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第78話 トーナVSブライア

『さあ試合を一時停止していた一回戦第58試合がようやく行われます!まず最初に入場してきたのはトーナ・オレンジドラゴン選手!』


会場で実況の声が堂々と響き渡る。

トーナはもう既に入場しているようだ、俺もそろそろ試合場に入ろう。


『さあ続いて入場してくるのはブライア・グリーンドラゴン選手です!どのような試合になるのか、目が離せません!』


「ブライア、起きたんだね!でも病み上がりだからって手加減はしないから!」

「勿論、俺もできる限り全力で相手しよう」


昨日の記憶が曖昧だが⋯⋯まあいい、今は試合に集中しよう。

そういえば、焦って走ってきたからどの武器を使おうか考えていなかった。

そうだな⋯⋯トーナは拳技を使うだろうし、俺もトーナと同じように拳を使おう。


『それでは、試合開始!』


試合開始の合図が鳴った瞬間──トーナが消えた。

驚いていると、右から拳が迫ってきているような感覚がする。

すぐに後ろに引くと、さっきまで俺のいた場所の横にトーナが出現した。

これはトーナの能力──恐らく『透明』や『隠密』といった姿を隠す系の能力だろう。


「今の避けるの⋯⋯嘘でしょ?」

「完全に不意打ちだったが、危なかった」


完全に今の拳は俺の頭を狙っていた。

オレンジドラゴン家はバランス重視のグリーンドラゴンの拳技とは違い、パワー重視らしい。

『らしい』というのは実際に体験した訳ではなく、聞いただけだから今までだったらまだ不確定ということだ。

だが今ので確信した、トーナに隙を見せてしまえば間違いなく俺の頭は吹き飛ぶ。

パワー重視というのは間違っていないようだ、これからはトーナの動きをよく見ながら戦わなければならない。


「『透明状態』の私の拳を避けれる人なんてかなり限られているよ⋯⋯中々楽しい勝負になりそうだね!」

「お前もそっち側かよ⋯⋯」


そんなやり取りをしつつ、俺はトーナとの距離を取る。

能力は『透明』で恐らく正解、だが能力が『透明』だけとは限らない。

接近戦に持ち込まれてしまえば素の力では押し負けてしまう、なら少し距離を取って準備をするしかないだろう。


「逃がさないよ──『移動』」


一瞬で俺の真横に接近、右頬に拳を放たれる。

顔を仰け反るが、今度は左頬に拳が飛んできた。

──飛んできた?


「『発射』──橙拳猛打」


トーナの左拳が腕から離れ、俺に襲いかかる。

一体いくら能力があるんだ、一瞬じゃ対処し切れない!

この試合、真面目に戦わないと負ける。

こんなにトーナが強いとは思っていなかった、事前に少しでも情報を集めるべきだっただろう。

母さんを相手にしているような緊張感は無いものの、いつものトーナ特有の和んだ雰囲気とは一変しているのが更に怖いところだ。

だがすぐにカタをつけてしまうのも試合としては面白くない。

試合一時停止という異例になったんだ、観客にドキドキハラハラを少しだけでも与えたいというのが俺の本心。

そうだな──『太陽』や『創成』といった七つの能力は使う訳にはいかない、『望力』系統の能力なんて以ての外。

特異体質──『神魔眼』だけなら何とかなりそうか?

やはり、『無効眼』は少し温存しておきたい。

⋯⋯よし、『神魔眼』と『緑龍』、そして属性で戦おう。


「『発射』──橙拳乱打」

「『緑龍』──緑武の舞・召式」


『緑武の舞』で一番の基礎である『召式』で対抗する。

『召式』は緑龍を召喚する為の舞であり、親父が一番最初に俺に見せた武術だ。


「『橙龍』──散満橙連燈」


爆炎──という程でもない、灯火の花が試合場一面に咲き誇る。

灯火とはいえ、一つでも爆発すれば連鎖が起こり、俺ですら耐えれないだろう。

いきなりトーナが俺との距離を取り始めた、まずい!


「『燈爆龍・命嵐』──ッ!」


俺を中心に風が巻き起こり、灯火が集結した。

とんでもないことになった、逃げたとしても俺に吸い付いてくる!

ここを切り抜けられるかどうかで勝負が決まる、だが今使える能力で切り抜けられるか──!?


「『橙爆龍・連爆』──ッ!」

「『神魔眼──危険・追求眼』──『危険自動回避』!」


『神魔眼』の情報が漏れるのは痛いが、仕方ない。

属性でどうこうできる技じゃないし、『緑龍』も──待てよ?

今まであまり使わなかったから忘れていたが、『緑龍』には確か世界があったはずだ。

『緑龍』なら情報が漏れても痛くはない、世界は『創成』にもある。

ただ、トーナの『橙龍』に世界があった場合は確実に塗り替えられるだろう。

世界は普通、後から出された世界に影響される。

⋯⋯まあいい、考えるだけ無駄だ!


「世界『緑に染まりし緑龍の世界』──ッ!」


景色が一瞬緑に染まってから、数多の緑龍が空を泳ぐ世界になった。

どうやら、あの灯火は橙龍の能力だったようで、この世界を展開した時点で消失したみたいだ。


「何⋯⋯ここ⋯⋯」

「ようこそ、俺の世界へ」


空から降りてきた小さな緑龍を撫でながら俺はトーナに向かってそう言った。

俺の腰には左右一本ずつ緑剣があり、手の甲には装甲がされている。

世界を展開することによって得られる特別な武器であり、これを装備することでシャイフォンがどこにいようとも勝手に力を借りることが出来るようになるのだ。

もちろん返却なんてする理由はない。

俺が強くなればアイツも強くなる、そういう契約を交わしているから返されなかった力がどれだけあろうとすぐに元が取れるだろう。

ちなみに、確証はない。


「『緑翼・絶閃龍』」


手の甲の装甲から緑龍を繰り出し、トーナの肩を食らった。

左腕が地に落ち、肉体の重心が定まらない。

だがまだ終わりじゃない、小さな緑龍を取り込む。


「なっ⋯⋯緑龍を、取り込んだ!?」

「そうさ、この装甲を通してなら体内に収納することができる。強大な力を持つ緑龍を、だ」

「⋯⋯その証が、目の中の緑龍紋なのね」


龍や亜人を取り込むといった事例は過去にいくつかある。

その際に必ず出現するのが、『紋眼』だ。

龍を取り込めば『龍眼』、亜人を取り込めば『亜眼』といった特別な『眼』を獲得できる。

その為に必要な現象が──『世界の展開』なのだ。

どれだけ過去の文献を見ても、世界の展開をせずに『紋眼』を発現させた者はいない。


「『紋眼』は危険⋯⋯今すぐ──にッ?」

「『龍撃・深緑紋眼』」


今度は右腕を落とし、緑龍が食い荒らす。

トーナが反応できていない中、俺はその光景にちょっとした拒絶反応を起こすが、トーナの右腕ごと緑龍達を遠くの場所まで飛ばし、攻撃態勢をとる。


「さて⋯⋯戦う気はあるか?」

「面白いじゃない⋯⋯血が騒ぐわ!──『橙腕爪甲』」

「再生⋯⋯いや、橙龍の腕を借り、自身の腕に生やしたのか」

「正解よ──『橙爪撃・龍星閃』──ッ!」


流星のように速く俺に向かって突撃をしかけてくる。

だが『紋眼』を獲得した俺に近づくのは自殺行為も当然。

遠距離よりも近距離の方が戦いやすいのだ。


「『紋眼・緑龍降連拳』」


緑龍の力を宿し、突撃してくるトーナに対し連撃を放つ構えをする。

それに危険を感じたのか、トーナは透明になって移動した。

どこからくるか分からない、警戒しなければ──


「──ここよッ!」


限界まで姿勢を低くして真下から攻撃をしかけてくる。

回避は困難を極めるだろう。

──回避は、だ。


「『対象時間遅延』」


ここは俺の『世界』なのだ、何をしようとも俺の自由。

俺はトーナの時間を遅延させ、後ろに引いた。

思考すらも遅延しており、俺が加速したのだと錯覚しているだろう。

それは間違いであり、本当はトーナが遅くなっている。

だが本人は知る由もない、これで終わりだ。


「『緑紋眼・閃武抜昇』」


姿勢が高くなったトーナを、今度は俺が下から撃ち抜く。

背中から俺の拳が出てくる程威力は高い、即死級の攻撃には間違いないだろう。

それに今はしていないが、本当なら中から緑龍がトーナの肉体を食い荒らすのだ。

それをしてしまえば例え不死場でも生き返ることは叶わない、俺だってトーナの命を完全に奪う気はない。


「ガ──ハッ!?」

「遅延と『世界』を解除してやったぞ、これで試合は終了だ」


トーナが試合場の端まで飛んでいき、結界に衝突する。

腹に穴が空いており、確実に復活はできないようにした。

ドサリ、と地面に落ちる音がしてから実況がマイクを片手に堂々と叫ぶ。


『第五十八試合勝者、ブライア選手!』


観客席が大きな歓声で沸き上がり、俺の勝利を称えている。

『紋眼』がまさかこれ程の力を発揮するとは思っていなかった、シャイフォンを取り込んだらどんな力を手にできるのだろうか。

シャイフォンはシャイフォンでやることがあるらしいから今は試合を見ていないだろう、また今度シャイフォンとゆっくり話をしよう。


「っと、トーナの治療だ、不死場の効果を受けているから死んではないよな?」


治癒を行い、トーナの体の損傷を治す。

『創成』が段々進化しているのか、治癒をする時に『創成』の効果が上乗せされている気がする。

かなり精度の高い治癒ができているから個人的にはありがたいが、何らかの理由で『創成』が使えなくなった時は不便に感じてしまうかもしれない。

まあそんなことは後から考えればいい、トーナの肉体の損傷は治ったし、しばらくしたら起き上がるだろう。


「さ、俺はそろそろ行くか⋯⋯時雨と光が待ってることだしな」


俺はそう言って試合場を後にした。

今日はこれ以上試合は行われないらしい。

どうやら、ガル戦の後に色々あったようで、それの後始末が残っているようだ。

大人は大変だ、俺はこんなことしなくない。

さっさと帰って、あの二人と情報交換をしなくてはならないのだから。


「っと⋯⋯アイツらに何か買って帰るか」


商店街に寄って、何か土産でも持っていこう。

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