第91話 『天才』の知略
『さあ三回戦も最後の試合です!第八試合はブライア・グリーンドラゴン選手対イラン・リーバルブ選手の試合です!それでは、どうぞ!』
ようやく、イラン・リーバルブとの戦い。
緑龍の紋様を強調するマントを揺らし、緑龍家であることを象徴するアクセサリーを髪に付ける。
緑龍家の誇りとなる為、イラン・リーバルブに勝つ。
聖白陽光武を一本の長剣へと変え、鞘に収め、入場する。
「──来たか、ブライア・グリーンドラゴン」
「お前に、勝ちに来た」
「良い心意気だ──潰しがいがある」
──速いッ!?
「『八天剣術』──『昇風・切』」
「──『光・太陽』」
回避行動は取らない、まずは一度実感する。
あまりにも速すぎる斬撃に太刀打ちするが──吹き飛ばされた。
「⋯⋯成程、風で吹き飛ばしたのか」
「よく反応したな」
「そりゃどうも──『轟・太陽』──ッ!」
今度は自分から仕掛ける。
上空へ跳躍し、剣を下へと向け、そのまま落下。
剣には豪炎を纏わせており、直撃すれば確実に死へ追い込めるだろう。
だが、イラン・リーバルブはそんなやわな男じゃない。
この攻撃にも、確実に対応してくるだろう。
「『八天剣術』──『雷鳴天突』」
剣の切っ先同士が衝突し、俺とイランの両方が吹き飛ぶ。
土煙が舞うが──イラン・リーバルブはそれを払って、俺に突進してきた。
「グ──ッ!」
「『八天剣術』──『氷絶不凍』」
氷の剣と、俺の陽剣が衝突する。
しかし、体勢が整っていなかった俺は上空に吹き飛ばされ、身動きが取れなくなった。
「『八天剣術』──『全天・星落』」
俺よりも上空にいたイランが、俺を地に落とす。
試合場の地面に、大きな音を立てて落下した。
被害は軽減させたが、恐らく両足は折れている。
急いで治療を──
「──治療が、できない⋯⋯?」
「⋯⋯俺は唯一、治療の属性を持たない。だが、治療を封じる剣術を手に入れた」
それがさっきの剣術だってのか⋯⋯!
クソ、これじゃ立てない。
「俺に勝つんじゃなかったのか?」
「チッ──『閃・太陽』──ッ!」
イランに魔法を放つが、全て回避される。
本当にやりにくい相手だ、経験も、実力も、何もかもが格上。
「──終わらせるか」
イランが、地に倒れている俺に近づく。
クソ、少し温存したかったが──仕方ない。
ヘルス、頼む!
《『輪廻』──『廻ル命ノ輪』》
「『八天剣術』──『全天・星撃』」
「──『陽絶天聖』──ッ!!」
「──ッ!?」
光り輝く剣に、赤く燃え盛る剣で対抗する。
『輪廻』の完全体を持つヘルスには、できることが多い。
俺も『輪廻』を持ってはいるが、ヘルスが使う方が効果もより良いものになる。
「お前──何故、回復している?」
「俺の肉体の時間を巻き戻しただけだ」
「⋯⋯能力か?」
「さあな、ご想像にお任せしよう」
時雨の『時間』とは、また違う治し方だ。
俺の『命核』を、ヘルスに握らせている。
潰されたら俺は確実に死ぬが、契約によってそれは不可能となっている。
まあ、そんな契約がなくても、ヘルスはそんなことしないだろう。
肉体が負傷すると、『命核』に少しだけ亀裂が生じるのだ。
その負傷の大きさによって、亀裂の大きさも比例し、命の危険を知らせる。
その亀裂を、『輪廻』によってヘルスに治させると、肉体も同時に回復するのだ。
《肉体が治せなければ、『命核』を治せばいい》
と、少し前に助言があった。
当然、俺にそんな技量は無い為、中にいるヘルスに任せている。
「──期待以上だ、ブライア・グリーンドラゴン」
イランはそう言うと、剣を振るった。
「だから──もっと強くするぞ」
次の瞬間──目の前に、イランがいた。
完全無防備、このままじゃ殺られる──ッ!
「『八天剣術』──『全天・星斬』」
下からの斬撃、躱せず──吹き飛ばされた。
腹から血が出てくるのが分かる、ポタポタと、音を鳴らしているからだ。
ヘルスの『命核』の治療は少し時間を置かなければ、肉体が壊れてしまう。
だが、今治療しなければ、負ける。
危機に、陥った。
「ガハ──ッ!」
口からも血が吐き出され、呼吸が整わない。
「『八天剣術』──『全天・星光』」
光の如き斬撃が、俺に降り掛かる。
避けられない──確実に、死ぬ。
《もう⋯⋯諦めちゃダメよ──『聖法・天慈の光』》
光の斬撃が、眩い光によって消滅した。
イランは驚き、観客は湧き上がる。
「クソ、何なんだ!今にも息絶えそうなのに⋯⋯!」
「ふぅ⋯⋯」
何とか、危機を脱した。
ありがとう、ホーリーさん。
《礼には及ばないわ、前を向きなさい》
《使うぞ──『廻ル命ノ輪』》
クールタイムが開け、『命核』を治療する。
口に溜まった血をプッと吐き出し、もう一度剣を構えた。
「やりにくい相手だ」
「こっちのセリフだ──『閃・太陽』」
イランに向けて、剣閃を飛ばす。
イランは難なく剣閃を斬るが、予想通り。
⋯⋯少しだけ、時間が欲しい。
ここまで剣で勝てないとなると、魔法や能力をふんだんに使ってやる。
(⋯⋯⋯⋯気味が悪い)
イランは、ブライアに対して嫌悪とも、恐怖とも違う、形容しがたい感情を抱いていた。
ブライアという人間の力の底が見えないからだ。
どれだけ痛めつけようと、どれだけ圧倒的な差を見せつけようと、立ち上がって抵抗する。
こちらが最高の剣術を持っているとなれば、相手は最高の治癒能力を持っているのだ。
だから────治癒が追いつかない程、斬り刻む。
「『全天・星麗』」
「──『球・太陽』」
太陽の如き球体が出来上がり、ブライアを包み込む。
その球体に剣を刺すと、自分の剣が燃え、剣を伝ってイランの腕も燃え始めた。
「グゥ──ッ!」
「──『閃・太陽』──ッ!」
ブライアは、イランの一瞬の隙を逃さなかった。
光速をも超える一閃を、イランに向けて放つ。
イランは反応こそしたものの、剣を両断され、カランと音を立てて落ちていった。
──元々、八剣士は剣に誓いを立て、剣を裏切らず、剣を持って悪を滅する、という集団だった。
その名が広まり、八剣士は世界最強の八人の剣士、という認識になり、現代まで受け継がれている。
その剣を、イランは両断されてしまった。
「言ったでしょう⋯⋯あなたは、ブライア・グリーンドラゴンには勝てないって」
ベル・デフレーションが笑う。
その手には『運命予言』の効果を付与されたカードが手に持たれていた。
その予言は────『持たざる者の尊厳破壊』。
今まで積み上げてきた経験、努力を、今この瞬間、全て破壊された。
剣の名家でもない一族に、剣を斬られ、挙句の果て、相手は剣を持って数年の少年。
これを屈辱と呼ばずして、何と呼ぼうか。
「2つ目の予言は──『大敗を喫する剣豪』」
フフッ、と笑い、彼女は霧のように消えていく。
予言通りになるか、それとも────。
「⋯⋯⋯⋯ばか、な⋯⋯⋯⋯」
イランは、口を開け、信じられないという様子で折れた剣の切っ先を見つめていた。
俺がイランの立場なら、どうしていただろう。
同じようになっていただろうか、それとも怒りに身を支配されていたのだろうか。
「お前⋯⋯⋯⋯お前お前お前お前ェ──ッ!!」
鬼のような形相で、俺の方へと向いた。
普通はそうなるだろう、自分の自慢である剣を折られたのだから。
────これも、計算通り。
最初から、俺の計算通りだ。
俺の予想より強かったのは事実だが、そのお陰でより計算通りに進めやすかった。
最初は少し手を抜き、あえて大怪我を負う。
治療ができなくなる剣術も、オニシエントのお陰でもう既に知っていた。
だからヘルスに『命核』の治療を任せ、ホーリーさんに『治療封じ』を貫通する聖法の治療をしてもらう。
ありとあらゆる方法で復帰し、イランを少しでも苛立たせる。
そして一瞬防御に回り、反撃の一閃で剣を折る。
別に胴を両断して試合終了でも良かったのだが、流石にイラン・リーバルブは反応するだろうと踏み、剣を折る方向にシフトチェンジ。
イラン・リーバルブのプライドをズタズタにする計画は、簡単に成功した。
──自分でも自負する程の天才的頭脳、これが『史上最高の天才』である水下太陽だ。
「クソ、クソクソクソクソォ──ッ!!」
「暴れんなよ、クソガキ」
────少し、戻ってきた気がする。
この感覚⋯⋯そうだ、前世の『天才』としての才能。
そして血の滲むような努力の糧。
成程、理解した。
何故か俺は忘れていた、天才の感覚。
凄く高揚する、この気分は────紛れもなく、天才だ。
幾度と無く経験してきた勝利、その感覚だ。
「さあ──チェックメイトの時間だ」
古い自分が、忘れられない過去の自分が──今、帰ってきた。
────観客席は、騒然としていた。
ブライア・グリーンドラゴンの姿が、いきなり変化したからだ。
鮮やかな緑髪は薄い橙色へと変化し、やや幼さの残る顔は凛とした美しい顔立ちへと変わり、更に背が伸び始める。
光と時雨は、唖然とした。
クライアは、目を見張った。
蚊帳の外である観客達は、騒ぎ立てた。
『救済の予言』通りの姿だからだ。
『──異界より出てしこの世ならざる才覚の持ち主、我が世界を救うだろう』────カルト法国の初代『断罪者』が、神より頂いた予言だからだ。
何千年も待ち続けた世界の救済者が、今ここに現れた。
誰も無視できない、その存在が。
────水下太陽、その人である。




