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第85話 二回戦第十一試合・第十二試合

『二回戦第十一試合はディスクブルーム・トートリーガ選手対クーキリス・シガレット選手です!それでは入場して下さい!』


「相手はシガレット家⋯⋯手加減はできなさそうね」


ディスクブルームは既に入場し終えている。

だがクーキリスが一向に試合場に入ってこない。

すると、奥から大声で喋る女が出場してきた。


「あーごめんごめん!ギリ間に合わなかった?」


クーキリス・シガレット。

彼女を表す言葉があるとするのなら──『軽率』に限るだろう。

何事も少しも悩まず決断する性格であり、それで何度も痛い目を見てきた。

だが少しも『後悔』はしていない。

自身の興味を『共有』したがり、自身が苦手と判断したら『嫌悪』を『永続』させる。

これがクーキリス・シガレットなのだ。


「ごめんねー、ちょっと用事があってさ!それじゃあ始めよっか!」

「──『花闘の瞬』」


ディスクブルームは桃色の魔力を纏った武闘をクーキリスに放つ。

一瞬で距離を詰め、反応などさせぬつもりで蹴った。

──だが、受け止められていた。


「な──ッ!?」

「あたし、武術もできんだよね、珍しいでしょ?」


そう言いながらクーキリスは左手で掴んだディスクブルームを思い切り投げ飛ばす。

──シガレット家は基本魔法しかできない者が多く、そもそも一族が持つ『特質魔法』のお陰で魔法以外など必要なかった。

だがクーキリスは違う。

彼女は軽率に武術に興味を示し、その技術を学び、自身の力にした。


「グッ⋯⋯!」

「当然魔法もあるよ──『軽快なる魔音』」


クーキリスの『魔音』は特殊だ。

効果は自由に付与できるが、一つ確実に付与されるのは『軽率』への引き込み。

そう、『軽率』へと引き込まれ、クーキリスに支配されてしまう。


「──ッ!」


直後、ディスクブルームは耳に魔力を流し込んだ。

『魔音』の対処法は主に二つ。

一つは単純に音を聞こえなくする──つまり、耳の機能を完全に停止させればいい。

だがその場合周りの音が一切聞こえなくなる為、治癒魔法を使えない者にはかなり致命的な対処法だ。

もう一つはディスクブルームのように耳に魔力を流し込む。

魔力を纏った音を魔力で相殺するのだ。

この方法であれば治癒魔法を使えなくとも簡単に対処でき、人によっては魔力によって周囲の音も聞こえやすくなる。

例え誰であろうと魔力で守られた耳を『魔音』で突破など不可能だ。

それはクーキリスも例外ではない。


「やるねぇ!」

「よく喋るじゃない、シガレット家にしては珍しいわね」

「今の家には私ともう一人喋る子いるよ!もう負けたけどね」

「シガレット家には関わりたくないのよ──『死の花粉』」


ディスクブルームには拳での戦闘の他に、魔法戦闘も得意とする。

その魔法も全て魔導士に引けを取らない一級品。

傾向として多いのは、一撃系だ。

『無天無双』のように必中という訳ではないが、無防備の状態でまともに食らってしまえば間違いなく死んでしまう。

『死の花粉』は一つ触れてしまうと周囲の花粉を巻き込んで爆発する。


「さぁどうする、クーキリス・シガレット!」

「──『軽率触発』」


当然のように花粉に触れた。

それも、食い気味に。

嬉々として爆発を受け入れる姿は狂気そのもの。


「『軽率触発』の効果発動──私がこれを発動させて触れたものは自由に操作できる」

「──ッ!?まさか!」

「そのまさか!──『軽率操作』」


──シガレット家には魔女の呪いを受けない者が百年周期に一人産まれる。

それがクーキリス・シガレット。

『軽率』の引き込みを得意とするが、現在のシガレット家の中で特質魔法の一部にさせずとも生物を殺せる唯一の存在。

そして──歴代のシガレット家魔導士で最も魔力と魔法の操作を高精度に行える。

自身を攻撃対象から除外するなんて造作もない。

更には手数の多い攻撃全ての管理を当然のようにできる。


「『死の花粉』を、貴方に」

「チィ──ッ!」


この爆発から逃げ切るのは不可能。

もう既にディスクブルームの周囲に花粉を散りばめているからだ。

そして発動はクーキリスの任意。

ならディスクブルームの行うことはただ一つ。


「世界『幻想と花束で埋め尽くされし世界』」


この世界大会は二回戦が最も過酷と言われている。

一つの理由としては対戦相手と実力に差がない試合が多いからだ。

実力差が拮抗した場合はどうなるか?

世界を展開せざるを得なくなるのだ。

世界の展開が可能かによって強者の格は五段階ほど上がる。

世界を展開できる者は非常に貴重だ。

だからこそ考慮しない。

後出しの世界に絶対塗り替えられるなど。


「世界『軽々しく干渉する甘露なる世界』」

「──まさか!」

「残念、私も世界を展開できるの」

「ならもうどうでもいいわ──『花闘の閃』」


世界を展開された側に許される権利はただ一つ。

世界展開者を倒すのみ。

それも、相手に圧倒的有利な状況で。

当然不可能に限りなく近い。

打破した事例も殆どない。

待ち受けるのは──敗北のみ。


「『軽率強奪』」


クーキリスは残酷に、軽率に命を奪う。

その強烈な拳をディスクブルームの心臓に命中させ、打ち抜いた。

当然、ディスクブルームの敗北だ。


『二回戦第十一試合勝者、クーキリス・シガレット選手!それでは二回戦第十二試合を始めますので、選手は入場して下さい!』


クーキリスは満足気に退場していく。

赤髪の男を横目に、静かで暗い廊下を歩いた。


「あの女⋯⋯何か違うな」


赤髪の男──アインガルマ・キャノンシートは、緑髪の女を見て一発で他とは格が違う強者と見抜いた。

だがすぐに目の前の女に目を向けた。


「よぉリグレット・マジック、久し振りだな」

「⋯⋯⋯⋯いつも通り、うるさい男ね」

「そう照れんなって」

「殺してあげるわ、イカレ野郎」

「やってみろよ悪女」

「『後悔心理』」


リグレットは青い杖をアインガルマに向け、不可視の魔力をぶつける。

『後悔心理』は精神に干渉する技で、相手にこれまでの経緯を暴露させたり、その場にいることを後悔させて自殺に追い込む。

──リグレット・マジックはソロミア皇国に縛られている魔女だ。

だが唯一善意を持ってソロミア皇国に付き従っている魔女でもある。

表面上では一番心優しく、一番その素性がイカれている魔女だ。

そしてその点である男と一致する。

アインガルマ・キャノンシートだ。

彼はソロミア皇国の軍事技術開発担当責任者であり、魔法技術は魔導士を凌駕する。

リグレットとも何度か戦ったことがあるが、結果は引き分けで終わることが多い。

だがどちらも本気ではない。

この大会は不死場が設置されている為、殺さずに留めるということをしなくてもいいのだ。

思う存分に戦い合える。


「精神関係はある程度対策してきた──『魔学・精神鉄壁防御』」


アインガルマの能力の一つは『魔学』だ。

魔法と現在開発されている科学を組み合わせている能力であり、突破は困難。

古風な戦い方を捨て、新たな戦闘スタイルに手を出すアインガルマは新鮮だと戦闘を見た者は言う。

何故なら彼の魔法は──一から作られたものだからだ。

こんな魔法があればいい、あんな魔法を生み出せたら、それを全て叶えるのがもう一つの能力──『魔法構築』。

『魔法構築』は一見『創成』と同じに見えるが、本質は違う。

その真骨頂は創るだけに留まらず、その魔法の派生を自身以外でも構築させることができる。

ただ単に魔法を作成すると、単体でその魔法が完結してしまう。

『魔法構築』で構築された魔法はアインガルマの手で一から技術によって(・・・・・・)作られている為、理論として成り立つ。

『創成』で創られた魔法は瞬時に創っている為その者にしか再現できず、派生もできない。

これが魔法の仕組みだ。

じっくりと時間をかけてこの世に顕現させる構築を考えねば、他人に再現させることが不可能。

自分が使う分には再現させない方がいいが、ソロミア皇国は違う。

兵士全員にその魔法を扱えさせねばならない。

アインガルマ達軍事技術開発担当は戦争の為に魔法を生み出す必要がある。

それが女皇ソロミアへの忠義だからだ。

だがアインガルマはいくつか魔法を隠している。

それの披露を、この場でしたいと考えていた。


「『後悔の怨嗟』」


リグレットは邪悪な魔法をアインガルマに向けて発射した。

これを食らえばまともに試合は出来なくなる程悲しみに明け暮れる。

何せリグレットの歴史を追体験させられるのだ。

当然これを食らって立ち直れた者は存在しない。

アインガルマもこれを食らっている罪人を見たことがある。

それはもう残酷で、顔から笑みが消える程邪悪な魔法だ。

罪人だから受けて当然だとアインガルマは舐めていた、だが想像していたものと違う。

この世の全てに絶望した顔がありとあらゆる監獄から見えてきていた。

涙を流す者、発狂している者、息すらしていない者。

そう、これを食らってしまえば死んだも当然。

全力で、抵抗する。


「『魔学・精神攻撃絶対回避』──ッ!」


アインガルマとリグレットはこの試合において一つ縛りをしている。

それはお互い一歩も動かないこと。

動いた方が負けを宣言する、これを破ってしまえば不死場ですら生き返ることのできない死が待っている。

動けば負ける故に、動かずに魔法を回避せねばならない。

アインガルマは絶対回避の魔法を自身に付与し、攻撃を返す。


「『魔学・魔剣顕現』」


自身の魔力を費やして、魔剣をこの場に顕現させる。

一歩も動けず、防御魔法をろくに持たないリグレットに王手をかけようとした。

リグレットの返答は──


「──かかってきなさい」


至ってシンプル。

自分が勝つことを疑わない答えにアインガルマは笑い、魔剣を発射した。

発射先は──リグレットの周囲。


「⋯⋯⋯⋯どういうつもり?」

「お前、自分に刺さる寸前に降参って言って俺に殺されるつもりだっただろ」

「⋯⋯⋯⋯その頭でよく分かったじゃない」

「降参って言った後に俺がお前を殺したらルール違反で俺が失格になる、それを狙ったな?」

「さて、何のことかしら?」


リグレットは面白くなさそうに、魔剣を地面から抜いて退場していく。


「分かってると思うけど、降参。あんたは女皇から命じられているんでしょう?隠している魔法構築を全てこの大会で出しなさいって」

「はっ⋯⋯俺の秘密もバレてたってことか」


『え、ええっと⋯⋯に、二回戦第十二試合勝者、アインガルマ・キャノンシート選手⋯⋯?』


実況も狼狽え、観客も困っていた。

この結末に笑うのは──女皇のみ。

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