない。

何故ならば、神々の領域だからだ。

神は全てを卓越し、何もかもを消し去ってしまう。

そんな次元の存在に、人間がどうして知り得ようか────



──幾億年もの前

「バカが、俺の勝ちだ!」


高らかに宣言する彼──武器神アーガイル。

その前に尻を地につけ、悔しがる神がいた。

天地神ヤマラージャである。


「まさか儂が負けるとは⋯⋯」

「あからさまなんだよ、武神である俺にはそんな小細工通用しねぇ」


神々の楽園にて行われた戦いに、勝利したアーガイル。

ヤマラージャの手を引き、立ち上がらせる。


「ふむ⋯⋯次は別の魔法で攻めるべきか」

「お前の魔法の引き出しには感服するぜ、どうやって対処するか難しい」


天地神ヤマラージャは天国の魔法と地獄の魔法を支配し、圧倒的なまでの神の格を見せつける。

天使と悪魔を統べし神、それがヤマラージャだ。


「しかしその武器、使い勝手が良さそうだな」

「ああ、これか?これはハルバードだ」

「ふむ、初めて聞く名だ⋯⋯儂との戦いでは使ったことがないだろう?」

「そうだな」

「やはり貴様相手で武器勝負は分が悪いようだ」


武器神アーガイルは、全ての武器を統べる。

人々の争いが起き始めた頃、戦争をより強くする為、人々に武器を与えた。

それがアーガイルである。


「そういえば、新しい神が生まれたみたいだな」

「儂は見に行くが、お前は?」

「俺はいい、龍神と話すことがあるからな」


武器神、天地神、龍神、機巧神の四人は最古の四柱と呼ばれ、最も古き神だ。

それらを生み出したのが神王だと、一般的には広まっている。


「では先に向かう」

「じゃあな」


アーガイルはまっすぐ龍神の方へと向かう。

──幻想的な園、人間世界でもここまで完成された楽園はない。

そこにいたのは──龍神。


「おいクソドラゴン」

「その名前やめろ、何だ?」

「新たな神が生まれたらしいからな、それについて聞きに来た」

「セラフィエル・ヘブンとハデスィロトのことか」

「⋯⋯何を司る?」

「天使と悪魔だ、何をそんなに気にしている?」


ずっと、気がかりだった。

ヤマラージャの力が最近、弱まりつつある。

先程も、それを確認する為に戦った。

そして、新たな神の誕生。

ヤマラージャは恐らく────


──その瞬間、楽園に轟音が響き渡る。


「──ッ!?」

「何だ何だ、喧嘩か?」


一気に緊張が走るアーガイルと、呑気に言い放つ龍神。

盛大に上がる土煙は、ありとあらゆる場所から轟音と共に立ち上る。


「あれ、もしかしてヤバいか?」

「絶対ヤマラージャだ、いくぞ!」


猛ダッシュでヤマラージャの所まで駆け付ける。

着いた瞬間見えた景色は──堕落寸前の、ヤマラージャ。


「⋯⋯⋯⋯は?」

「遅かった、な⋯⋯アー、ガイル⋯⋯」


その言葉を発した瞬間、純白の化身が剣と共にヤマラージャの右腕を切断した。

痛みに悶えた瞬間──暗黒の魔法陣が、ヤマラージャの左肩を貫く。

信じられないその光景に、アーガイルは絶句した。


「────止まれッ!!」


その迫力ある言葉に、全員が動きを止めた。

スタスタと歩いていき、三柱の神を睨む。


「こうなった理由は?」

「それは俺が説明すんぜ」


暗黒の頭髪をした男が、突如として現れた。

その神の名は魔神、ありとあらゆる魔を統べる神だ。


「ヤマラージャが二人に会いに行ったんだが、この二柱が喧嘩を売った。それを買ったヤマラージャ、って感じだ」

「⋯⋯この堕落の原因は?」

「天使神と悪魔神が生まれたからだろうな、天は天使、地は悪魔の住処だから力が弱まったんだろ」


従来、同じ役割の神が揃った場合、力が欠けてしまう。

本来なら最古の四柱の一神であるヤマラージャが欠けることはないが、今回は同じ役割である二柱が同時に生まれてしまった。

最古の四柱であるとはいえ、一気に二柱からの力の剥奪は抵抗しようがない。

同じ『神』の境地にいるからだ。


「⋯⋯堕落、か⋯⋯」


長い時を共にした龍神は、複雑な心境に至る。

しかしアーガイルは──怒りに身を囚われていた。


「お前ら二柱のせいで⋯⋯ッ!」


堕落を止める術は存在しない。

神を滅ぼすことが不可能だから、堕落するのだ。


「アーガイル⋯⋯すまんな、儂のせいで⋯⋯」


ヤマラージャはそう言いながら、黒い光の粒子に包まれていく。

厄災へと、堕ちるのだ。

神とは逆に、人の世界で脅威となる。


「じゃあな、アーガイル」


そう言いながら──黒い粒子と共にヤマラージャは消えていった。


「チッ──アイツ!」

「待て!」


アーガイルが追いかけようとするが、龍神がそれを止める。

鬼のような形相で龍神を睨みながら、言い放った。


「こんなことがあっていいとでも思うのか!古き神が新しい神に塗り替えられるなど!」

「弱いヤツが悪い、それに何か問題が?」

「⋯⋯お前は、いつから言葉に嘘をつくようになつまた?」


アーガイルは、龍神の嘘を見抜いていた。

龍神は真摯で、誰にも嘘はつかない。

その龍神が今、嘘をついた。

龍神だって、ヤマラージャのことを大切に思っている。

──しかし、龍神は不動の最強。

弱者を見下すしか、できることはない。


「勘違いするな、俺はアイツを殺す」

「⋯⋯意外だな、救いに行くと言い出すのかと」

「堕ちたヤツに生きる資格はない、だから俺も同じ所へ堕ちる」

「⋯⋯ならば契約をしよう」


龍神がアーガイルへと近づき、手を差し伸ばす。

アーガイルも手を伸ばし、魔法陣を広げた。


「お前も堕ちてヤマラージャを殺せ、その後にまた神として昇格させる」

「⋯⋯お前はそれで、いいのか?」

「お前の中にある『光』を信じる、闇に呑まれるなよ」


──────こうして、契約が成立した。

厄災アーガイルは何故光を司るのか。

元神の厄災であり、未だ光を見失っていないからだ。


──何億もの年を重ね、ようやく希望を見つけた。

ファルド・グリーンドラゴン。

彼を失うことは、絶対に許されない。

彼の力を借りて、厄災ヤマラージャを殺す。

『地獄魔法』を扱うベル・デフレーションには、負けられないのだ。



「──厄災ヤマラージャ、ですか⋯⋯」

「殆ど御伽噺のような存在だが、確かにいた。俺が断言してやろう」


長き時を生きるアーガイルが、こんな所で嘘をつくはずもないと、ベルは信じた。

しかし、その姿は誰も見たこともない。

ただ、伝承として残るのみ。


「俺としても因縁がある、それをお前に押し付けるのは違うと思うが──悪いな、俺の使命なんだ」


いつの日か、とうに忘れてしまった。

だが、それだけは確かに覚えている。

──彼が褒めてくれた武器だ、と。


「⋯⋯⋯⋯その武器は?」

「ハルバードだ、今じゃ浸透してねぇのか」


ハルバードを構えた。

天にも届き得る切っ先をベルに向け、斧の刃は地に面する。

ベルは魔法の発動準備をし、警戒した。

アーガイルは聞こえるかどうかの声で、呟く。


「──『武神天判』」


アーガイルが翼を生やし、上空に浮く。

黒髪赤眼に似つかわしくない純白の翼は、まるで神の如き御姿。

ベルはその光景に一瞬目を奪われるが、すぐに気を取り直す。

アーガイルは目を瞑り──風を巻き起こした。

地面を抉る程の突風はアーガイルの持つハルバードへと巻き付き、光をもたらす。

次に目を開けた瞬間──その目は青眼へと変わっていた。


「アーガイル、いざ参らん」

「ベル・デフレーション⋯⋯受けて立ちましょう」


その宣言を受け──アーガイルが動いた。

ハルバードを横一閃、ベルは回避をするが、一瞬遅れる。

魔導士の衣装が血に塗れるが、面白いとベルは不敵に笑った。

次は逃さないと、アーガイルの持つハルバードが物語る。


「いいじゃないその目──叩き折るまでよ!」


ベルが大胆にそう宣言し──魔力を込めた。

アーガイルはそれを、真正面から受けようとする。

ベル・デフレーションの本気の一撃を、自ら本気で叩き潰したいからだ。


「『闇は深く、光は非ず。魔導の深淵に至るまで、時は永く。かつての永久、今一つ。今は亡き友、かつては命を燃やした。その命に恵があらんことを』──連唱」


ベルは、アーガイルが真正面から受けることを察し、本気の一撃を叩き込もうとする。

確実に、全力で。

国一つ容易に滅ぼせる地獄を、今この場に。


「『灼熱と厳寒の狭間、そこに我はいる。永く、遠く、果てなき闇に、我は答えを求めた』──連唱」


今大会、何度も何度も連唱を行うベルに、ようやく魔力の底が見えた。

苦しい表情を浮かべながらも、その限りある命を燃やす。

目の前の、最大の障壁を超えるために。


「『天より下るは堕ちし運命。儚き命もここまでかと、悟ることも許されず。暗黒に呑まれ、人々を飲み込む厄へと堕ちた』──連唱⋯⋯ッ!」


フラリ、と地面に倒れかけるが、杖で何とか支える。

ここでアーガイルを超えても、次の戦いは不可能だろう。

だがしかし、優勝するよりも、アーガイルをここで超えなければならない。

それこそが、己の闇と向き合う試練だと信じて。


「『ひたすらに立ち向かう、最大の難関と。がむしゃらに足掻き続ける、我の試練と。全ての超越者、天から落とされし最強の障壁』──連唱ッ!」


気迫を込める。

同じ四度目の連唱だが、ブライアとは格が違う。

これが本物の魔導士だと、見せつけるかのように。

その背中は、広かった。


「『地獄よ、我に祝福を。呪い続けた魔術よ、身勝手な我を許したまえ──人生最大の熱をここに』」


魔法が、放たれる。

アーガイルは身構え、斬断の姿勢を取った。


「『花束、永遠、見つからない神々の答え──厄災の血を、呼び起こさん』」


ベルが、優しく微笑んだ。

初めて見せるその笑みは、アーガイルへの感謝。

己の闇と本気で向き合えるキッカケへの、感謝だ。


「『地獄魔法【奥義】』────【閻魔ノ堕天】」


この世で最も深き闇が放たれた。

誰も対処しようのない、地より授けられし呪い。

──ただ、一人を除いて。


「『武神天黎』」


これを耐え切れば、アーガイルの勝ち。

一粒の粒子でも当たれば、身体を蝕まれて死ぬ。

生と死の瀬戸際で、彼は笑う。


「──『神器・魔滅堕天のハルバード』」


『武神天黎』──全ての武器を、神器へと昇格させる。

今持っていたハルバードも、一瞬で何億年へと年月を重ね、神器へと化した。

光と闇、勝敗が今、決する。


「ハァァァァァァァァァ──ッッ!!!」


ハルバードが光り輝き、ベルの魔法が暗黒に沈む。

滅亡か、創世か。

結果は────


「──ハッ、おもしれぇな、下界ってやつは」


ハルバードが、砕けた。

何の奇跡か、ベルはこの魔法にヤマラージャの如き威力を纏わせている。

本来なら勝てていたが、今はファルドの身体を借りているのだ、勝てないのも無理は無い。


「一勝一敗だバカ、次も楽しませてくれよ────」


その言葉を最後に、アーガイルは闇に散っていった。



『四回戦第一試合勝者、ベル・デフレーション選手!』


「も、もうダメね──魔力切れ、よ⋯⋯⋯⋯」


勝利の宣言を聞いた後、ベルは倒れた。




──準決勝進出のベルだが、魔力切れの為、次の試合は棄権することとなった。

しかし、その結果とは裏腹に──意識が無い時まで、笑顔だったという。

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