第90話 一族の壊滅
『三回戦第六試合は、クーキリス・シガレット選手対アインガルマ・キャノンシート選手の試合です!それでは、どうぞ!』
「『魔法構築』」
「ありゃ、準備早いね」
「シガレット家相手には、すぐ試合を終わらせとのと命令でね」
「ちゃんと考えてるんだね〜、『軽率』とは大違い」
アインガルマは魔法陣をいくつも組み立て、クーキリスへと向ける。
クーキリスは指先に魔力を込め、蝶が舞う。
「もう隠す意味も無いし、出しちゃおっか」
「⋯⋯何をだ?」
「見てたら分かるよ!」
クーキリスが三歩後ろへ下がり、魔力で円を描く。
すると、五芒星が出現し、光り輝いた。
「私、手に入れちゃったんだ」
満面の笑みでそう言い放つと、一つの星が桃色に輝く。
その星を口に放り込み、ウインクをして魔力を消化した。
「今のシガレット家って五人いるんだよね、全員大会に出場してるけど、私以外負けちゃった」
「⋯⋯だからどうした?」
「無能なんてシガレット家にはいらない、だから取り込んだ」
────昨日
「ねぇ、なんで呼ばれたか分かる?」
クーキリスは、キャンディット、ショコラミア、グトミリア、マドレーヌの四人を呼び出した。
キャンディットは苛立ちを隠せず、ショコラミアは光に斬り刻まれたトラウマで恐怖し、グトミリアは嫌悪の視線を向け、マドレーヌは興味無いと言わんばかりに魔力を練る。
クーキリスは、それに腹が立った。
「鬱陶しいのよ、アンタ達。弱い癖に出場して、シガレット家に汚名を着せる、舐めてるの?」
「黙れ、偶々勝っているからといって、調子に乗るな」
「お前はあの魔女に騙された挙句、相手を舐めてかかり、無様に敗北した、私の前で喋らないでくれる?」
クーキリスに反論するキャンディットだが、クーキリスはそれを許さない。
クーキリスが次に目を向けたのはショコラミア。
「チッ、いつまでもそうして⋯⋯気色悪い」
目障りだと言い、グトミリアに視線を向ける。
「自分より歳も若くて魔法の研鑽も知識もないヤツに負けて、恥ずかしくないの?随分とお高いプライドね」
嫌悪の視線を向けるグトミリアに対して、クーキリスは嫌悪の視線を返した。
マドレーヌへ視線を向けるが、別に興味が無い為、特に何も言わない。
ただ、心の内で嫌悪するのみ。
「私、決めたの──アンタ達は不要だから、取り込むって」
まずは目障りなショコラミア。
手に持っていた剣でショコラミアの脳天を刺し、四肢を斬り裂く。
その光景に、言葉が出ない三人。
クーキリスが手をかざすと、ショコラミアは──
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──!!!!」
その絶叫を最後に、クーキリスに吸収されてしまった。
「次は面倒なアンタ」
右手に持っている剣をそのまま薙ぎ払い、キャンディットの頭を横一閃。
脳が飛び散り、虚ろな目が、クーキリスを見つめた。
そのままキャンディットも吸収し、次の標的へと目を向ける。
「チッ──!」
グトミリアは反撃を試みるが──その前に、殺害。
魔法ごと肉体を断ち、首を切断。
髪を引っ張って、生首を吸収、肉体もそれに引っ張られる。
最後は──マドレーヌ・シガレット。
「やめ、やめて──分かった、従う、従うからァ!」
「いらないって言ってんの、雑魚の配下なんて」
無様に服従しようとするマドレーヌに苛立ち、四人の中で、最も残酷に殺し、吸収すると決めた。
まずは、十の指を斬り落とす。
「私、弱いヤツって嫌いなの、同じ一族なら尚更」
誰もが萎縮するような眼力で、そう言い放った。
マドレーヌは涙を流し、ガタガタ震え、その目を見る。
足の甲を刺し、剣を一周、二周と回した。
絶叫する程の痛みは、クーキリスの耳に届かない。
「シガレット家の唯一の利点、魔法による戦闘が強い、それを失ったシガレット一族に、価値はあると思う?」
剣を抜き、首筋に当てる。
マドレーヌはガチガチと歯を震わせ、まともに喋るなんてできなくなっていた。
「⋯⋯私は人々に畏怖されるシガレット家一族を恥じている、でもそれ以上に──才能に恵まれた一族であろうものが、ただの人間に倒されるのを恥じている」
悲しそうな目をしながら、マドレーヌの目を刺す。
耳障りな絶叫が響き渡るが、クーキリスはまだ殺そうとしない。
苛立ちは未だ、抑えられないからだ。
「や、やめて⋯⋯⋯⋯こ、殺して⋯⋯」
「無様ね、さっきまでは助けを懇願していたのに」
這い蹲るマドレーヌに、それを見下ろすクーキリス。
目に光を宿さないクーキリスは、肩を貫く。
「──ガハッ!」
「⋯⋯⋯⋯もう飽きたわ、見てて楽しくもない」
肩を貫いたクーキリスは、剣を抜く。
そのまま首筋に当て──切断した。
手を翳して、『興味』を回収する。
「──これで私を含めて五つ、回収完了ね」
淡々と呟き、剣を鞘に収める。
「死の魔女を殺す、その後に──母を殺す」
シガレット家の因縁、死の魔女を殺さねば、悲願は達成されない。
──魔女の一人である、自身の母を殺す。
その為に彼女、クーキリス・シガレットは生きているのだ。
──試合場にて
「ほらほら頑張って〜!」
「──『構築・魔法回避』ッ!」
(クソ、このままじゃ負ける!)
アインガルマは、危機に陥っていた。
『永続』により無限に放たれる魔法の数々に押され、ただ避けるのみ。
反撃を行っても、数多の魔法に落とされ、無駄となる。
「『嫌悪』──回避行動嫌悪」
青い星を手にして、『嫌悪』を使った。
『嫌悪』は相手の行動を縛るのがメインの能力。
自身も嫌悪した行動はできなくなるが、相手にもそれを強制させる。
クーキリスは回避ができなくても困らないが、アインガルマは回避が無くなると絶体絶命の危機。
「チッ──『構築・魔力乱斬』」
魔力のみを斬る魔法の斬撃を放つ。
超広範囲の斬撃は、数多ある魔法を斬り刻み、視界を晴らす。
その先には──黄色の星を持ったクーキリス。
「『興味』──対象模倣」
自身が『興味』を示した対象を模倣する。
『魔力乱斬』を模倣された為、自身が出す魔法が『魔力乱斬』によって斬られてしまうのだ。
「何なんだ、このバケモンが──ッ!」
「──『共有』」
クーキリスが茶色の星を持って、その能力を使用する。
一体何と『共有』したのかは分からないが、アインガルマはチャンスだと思い、特攻した。
「『構築・魔拳閃突』──ッ!」
手に魔力を込め、クーキリスの顔面目掛けて、思い切り振るう。
だが──手にした魔力は、消滅した。
「アタシが『共有』したのは──『魔力乱斬』よ」
自身の肉体と『魔力乱斬』を『共有』し、魔力攻撃を効かなくさせる。
魔力を失った拳は簡単に受け止められ、クーキリスはアインガルマの腹に魔法を放った。
「『永続』──『魔永砲弾』」
無限に続くかのように思える量の魔力砲弾は、回避を封じられたアインガルマに命中する。
観客席の結界まで一気に吹き飛ばされ、結界に衝突した後も、魔力砲弾を食らい続けた。
クーキリスが魔力砲弾を止めると、アインガルマは宙から落下し、ドサリ、と大きな音を立てる。
「⋯⋯これで終わりかな」
クーキリスが引き返そうとすると──一条の閃光。
油断していなかったクーキリスは、すぐに相殺の魔法を放った。
「──来ると思ったよ、君は何でも使うってね」
「く、そ⋯⋯⋯⋯大人しく、油断⋯⋯しとけよ⋯⋯」
「『軽率』に見えたら大間違い、私は注意深いの」
見た目で判断する軽率な相手を堅実に叩き落とし、堅実に戦う相手を軽率に叩き落とす。
その両の顔を持ち、クーキリスは純粋に力を求める。
慢心せず、目の前の敵を倒すことだけを考え、戦う。
「意識あるんだったら⋯⋯叩き潰すね」
「──『即興・治療魔法構築』」
即座に治療魔法を構築し、自身の負傷を治した。
初めて成功したと喜ぶ暇もないアインガルマは、何とか打開策を考える。
「──『構築・魔力乱斬』」
目には目を、歯には歯を、の理論で、『魔力乱斬』を『魔力乱斬』で相殺する。
それを予測していたクーキリスも、『魔力乱斬』を放った。
「ハハッ、いいね!」
「その魔法を作ったのは俺だ、対抗策も用意してある」
「へぇ、見せてよ」
「──『禁』」
そう呟くと、黒い魔法陣が浮かび上がる。
目を見開くクーキリス、指先を天へと掲げるアインガルマ。
「『完全創作構築──滅・魔極ノ地』」
試合場を飲み込む程の黒い魔力が、クーキリスを攻撃する。
その魔力を見たクーキリスは──
「──面白い!」
対抗せんと、魔力を練る。
『嫌悪』により回避は禁止、ならばと、桃、茶、黄、青、緑の星を浮かばせ、ニヤリと笑った。
「──シガレット家一族の誇りにかけて」
そう言うと──彼女は魔力を暴発させる。
「──ッ!?何を──」
「『真実、天秤、犯した罪の数々』」
超短文詠唱を行い、目を光らせた。
「──暗き未来を照らすのはアタシ」
手のひらに暴発した魔力を溜め、黒い魔力へと撃つ。
「──『軽快な暴魔・純然たる絶力』」
──彼女は昔、よく魔力を暴発させていた。
だからこそ得た、巨大な魔法への対抗策。
暴発した魔力を吸収して使用すると、通常の魔力よりも質が高く、より強い。
その代わり、扱いの難易度は格段に跳ね上がる。
それこそ、『連唱』を使える魔導士でようやく扱えるレベルだ。
しかし──幼少期から暴発を経験しているクーキリスにとっては、容易である。
「──ッ!?」
アインガルマの魔法は掻き消され、クーキリスの魔法が勝利した。
アインガルマが驚愕している内に──クーキリスが、指先を首筋に当てる。
「降参しなさい」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯降参だ」
両手を上げ、宣言する。
その言葉を聞いたクーキリスは試合場を去っていった。
「シガレット家⋯⋯一体、何なんだ⋯⋯」
その呟きを残して、アインガルマも試合場を去って行く。




