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第79話 水下高校六人の天才

「第176問!ナポレオン・ボナパルトの出生名は何でしょう?」

「ナポレオーネ・ディ・ブオナパルテ」

「太陽正解!ほら、光早く答えろよ」

「うるせぇ!考えたら分かるのにコイツが頭良すぎるのと早すぎるせいで答えられないんだよ!」

「常識だドアホ、だからテスト90点台しか取れないんだよ」

「176対0、答える気無いならもういいでしょ光」

「土産買ってきてるから食べようぜ」

「勝ち逃げは許さねえぞおい!」


ちょっとしたクイズ大会も終わったことで、商店街で買ってきたお菓子を開封する。

元々個包装なんて概念は滅多にないこの世界だが、俺が『創成』で環境に良い個包装を施したのだ。

プラスチックがこの世界で流行ってしまえばもう終わりだ、環境破壊は許されない。


「懐かしいな、こうやって三人ではしゃぐの」

「奏もいればよかったのに、アイツも含めて俺達四人が小学校からの仲だもんな。勇気は中学からだったか?」

「その筈だ。それで深人は高校からだな」

「あの頃に戻りた〜い⋯⋯」



──前世、彼らがまだ高校一年の始まりだった頃

「授業飽きた」

「早いぞ奏、まだ一時間目だぞ」

「だってこのくらい簡単だぜ?やる意味あんのかよ」

「まあ校則ガン無視金髪ピアスでヤンキーの奏君は授業受ける意味なんてないよな」

「よっしゃ校舎裏来い喧嘩するぞ」


音成奏──彼は校則には絶対に従わない。

中学時代から金髪でピアスやネックレス、腰にはジャラジャラとチェーンのようなものもかけている。

この見た目で『音楽の天才』であり、見た目に反して意外と良い奴なのだが血気盛んな男だ。

そしてその隣の席が桜庭勇気──『武闘の天才』と呼ばれている。

彼も校則違反をしている髪色で、桃と黒が混じったような頭髪をしているのだ。

学校屈指のイケメンであり、バレンタインや文化祭は彼の独壇場とも言える程。

そこに近づいてくる三人の影。


「腹減った〜、太陽なんか奢って」

「自分で買えアホ時雨、それか光に頼め」

「斬るぞお前」


涼岡時雨──『弓道の天才』であり、百発百中の命中率を誇る。

彼は目立った髪色はしていないが、問題は服装。

紺色のブレザーを羽織るように着ており、ボタンも半分くらい開いている。

時雨曰く、面倒らしい。

水下太陽──彼の才能は褒め称えられるべきであり、この四人全員を凌駕する。

彼は『運動の天才』だが、勉強もスポーツも、何をとっても彼が一番だろう。

勇気に並ぶレベルで人気が高いのだが、財閥子息ということで少し話しかけづらい存在となってしまっているのだ。

剣光──『剣道の天才』で、彼に竹刀で叩かれた場所はすぐに冷やさないと翌日には真っ赤に腫れてしまう。

反抗すらもさせない程に速く動き、当然のように勝利するのだ。

彼は寡黙だが口が悪く、高頻度で奏と言い合いをしている。


「もうすぐ授業始まんぞ、ここにいていいのか?」

「どうせホームルームだ、無視しとけばいいだろ」

「おっと奏に次ぐ不良君登場〜」

「何か言ったかテメェ」


奏と時雨と勇気が話す中、太陽は笑いながら見守り、光はため息をつく。

これが水下高校の五人の天才。

それにがっかりしたのか、三つ前の席の男が五人に近づく。

太陽は真っ先に気づき、話しかけた。


「どうしたんだい、確か君は⋯⋯黒淵深人だったかな?」

「⋯⋯⋯⋯これが天才?笑わせるな」


その一言が聞こえた瞬間、太陽と勇気以外の三人の雰囲気がガラッと変わった。

太陽は相変わらず柔らかい雰囲気、勇気は分かるぞその気持ちと同情を抱いている。

やがて奏が顔を上げ、迫力のある目つきをしながら深人を睨みつけた。


「今お前、なんつった?」

「人の意志も汲み取れないのか?もう一度キチンと言ってやるよ──期待外れだ」

「お前には何か、才能があるとでも?」

「逆に問おう。努力もせずのうのうと生きてきた君達は凡人を知っているのか?」


深人は奏に勝るとも劣らない雰囲気を醸し出しており、一歩も引かないという意思が感じられる。

深人は凡人だ、決して生まれつきの天才ではない。

努力だけで成り上がり、ゼロの才能を努力だけでイチに変えた。

そんな凡人は天才に期待していたのだが、彼は想像以下の低脳だと言い切った。

この発言には勇気も黙っていられない。

四人が発言しようとした瞬間──太陽が遮った。


「お前が俺達に勝てる才能は?」

「全てだ。全員が相手でも勝てる自信がある」

「それは残念ながら無理だ」

「言い切れる理由は?」

「俺に理由を聞くんじゃない、どうかんがえても逆だろう?俺がお前に言い切れる理由を聞く側だ、それを決して履き違えるな」


太陽もこんな態度と校則違反をしている奴らが天才なんて思える筈がない。

今までこんな態度を取ってきた輩は何人でもいる、だからその気分を嫌でも理解してしまう。

この発言に良い気分はしない深人だが、太陽の言うことも理解できる。

天才という立場とは真逆な深人であり、ここには誰も知り合いがいない。

そこらの低脳とは違うと豪語したのだ、深人は太陽に実力を証明しなければならないのだ。


「分かった、お前の才能を見せてもらおう。次の時間ホームルームらしいし、サボって勝負でもするか」

「いいだろう──決闘だ!」


教室で堂々と宣言されたそれは、学校中を激震させるものだった。


「⋯⋯あのさ、本当に授業中か?」

「太陽は人気があるからだろ、それにお前の勝負は毎回こんなもんだ」

「⋯⋯まあいいか、それで深人、勝負内容は?」

「折角外に出たんだ、十種競技にしよう」

「まずは100m走だな、靴は貸してやる、これで平等だろ?」

「細工の可能性がある、自前のがあるからそれでいい」


太陽は普通そんなことはしないのだが、深人の考えは当然だ。

二人は陸上競技用シューズに履き替え、100m走の位置につく。

タイムは正確に測るため、測定器を準備し、奏がスターターピストルを真上に掲げ、耳を塞いだ。


「公式戦じゃないからいつものでやるぞ──位置について──よーいドン!」


二人がスターティングブロックを蹴り、ダッシュをする。

徐々に差がついていく──太陽が深人を凌駕した。

流石は『運動の天才』だと教師生徒問わず声援が送られる。

当然、太陽がゴールテープを切った。

太陽の100m走のタイムは──


「──9秒51⋯⋯!」

「すげえ、世界記録じゃないか!?」

「確かに前までの記録は9秒58だが、その記録も太陽が塗り替えたんだ!」

「あれが『運動の天才』の実力なのか!」


深人に圧倒的な実力を見せつけて勝利した太陽は、ペットボトルの水を飲みながら観客に手を振った。

近寄り難い立場というだけで、本当ならば勇気に張り合える程太陽は顔が良い。

勿論他の三人も顔は良いのだが、性格や見た目に難ありとして万人受けはしないのだ。

性格も顔も立場も良しなのが太陽と勇気、この二人なのである。


「さて⋯⋯まだやるか?」

「当然だ⋯⋯負けてたまるか!」



──結論。

十種競技は全て太陽の勝利となった。

『運動の天才』の名は伊達では無いのだ、この勝利は必然であり、誰が何をしようと太陽には勝てない。

深人は太陽を見くびった、太陽相手に余裕を見せるなんて以ての外。

だが、深人は太陽に食らいついた。

これは紛れもない事実であり、努力の結晶である。


「俺相手にここまでやるとは思っていなかった、凄いなお前」

「うるさい⋯⋯息切れすら起こしていないお前に言われても腹が立つだけだ」

「お前も起こしてないだろ⋯⋯ったく、それで、だ。俺はこう思う⋯⋯お前も『天才』の領域にいると」

「⋯⋯?」

「つまり、これからは六人じゃなくて七人(・・)の天才だ」


深人は太陽と争い、負けた。

その経緯を経て、『天才』へと至ったのである。

天才の頂点に至った男に認められる、こんなにも栄誉なことはない。

だから彼はまだいなかった『勉強の天才』となった。


黒淵深人──彼は『努力』こそが『天才』への近道だと知っている。

何事も誠実に、真面目に取り組む男だ。

かと言って融通がきかない男かと思えばそうではない。

校則違反はしないが、忘れ物をした時にノートやプリントを貸してもらう役目は殆ど深人が担っている。

頼り甲斐のある男で、あの太陽も信頼を置いているのだ。



──現在、ブライアの自室にて

「コイツら、片付けもせず寝やがって⋯⋯」


俺はパーティーの後片付けをしていた。

我先にと寝た光と時雨に布団を被せ、机の上のゴミを捨てる。

だかこんなにも楽しいパーティーは久しぶりだと思い、三人の顔を思い浮かべた。


「奏、勇気、深人⋯⋯アイツらもこっちに来ているのなら⋯⋯会えるといいな」


会えることを楽しみに、と少しだけ笑い、片付けを終わらせて自分用の布団に入る。

明日からは二回戦、試合も苛烈を極めるだろう。

だがその試練を乗り越えた先に、俺が求める強さがあるのだ。


「俺の相手はノーター・ワンドライブ⋯⋯あのフォンゲルさんを倒して二回戦に進み、対魔女特権の保持者⋯⋯」


楽しみが止まらない。

期待を胸に膨らませ──眠る。

夢も見ず、心地良い睡眠をとった。

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