第9話 本戦の始まり、眠る災厄
さて、第一試合が始まったけど……
まあ、アルバートに瞬殺されるわな。
第二試合、第三試合も興味無いんだよな。
あやばい、筋肉痛だ……
よし、こんなときに治癒魔法だな。
『身体治癒』っと。
そう、これさえあれば筋肉痛なんて怖くないのさ!
前世にもこれはマジで欲しかった。
よく運動する人間だったし、筋肉痛は数えれないくらいになった思い出があるな。
さて、もう少し時間潰しておくか。
第四試合まではとりあえず筋トレ……はもういいかな。
グーニャ以外の武器も実験してみたいな。
……そうだ!
異世界から来た人が持ってたっていう『太陽』を創ってみるのもいいかも!
さて、じゃあ……でも、シャイフォン怒るかな……?
まあ、気にしなくてもいいか。
あれは俺の前世の名前なんだし、欲しくなるのは当然だよな。
元々欲しかった能力だし、まあ今創っちゃってもいいか。
──ふと、こう考えてしまった。
『無限』創って俺の体と精神の容量無限にすれば、と。
──よし、そうしよう!と、考えたのは俺の悪心が働いたからだろうか。
それとも、誰かに思考を操作されていたのだろうか。
体が──いや、心が勝手に動いていた。
『能力創成・『無限』』
そして、『無限ノ容量』と。
──事後放心、ってのはこんなことなんだろうな。
ヤバいことをしてしまった……
ああ、もう、どうにでもなれ、だぁ!
『能力創成・『太陽』』
創ってしまったものは仕方ない、活用するしかない。
そう思うのは俺だけなのだろうか。
まあ俺はやってしまったとしか思わないんだけど。
いやどっちなんだよってな。
でもまあそんなことはおいといて。
特訓無しでこれは使いこなせるのか?
いや、『紅蓮』も使いこなしてないんだけどさ。
じゃあ確認装置で調べてみるか。
ほいっ、確認内容は『太陽』っと。
『太陽』の内容
・太陽剣術
・太陽魔法
・太陽武術
・太陽地獄
・太陽武具『太陽球体武具ラ・サリューズ・フェル』
・太陽武具『太陽変形武具テル・ラ・サリューズ』
・世界『全てを灰燼すら残さない太陽の世界』
あのさ、容量無限にしたからってさ、流石にやりすぎだよ。
何故か武具も二つに加えて世界と地獄?
これはダメだよ、これは。
俺は何もしなかった、これで良し!
お、もうすぐ第四試合だな。
さて、どうなるかだけど……
俺はファルド先輩のことは何も知らないんだよな。
ただ知っているのは強いってことだけ。
あれ?
確かグリーンドラゴンは武術が得意だったんだよな?
えっと……あ、確か親父が何か言っていたな。
例外の子がいるとか……あれってファルド先輩のことだったのか?
名前くらいは教えて欲しかったな。
さて、試合の方だけど……
あれ?
結構力量は同じくらいなのか?
いや、でもファルドの相手はそこまで目立つような奴じゃなかったぞ。
なんなら俺でも余裕なくらいなんだけど……
あれか?
能力バレたくないから力抑えているのか?
でもそんなことする必要があるのか?
よく分からないな……
あっ、そうか、準決勝の相手がアルバートなのか。
なら隠し技は持っていた方がいいのか。
あの人とにかく強いからな。
うーん……でも、やっぱり何か引っかかるんだよな。
隠し技とは違う何かがありそうだな……
よし、こういう時の『読心眼』だ。
『読心眼開眼』
さて、心を覗いちゃうよ。
次の瞬間、とんでもない威圧が俺を襲う。
《誰だ、お前は……早急に立ち去れ!》
うおっ!
待て、まさかあれが理由か?
いや、殆ど分からなかったけど、これだけは分かる。
あれには絶対に手を出してはいけない。
おぞましい気配がして俺を襲ったんだ。
あれが、ファルド先輩の緑龍なのか?
いや、でもあまりにも違いすぎた。
シャイフォンと別の気配だとしても、あれは緑龍という枠から外れているような気がする。
シャイフォンに聞いてみたら何か分かるかな。
おい、シャイフォン、起きてるか?
《起きておる、あのファルドのことだな》
ああ、あれって一体何なんだ?
《……さあな、俺ですら力量が分からない存在だ。そして、あれは緑龍ではない。まあ、例えるなら……災厄、だな》
は?災厄?
何でそんなものがファルド先輩の中にいるんだ?
《実はな……あいつの中に緑龍はいないんだ》
…………えっ?
ど、どうして?
それなら『緑龍』が機能しないじゃないか!
《それが、あいつの中の緑龍はアレに殺されたんだ。そのせいで『緑龍』の能力の力は全く機能しない、そしてファルドにアレが入ったときは大変だったそうだ》
え、一体何が起きたんだ?
《アレが暴走してな、俺は詳しくは知らないんだが、お前の父親、クライアが全力で動いたらしい。奴程の強者に全力を出させるとなると、アレは確実にヤバい奴だ。俺でも勝てる気がしない程だな》
いやマジかよ……
災厄、か。
あれ、でもなら何でアイツはさっさと体を乗っ取らないんだ?
体さえ乗っ取ってしまえばアイツには簡単な話だろ?
後はファルド先輩の精神と魂を壊せばいいだけじゃないか。
それからアイツの精神と魂に入れ替えたら肉体も手に入るってもんだろ?
《クライアがな、封印秘奥『封殺刻印陣』という特殊封印を施してな、今は何割かをファルド自身が解放して自身の力の糧にしているみたいだ。契約も済ませているようだが、アレには結構な制限がされているみたいでな。まあ、そうでもしないとまた暴れ出す可能性……というか、確実に暴れ出すだろうな》
そうだったのか。
ファルド先輩も中々の無茶をするもんだな。
まあ制限がかけられているなら安心……かな?
その抜け道を発見してきたら乗っ取られるから、常に警戒は必要だな。
《あ、そうそうブライア、『読心眼』使ったことでアレにはもちろん、ファルドにもバレているぞ。まあ、覚悟するんだな。いざとなれば俺が助けてやるからよ》
は?
待て待て、アイツら繋がっているのか?
《みたいだな。お前が心を覗いた瞬間に俺も力の繋がりを調べたのさ。まあ、かなりの主従関係だな。アレもまあ納得はしているみたいだぞ》
うわ、俺終わったじゃん。
これ見られているのを無視されるしか方法は無さそうだな。
そんなことをファルド先輩がするはずも無さそうだけどな。
あれ、それでもやっぱり引っかかるぞ。
何でファルド先輩はさっさとあの試合終わらせないんだ?
《どうやら、契約したときに不平等だからとその代わりに『本気を出す時はアレに許可がいる』という契約があるみたいだな。実に面倒な契約だ。アレはファルドには負けて死んで欲しいんだろうな》
本当に面倒な契約だな。
ていうか、アレって何だよ。
アイツの名前知らないのか?
《そうだな……名前は知っているんだが、俺の本能が拒絶しているんだ。まあ、お前ならいいか。アレの名前なんだが……アーガイル・バスィーラというなま──グッ!》
突如として聞こえてきた痛みを受けたような声に俺は驚愕した。
お、おいシャイフォン!
大丈夫なのか!?
《ああ、何とか無事だ……そういうことか、命核を直接狙ってきたのか……くそ、やっぱりアレは気持ち悪ぃ》
えっと、命核ってのは……?
《その名の通り、命ある者に必ずある核のことだ。心臓のどこかにある極小の物質だ。これを壊されたら体内構造の全てが灰に変わるぞ》
うわヤバいな。
それだけ名を知られたら大変なものなのか。
出来るだけ隠蔽して起きたかったんだろうな。
ファルド先輩としても、アイツとしても、だな。
そんなことを考えていると、いつの間にか決着が既に着いていた。
予想通りファルド先輩の勝利だった。
いや、途中から負けるんじゃないかと思ったんだけどさ。
あんな秘密があったとは……と心から驚いた。
いや、この世界には、というより異世界には心底驚いているんだけど。
次はバーグルっていう団長さんの試合か。
ここもしっかり見ておこうか。
バーグルの試合はすぐに決着が着いた。
もちろん、バーグルの圧勝だ。
あの計算高さと異常なまでのパワーは気をつけておかないとな。
準決勝まで進めるかどうか分からないけど。
そして、今回はもう1つ目標を追加した。
『無効眼』をピンチの時以外は発動しないという目標だ。
まあ、使うとしたらネル先輩とかファルド先輩、バーグルにシュヴァルツ、アルバートくらいだろうがな。
あ、そんなことを思いついている間にシュヴァルツの試合が終わってしまった。
今回も脳みそ使わずに『剣聖』で突破したんだろうがな。
それじゃあ脳筋になって強者にも勝てなくなるぞ、シュヴァルツ君。
まあ、次は俺の試合だし気を抜かないようにしないとな。
さて、じゃあ行くか。
──視点変更・ファルド
ファルドは、妙な気配を試合中に感じた。
それは一瞬であったものの、明らかに自分に向けたものだとすぐに認識した。
アーガイルが追い返しているだろう──と考え、すぐにでも試合を終わらせようとする。
面倒な契約を結ばなければと、過去の自分を恨むような思いを胸に剣を握る手に力を込める。
それを感じ取ったのか、アーガイルが喋りかけてくる。
《おい、そんなこと思うなよ、まさか俺の事、面倒な奴だと思っているのか?》
当たり前だ──と声を大にして言ってやりたいと思ったが、そんなことを言えばすぐにでもこの体を乗っ取られることを考え、言葉を出かかっている所から一気に飲み込む。
だが、それもバレている訳で──
《おい、肯定するなよ、お前の精神と魂どうしてやろうか》
恐ろしいものだと、心の底から本当に思うファルド。
アーガイルには褒め言葉なのだが、そんなアーガイルのことは無視して、戦いをすぐに終わらせる方に集中する。
だが、気になって仕方がない。
そんな邪念も消し去るのに一苦労だ。
ようやく試合が終わった。
だが、それより誰が自分に干渉していたかが気になっている。
早速アーガイルに聞く。
(おい、誰が俺に干渉してきた?)
《……えっとな、少し待て、誰のデータだ、これ……》
アーガイルには干渉してきた相手や発動した技が瞬時に分かる特異体質、『分析眼』を持っている。
まあ、それはブライアも持っているのだが。
そして、誰が干渉してきたかが分かる。
《ブライア・グリーンドラゴン、だな》
(は?何故あいつが干渉してきたんだ?)
《知らねえよ、俺に聞くな》
一体どういうことだ──とファルドは思案する。
そうして、一つの答えに至った。
ブライアは自分が本気を出さないことにおかしいと感じたのではないか、と。
ブライアには話すつもりの無かった秘密がバレてしまい、少し後悔する。
だが、一体どうやって干渉してきた?
また疑問が増えたため、アーガイルに聞く。
(おい、ブライアはどうやって俺に干渉してきた?)
《『読心眼』という特異体質だな》
なるほど──とファルドは思う。
それなら自分にも干渉出来るはずだし、自分の心も見れるはずだと。
本当は見る、ではなく読む、なのだが。
それをファルドは知ることは無かった。
──視点変更・ブライア
よし、ようやく試合が始まるな。
こいつの名前なんだっけ……
やばい、本当に思い出せないわ。
やっぱり俺、人の名前に興味無かったのかな?
あまり自覚は無かったけど、実際はそうだったのか。
まあ改善する気は微塵も無いけど。
だってそもそも覚えれないんだもん。
なら、主要の人だけ覚えていればいいってことじゃないのか。
そんな訳あるはずも無いけどな。
それはともかく、もうすぐスタートするな。
この光景、前やっていたゲームを思い出すな。
あのゲーム、六大会連続世界チャンピオン取っていたんだけどな。
今だったら誰がチャンピオンなのだろうか?
何故か虚しくなってくる。
って、やっぱり俺関係無いことをどうしても思い出すよな。
これ、緊張感が無い証拠だな。
いや、これ以上話を広げたら止まらないからやめておこう。
実況が準備を始めたな。
よし、剣も準備してと。
相手も構えだしたな。
お互い準備完了、あとはゴングが鳴るまで待つだけ。
『では、試合開始!』
始まった。
だが、相手は突進してくることは無く、様子見をしているようだ。
なら、自分からいくか?
否、それはこの場において最悪の回答である。
向こうは様子見、ならカウンターしてくるのは必須であると考えるべきだ。
自分も様子見し、相手が痺れを切らすまで待つ、これが最適解である。
ネル先輩に教えて貰ったこと、しっかり生かそうとする姿勢、流石俺である。
無論、観客は全く面白いとは思わないだろうが。
仕方ないのである、勝つためなのだから。
…………暇だな。
喋りかけてやるか。
「こないのか?」
「序盤は様子見、これは戦いにおいて鉄則である。君もそれを理解しているようだが」
うわ、マジメくんかよ。
一番相手するの面倒な奴なんだよな、そういうのって。
ただ単に俺が苦手ってだけな気がするが。
本当にだるくなってきた。
待つだけの作業なんて、本当に暇なんだよな。
多分、相手は俺の隙を狙ってきているのだろう。
それは無理な話だろうな、俺も狙っているんだから。
中々きっかけが生まれないし、一発遠距離斬撃いくか。
「『紅蓮斬撃』」
これで少しは動きが出るか?
これで出なかったら一瞬で距離詰めて近距離で斬撃食らわせるか。
『おおっと、ようやく動きが出た!先手はブライア選手、さあサーレ選手、どう返す!?』
あ、そうだサーレだ。
今思い出したな。
「ようやく、手を見せたかい。返すよ、受け取りなよ。『返還斬』」
うお、返してきた。
まあそんなお粗末な返しなんて邪魔なだけだけど。
「邪魔」
『おおっと、斬撃を返したサーレ選手だが、ブライア選手に切り裂かれてしまった!』
え、この程度なのか?
それなら返しきれないような重たい斬撃を食らわせてもう終わらせるか。
はっきり言って弱すぎるんだよな。
まあ俺がネル先輩にしごかれまくったってのもあると思うけど。
じゃあ、特訓の成果見せますか。
「『属性剣術・重圧地撃』」
『な、なんと!地属性の剣術で一気に猛攻撃を仕掛けた!これを返しきれるのか!?』
猛攻撃に見えるのは、斬撃を多く繰り出したからだろう。
実際は一つの技なので、見る人が見ればすぐに分かる。
まあ実況は場を盛り上げるためにあるようなものだし、分かっていても口に出すものじゃないだろう。
サーレが苦しそうな顔をして受け止めている。
まあ、あの状態じゃもう無理だろう。
勝ち、という盛大なフラグを立てようとしたが、流石にそれはまずいな。
それで負けたらダサすぎるしな。
「クソ、攻撃が重たいッ……か、返しきれない!」
「はい、じゃあ終わりだな。『重圧加担』」
これで斬撃の重圧にもっと重圧を加えた。
そして、サーレは潰れた。
まあ不死場だし、なんとかなるだろ。
普通に考えて初めて見る人には怖い体験なんだけど。
『おおっと、サーレ選手がダウン!これにて、ブライア選手の勝利です!』
まあ、安定だよな。
だけど、次はあのネル先輩、気合い入れていかないとな。
──ちなみに、次の試合はもちろんネル先輩が勝った。