第89話 三回戦第四試合・第五試合
『続いて第三試合と行きたいところですが、二回戦第六試合の勝者がいない為、フレート・ホワイトドラゴン選手はそのまま四回戦へと進みます!そして次の試合は三回戦第四試合になります!それでは、どうぞ!』
二回戦第六試合は魔女同士の殺し合い。
両者死亡してしまった為、フレートは四回戦へと進出。
三回戦第四試合はスズオカ・シグレ対クライア・グリーンドラゴン。
先に時雨が試合場に入場し、後からクライアが入ってくる。
「⋯⋯来ないのか?」
「逆に、先手を貰ってもいいのか?」
時雨はクライアが突っ込んでくると踏んでいたが、予想が外れた。
先手の取り合いはクライア相手では不利な為、譲ってくれるのなら、と時雨はクライアに仕掛ける。
「──『雨の日』」
時雨が周囲の空気と同化する。
クライアは厄介だと思い、手に『灼熱』を纏わせて待機。
「──ッ!?」
警戒はしていたが、横からいきなり短剣が出現し、すぐさま退避する。
(カルムから聞いてはいたが、やはり危険だな)
予めカルムから情報を手に入れてはいたが、聞くのと体験するのでは大違い。
どこから出現するか分からないのは脅威と判断し、辺り一帯全てを焼き尽くす。
「特別属性『灼熱』──尽滅ノ熱懸」
「バケモンが──『時間停止』」
『魔力眼』を開眼して辺り一帯の魔力を吸収、条件を満たして『時間停止』を行う。
迫り来る灼熱は止まり、クライアすら一瞬動けなくなる。
その一瞬でいい、その隙さえ作ればいい。
──『時間』が、クライアを襲う。
「『未来予想図展開』」
時雨の行動によって起こりうる様々な時間軸を召喚し、一斉にクライアを攻撃する。
「──『ハガネノヨロイ』」
対するクライアは、出遅れたものの反撃は厳しいと判断して、防御に回る。
「『時間停止』解除」
──ここで、世界のバグが起こる。
『時間停止』自体が世界のイレギュラーそのものなのだが、能力を発動したままの状態で時間停止を解除されたクライアが──
「──固まった?」
その場から、動けなくなってしまった。
(どういうことだ──ッ!?)
「⋯⋯⋯⋯通常、有り得ることのない運命が、交わることで起こる世界の異常」
「分かってる──でも、これは俺の役目じゃねぇ」
ブライアと別れたクリーナは、一人の男といた。
そう──『禁忌の番人』と。
「怠慢だな──『運命の番人』」
『禁忌の番人』は空を見上げる。
そこにいたのは、美しい女性。
翼を生やした、『運命』を司る女性だ。
「やっちゃったね──『運命改竄』」
『運命の番人』は、交わることのなかった『運命』を起こりうる『運命』へと改竄を行う。
──その後、『五大番人』のみが感知できる改竄が、行われた。
クライアは普通に動き、時雨に反撃する。
誰も、何も言わない。
それが真実であったかのように、皆振る舞う。
『運命の番人』は仕事をした後、自身のいるべき場所に戻った。
「──『運命の番人』が、まさかヤツとは⋯⋯」
「⋯⋯お前、何故『五大番人』を探知できる?」
「儂は少し特殊なんだ、始まりの魔女だからな」
「そういう事にしておいてやる」
本来、『五大番人』と呼ばれる者達は認識できない。
しかし、始まりにして至高の魔女であるクリーナは、その境地に至っている。
『五大番人』──禁忌、運命、生命、権能、世界の五つを司る五体の番人。
表立っては行動せず、自身が持つ力を完全にセーブし、常に出力を一割以下に抑える。
但し、自身の役割を果たす時のみ、全力を出すことが許されているのだ。
「⋯⋯面白い」
「お前は世界の絶対的悪の象徴だ、崩すなよ」
「それが『世界の番人』の望みなのか?」
「さあな、俺も詳しいことは知らん」
『禁忌の番人』は去って行く。
クリーナが下を見ると、既に決着は着きかけていた。
「クライア・グリーンドラゴンの勝利か」
──時雨は片膝を地に着け、クライアを見上げる。
「チッ──やっぱ強いな」
「降参しろ」
「はいはい──なーんて言うと思ったか!」
自身の時間を逆行させて怪我や疲労を全て回復する。
周囲に弓を出現させ、矢を放った。
「『鋼鉄の鎧』」
しかし、クライアは血一つ流れなかった。
何も纏っていないかのように見えるクライアだが、実はその肉体こそが鋼鉄の鎧、何者も通さない絶対的な守護。
不意打ちが失敗した時雨は──クライアの重い一撃に吹き飛ばされる。
「魔力が減らないと思っていたが、まさか空気中の魔力を吸収していたとはな」
それに気づいたクライアが取った策は──燃やす。
『灼熱』を発動するのに使用する魔力の対象を変え、自身も空気中の魔力を吸い取り、攻撃を行う。
『魔力眼』を見破られ、『雨の日』も対応され、『時間停止』も効果を成さない。
──完敗である。
「もう一度吹き飛ばす」
「分かった分かった、降参だ」
両手を上げ、降参する時雨。
今度こそ本当に死にかねないと、危険を察知する。
時雨は自身を治癒してすぐ退場して行き、クライアもそれを見送ってから退場した。
『それでは二回戦第五試合、シュヴァルツ・レッドドラゴン選手対シェード・ライアウト選手です!それでは、どうぞ!』
「シュヴァルツ君、この日を楽しみにしていたよ」
「──俺もです」
シェードとシュヴァルツ、共に二刀流を主体とする戦闘スタイルで、似通っている。
シェードは魔法で剣を創り出し、シュヴァルツは能力に付いている剣で戦う。
魔法学校と貴族学校の最高戦力の戦いが今、始まる。
「──影光、白閃、おいで」
長剣である『影光』と、短剣である『白閃』を手に持ち、構える。
対するシュヴァルツは──素手。
「⋯⋯初めて見るよ、君の武術」
『剣聖』に変わってもいない、純粋なシュヴァルツ。
剣技を得意とする家系に、今までの試合全て剣を扱ってきた。
そのシュヴァルツが、まさかの素手で戦う。
それは──ただ一つの理由。
「ブライアが全部で戦ってんのに、俺は剣だけを使う、ダッセェだろ」
ブライアだけを見ているシュヴァルツ。
器用で、使えるものは全て使い、貪欲に勝利をもぎ取るブライア。
剣技も、魔法も、武術も、能力も、特異体質も、全部使う。
そんなブライアに憧れ、剣技だけでなく、武術も、魔法も手に入れる。
これが──シュヴァルツ・レッドドラゴンだ。
「──面白いね、試しているのかい?」
「⋯⋯分からない、だが⋯⋯俺も今、面白いんだ」
シュヴァルツ史上、一番の気分の高揚。
自身の力を試せる、自身より格上の存在へ対抗する喜び。
その感情の起伏の激しさが、シュヴァルツを強くする。
「──来い、シェード・ライアウト」
「いいね──『白き影、天を裂く』」
影光と白閃両方を使って、シュヴァルツに挑む。
シュヴァルツは完全にそれを見切り──反撃する。
「『赤闘の杭』」
両方の剣から繰り出される斬撃を躱し、シェードを蹴り上げる。
シェードは危機一髪で避けるが、シュヴァルツは止まらない。
「『轟焔』」
回避した場所に、魔法を設置する。
魔法陣からは人なんて簡単に焼け死ぬ程の炎が飛び出すが、シェードは魔法の結界によって防御した。
「『赫閃』」
赤く光る蹴りがシェードを襲う。
シェードは防戦一方、ここで反撃に出なければ、チャンスは無い。
「──『影光天突』」
素早い蹴りに対して、素早い突きの攻撃で対応する。
更に、白く光る短剣を振った。
「『白閃斬壊』」
白い刃を飛ばして、シュヴァルツを斬り裂こうとする。
蹴りの体勢にあったシュヴァルツは万全に回避はできず、胴体に深い傷を負った。
畳み掛けると言わんばかりに、シェードは開く。
「──世界『光影見つけし遥か彼方の世界』」
世界の効果を逆転させた、シェードの世界が展開される。
これでシュヴァルツは、後から世界を展開しようと、塗り替えることができない。
「その傷じゃ、戦うこともままならないでしょう」
「グ──ッ!」
「立てるのですか⋯⋯ですが、終わりです」
世界の効果によって、シェードが今まで作った魔剣が、シュヴァルツを囲む。
満身創痍なシュヴァルツに──一本の魔剣が襲いかかった。
──その瞬間。
「──ダァァァァァァ──ッ!!」
シュヴァルツが、咆哮した。
魔剣を片手で受け止め、歯を食いしばる。
「⋯⋯⋯⋯俺は、アイツに勝てない」
「⋯⋯ブライア君ですか?」
「ああ⋯⋯⋯⋯アイツは俺よりずっと先にいる、追いつけない⋯⋯⋯⋯だから、追いつきたい」
心の内に秘めていた思いを、吐露する。
掴んでいた魔剣を地に落とし、特殊な印を結んだ。
「俺がアイツに追いつく、唯一の方法」
その名を、シュヴァルツは堂々と、宣言する。
「────『世界打破』────!!」
──シェードが展開した世界が、消失した。
何が起きたか理解できない、何故なら今まで前例の無い、前代未聞のことが起こったからだ。
どの文献を見ても、同じ世界以外で世界をひっくり返した者はいない。
しかし、彼はやってのけた。
親友に追いつく為に、自分ができること。
──『世界』を、内側から一方的に打破する。
全員が、一瞬静まった。
ざわめきもない、物音一つすらしない。
そして次の瞬間──物凄い歓声が、会場を埋め尽くす。
「お、おい今!見たか!?」
「すげえ!世界をひっくり返しやがった!」
この日、歴史史上初めて──『世界打破』が達成された。
「──凄い⋯⋯⋯⋯!」
シェードは、見入ってしまった。
世界を打破されたのにも関わらず、その飽くなき探究心は、シュヴァルツの『世界打破』に興味津々。
その隙を、シュヴァルツは逃さない。
「──『轟焔聖拳』」
シェードの腹に、シュヴァルツ渾身の一撃が放たれる。
会場の端の壁を貫通し、大穴が空く。
ここまで傷だらけなシュヴァルツだろうと、その一撃の重さは健在だ。
『──三回戦第五試合勝者、シュヴァルツ・レッドドラゴン選手!』
拍手と喝采が、シュヴァルツに向けて行われる。
その様子を見たブライアは──
「──やるじゃねぇか、シュヴァルツ」
控え室にて、笑顔で、試合を見ていた。
「『世界打破』──あれに対抗してやるよ」
拳を握り、突きつける。
一人しかいない部屋で、高らかに宣言した。
「お前相手に、『世界』で勝ってやるよ!」
ブライアは、四つの世界を持つ。
その四つの世界を駆使して、『世界打破』に勝利すると、そう言ってみせた。
「楽しみにしているぞ──シュヴァルツ!」
彼らが対戦するとすれば、準決勝。
──因縁の対決は、すぐそこにある。