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第86話 二回戦第十三試合・第十四試合

『二回戦第十三試合はマテリアル・コンスターク選手対ローフェイス・グレイスフォール選手です!それでは入場して下さい!』


「マテリアル、久々だね」


爽やかな笑顔でマテリアルを迎えるローフェイス・グレイスフォール。

対するマテリアルは気怠そうな表情を浮かべた。


「そんな顔をするなよ、これから戦闘だっていうのに」


ローフェイスがそう言うと、マテリアルはトンと杖で地面を一度叩く。

──マテリアル・コンスタークは言葉を話すことができない。

言語を理解できない程頭が悪い訳でもなく、病気でもない。

かつて親だった者からの呪縛だ。

その為、表情でしか感情を表現出来ない。

だから表情をよく変えることで有名だ。


「やっとやる気になったかい──『離拳』」


──グレイスフォール家には多種多様な者が存在する。

基礎を固める者、応用が得意な者、外道のような戦いに手を染める者。

世界でトップクラスの無法地帯でありながらも、強者は山ほど産まれる。

ローフェイスもその内の一人だ。

爽やかで素直に見えるがその実態は──倫理観の欠如した存在である。


「『離拳──人道破滅』」


──ローフェイスと戦った者はこう答える。

アレは人間に化けた何かだ、と。

『人道破滅』の効果はただ一つ。

人格の完全破壊である。

肉体には一切影響がないが、精神を粉々に砕き、相手の能力や特異体質、加護や恩恵すらも破壊してしまう。

ローフェイスは遊び感覚でこの技を放ち、相手の人生を破滅に導く。

人の道を外れた力を持ちながら、人としての尊厳を踏みにじる最悪の武闘士だ。

だが──マテリアル・コンスタークは更にその上をいく。


『万能魔法・呪怨ノ乱』


彼女は親に似た。

人を実験道具のように扱い、何千体も無駄にする。

成功例は一度もない。

だがそれは、弱者を実験した場合。

己のような強者を実験、改造してこそ本当の研究と言える。

そういう意味では、目の前のローフェイス・グレイスフォールは合格だ。

彼を実験する為、傷一つ付けずに殺す。

──『万能魔法』は完全に万能だ。

その理由は、彼女の両親の研究が成功した結果だから。

戦闘、補助、日常生活、ありとあらゆる場面で『万能魔法』は効果を発揮する。

そのお陰で、彼女は痕跡を一切残さず人を奪い去ることが可能だ。


「⋯⋯面白い──ッ!」


彼は笑った。

『万能魔法』に対抗することに興味を持ち、拳に魔力を込める。

マテリアルは──一瞬にしてローフェイスの前から消えた。


「な──ッ!?」


『万能魔法・消失の御身』


背後から強襲し、ローフェイスを奪取した。

『消失』したローフェイスは──会場から消え、マテリアルの『研究』の礎となる。


『きっ──消えた、一体どこへ!?』


実況も、観客も、更には出場者も含めて、会場内にいる全ての人間が混乱に陥る。

本戦に出場した強者達が一斉に試合場に押し寄せるが──そこにはもう、マテリアルの姿はなかった。

マテリアルはもう目的を達成した、ならもうここにいる必要は無い。



────研究所にて

「──こ、こは⋯⋯?」


手足を鎖で繋がれ、胴体も縛られているローフェイスは、目を覚ました。

するとそこに、一つの声が聞こえてくる。


「ようやく奪った大事な研究材料だ、丁寧に扱わないとな」

「お前──喋れるのか?」

こっちの肉体(・・・・・・)なら喋れるんだ。『万能魔法』で魂のない器に私の魂を入れるだけ」


『万能魔法』は一部の記録されていない魔法と原理の理解できない魔法以外の全ての魔法を扱える。

当然存在している『操魂魔法』も記録されており、魂を操作するなど造作もない。


「君は貴重な研究材料なんだ、そこの脆い有象無象とは一緒にならないで欲しいな」

「──⋯⋯ッ!?」


ローフェイスは恐れた。

恐れてしまった。

彼女の目の前で、研究材料になることへの恐怖を抱いた瞬間──逃れられない運命の路線を走ることとなる。


「『禁忌』には紙一重で抵触しない研究⋯⋯楽しみだ」


マテリアルは邪悪に嗤い、ローフェイスは発狂した。

だが縛られている肉体に加えて力を抑えられているローフェイスは一切抵抗できず、『失声魔法』をかけられる。


「邪魔な声は取り除いた──始まりだ」


──ローフェイスは行方不明として捜索隊が世界各地に派遣され、マテリアルは指名手配され、大会が続行される。


『⋯⋯そ、それでは気を取り直して、二回戦第十四試合はジュウィーリン選手対コルト・ピカード選手です!』


「⋯⋯断罪の使者よ、一つ問いたい」

「何だ?」

「先程の妙技、貴様はどう見る?」

「マテリアル・コンスタークの狂行、ただそれだけだ」

「そうか、ならいい──『宝石剣』」


ジュウィーリンは『宝石の勇者』として世界に名を馳せており、コルト・ピカードは『断罪の使者』──両者共に正義の存在として君臨している。


「『断罪』──『罪人殲滅斧』」


コルトが大斧を肩に担ぎ、次の瞬間ジュウィーリンの目の前に現れて大斧を振るう。

首が吹き飛ぶその瞬間、ジュウィーリンが大斧と自身の間に宝石の障壁を創り出し、防御した。

だが宝石の障壁を貫通して大斧がジュウィーリンに襲いかかる。


「っと⋯⋯危ない」

「チッ、殺れないか」


コルトがジュウィーリンを大斧で粉砕した瞬間、宝石の様に崩壊した。

コルトが相手にしていたのはジュウィーリンが事前に作っていた囮。

コルトがジュウィーリンを見ると、腰にいくつかの宝石が付いており、試合が始まった時より一つ減っている。

コルトはあれが囮を創り出す宝石だと確信し、ジュウィーリンの胴体を一閃した。

コルトの予想通り、宝石が一つ減って違う場所からジュウィーリンが出現した。


「『断罪』──『罪人粛清の聖矢』」


試合場の至る所に矢を降らせ、ジュウィーリンの逃げ場を無くす。

矢の降る速度も異常で、まるでクライアの拳が飛んでくるかのような速度で何千との矢がジュウィーリンに襲いかかる。

矢は地に触れた瞬間魔力になってコルトに変換される為、いくらでも矢を放つことが可能。


「めんどうなことしやがって──『宝石銃弾』」


青い宝石の銃弾を放ち半分をコルトに、もう半分が自身に降り注ぐ矢を弾く。

コルトは見たことの無い石のような武器に困惑するが、突進してくるジュウィーリンに大斧で対抗する。


「『宝石銃』」

「──『純粋無垢たる清らかな槍』」


ジュウィーリンが銃を創り、引き金を引く。

驚きながらもコルトは大斧を左手で持ちながら右手に槍を呼び出す。

放たれた数十発の弾丸を槍で一閃するが、何発かコルトの肉体に掠る。


「──ッ!?」

「当然驚くよな、見たことの無い武器なんだから」


その言葉を発した瞬間、コルトの周囲にジュウィーリンが出現し、銃弾を放った。


「『神秘たる生命の美しさ』」


だが、全ての銃弾がコルトに傷を与えることはなく消失した。

生命を持つ者に対しての絶対防御であり、例え未知の武器であろうとコルトの命を脅かすことは無い。


「面倒な技を使いやがって──『宝石大砲』」


コルトの周囲にいくつかの大砲を設置し、そこから銃弾が乱射される。

対するコルトは──天に手を掲げた。


「神聖たる剣が今、我に授けられる──『正義剣・神聖たる法の怒り』」


金色に輝く剣がコルトによって呼び出された。

ブライアの劣化版ではなく完全体である『断罪』の真骨頂──聖なる武器。

伝説によると、『断罪』は神の一部とも言われている武器を使用する権利を得るとも言われており、『断罪』を持つ者の殆どがカルト法国で産まれている。


「『正義剣』⋯⋯もう一つ問おう、お前の正義は何だ?」

「俺の正義か?⋯⋯そうだな──」


コルトは一息吸って、蔑むような眼差しをジュウィーリンに向けて言い放つ。


「いかなる犠牲があろうとも、邪悪の根源、魔を滅する正義を掲げている」


鳥肌が立つような圧力、恐怖で立てなくなるような眼力。

ジュウィーリンは思わず銃を落としてしまった。


「『正義の眼』⋯⋯お前には何か裏があるな」


コルトは見抜いた。

ジュウィーリンには裏の顔があるということを。

それを見抜かれた瞬間──ジュウィーリンはコルトに強襲した。


「焦ったな、お前は『正義』側の人間ではないな」

「犠牲を厭わないお前が言えることでは無い」

「残念だが俺は『勇者』のような綺麗な立場ではない、犠牲が出ようと正義執行さえできればどうだっていい、雑魚なんて生きていて損しかないからな」


ジュウィーリンの宝石の剣をコルトは軽く受け流し、突きを放つ。

その突きはジュウィーリンの横腹に命中し、半身が砕け散る。


「俺が正義を見失わない限り、『正義剣』に敵は無い」


そう言うと、コルトは剣を縦に振る。

するとジュウィーリンが斬撃によって吹き飛ばされた。


『二回戦第十四試合勝者、コルト・ピカード選手!』


「いずれお前の罪は『断罪』される⋯⋯その時まで、待っていろ」


彼はそう言い残し、この会場を去っていった。

対するジュウィーリンは、復活した肉体をすぐに動かし、一瞬でこの場を去っていく。

──勇者と断罪者、両者の思惑を阻止する為に対立した。

決着の時は、まだ遠い──。

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