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第92話 三回戦第八試合──決着

────彼の名は水下太陽。

2120年10月24日生まれの辰年蠍座、三大財閥である水下家に生まれた。

現代表である水下朝冴(あさひ)とその妻水下叶海(かなみ)の間にできた子であり、史上最高の天才と称する声が多い。

しかし、17歳の頃に事故死にてこの世を去った。

────そして、異世界へと転生することになる。



懐かしい感覚だと思ったら、前世の『水下太陽』の姿に戻っていた。

恐らく能力とかは普通に使えると思うが、ブライアとしての姿に慣れていて、こっちの体はまだ十全には動かしにくい。

だが、天才としての感は残っている。


「な、なんなんだ⋯⋯お前は⋯⋯」

「そうだな⋯⋯⋯⋯ブライア・グリーンドラゴン改め──水下太陽、そう呼んでくれ」


そう言いながら、太陽の剣を振るった。

斬撃が飛び交う中、イランは戸惑いながらも避け続ける。

やはり、剣が無ければ何もできないようだ。


「『閃・太陽』」


斬撃を更に加速させ、イランの周囲へと集める。

そのまま────『爆・太陽』。

新たに開発した剣技魔法であり、斬撃や魔法といったありとあらゆるものを爆発させる。

これを受ければ、イランは一溜りもないだろう。


「──⋯⋯あまり、使いたくはなかったが」


煙の中から、そう声が聞こえた。

剣も無いのに、何故生きている?


「──邪道『一手無剣』」


イランの右手には、剣のように鋭い魔力が込められていた。

恐らく、あれは手刀。

剣を無くした戦いも心得ているのだろう。


「俺はこの技を好まない、その理由は──」


と、イランが貴賓席へと目を向けた。

そこには各国の王が試合を観ているが、イランは王を見ていない。

女皇ソロミアの隣に立つ男──アーシル・リーバルブを見つめていた。


「チッ──忌々しい」


吐き捨てるように言ったその言葉と共に、アーシルを睨んだ。

アーシルはというと、真顔でイランを見つめている。

いや──偉そうに、見下していた。

何か確執があるのだろうが、俺には関係ない。


「アーシル・リーバルブ⋯⋯俺の弟で、俺が世界で一番嫌いな人間だ」

「⋯⋯それで?」

「一度ヤツを相手にこの技を使ったことがある⋯⋯その時に言われた──剣を捨てたな、と」


剣の名家であるリーバルブ家からしたら、手刀は邪道なのだろう。

だから、アーシルは今のイランを見下しているのだろうか。


「全てを奪われた者、か⋯⋯あの女も鬱陶しい」


奪われた、か⋯⋯。

恐らく、それを言ったのはベル・デフレーションだろう。

リーバルブ家には微塵も興味が無いからその言葉の真意は知らないが、当然良い意味ではない筈だ。


「そしてお前⋯⋯剣を握って数年で、俺の剣を折った」


俺の策略ということには気づいていないようだ。

いや、気づかないのも無理は無い。

俺の策略にハマった者の大半は、俺から言わない限り一生気づかないのだ。

今でこそ冷静だが、イランもその大半の一人。


「勝たなければ──価値などないッ!」


その悲痛な叫びで、勝負が始まった。

イランがすぐさま俺に突進し、距離を一瞬で詰める。

俺は剣に太陽を乗せ、手刀と衝突した。

イランはバックステップで距離を置き、短く勢いのある息を吐く。


「──八剣士序列一位、イラン・リーバルブ──この勝負、勝たせてもらうッ!」

「⋯⋯史上最高の天才、水下太陽──受けて立つ」


ぶつかり、ぶつかり、またぶつかる。

観客は目で追えていないだろう、俺達は今光をも超越した世界にいるのだから。

手刀と太陽の剣が衝突し、甲高い音を鳴らしながら、試合場を駆け巡った。

炎が轟き、お互いの譲れない意地が剣に乗せられる。


「⋯⋯俺は能力も加護も持たない、脆い人間だ」


お互いが衝突しながら、イランはそう言った。

能力も加護も持っていない?この人が?

にわかには信じがたいが、本人が言うならそうなのだろう。


「リーバルブ家は『聖剣』の能力を持つ人間でなければ、聖剣の刀身は見れない」


『聖剣』⋯⋯確か、アーシル・リーバルブが持っている能力。

シュヴァルツの『剣聖』とは違い、本物の聖剣そのものを我が物にする能力のはずだ。


「だから俺は『歴代最強の聖剣使い』のアイツが嫌いだった、全てを奪われたから」


アーシル・リーバルブが、歴代で最強?

もし本当だとすれば、光が剣で勝てなかったのも納得できる。

光は剣の技術では誰にも負けないが、相手が歴代最強となれば分が悪いのも仕方ない。


「⋯⋯⋯⋯でも、勝ちたかった。勝ちたかったから、俺独自の剣技を編み出した」


その気持ちは、痛い程分かる。

誰かに勝ちたい、一番になりたい。

俺もその一心で、才能を開花させ、努力した。

イラン・リーバルブは⋯⋯俺と似ているのかもしれない。


「それでも⋯⋯勝てなかった。アーシル・リーバルブは本物の天才だ、いくら積み重ねても差は開いた」


──ああ、これって。

よく分かった、コイツは兄で、アーシルは弟。

兄より優れた弟に、嫉妬している。

────全く、俺と同じだ。


「⋯⋯⋯⋯だから、潰す。強くなって、いつかアイツを殺す。その為に俺は生きている」


これが彼の生きる意味。

天才を否定し、努力の意味を知らしめる。

⋯⋯実に虚しく、哀しい。

でも、それがイラン・リーバルブという人間なのだろう。

理解はできるが、共感はしたくない。


「⋯⋯そうか」

「お前には分からないだろうな⋯⋯凡才の気持ちが」


分かる、痛い程分かる。

俺にも妹の椿がいた、椿は俺の才をも簡単に凌ぐ程の天才だった。

だから妬んだし、それ相応の努力もした。

確かに勝ってた部分はあるかもしれない。

でも俺は⋯⋯完全勝利ができなかった。

完全勝利以外に、価値は無い。


「⋯⋯⋯⋯ベル・デフレーションにも言われた。お前には勝てない、と」


そんなことを言われたのか。

あの人は俺を過大評価している気がする。

他とは一線を画す程の視線⋯⋯恐らく、彼女は俺を見ている筈だ。

警戒しているのだろう、俺にはそんな力がないのに。


「俺はここに勝ちに来た⋯⋯そのはずなのに」


そう言うと、イランが足を止める。

俺もそれを察し、少し距離を置いた。

何か、話したいことがあるのだろう。


「俺以上の才能を持つヤツなんてゴロゴロいやがる⋯⋯嫉妬したいのに⋯⋯俺はそれを羨んでしまう」


そう言うと⋯⋯彼は一筋の涙を流した。

きっと、悔しいのだろう。

いくら研鑽しても、更に上を行く者が現れる。

上を行く者もそれ相応の努力をしている、それを嫉妬するのは違うのだろうと、彼の芯が言っているのだろうか。

彼の真意は、俺には分からない。


「困るよな、お前も⋯⋯いきなりこんな事を言われて」

「⋯⋯⋯⋯そうだな、どう言えばいいか分からない」


俺はそう前置きをして。

イランに言い放つ。


「でも、それでも⋯⋯戦いたいんじゃないか?」


俺は剣を構える。

イランは困惑する中、更に付け加えた。


「ソイツらに勝ちたいから⋯⋯戦うんだろ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう、だな」


戸惑いながらも、手刀を構えた。

これで、最後にする。

お互い満身創痍という訳では無い。

ただ──この戦いに、終止符を打ちたい。


「終わらせよう、これで最後だ」

「⋯⋯ああ、そうしよう」


お互い、剣は一つ。

正真正銘、正々堂々だ。


「──いくぞ」

「受けて立つ」


観客も音一つ立てず、全員が固唾を呑む。

どちらが勝つか──勝率は両者共に五分。

この一瞬で俺が選ぶ技は────


「──『全天・星閃』──ッ!!」

「──『反・太陽』──ッ!!」


イランの手刀の一閃を、返しの剣技でイランを倒す。

目にも止まらぬ速度の剣技を受け流し──心臓を突く。


「グハ──ッ!?」


勝者は────


「⋯⋯俺の勝ちだ、イラン・リーバルブ」


俺だ。

完璧に受け流すことができ、イランの心臓を貫いた。

倒れたイランは、フッと笑って俺を見る。


「完敗だ、ブライア・グリーンドラゴン⋯⋯いや、今はミズシタ・タイヨウだったか」


ハッと気が付き、今の俺の姿を確認する。

髪の毛を一本抜き、確認すると──緑の髪だった。

今の俺は、ブライア・グリーンドラゴンに戻っている。


「いや、ブライア・グリーンドラゴンでいい」

「そうか⋯⋯⋯⋯お前は強い、勝ち上がれ」


そう言われて、俺はイランに背を向ける。

これ以上会話をする必要が無いからだ。


『三回戦第八試合勝者、ブライア・グリーンドラゴン!』


次は四回戦──コルト・ピカード。

彼も絶対一筋縄ではいかない──確実に、倒す。


『三回戦の試合が全て終了致しました!三回戦の結果を纏めます!』



三回戦第一試合

勝者、ベル・デフレーション


三回戦第二試合

勝者、ファルド・グリーンドラゴン


三回戦第三試合

二回戦第六試合勝者無しの為、勝者、フレート・スティア・ホワイトドラゴン


三回戦第四試合

勝者、クライア・グリーンドラゴン


三回戦第五試合

勝者、シュヴァルツ・レッドドラゴン


三回戦第六試合

勝者、クーキリス・シガレット


三回戦第七試合

二回戦第十三試合勝者無しの為、勝者、コルト・ピカード


三回戦第八試合

勝者、ブライア・グリーンドラゴン


『明日からは四回戦!波乱万丈の今大会、次の試合の勝者は一体誰になるのか!全世界が注目です!』


ここからは強者ですら圧倒される者達の戦い。

誰が勝つのか、その結末の行方は────誰も知ることは無い。

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