第82話 二回戦第五試合・第六試合
『二回戦第五試合はラッシュ・インジゴドラゴン選手対フレート・ホワイトドラゴン選手になります!それでは、入場して下さい!』
「⋯⋯ラッシュさんは棄権ではなく出場を選びますか」
フレートの独り言に答える声は無い。
変わりに、車椅子に乗ったラッシュがフレートを見詰めるのみ。
「その状態で僕と戦うのは、あなたでも不可能でしょう?今の間に棄権を勧めますよ」
「⋯⋯問題無い、このまま試合をしよう」
「──それでは、容赦なく──『白金絶空』」
「──『藍龍守護・武人の意思』」
二体の藍龍が車椅子に座ったラッシュをフレートの攻撃から守る。
その光景にある者は疑問を抱き、ある者はその異例に叫び、ある者は手を止めた。
レインボードラゴンの貴族達は全員、漏れなく家系に適した専用の龍を得る。
その数、一体のみ。
なら何故ラッシュは二体の龍を保持しているのか?
その答えは──
「──ラッシュさんが大怪我を負ったから、この試合にガーディンさんが出てくるのですね」
ラッシュ・インジゴドラゴンは二重人格だ。
特異体質──『二重の精神と肉体』と呼ばれる。
ラッシュとは別の人間として、ガーディン・インジゴドラゴンが存在しているのだ。
ガーディンは無傷の肉体のまま車椅子から立つ。
「──フレート様、戦いましょうか」
「ええ、あなた相手なら心置き無く戦えますよ──『白金絶空』」
「『藍龍守護』」
「その守り、鬱陶しいですね」
「ラッシュが攻撃なら俺は防御、当然だろう」
「ならその防御を崩しましょうか──『白銀絶空』」
「『藍護・龍麗なる闘守』」
フレートは白く澄んだ剣を抜剣し、ガーディンは二体の藍龍を正面に出現させ、防御を行う。
──ガーディンは強い。
攻撃をしている場面は誰も見たことが無いが、防御面だけで言えばクライアの攻撃を当然のように防ぐ程強固な防御を誇る。
ガーディンが影として支えていたからラッシュはあの無茶な戦闘スタイルを確立できているのだ。
「──やっぱりガーディンさんは強い」
「当然、俺はクライアの猛攻を全て防御してみせるのだからな」
「⋯⋯はは、そりゃ適わない訳だ」
これは比喩でも誇張でもなんでもない。
ただの事実、ガーディンは一度クライアと戦い、『無天無双』以外の攻撃全てを防御した。
それも、クライアの全盛期である学生時代。
それを聞くと、フレートは剣を収める。
「⋯⋯諦めるのか?」
「いいえ──溜めているんですよ」
「ならやってみるといい」
フレートが笑う。
すると、白い鞘の内から白光が輝き、剣の柄に手をかけた。
「ここが今の俺の到達地点です──『閃光・白龍滅裂剣』」
──白龍をも死に追いやる程の閃光がバチバチとフレートの周りで輝く。
ガーディンはそれを見た瞬間、『無天無双』を発動させたクライアを彷彿とさせた。
まるで神にでもなったような雰囲気に、ガーディンは戦慄する。
「──『白絶閃』」
ガーディンはフレートの動きを目で捉えられなかった。
だがフレートの攻撃はまだ続いている。
「『白銀絶空・龍閃』」
銀色の斬撃がガーディンの全身に襲いかかる。
ガーディンの周囲を守るように藍龍を展開させるが、フレートの斬撃の方が一歩早かった。
「ガハ──ッ!」
「遅いですよ、それに⋯⋯藍龍の守りなど今なら簡単に貫けます」
一足遅く展開された藍龍を狙ったかのように、銀色の斬撃が藍龍の命を脅かす。
藍龍が白龍に適う筈がないのだ。
レインボードラゴン達の龍を超越した存在、それが白龍なのだから。
今までの攻撃はフレートだけによるもの、今行われているのは白龍の力を借りての攻撃。
──白龍との契約は、レインボードラゴン達との契約とは少し違う。
生まれながらにして自身が保持する白龍が定められており、契約はその白龍を倒さねば完了しない。
普通は二十歳過ぎ程度で白龍を倒すのだが、フレートは十三歳にてその契約を行った。
間違いなく才能に満ち溢れたスティア王国の王子なのである。
「さて、そろそろ試合終了なんじゃないかな」
「⋯⋯まだ王子には負けないつもりでしたが、ここまで成長されていたのですね⋯⋯⋯⋯降参です」
『二回戦第五試合勝者、フレート・ホワイトドラゴン選手!』
「王子よ、分かってはいると思いますが⋯⋯」
「まさか、本気を出す訳ないよ。ソロミア皇国の人間が見ているのにさ」
「⋯⋯ならこちらから言うことはありません」
『それでは続いて、二回戦第六試合はカース・マジック選手対ホーン・マジック選手です!入場して下さい!』
──魔女の怒りを知った観客は、震えながらも試合を見守る。
入退場の門付近にいるのはコルト・ピカードとクライア・グリーンドラゴン。
「暴走したらお前が出ろよ、コルト」
「お前も対魔女特権を持っているのなら手伝え」
「『退魔』のお前がやった方が早いだろ」
「──勝手にしろ」
これから行われるのは『魔女の戦争』。
魔導士の成れの果て、魔道を追求した結果の見せしめ。
「──『針刺千万』」
「『呪詛転々』」
とてつもない量の針がカースに放たれるが、カースは華麗に回避しながら針に転々と呪いを経由させていく。
「『魔力刺突』」
呪詛を構成している魔力を針で刺し、呪詛ごと魔力を消滅させる。
「『魔天呪獄』」
「『魔天刺獄』」
お互い不完全な魔法を行使する。
魔女の宿命は始まりの魔女を殺すこと、そして『魔天究極獄法』を完成させること。
魔女に成った瞬間にその秘伝の魔法は伝えられ、定められし運命に沿って歩まなければならない。
「『呪獄・堕落死滅』」
「『刺獄・刺激剣山』」
カースはいくつもの黒い魔力を放ち、ホーンは鋭い剣山を周囲に展開させて反撃を狙う。
『魔女の戦争』は一般人でも知っている事柄、それ程までに脅威なのだ。
魔女同士の戦いは際限なく続けられ、片方が死んだのなら生き残った魔女がその死体を貪り食い、死んだ魔女の力を手にする。
お互いの宿命と力の誇示、そして目的の為に行われる被害を一切考えない戦い、それが『魔女の戦争』と呼ばれてきた。
ただ黙々と、魔女は技を打つだけの奴隷。
それ程までに集中し、相手の力を欲しがっている。
やがて観客席の結界を破り、戦いは激化していく。
だが対魔女特権を持つ二人は動かない。
否、動けないのだ。
対魔女特権の例外──魔女同士の戦いが起こった際、不死場の動作を即座に停止させどちらかが死ぬまで戦いを続けさせる。
そして死体を食った瞬間、片方の魔女も殺す。
例え試合場が潰れようが、観客に被害が及ぼうが、関係ない。
今の危機よりも、未来の危機を見据えなければならないからだ。
「さて、この試合はどっちが勝つと思う?」
「⋯⋯相打ちだ」
「お前から見てもそうなるか⋯⋯ならもう任せる、もうすぐ俺は試合だからな」
「役目の放棄は認められぬが⋯⋯試合の妨害をされるのも認められない。勝手にしろ、俺は黙認する」
「ありがとな」
クライアはコルトに背を向けたまま手を振る。
その姿を一度見てから、魔女の試合を睨む。
「チッ⋯⋯両方ともさっさと死ね」
──醜すぎると、敢えて口には出さないコルトは最大限の嫌悪を込めてそう言い放った。
「『呪獄・堕天絶命』」
「『刺獄・剣放連射』」
魔力と鋭い剣が衝突する。
感情を失ったようにただ相手の命を狙おうとする機械的な戦いに大勢は恐怖し、ある者は崇拝し、ある者は魔女になりたいと願った。
無反応ではいられないこの試合に、本当の意味での勝者は現れるのか。
この意味の無い戦いを見ているクリーナは、魔女の宿命を恨んだ。
「クリーナ⋯⋯この試合、どうなるんだ?」
「──どちらも死ぬ」
ブライアが試合の結末を問う。
だがクリーナの答えはコルトと同じ。
違う箇所を見つけろと言うのなら、相打ちと言わず、対魔女特権で殺される可能性もあるとコルトの行動を見透かしている点だろう。
「魔女って、一体何なんだ⋯⋯?」
「激しい怒り、深い絶望、そういった人間の感情が己の器──肉体よりも大きくなって膨らんだものが魔力の暴走。その暴走を抑えられない者は魔力の一部として取り込まれるが、稀に耐える者が現れる。これが魔女の発現」
「⋯⋯あの二人も、か?」
「恐らくはそうだろう──稀に、魔女の魔力を継承させる者が現れるのだが」
──魔女の継承。
言わずもがな禁忌として存在するそれは、決して行ってはいけない行為。
魔女の継承を行う者の特徴は主に人間に戻りたいや見ず知らずの人間を不幸に陥れる、といった願望が呼び起こす。
だが一人、禁忌に触れない魔女の継承を行っている魔女がいる。
それがデス・マジック。
デス・マジックは太古より生きる魔女であり、魔女の継承を繰り返して生きている。
何故クリーナや禁忌の番人が黙認しているのか。
それは自身の魂と意思ごと魔力を他の人間に移しているからだ。
魂に刻まれた情報を他人に移せば、肉体も魂の刻んだ情報に変化する。
『不幸に陥れる』という目的ではなく、『生きる』という目的と『自身の宿命を達成させる』という目的の為に黙認されているのだ。
「⋯⋯クリーナは魔女を増やせるのか?」
「簡単に増やせるが、一度もしたことがない。世の中の人間には幸せに生きて欲しいからな」
「魔女は、女だけが成るものなのか?」
「──ああ、そうだ」
魔女の絶対的な条件はただ一つ、女であること。
魔女に成った理由は違えど、女であることは絶対条件なのだ。
「⋯⋯もうすぐ試合が終わるな」
「相打ちか、不死場が機能してないのを見るに本気であの二人を殺すつもりだったのだろう」
クリーナは見抜いていた。
魔女を殺す為に、不死場が機能していないことに。
「魔女は生きていて得はないが⋯⋯儂が悲しくなるな」
クリーナはそう口にして、魔女の死体を見詰めていた。




